戦闘が終わり、時刻は既に深夜5時を迎えていた。いくらフライハイトと言えど道を歩く者はほとんどおらず、店もバーや酒場のいくつかが開いているだけだ。それでもネオンライトは光り輝いており、夜道を歩くには十分なほど照らしている。
そして、オリビアたちは襲撃を仕掛けてきたローテ・ヘンドラーのカポであるキュリアを捕縛。取り巻きのマフィアはオリビアの回復魔法で死に至らない程度に回復させその場に放置し、三人はキュリアを連れて一度事務所のほうへと戻るべく裏路地から離れたところであった。
「店の光があるとはいえ流石のここも普段よりは暗く感じるな」
「ですねぇ、人も少ないですしちょっと不気味な感じです…」
「時間が時間だ。流石にこんな時間までほっつき歩く奴はそうそういねぇよ」
三人は軽く雑談をしながら道を歩く。事務所まではそう遠くはない、だが道中でローテ・ヘンドラーの手先が来ては逃げられる可能性も考え、なるべく人通りが少ない所を選んでいる。
「少し縄を緩くしてくれねぇか?腕がキツくてしかたねぇ」
「ふざけんな、下手に緩めたら絶対逃げるだろ」
「むしろオリビアさんたちに感謝するんだな、ウチの手勢でやり合ってたなら回復なんてしないんだぞ!」
「ハイハイ、わかりましたよ。黙って歩きますよ」
人を小ばかにするような声でキュリアは大人しく歩く。このような態度にフェリクスは苛立ち掴みかかろうとするが、オリビアとリリィが止めに入り怒りを静める。二人はこうした輩には慣れているのだ。
どれだけ歩いただろうか。雑談を交えながら、もうあと少しで事務所にたどり着こうとするところで、突如キュリアが口を開いた。
「ところでだ。一つだけ聞きたいことがある」
「…なんだ?」
「今、そばにいるシュヴァルツの駒は…フェリクス、お前だけか?」
突然の問いかけにフェリクスは訝しむ。
「そうだとしても今のお前に何の関係がある?お前と無駄なお喋りなんぞやりたくも…」
「その反応だとあってるみたいだな。いやぁ、よかったよかった」
「何も気にする必要はなくて安心したよ」
笑みを浮かべなにやら安堵した様子を見せる。流石におかしいと感じオリビアが聞き返そうとした。
「おい、いったい何を…」
だが、その時、岩を削るような、何かを擦りけたたましい摩擦音が辺り…否、こちらに近づいて来る!
「なッ!?」
真っ先にそれを見たオリビアは驚愕した。ライトを照らし、猛スピードでこちらに鉄の塊が…一台の車が接近してきたのだ!
(殴り…いや、ダメだ間に合わない!)
「あれは!?オリビアさん!リリィさ」
「おらよッ!」
「ちょっ!?テメッ待ちやが」
そして、車が衝突する寸前にリリィを蹴飛ばしその場から離れる。リリィは掴み取ろうとし、フェリクスはアルターエゴを発動しようとし、オリビアは爆炎で殴り飛ばそうとしたが、間に合わなかった。そして——―
鈍い衝突音がその場に響いた。
「グッ…いったい…なにが…」
真っ先に意識を取り戻したのはオリビアだった。何が起きたか理解するべく、全身に走る痛みを抑え脳を動かす。車に突き飛ばされた痛み、跳ね飛ばされ回転する世界、そしてまともに受け身もできず地面に打ち付かれた衝撃。何より、同じように地面に転がるリリィとフェリクスの姿…
「…リリィ、フェリクス…だい…じょうぶか」
万華鏡のように回る視界は徐々に回復し、二人に声を掛け辺りを見渡そうとした。すぐ隣にはうつ伏せになって起きる様子のないリリィがいた。呼吸音が聞こえることからまだ死んではいないが、今すぐに回復すべき状況だ。次にフェリクスを探そうとしたが。
「無駄なあがきはしない方がいい、オリビア」
一つの声が行動を邪魔した。声の聞こえた方へ眼を向けると、車から降りて来たであろう銃を構えたマフィアを周りに展開させ、腕に巻いていたロープを斬り落としてたキュリアが、倒れているフェリクスの真横に立ち、二人を見下ろしている。
「大した判断力だ。まだ魔力も回復しきってないだろうにプロテスを、それもお仲間にも発動させて致命傷を避けるとはな」
プロテスは自身のみならず味方にも付与ができる、故にオリビアは当たる寸前にプロテスを発動させ三人のダメージを軽減したのだ。しかし、瞬時過ぎるあまり本来の効果を下回る防御性しか発揮できず、骨のいくつかは折れているのを感じるのがそれを証明している。
「キュリア…!いつからこれを…!」
「あの裏路地で敗北した場合に備え、事前に伝えてたんだよ。本当はぶっ倒したお前らを連れて行く用だったがな」
そういうとキュリアは倒れていたフェリクスの着物の裏襟を掴み、持ち上げて無理やり座る体制にさせた。痛みで苦しんでる様子から意識はあり、分身体でもなさそうだ。
