満点の星空の下、露天風呂に浸かる一人の女がいた。腕にシャチのタトゥーが彫られ、身体のあちこちに痛々しい傷跡があり、ただならぬオーラを醸し出している。
「…派手に暴れてるようだな」
湯が若干揺れたのを感じ、女…キュリアは少し笑みを浮かべた。カチコミが現在進行形で行われてるというのに、余裕どころかリラックスしていた。
「頑張ってここまで来てくれよ、便利屋のお二人」
入口のロビーにあたる一階フロアは、まるで激戦の起きた戦場の如くボロボロとなっていた。壁には破損もしくは破壊され穴が開き、ガラスのほとんどが割れ、フロア中央に置かれていたどこかの女神をモチーフとされただろう美しい石造はリリィが武器として振り回したことで木端微塵となっている。そして何より、辺り一面には何人ものマフィアが死屍累々の如く倒れていた。
「オラッ!ウオラァ!!」
そして、今もなお戦闘は続いている。オリビアは次々と迫るマフィアたちを殴り、蹴り、投げ飛ばし。時には爆炎魔法を放って吹き飛ばす。
(やっぱこいつを持ってきて正解だった)
オリビアは両手に着けているグローブに目を向ける。このグローブはオリビアが開発し作り上げた魔導具の一つであり、主に装着者の魔力をコントロールする為にある。魔法を扱う者の中には、魔力が高すぎて思い通りに魔法を扱えない者もいる。特にオリビアはこのグローブをなしに爆炎魔法を扱えば大災害を起こしかねない、それだけ魔力とこの爆炎魔法自体が強力なのだ。
「オイオイどうしたァ!まだオレはピンピンしてんだぞ!そんだけ数で攻めて悔しくねぇのかァ!?エェ!!」
大声をあげ挑発を繰り返すリリィ。手にはグレートメイス型のAKW【グレイド】を持ち、中指を突き立て倒れてるマフィアを踏みながら吠える。
「クソがッ!アイツナメやがって!」
「あのドラゴニュートの女を黙らせろ!尻尾を斬り落としてしまえ!!」
マフィアの一人がそう叫ぶと、一斉にリリィへと近づく。だが、リリィの浮かんだ笑みは更に増すばかりだ。
「たくさん来てくれて助かるぜ、一気に仕留めれるからなァ!!」
するとリリィはグレイドの引き金を何度も引く。エンジン音が響き、その力の片鱗を掴んでる手から感じ取れる。このような重厚なAKWはあまり扱われていない。単純に重いというのもあるが、何よりエンジンを起動させてる間はうまく持っていないと最悪自滅しかねない。
だが、それを持てるだけの力さえあれば、その火力は砲撃にも匹敵する。当然リリィであれば、余裕で振りますことが可能!
「全員まとめて…ブッ飛びやがれッ!!」
リリィはグレイドを地に叩きつけた。すると、リリィを中心とした周辺に衝撃波が発生!足元にクレーターができるほどの巨大な破壊力が地面に触れた結果だ!
「「「グワアアァッ!?」」」
想像を超える衝撃波の威力とその範囲に、マフィアたちは宙を舞い吹き飛んだ!
「クソッ…なんなんだお前らは…!」
「便利屋イグニート。覚えられないなら名刺でもあげようか?」
「ほざけ!お前らをキュリア様の所に行かせてなるものかーッ!」
もはや居ても立っても居られない状況であることを受け止め、受付席でずっと様子を見ていたマフィアはつに飛び出す。狙いはオリビア、情報通りなら爆炎のみならず回復や防御といった支援魔法も扱う厄介な存在、なら先に倒すべし!
「ハァーッ!」
剣型のAKWを片手に持ち斬りかかる。だが、オリビアは軽くステップをして回避し、そのままカウンターを…
「食らえッ!」
「ッぶね!?」
しかしカウンターは突如飛んできた銃弾により失敗!仲間のマフィアによる援護射撃?否、もう片方の手で装備していた受付のマフィアの拳銃によるものだ!攻撃が空振り舌打ちをすると、そのままオリビア目掛けAKWと拳銃による連続攻撃を始めた!
「受付を任されてるだけあるか…!」
オリビアは回避に専念し相手の隙を伺う。二つの武器を扱う以上、体力の消耗はその分激しいはずだ。繰り返し行われる攻撃はどれも当たれば致命傷、しかし時は来た。逆転のチャンスが!
「オラッ!」
オリビアの素早い拳がマフィアの片手に届く!マフィアは痛みのあまり持っていたAKWを手放し地に落とした!そしてすかさずもう片方の拳銃を持っていた方の手首を掴み真上に上げる。
「さぁ、これで抵抗は…」
だが、オリビアが見たのは驚く顔でも屈辱に塗れた顔ではなく、勝ちを確信してるようなマフィアの表情だった。その表情の理由はすぐに理解できた。先ほどAKWを持ってたほうの手には拳銃があり、銃口はオリビアに向けられている。
「予備は常に持ってんだよ…!死ねッ!」
そして引き金は引かれ、弾丸が発射!オリビアは避けることもできず、頭に命中!ヘッドショット!
