便利屋イグニート   作:文ノ雪

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ブンシンの術

「追い込めーッ!いくらドラゴニュートでもAKWなら鱗ごと斬り落とせる!」

「持ってるAKW奪われるなよ、あのカスどもがいうには相手から奪った物を武器にするらしいからな」

 

マフィアたちは決して単独で突撃せず、用心深くも着実に壁際までリリィを追い詰めていた。

 

(クソッ、あのギャングども既に情報を回してたのかよ。こんな奴らに構ってる暇はねぇのに…ッ!)

 

リリィは苛立ち、そして焦っていた。そのマフィアたちの背後にはオリビアとキュリアが一騎打ちをしており、先ほどオリビアが苦しむような声を出したのを耳にしたのだ。早く加勢に入りたいところだが目の前のマフィアたちは隙間すら開けず壁の如く立ちふさがる。いくらリリィでもAKWを持った集団につっこむほど無鉄砲ではない。

 

(チッ!せめて連中から武器の一つさえ取ってしまえばまだマシなんだが…何か、何か武器になるものは…)

 

生半可な角材や鉄パイプでは簡単に斬られスクラップにされる未来しかない、だがAKWの攻撃に耐えれるような代物はまず周辺にあるわけがない。そう、普通の人間が持ち上げられる物なら。

 

(…あるじゃねぇか、武器になるものが!)

 

リリィはすぐ横に転がっていた大きな円柱で錆だらけの鉄塊に目を付けた。

 

「痛い目に遭いたくなければ降参することね、そうすればお前の同業者も戦意を失って互いに失うものなく穏便に終われるわよ」

 

高圧的な女マフィアが相手をバカにしてるよな声で降伏を促す。

 

「…フェリクスはどうする気だ?」

「ん?あぁ、あのシュヴァルツのガキか。どうせ下っ端だし交渉のカードにさえなりやしない。奴らに見せしめに惨たらしく拷問して殺してやる。まぁ、まだあったばかりのお前には関係…」

「いいや、大ありだ」

 

話を遮るようリリィが口をはさみ、すぐ横にあった鉄塊…ドラム缶を片手で掴む。

 

「アイツみてぇな賑やかな奴はそうそういねぇ、まだあいつとフライハイトの夜を楽しみ切れてねぇんだよ。それと、フェリクスはオレたちの仲間だ、好き勝手殺すだのぬかしてんじゃねぇぞゴラァァ!!」

 

怒りに燃えたリリィは取手も何もないドラム缶の側面を、自前の圧力でヘコませ無理やり掴めるようにし片手で持ち上げる!

 

「なッ!?あれを片手で」

「ウラァッ!!」

 

両手で持ち上げようとするならマフィアたちもそうはさせまいと止めに入れただろう。だが、片手でドラム缶を持ち上げるなど予想だにしてなかったマフィアたちは驚愕したことにより反応に遅れ攻撃を許してしまった。

 

「「「グワアァッ!?」」」

 

マフィアの何人かを巻き込みぶち当てた!だが、何人かは避けリリィに襲い掛かる!

 

「貴様!ナメた真似をーッ!」

 

メイス型AKWのエンジンを鳴らし先ほどの高圧的なマフィアが殴り掛かろうとする…が!

 

「一人で突っ込むのは蛮勇が過ぎるぜ!」

 

リリィは被弾するより先にメイスの柄の部分を掴み攻撃を防いだ!エンジンを起動させても持つ場所に効果はない!

 

「これは使わせてもらうぜ」

「アガッ!?」

 

そしてもう片方の拳で腹を殴ってメイス型AKWを強奪!

 

「それと、さっきの戯言のお返しだ!食らいなァ!!」

「グハァッ!?」

 

更にリリィの大きな尻尾で腹を叩きつかれ弾き飛び、壁に叩きつけられマフィアは気絶した。先ほどドラム缶を投げ飛ばされたマフィアたちも持ち直し始め殺意をむき出しに武器を構えるが、リリィは一切恐れる様子もなく二ヤリと笑った。

 

「ほんとはもっとデケェやつがいいんだが、こいつで相手をしてやる。全員かかってきやがれ!!」

 

ドラゴンの雄たけびめいた声を挙げ、リリィは尻尾を地に叩き迫りくるマフィアたちを迎え撃った!

