便利屋イグニート   作:文ノ雪

16 / 43
今回はいつもより少し短いです


葛藤

このホテルには階ごとにランクが割り当てられている。2階から5階までは一般客専用フロアであり、6階と7階は上級客専用となっている。そして、更に上であり最上階とされる8階こそが選べれしVIPしか入ることは許されない。

 

「オラァッ!」

「グハァ!?」

 

そして、その上級客専用エリアの7階にて、オリビアは次々と出会うローテ・ヘンドラーのマフィアと戦闘を繰り広げていた。1階からのエレベーターでは8階に向かうことができない、故にこうして7階に降りて別のエレベーターを探してる最中だ。

 

ちょうど襲ってきたマフィアを一通り片づけることに成功し、一息ついたところである。

 

「思ったより広いな…二手に分かれて正解だったか」

 

想像以上に探索範囲が広いことから、リリィとは別行動を行っている。幸いにも1階で戦ったマフィアより数は少なく、単独でもどうにかできているが、それはそれとして戦闘続きで疲弊しつつあった。

 

『―――アー、アー。おーい、聞こえるかオリビア』

 

オリビアの腰に掛けていた箱型の通信機めいた道具から音声が流れた。若干ノイズが走って質は悪いが、その声はリリィのものだった。

 

「聞こえてるよ、そんなマイクテストしなくてもいいだろ。私の作り上げたアルカナコムは1km離れようが通話できるんだぞ」

『何事も細かいチェックは重要だろ?』

 

アルカナコム、これもまたオリビアが作った魔導具の一種だ。通信機は軍用として配備されているが、民間用はなく購入するには特別な店などに行く必要がある。だが、自作してしまえばそんな手間も金も必要なくなる。オリビアはそれができる技量があるのだ。

 

『それより、さっきぶちのめいしたマフィアをシメてたんだが、いい情報を手に入れたぞ』

「内容は?」

『キュリアの奴はどうやら今、この階にいるらしい』

「VIP階ではなくここに?何のために…」

『あの野郎、ここに来た時には体中に血がついてたらしい。洗い落とす為にこの階にある大浴場に向かったんだとよ』

「…随分とフェリクスで遊んでるようだな」

 

なんとなく血がついてる理由には察しはついた。おそらく、シュヴァルツ・アクスの情報を得るべく、口を割らせるために拷問を行っていたのだろうと。オリビアは右手拳を力強く握った。

 

『オレはこのままエレベーターの方を探す。悪いがお前は大浴場の方に行ってくれねぇか?』

「あぁ、わかった。そっちも気をつけろよ」

『なぁに、この程度どうってことも…っと、増援のお出ましか!それじゃ切るぜ!』

 

瞬間、何か破壊されるたような音がアルカナコムのみならずこのフロア一帯に響いたのと同時に通信は切られた。

 

「…このホテル崩壊とかしないよな?耐久性はあると信じたいが…」

 

爆炎をぶっぱなしている自分を棚に上げ不安に感じるが、すぐに気持ちを切り替え目的の大浴場に向かう。

 

ここグロリアは年中気温が低く、夏でさえ最高気温が15度ぐらいしかなく、冬になれば常時マイナス気温を叩き出す。そうしたのもあってかグロリアでは温泉や銭湯などの施設が多く、今いるような高級ホテルでは絶景を眺められる大浴場などが備えられているのだ。

 

閑話休題。リリィからの連絡を受けて数分経たずして、オリビアは話に聞いた大浴場への入り口にたどり着いた。道中では敵に出会うこともなく、入り口から中を覗き込んでも誰もいない。警戒しながら中へ進んで行き、男女で別れた道で女の方に入る。

 

巨大な鏡や服を入れる為の棚などがあり、予想外にもその棚に何着も服が入れられている。カチコミを受けてるにも関わらず入浴してる輩が何人もいる事実に少し驚愕するが、真っ先に目に入る棚があった。中には赤黒いスーツが入っており、スーツの色合いで気づきにくいが、血がこびりついてるのがわかる。それも血がついてそう時間が経ってない状態だ。間違いない、昨日キュリアが着ていたスーツだ、キュリアがこの大浴場の中にいる。

 

「ふざけた真似しやがって…」

 

静かに怒りと殺意をたぎらせる。フェリクスに拷問を仕掛けた事実に怒るのもあるが、カチコミを受けてるとわかってるだろうに、呑気に入浴しているその態度に腹を立てていた。間違いなくナメられてると感じ取ったのだ。そのまま怒りをぶつけるべく中に入ろうとした…が、脚を止めた。

 

「…だが、中に入るにしても…どうしようか…」

 

オリビアは悩んだ。この大浴場の中にキュリアはいる。しかし、そのためには中に入る必要がある。おそらく中には何人か先に入ってる者たち…間違いなくマフィアがいるだろう、となれば戦闘は避けられないはずだ。戦うのはいい、それ以上の悩みとして。

 

「緊急事態みたなもんだぞ…でもマナーをないがしろにするには…」

 

中に入るために、服を脱ぐか否か、どうすべきか悩んでいたのだ。

 

オリビアは任務の為にグレーなことを何度もしてきている。以前マンションの部屋に入るべくピッキングしたのがいい例だ。だが、それはそれとして、オリビアはマナーにはある程度尊重してる面があった。どんな理由であれ、マナーをないがしろにして勝負に勝つのは彼女のプライドとして認められない。風呂、銭湯、温泉において衣類を着た状態で入るなどマナー違反の極み、そんな常識を破ってまで勝っても嬉しくない。

 

だが、だからと言って、大浴場と言えど、女湯と言えど、裸で戦うのは流石にどうだ?という恥じらいもあるのは事実。しかし、それを言ってしまえば中に入ってるマフィアたちにも言えてしまう。向こうはその恥じらいを捨ててまで戦うのに自分だけ服を着て戦う?まったくもってフェアではない!

 

「…しかたない、別にスーツでもないし脱いでから入るか…」

 

おおよそ悩んで数秒、オリビアは脱ぐ選択肢を選んだ。マナーとは別の何かが失われてるような気がするがそんなの気にしてる場合ではない。とっとキュリアを見つけるべく、彼女は白いローブめいたコートと、黒いスポーツブラめいた上着とスパッツを脱ぎ棚に投げ入れ、大浴場の中に入った。




評価・感想の方をお待ちしております
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。