深夜の裏路地で戦闘が始まり早や十分。数的に劣勢だったはずのオリビアたちは次々とやってくるローテ・ヘンドラーの構成員を倒していき、既に援軍は尽き欠けていた。だが、一向に倒れる様子のない者がいた。
「おらよっとッ!」
「グッ…!」
力強く、だが器用に曲剣を振るいオリビアのわき腹に切り傷が増える。長期戦で魔力の消費を抑える為に回復魔法は使わず傷を残す。それ故か気が付けばオリビアの身体は負傷だらけとなっていた。
「魔力切れ…いいや、魔力を抑えてるってとこか」
ローテ・ヘンドラーがカポ、キュリア・カンパーニュは余裕綽々でオリビアの行動を見抜く。だが無傷ではない、プロテスも扱えない彼女もまたオリビアの炎の拳を何発か食らっている。
だが、互いにまだ致命傷と言えるダメージは与えていない状況だ。オリビアとしてはマフィアたちとの戦闘で疲弊しているリリィとフェリクスをキュリアと戦わせるわけにはいかない。故に次の攻撃で仕留めるつもりだ!
「大技があるなら見せてみろよ、もっとも、それで逆転できるかはわからねぇがな?」
「あるにはあるがそんな大層なのを使うつもりはない。下手したらフライハイトどころかグロリアにすらいられなくなるからな!」
そして、オリビアが拳を燃やし殴り掛かる!
「馬鹿の一つ覚えって知ってるか?そんな単調な攻撃を繰り返したところで、私に届きはしない」
キュリアは繰り出された拳を曲剣で防ぐ!だがオリビアの攻撃は終わりはしない。
「ハアッ!オラッ!ウオラァアッ!!」
防がれようとも構わず何度も何度もキュリア目掛け殴り、殴り、殴り続ける!
(攻撃を防ぎきれず体勢を崩したところに一撃を狙うつもりか)
拳の連撃を曲剣で防ぎ、時にはよけながらキュリアは冷静に分析する。どんな盾を持ったとしても一定の威力を与え続けられ体力が尽きた者は、本来の防御力も盾としての機能を発揮できず最終的に崩れ落ちる。曲剣でのガードであれば体力消耗も激しいと読んでの行動か?
(だが、先に力尽きるのはお前のほうだ)
しかし、キュリアは確信をもって耐えきれるつもりでいた。それもそのはず、魔力とは体力と同じようなものであり、消耗するほど体に負担が掛かる。オリビアはここまでの戦闘で何度か回復魔法やプロテスを使い続け、拳に炎を纏わせてるのもまた魔法によるもの。つまるところオリビアは魔力的に限界が近いと読んでいるのだ!
(バテるのを待つのは性に合わねぇ、その狙いに応じてやるよ)
不敵な笑みを浮かべながらキュリアはタイミングを見計らい、拳が曲剣に触れた瞬間ガードを緩めた。当然、曲剣を持つ右腕は大きくのけぞり、攻撃を与える隙が生まれる。
「ッ!オラァアッ!!」
一瞬、驚く表情を見せるがすぐに回し蹴りを放つ!狙いは無防備な胴体、当てる絶好のチャンスだ!だが!
「うおっと、あっぶねぇ」
キュリアは何とその場で上体を後方へと反らしブッリジめいた体勢へと瞬時に動かした!蹴りは空振り、空気を切る音がむなしく響いた。
「一瞬のウカツが一生を終える、戦いに身を投じてるお前なら…知ってるはずだよなァ!」
オリビアに体勢を治す間を与えぬと言わんばかりに素早く上体をもとに戻し、そして曲剣を振るった!エンジン音を響きかせながら狂刃が襲い掛かる!
「グッ…アァアアッ!!」
刃は斜めに無防備な身体を切り裂き、鮮血が流れ落ちた。プロテスの効果もあり臓器にまで届いてはいなかったが、もはやまともに戦える状態とは言えない。オリビアは崩れ落ち膝をつく。
「便利屋イグニート…少し過大評価し過ぎたか?思ったより大したことなかったな」
そしてキュリアは再び曲剣のエンジン音を鳴らし、刃を向ける。オリビアの右手に埋め込まれてる赤いの宝石に視線を向けていた。
「色々と聞きたいことはこっちもある、殺しはしない。だが抵抗されては面倒だ、まずは足から斬り落とす」
無慈悲にも処刑人めいて曲剣を振り上げながらキュリアは告げた。もはやオリビアに避けることができるほどの猶予はない。
「オリビアさん!!」
衝撃の光景を前にフェリクスは相手にしていたマフィアを分身に任せインターラプトを試みるが、距離的に間に合わない。リリィはまだマフィアと戦っている。もはやこれまでなのか?このまま足を切断されることは避けられないというのか?