もはやマフィアはオリビアに目を向けていない。頭に銃弾を撃ち込んだ、生きてたとしても動けまい。次はリリィを仕留めるべく顔を向けようとした。
「よくないな、死亡確認もせず余所見をするとは」
その時、信じられないことが起きた。声が聞こえた。オリビアの、生きてたとしてもまともに喋れるわけのない声が、いやでも耳に届いた。思わず振り返れば更に信じられないことが起きている。オリビアの頭に一切の傷がない、銃弾で撃たれたはずなのに、まるで何もなかったかのように傷がないのだ。
理解すべくマフィアの思考が走る。
(プロテス?いや、間に合うはずもない。ならなんだ?今のは…こいつ、このバッチは…この魔導具は…!!)
そして、この現象が発生してる原因を理解した。それはオリビアの胸元に着けてあるバッチ、ローテ・ヘンドラーも扱っている魔導具の一つ。
「何故お前がプロテスシールドを!」
「自作品だ。スゴイだろ?オラッ!!」
間髪も入れずオリビアの拳はマフィアの腹を貫いた!
「ぐはっ!?」
「そのまま…爆ぜろ!」
うめき声めいた声を発したマフィアに容赦なく、トドメと言わんばかりに殴られた箇所から爆炎が発生!そのまま吹き飛び壁に叩きつけられた!マフィアはそのまま倒れ伏せ、起き上がる様子を見せない。
「…大戦時に大量生産されたわけだ。流石の性能だな」
プロテスシールド。名の通り装着者にプロテスと同様の防壁を身体にまとうよう展開され、一定の攻撃を弾くことができる。弾丸を防げたのはこいつのおかげだ。
「フィー…増援もなさそうだな」
リリィが息を吐きながらオリビアのもとへ近づく。時間にして数分、そのたった数分でマフィアたちは全員倒されたのだ。たった二人の便利屋によって。
「怪我はないか?」
「いいさ、大したことないし魔力は温存すべきだ…上で居座ってるあの野郎をぶっ飛ばせるだけの魔力はな」
「それもそうだな…さて」
軽い会話を終えると、オリビアは先ほどぶっ飛ばした受付のマフィアに近づく。リリィもその後を追った。
「さぁ、少し喋ってもらおうか」
「ク…クソが…」
無理矢理壁に背を持たせるよう座らせ、視線を合うようにする。意識はあるようだが敵意と殺意は一切収まってない。
「単刀直入に聞く、キュリアはどこだ」
「言ったところでお前らが行けるわけが…」
その時、マフィアの顔の両方の真横に、炎を纏った蹴りとメイスが飛んできた。業火とも思える炎の熱に晒され、メイスはマフィアが背にしてた壁に突き刺さり、亀裂が走っている。
「聞こえなかったかァ?どこにいるかって言ってんだよ、答えろ」
「二度はない。次余計なこと言ったら死ぬと思え」
マフィアは恐怖した。情報を聞いた時は小さな何でも屋程度に思っており、人を殺したこともないアマチュアだと高を括っていた。だが、目の前にいるのはなんだ?マフィアである彼女とて何人も債務者や敵対マフィアを殺してきた身だ、なのに、今この二人の目を見るだけで恐怖心が止まらない。その二人の目は何人…いや、何十、何百と人間を殺した目をしていた。
「さ、最上階!最上階のVIPルームだ!」
「たくッ…最初からそう言えよ」
「察しはついていたがやっぱり最上階か」
そう言いながらオリビアは脚を下げ、リリィは壁からグレートメイス型AKWを引き抜いた。
「最上階までのルートは?あそこにあるエレベーターを使えばすぐにつくのか?」
「い、いや…あそこまでいくには二回は別々のエレベーターを使う必要がある…」
「アァ?なんでんな面倒な設計にしてんだよ!」
「VIP専用の階をそう簡単に行かせない為だろう。となれば直行はできないし、道中の戦闘も避けられないな」
オリビアは少し考えこんだ。キュリアとの戦闘は間違いなく避けられない、となればなるべく道中での戦闘は避けるべきだと考えていた。もはやド派手にやった以上、向こうの警戒度も高くなってる。となれば安易な変装などをしても無意味だ。
「…仕方ない。強引に突破する以外、行く当てはなさそうだ」
「だな、まぁそのほうがシンプルで好きだぜ?」
ならば真正面から答えるまで。元よりローテ・ヘンドラー側から仕掛けてきてやられっぱなしでは二人の気は収まらない。
「正気か…?お前ら二人でどうにかできるとでも…?ナメてるのか…!」
「心外だな、私は常に正気だ。正気で自分の実力を考えたうえで、突破できると考えてるだけだ」
「常に正気なやつはカジノで掛け金として家賃を使おうとしねぇよ」
マフィアは信じられないものを見るような目で二人を見つめる。こんな状況にも関わらず談笑してるなんて常人ではできやしない、正気とは思えない。
「お前らはどのみち死ぬ…例えキュリア様のところに行けたとしても…奇跡的に倒したとしても…ローテ・ヘンドラーの牙が貴様らを」
「ウオラァ!」
「アギャッ!?」
言い終える前に、オリビアの拳で顔面を殴られ、そのまま意識を失った。
「口の減らねぇ奴らだぜまったく」
「エレベーターはあそこか、早く行くぞ」
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