事務所に戻ったオリビアは、白いローブめいたコートをソファの上に投げ置き、そのまま自室へと向かう。ベッドや作業用のテーブルにクローゼットなどが置かれた至って普通の部屋。
オリビアは全身ボロボロの体を布団に沈めもせず、クローゼットの一つを開ける。中に入っている服を横に払いのけると、そこにはドアがあった。普通であればあるはずのないものだ。
扉を押し開けると、その先には寝室とはまた別の部屋に繋がる。照明を除いて窓すらない無機質な空間。だが床を見ると、そこには地下に続く階段があった。オリビアは後ろのクローゼットの扉を閉め、階段を下りる。
僅かに照らす照明を頼りに、薄暗い階段をつかつかと降りていく。そして、しばらく降りていくと、その先に広く真っ暗な空間が現れる。
「明かりがつくまで長いんだよな…そこも改良しないとだな」
一人でそんな愚痴をこぼしながら、入口付近の壁に付けてあったボタンを押す。しばらくしたのちに、天井にぶら下がっていた照明が次々と明かりを照らし始め、部屋全体を露わにさせる。
事務所のリビング並みに広く、いくつもある机の上には機材や置きっぱなしにされてる道具、乱雑に散らかった書類があり。奥の方には何やら番号が振られ何かを入れている棚が何十種類もの置かれ、壁にはいくつもの奇妙な形をしたガジェットのようなものが掛けられていた。
ここは地下開発研究所。元々は荷物置きなどで扱われていた地下室をオリビアが魔改造した場所であり、維持費などの問題で家賃が払えなくなる原因の一つである。
「確かあの魔導具があったはず…」
オリビアは床に落ちてある書類を踏まないよう歩きながら、ガジェット…魔導具が掛けられた壁の方へ近づき、一つ一つ手に取る。箱型の通信機めいた物からバッチのような物、そして二着のグローブ。
ここにある物は全てオリビアが開発し、作り上げた物だ。オリビアはこうした魔導具…魔石と呼ばれる希少資源を使った道具の一種を開発するのが得意であり、依頼の一環として修理を行ったり、戦闘時のアシスト用として独自の魔導具をいくつも用意しているのだ。
「市街で爆炎ぶっぱなすならこれを使わねぇとな…それとあれも飲んでおくか」
そう言うとまた別の所へと歩いていく。オリビアが向かった先には小さな冷蔵庫があり、中を開けば大量の青い色をした飲料水が入っており、彼女は一つ手に取った。
オリビアは足で冷蔵庫の扉を閉め、飲料水の蓋をあけ勢いよく一気飲みする。一般的な缶飲料水ぐらいの容量しかないためすぐ飲み干したが、オリビアはカラになった容器を投げ捨て、近くの使い古した椅子に座り込んだ。その表情はどんよりとしており良い状態ではない。
「クッソ不味い…効果が上がるごとにどんどん不味くなっていくのなんなんだよ…」
先ほど飲んだのはエーテルと呼ばれる魔力を即座に回復させるための特殊な飲料水。もしもの時や研究疲れを回復させるために溜め込んでいる。魔力回復の効果も高いが、その分味が酷い。とにかく酷い。
「…愚痴言ってる場合じゃない。早いところ調整を済ませないとな」
そう言うと立ち上がり、再び魔導具に手をとった。
鉄の焼け後の匂い、奥にあるかまどの炎だけで照らされるやや薄暗い室内、壁に飾られる数多の武器。そんな空間に一人椅子に背を持たれかけながら座り、尻尾を不規則に揺らすリリィがいた。更に相対するよう座る少女がおり、作業着を着こみ体のあちこちに汚れがついてる。その表情には明確に怒りを感じさせていた。
「修理に出したの一週間前のはずだよな?まだ完了してねぇとか長すぎじゃねぇか?」
「どういう使い方したか知らんが、八割ぐらい機能不全状態で押し付けてきたそっちが悪いだろうが!新しく造るよう頼めばもっと早く終えてたわ!」
「クソ高いし、修理のほうが安く済むんなら誰だってそっち選ぶだろ。下手に金突っ込んで家賃払えず外の放り出されたくねぇんだよこっちは」