「落ち着けフェリクス!」
奪い取ったメイスで、マフィアが装備していた拳銃ごと手を粉砕させながらリリィは声を掛ける。
「うちのオリビアはあんな奴に負けはしねぇ、どんなことでも勝たねぇと気が済まねぇ奴があれで終わりはしねぇよ!!」
絶対的なまでに自信に満ちた声でリリィは宣言する。キュリアは耳を傾けもせず刃を振り下ろそうとした…その時!
「――爆ぜろ!!」
オリビアの一声が響いた瞬間、キュリアの持つ曲剣から爆炎が発生!
(こいつ、性懲りもなく爆炎で手放させるつもりか。無駄なあがきを―)
キュリアは爆炎の衝撃を耐え手から離さないようするが、爆炎は止まらない。連鎖、連鎖、爆炎の連鎖が続く。それは先ほどまで拳の連撃と同じ回数まで発生し、そして!CRASH!
「ッッ!?」
金属が粉砕する音が新たに響いた!曲剣型AKWが爆炎に耐え切れず、中に搭載されたエンジンが爆発し破裂したのだ!その爆発から生じた飛び散る破片や爆炎がキュリアに襲い掛かり、持ち手を握っていた手が無残なことになった!
「AKWは魔石を使わずにプロテスを破る武器を作る為に開発された兵器。故にエンジンが活用され、引火に夜爆発を防ぐために耐熱性と耐久性を重点し、今もなお強化し続けているが…爆炎を防ぐのは想定外だったみたいだな」
オリビアの顔に笑みが浮かぶ、それは勝利を確信した表情だ。回復もせず彼女は立ち上がり、拳を燃やしてキュリアへ接近!片手は使い物にならず、武器も失い防ぐ物もなく、マフィアたちはもはや。もはやキュリアになすすべはない!
(身体能力、爆炎魔法、回復魔法…どれも並外れているが、こいつの本領はそこじゃない。どんな状況でも、状態であっても、絶対に勝つという不屈の精神力、それがオリビアの——)
「ウオラァアアアッ!!」
キュリアの懐に入り、強烈な突きが撃ち込められる。その勢いで吹き飛ばされ壁に撃ちつかれそのまま地に落ちた。起き上がる気配はない。
「ハァ…!ハァ…!」
激しく息切れしながらオリビアは再び膝をつき、回復魔法で急ぎ先の斬り傷を治す。実際、今のオリビアは死んでもおかしくない状況だ。プロテスと回復魔法がなければとっくに死んでいただろう。
「フゥー…流石にヒヤッとしたが、勝てたようだな」
リリィが後ろから声を掛けた。周囲を見渡せば先ほどまで戦っていたマフィアたちが転がっている。どうやら全員倒し切ったようだ。
「流石の私も死を覚悟したよ、ローテ・ヘンドラーを甘く見てたかもな」
「だがこうして勝てたんだ。今は素直に喜ぼうぜ?」
「オリビアさーん!リリィさーん!大丈夫ですかー!」
二人のもとへとフェリクスは駆け寄り無事を確認する。
「あぁ、大丈夫だ。治せるぐらいの魔力は残ってる。心配するほどじゃない」
「よかったぁ…斬られた時はどうなるかと思いましたよ…」
「それはこっちのセリフなんだがな。首が斬り落とされる光景なんぞもう見たくねぇぞ」
「そのことは…いや、すいません。まだお二人に教えてませんでしたね…あまりこの魔法に関しては組織内でもベルナデッタさんとかしか教えてないもので…」
「いや、お前の判断は正しい。自分の扱う魔法をウカツに語ったら対策されるからな。別にそこを攻めやしないよ」
そう言うとオリビアは起き上がり、倒れこんでいるキュリアのもとへ近づく。分身のフェリクスにより既に腕を縄で拘束されており、自由に身動きできない状態だ。オリビアはキュリアの顔を近づけ話しかける。
「まだ意識はあるんだろ。そっちは私に聞きたいことがあるみたいだが、こっちとしてもアンタには聞きたいことがたくさんある。悪いがついてきてもらうぞ」
「…どのみちもう抵抗もできねぇよ、敗者がとやかく言うつもりはねぇ」
やけに従順にキュリアは抵抗をする様子もなく、オリビアに腕を掴まれ立ち上がらされた。
「ここで尋問してたらまたマフィアが来るかもしれないからな、一度事務所に戻ってシュヴァルツ・アクスのほうに連絡して迎えを呼ぶぞ」
「こっからだと本部まで距離がありますし、そのほうが確実でありますからね」
「んじゃ、行くとするかァ。テメェも覚悟しとけよ?オリビアもそうだが、オレもフェリクスも痛い目に遭ったからな。このツケはしっかり払ってもらうぜ」
キュリアは何も言わず、リリィに手綱を握られながら後をついていった。
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