時刻は夜。日は落ち、空が黒く染まろうとしている。各地にあるネオンライトの光が次々と光り始め、フライハイトは夜の街にふさわしい姿に変わろうとしていた。
そんな夜の街をオリビアとリリィは歩く。普段であればどこかの酒場に行ったり、カジノへ遊びに行くが、今日は行先が違う。それに身に着けてるのも変わっており、オリビアは黒い手袋ではなくグローブのようなものを装着し、リリィに至っては背中に巨大なメイスめいた武器を背負っていた。
街中でこうした武器を持ち歩くのはそう珍しいことではない、自己防衛のために銃やAKWを持ち歩く者はそこそこいる。それでも二人が穏やかな雰囲気でないことは確かだ。
「場所はたしか、こっから先のビルだったか?」
「あぁ、前に聞いたフェリクスの話だと、ここら辺り一帯はシュヴァルツ・アクスのシマ外の所だ。ローテ・ヘンドラーのシマってとこだな」
「知っちゃあいたが、助けは期待できねぇな」
「暴れても親衛隊に通報されないよう仕込んでるはずだ。まぁ、そのほうが遠慮なしに戦えて助かるがな」
実際オリビアは、周囲を見渡せば自身をまるで監視してるかのような感覚を感じている。それも一人ではない、複数だ。店や客、通行人の中にさえ、ローテ・ヘンドラーの構成員が紛れ込まれてるはずである。
「…っと、会場はここみたいだな」
リリィがそう言い視線を向けると、そこにはホテルがあった。おおよそ8階はあるほどの高さを誇る大型ホテル。外装から見て、いかにも高級そうな感じに見える。
「とっとと行こうぜ、時間制限は明日までのはずだ」
「わかってる。招かれたんだ、存分に楽しんでやらないとな」
「それもそうだな!こんなホテルに入る機会なんか滅多にねぇし、思いっきり楽しむとするかァ!」
二人は気合を入れて向かう。入口付近で待機していたドアマンは何も言わず、迎え入れるようドアを開け中へと誘った。
ホテル最上階。いわゆるVIPルームと呼ばれる空間であり、使用するには金だけでなくコネも必要とされる。警備員などもおらず、いるのは客か支配人のみ。まさに選ばれた者しか入れない場所だ。
「なぜ、それだけ厳重にしているか…お前にわかるか?」
その最上階にある一室にて、一人の女が窓から見える夜景を眺めながら話しかけた。
「ここは私の国であり、城であり、私が決めたことだからだ。このホテルでは私の言葉が法だ。うちのボスでさえここで提示されたことを守ってくださる。故に手下も、客も、このルールに疑問を抱くことは許されない」
女は…キュリアは振り返り、部屋の中央の方に目を向ける。服や顔には血が付いており、不気味さが増している。
視線を向けた先には一人の少女がおり、身体を椅子に縛り付けられ、左手指を三本、右手指を一本斬り落とされ、身体のあちこちに血を流している。和服は服としての機能を果たして下りず、所々に痣のある肌が露出させたフェリクスの姿があった。
「本来なら足を踏み入れることさえできない場所だが、気分はどうかな?」
「黙れ…下郎…」
フェリクスは口の中が血の味で染まっているにも関わらず、憎悪の怒りを込めた声を発する。
「少しはリラックスして、情報も吐いてくれると思ったんだがな」
「話すことなどない…どうせ殺す気なんだろ…なら…とっと殺せッ!!」
「そう死に急ぐなよ。アイツらとじゃ約束があるんだ、お前には生きてもらわないと困る」
そう言いながらフェリクスのもとに近づき、屈んで目線を合わせる。その目には光はない。
「奴らが来るまでの間、もうちょっと戯れようぜ。次はどの指がいい?」
「…お前と喋る気はないし、あの二人だけで来るわけがない…私はマフィア、それも下っ端だ…そんな奴に危険を承知に来るわけがない…!」
「来なくても時間はあるだろ。斬るのも飽きたし次は逆関節に折り曲げて…」
フェリクスの指を握り絞めたその時、部屋一帯に電話の鳴る音が響き渡った。キュリアはすぐに指を解放し、電話のもとへ向かい受話器を取る。