 

 

 

「セイッ!セイッ!セイヤァーッ!!」

 

その別の所ではフェリクスが刀型AKWを振るい次々とマフィアたちを斬り裂いていた!こうした戦闘は何度も経験済み、現にもう6人ものマフィアの腕や足を斬り落としていた。

 

「ハァーッ!ハァーッ!どうした!軟弱なローテ・ヘンドラーの走狗ども!私みたいな三下にやられっぱなしで悔しくないのか!!」

「そんな荒く呼吸していてよく強気でいられるな」

 

闘志こそ燃え続けているが、白い息がハッキリと見えるほど息を荒くし疲弊してる。一方でマフィアたちはまだ数が揃っておりいつでも攻撃できる状態だ。いくらフェリクスと言えど危険な状況である。

 

「おいガキ、今すぐ降参して許しを請いローテ・ヘンドラーに忠誠を誓うなら、キュリアさんに話を通してやってもいいぞ。あの人は優しいからな」

「ふざけるなぁ!!私がお前らみたいな連中に頭を地につけるものか!!」

「なら死ね、この裏路地で朽ち果てろ。黒い斧の野良犬が!」

「セイヤァ―ッ!」

 

マフィアたちは剣や手鎌のAKWを構え突撃!それをフェリクスが迎え撃ち、攻撃を刀で止めては斬り、時にはチョップや蹴りを挟んで立ちまわる。

 

「食らえッ!」

「ンアァッ!!」

「ウオオラァ!!」

 

だが、マフィアの振るった剣型AKWがフェリクスの左腕を切り裂き、別の屈強なマフィアがフェリクスを持ち上げガラクタの山に投げ飛ばした。受け身も取れずフェリクスはそのまま激突し埃が舞い山に埋もれるが、すぐに立ち上がり姿を現した。左腕から鮮明な赤い血が流れ落ち、着物はボロボロになっているが、フェリクスは気にも止めず構える。マフィアたちは容赦なく徒党を組みトドメを刺すべくフェリクスに襲い掛かった。

 

「まずい…!離れろ!フェリ…」

「余所見してんじゃねぇよ」

 

オリビアがとっさに声を掛けようとするが邪魔をするようキュリアが曲剣を振るう!狙いは首、当たれば死は避けられない!

 

「オラァ!」

 

拳で弾き飛ばし何とか攻撃を防ぎ、腹めがけ蹴りを炸裂!キュリアは数歩後ろに下がるがあまり効いてる様子ではなかった。虚ろな目を薄いオレンジ色の光に包まれてるオリビアの両手両足に向ける。

 

「なるほど…プロテスを展開し続けることで刃に触れても多少は問題ない状態にし、リスクを緩和して殴り、そして防げるようにしたか」

 

本来、刃に素手で挑めば手を斬られてどうしようもない、当然の事実だ。だが、プロテスを常時展開させればその問題はなくなる。常に格闘を武器とするオリビアだからこそ考え付いた戦法だ。

 

「そこをどけ!ウオラァ!!」

 

そしてオリビアはそのまま両手に炎を纏わせ殴り掛かる!早くキュリアを倒しフェリクスを助けねばならない!

 

「そう焦るなって、まだこっちは物足りねぇってのに」

 

だがキュリアはやけに落ち着いた様子で曲剣で防ぎ、力強い蹴りを繰り出す。すかさずオリビアも蹴り返し二つの脚が交える。衝撃波を感じさせるほどの威力だ。

 

「ほらほらどうした、自分の身より仲間のほうが心配か?言っとくが集中しねぇとお前が死ぬぞ」

「チッ…!」

 

本心としては今すぐにでも加勢に入りたいがどうすることもできない、リリィはリリィでマフィアの相手をしている上に距離的にも間に合うのは不可能。

 

「大丈夫です!オリビアさん!」

 

だが、その心配に反しフェリクスは元気に明るく声を出す。とても傷を負ってるとは思えない声量だ。

 

「こんな傷の一つや二つ今に始まったことではありません!なにより、私にはとっておきの技が―」

 

彼女が言い終えようとしたその時、喉元に刃が突き刺さった。マフィアの一人が放った鎌型のAKWだ。フェリクスは言葉にならない声を発し口から血反吐を吐く。

 

「なッ!?」

「オイ!?フェリクス!!」

 

オリビアも、マフィアを薙ぎ払いながら視線を向けていたリリィも驚愕し声を出す。だが無情にもマフィアは動きを止めやしない。

 

「搔っ切ってやるよ!くたばれェッ!!」

 

そして、エンジン音を轟かせ刃が振動、AKWの機能により刃に力がこみ上げフェリクスを斬首した。首無し死体はふらふらと千鳥足をし、その場に倒れた。

 