「形勢逆転ってやつだ、少しはいい経験になっただろう?」
そして、部下が持って来たであろう新たな曲剣型AKWを、フェリクスの喉元に突き付けた。
「テメッ…!何をッ!」
何とか意識を取り戻したリリィが、うつ伏せのまま顔を上げており、目の前に起きてる状況に怒りの声を挙げる。
「こいつの魔法は興味深いが、シュヴァルツ・アクスは敵だ。本来ならすぐに殺す…が、まだ利用価値があるなら無駄にはしたくない」
不気味に思える笑みを浮かべながらポケットから一枚の紙を取り出し、倒れてる二人のもとに置いてキュリアは二人に告げる。
「フェリクスの命を助けたければ、明日が終わるまでにその紙に書かれた場所に来い。間に合わなかったら殺す」
「なんだと…!?」
「意識あるお前らをまともに連れて行けるとは思っていない、爆炎で車を爆発されては大赤字になるからな」
部下が渡したタバコに火をつけ、一度吸い、煙を吹かせながらキュリアは語った。狙いはおそらく、自分に有利な場所に呼び出しそこで自分たちを捕えることだろう。
「言っておくが、来るのはオリビアとリリィ、お前ら二人だけだ。シュヴァルツの連中の助けは勿論、このことを話でもした期限関係なくフェリクスを殺す。それ以外の助けを呼んでも殺す。これだけ言えばわかるよな?」
「好き勝手言いやがって…」
「お前らなら否応なしに来ると思ったまでだ。便利屋イグニートは困ってるやつには手を差し伸べるんだろう?」
キュリアは魔法的に厄介であり、敵対組織の一員であるフェリクスを人質に取ることで二人とは違い約束を破ったら絶対殺されるという確証を与えたのだ。こうなれば二人は何としても助けに来るだろう、例え罠が仕掛けられてるとわかっていても。何という抜け目のなさか!
「……オリビア…さん…リリィ…さん……聞こえてますか…」
だがその時、フェリクスが今にも途切れそうな声で二人を呼んでいた。
「忘れないでください…お二人の目的は…依頼内容はあくまでも…麻薬の出所を潰すことです…私の安否は…どうだっていいんです…」
骨という骨が折れ、外から見ても左足が曲がるはずのない方向へ曲がってるにも関わらず、フェリクスは喋り続ける。
「だから…私のことは構う必要なんてありません!!このことをボスかベルナデッタさんに伝えて応援を呼んでください!!」
思わぬ大声に二人は勿論のこと、キュリアさえも驚いた。
「私だってマフィアだ!!いつだって覚悟は決めています!!ですから!!目的を優先して麻薬の、カチュアさんの捜索を」
「少し黙ってろッ!」
「ンァ…ッ!」
フェリクスの訴えは側にいたマフィアに頭を殴られ無理矢理閉ざされた。意識を失い、ガクッと頭を落とす。
「フェリクス!!」
「テメェら…いい加減にしやがれよ…ッ!」
オリビアとリリィは痛みも無視して立ち上がりキュリアたちを睨みながら助けに入ろうとするが、曲剣の刃をフェリクスの喉に近づかせる動作をされ足を止める。
「揃いも揃って凄まじい精神力だ。私らも見習いたいぐらいだ…さて、これ以上ここにいる理由はないし戻るとするか」
そう言うとキュリアはフェリクスを肩に持ち上げ車の方へと向かい、荷台にフェリクスを投げ入れ、後部座席のドアを開けた。
「おい、キュリア」
キュリアが車内に入ろうとする前に、オリビアに声を掛けられ足を止める。その声は焼き尽くすような殺気があった。
「どんな罠を仕掛けてこようが、絶対にフェリクスは救い出す。そして、お前には生きてることを後悔させてやる。せいぜい首を洗って待ってろ」
その言葉に不気味な笑みを浮かべ、キュリアは車内に入り、マフィアたちとフェリクスを乗せた車はその場から去っていった。突然訪れた静寂、オリビアは先ほど置かれた紙を拾い上げ、リリィのもとに駆け寄る。
「済まないリリィ、私がもっと早く対応できたら…」
「お前ひとりで抱え込もうとすんじゃねぇよ。その言葉はフェリクスに対して言うべきだろ?」
「…そうだな」
気が付けば夜も明け、日が昇り始めていた。オリビアは車が去っていた先に顔を向けながら拳を強く握りしめる。
「私は事務所に戻って準備をする。リリィは工房に行ってAKWを用意しとけ、夕方までには終わらせろ」
「あぁ…あのナメ腐った連中を存分に後悔させようぜ?」
「当然だ。仲間に手を出したケジメはキッチリつけさせてやる」
二人はそう言うと別々の方向へ歩きだしていった…
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