「なんだ…ほう、やっぱりか…あぁ、盛大に迎えてやれ。周囲の店と親衛隊の連中には手を回している。ドンパチやっても問題ない…指揮はそっちで任せるぞ、じゃあな」
一分にも満たない会話を終えた。受話器を戻したキュリアの顔は笑顔に満ちていた。
「期待通りだ…楽しませてくれる。喜べよフェリクス、お前の命は辛うじて助かった。あの二人に感謝するんだな」
「えっ…まさか…」
「さて、こんな格好じゃあ客を出迎えれないし、身だしなみを整えるとするか」
困惑するフェリクスに目も向けず、キュリアは部屋から退出した。時計の針しか聞こえない無機質な部屋の中、フェリクスは一人取り残される。
「…なんで…出会って数日も経ってないのに…どうしてここに…」
「ようこそいらっしゃいました。歓迎しますよ、便利屋イグニートのお二人様」
ロビーに入るや否や、フロントにいた受付の女職員がオリビアたちを出迎えた。豪華なシャンデリアが飾られてるいかにも高級な空間だ。
「要件は知ってるはずだ。フェリクスはどこにいる」
「今はキュリア様と戯れている最中でございます。朝からずっと共に居られるなんて、シュヴァルツの犬にはあまりにも贅沢極まりない生活を送っていますよ」
「ならキュリアの野郎まで案内しな!じゃねぇと、修理費がとんでもないことになるぜ!」
「えぇ、もちろんご案内しますよ…ただし」
受付の職員が薄ら笑いながら周囲に目を向ける。オリビアたちも続くよう視線を向けると、いつの間にかAKWを持った職員…否、マフィアたちが取り囲むように集まっていた。
「失礼がないよう、お二人の手足のほうを無力化させていただきます。抵抗するようでしたら…殺しかねませんので大人しくいただけないでしょうか?」
あまりにも一方的で、無茶苦茶な要求。だが、既にここはローテ・ヘンドラーのシマの中。どんなことが起きようとも外部に漏れることはない。
だが、そんな圧と殺意に囲まれてるにも関わらず、オリビアとリリィの表情に恐怖はない。
「随分な歓迎だな。たった二人にそれだけ怯えてるのか?ローテ・ヘンドラーはたかが知れてるな」
「全員相手にしてやっていいぜ?骨か体の部位を失いたい奴だけ前にできなよ!」
「……マフィアでもない、便利屋風情が図に乗りやがって…オイ!キュリア様から既に許しはでてる!この二人を始末しろ!!」
二人の挑発に乗せられ、マフィアたちは一斉に襲い掛かる!オリビアとリリィは互いに背を向き合い、迫るマフィアの群れに目を向けた。
オリビアは右手に魔力を溜め込み、グローブに備え付けられた魔石が赤く光る。一方、リリィは背中に抱えていた巨大なメイスの柄を片手で持ち、二度トリガーを引いた。メイスからエンジン音が響き、次第に振動も強くなる。
そして、次の瞬間。
「エクス…プロ―ジョン!!」
「ブッ飛べェッ!!」
強力な爆発音と衝撃波が響き、そして、二方向のマフィアたちを吹き飛ばした!
「な…なんだと!?」
受付でその様子を見ていた職員もといマフィアは驚愕の声を出す。はたから見れば、方や広範囲の爆炎が巻き起こり、もう方やリリィが地面にメイスを振りかざしたところからタイルを巻き込みマフィアたちが吹き飛んだように見えた。
当然ながら爆炎はオリビアの魔法の一種であり、衝撃波の方はリリィが持つ巨大なメイス、通称グレートメイス型AKWの破壊力で発生させたものだ。
それを食らったマフィアたいの何人かは壁に叩きつけられ動かなくなり、攻撃の範囲に入らなかったマフィアたちもあまりの光景に動きが止まった。
「仲間が待ってるんだ、お前らの話に付き合うつもりはない。だが来るなら相手してやる、爆炎に包まれたいやつから…前に出なッ!」
オリビアの怒声に近い大声がホールに響き渡った。
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