「これで一人脱落したぞ。そこのドラゴニュートのネェチャンも油断してたらあぁなっちまうぜ」

「テメェッ…!!」

 

リリィは今にも怒りに身を任せキュリアに襲い掛かろうとするがマフィアたちが道を阻む。

 

「手こずってしまい申し訳ありませんキュリアさん。今そちらに加勢します」

「いいや、お前らはリリィの相手をしろ。こいつはサシでやり合いてぇ」

 

命令を受けたマフィアたちは生気も感じられない倒れたフェリクスの首無し死体を蹴り飛ばし、マフィアたちはリリィのもとへ向かう。

 

(……ん?)

 

死体となったフェリクスに目を奪われていたオリビアだが、ある異変に気付き訝しむ。フェリクスの首の断面から血が流れていないのだ。よく見れば先ほど斬られた左腕の血も止まっている。それに刀型のAKWがどこにも見当たらない。

 

「覚悟しろドラゴニュートの女。そのデケェ尻尾を斬り落として剝製にしてやるよ!どれだけの売値になるか楽しみだ!」

「ほう、ならお前の腕であればどれほどの価値となる?」

「…は?何を」

 

背後から聞こえた声に釣られ後ろを振り向こうとしたその時!

 

「セイヤァ―ッ!!」

 

力強いシャウトと共に一太刀の刃がマフィアの腕を斬り落とした!

 

「グアアァァッ!?」

「な!?なんだと!?」

 

片腕を失ったマフィアはその場で崩れ落ち地を転がり続け、別のマフィアが攻撃を仕掛けた正体に驚愕した。着物めいた服とスカートを着たフェリクスだ。先ほど死体となったはずなのにまるで何事もなかったかのように無傷である!

 

「え?は?ハァ!?」

「…何が起きてやがる」

 

周囲にいるマフィアたちは勿論の事、リリィも、キュリアさえ驚き動きを止めていた。だがオリビアは先ほどまであったフェリクスの死体が消えてなくなっていることに気づきある確信を得た。

 

「……まさか、この現象…いや、魔法は!」

「おお!その反応を見るにオリビアさんは気づきましたか!」

 

別の個所でフェリクスの声が響く。マフィアたちの近くにいるフェリクス本人からではなく、その後ろで先ほどフェリクスが埋もれていたガラクタの山から聞こえ、そして。

 

「ソイヤッ!」

 

そのガラクタの山から飛び出し、フェリクスの隣に着地!そこにいたのは…フェリクスだ!なんとその場にフェリクスが二人で並んでいるのだ!

 

「「これこそが私の切り札!幻影魔法のブンシンの術です!」」

 

二人のフェリクスが同時に喋り、そして互いに持ってる刀型AKWを左右対称に構え、刃が交える音が響く。そう、これはフェリクスの持つ力であり本人はブンシンの術と言っているが正式名称はアルターエゴ。質量のある分身を作り出す希少な魔法だ!

 

「まさかシュヴァルツの下っ端にあんな魔法を持ってるやつがいるとはな。声を出せて血を流すこともできる、お前にも興味が湧いてきたぞ」

「「ローテ・ヘンドラーなんぞにそう言われてもなんも嬉しくないな、お前と話すぐらいならオリビアさんとリリィさんの話を聞く方がもっと有意義だ」」

 

キュリアの言葉を一笑し周囲のマフィアたちに刀を構える。

 

「オリビアさん!こっちは私だけでどうにでもなります!ですのでキュリアの相手に集中してください!」

「こちらも片づけたら援護しに行きますので待っててくださいねリリィさん!さぁ続きを始めるぞっこらァ!!」

 

それぞれ別の事を同時に喋りながらフェリクスはマフィアへと突撃し戦闘を再開させる。

 

「ハッ、ハッハッハッ!!最高に面白い魔法使えるじゃねぇか!こりゃとっととテメェらを倒して色々と聞いてやらねぇとなぁ!!」

 

戦闘中更に奪い取った二本のメイスを持ち、リリィもまた戦いに身を投じる。

 

「ベルナデッタさんには感謝しないとな、あれだけ頼もしいのを味方に加えさせてくれるとはな」

「さてと、それじゃあ再開させるとするか。とっとと帰りてぇんだよ私は」

「同感だ。だからこそ、お前をこの手で倒す」

 

二人は気を取り直して再び構えを取る。互いに時間をこれ以上掛けるつもりはない、この戦闘をもってして終わらせる!

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