「お前のとこの所長といい、どんな金の使い方してんだよ…どっちも腕前は悪くねぇってのに…」
「ほめても何もでないぜ?」
だんだん怒りから呆れ顔になっていく少女を眺めながら、リリィは出されたコーヒーを飲み干した。
ここはフライハイトに存在する小さな工房『メタルビルド』。銃器からAKWまで幅広く製造と修繕を行ってるグローウォルと呼ばれる職人が一人で営んでおり、今現在リリィと話している少女こそがその人だ。
「それにしてもどうしたんだよ急に来たと思ったた、アンタの預けたAKWを今すぐ直せだなんて…一か月は使わないからそれまでに直してくれたらいいって言ったのアンタでしょ」
「緊急事態なんだよ。内容は言えねぇが今日中に武器用意する必要ができちまってな」
「…あっそう」
グローウォルは茶色いコートが所々汚れ、全身の至所に傷跡があるリリィを一目し、それ以上は何も言わず席から立ち上がる。
「料金は少し上乗せしてもらうぞ」
「わかったよ、押しかけた以上文句言わねぇよ。ただ遅くても夜までには仕上げてほしいかな」
「夜?フッ、ナメんな」
バンダナを巻き、手にハンマーを持ったグローウォルは、リリィに顔を向け二ヤリと笑う。
「一時間で済ます。それまでに新しい服でも買ってこい」
時刻は夕方。オリビアは事務所の客間でありリビングルームにあるソファに仰向け状態で寝転がっていた。ずっと休みも取らず、ぶっ続けで作業を行ったことで流石に応えている。これからの事を考え、作業に区切りをつけ休んでいるのだ。机の上には彼女が地下研究所から持ち出された魔導具が並んでいる。
「フゥー、上がったぞー。早いうちに入りな、それまでにこっちの準備は終わらせるからよ」
別室からタオルを首に巻いてるリリィが現れ、オリビアに呼びかける。体から湯気が出ており、格好も下着だけしかなく、普段は服で隠れてる体の鱗が露出している。
「服を着てから部屋に来てくれないか?ここ客が出入りする場所だぞ」
「見られても減るもんはねぇし、何より風呂上りは体が熱くて服を着るきもおきねぇよ」
そう言いながら冷蔵庫からビンに入ってるビールを取り出し、そのまま飲みながらソファに座り込んだ。
「これから連中のもとに向かうってのに…」
「下手すりゃ飲めず死ぬかもしれねぇし、構わねぇだろ?」
「生きて帰るさ、フェリクスを連れてな」
そう言いながらオリビアは立ち上がり、白いローブを脱ぎ捨て浴室へと向かった。
「…アイツも人の事言えないような恰好のはずなんだが…シャツも着ず黒い下着の上に白いコートだけって…」
湯気が立ちこむ暖かい浴室にて、オリビアはシャワーを浴びながら鏡に映る自身を見つめていた。外傷は回復魔法を使ったことで既に治っており、鍛えられた腹筋が水に滴ってるのもあってか美しく写る。胸小さいが、高身長かつ鍛えられたその身体は一つの美として男を魅了させるだろう。
しかし、オリビアが何より目にしていたのは右手にあった。その甲に埋め込まれるようにある、赤い輝きを照らす菱形の宝石。それを見つめる目はどこか恨めしそうであり、複雑な感情を感じられた。
(あの時、キュリアは私の力を知りたがってるような言動だった…どっちの力だの言ってたし、間違いなくこれについて知ってるはず)
オリビアは強く拳を握りしめる。彼女にとってキュリアから聞き出したいことは麻薬だけではない。そのためにもキュリアの提示した場所に向かう必要がある。例え罠だとしても行く価値は十分にあるのだ。
「だったら警戒しないとな…マフィアだけでなく、親衛隊にも…」
評価・感想をお待ちしております
そしてちょっとした小話や作中で登場した物とかについて今後たまに書いていこうと思います
・AKWの意味
正式名称は起動式近接兵器。AKWは訳語である
Antrieb
Kampf
Waffe
の頭文字から抜き取った略称であり、大抵の使い手はAKWが一般的である