便利屋イグニート   作:文ノ雪

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大浴場戦

湯気が立ちこみ、雰囲気、温度共に暖く、高級感も感じられる空間。中は広く、湯が広大ともいえるほど広がる大浴場の名にふさわしい。

このホテルでは露天風呂もあり、外から見える夜景と街の景色は絶景と評判の場所だ。

 

本来なら憩いの場であるはずの大浴場だが…オリビアが中に入った瞬間、一瞬で殺意で満ち溢れる戦場めいた空間と化した。

湯に浸かってた者、シャワーを浴びていた者、この場にいる者全員が、オリビアに視線を移す。

 

「わかってはいたが…流石に気づかないってわけにはいかないか…!」

 

鍛えられたキレイな腹筋を引き立たせるスレンダー身体に、湯気によって生じた水滴が流れ落ちる。

 

今のオリビアは正しく裸一貫、魔導具も全部置いてきている。つけたまま入るのはマナーが悪いというのもあるが、一番の理由として水で故障して無駄な修理代を払うのが嫌なのだ!

 

「相手は一人だ!迎え撃て!」

 

入浴してた一人のマフィアが声を荒げると、周囲のマフィアたちは立ち上がる。全員、オリビアに見劣りしないほど鍛えられた体をしており、タトゥーや傷跡が浮かんでおり、美しさよりも怖さが勝っている。

何より胸のサイズにおいてはオリビアが勝ってる相手が誰もいない。

 

オリビアは若干の敗北感を感じ取ったが、すぐに払いのけ戦闘に集中する。自分だけではなく相手もまた何も着ていない、つまり武器はない状態だ。数の不利こそあれど、そこは大した問題でない。

 

「来るならかかってきな!どんな状態でも戦っ…」

 

瞬間、銃声が鳴り響きオリビアの顔をかすりながら弾丸が壁に当たった。銃声、そう銃声が響いた。一瞬フリーズした頭を無理矢理動かし、マフィアをよく見れば。全員、拳銃を持っていた。

 

「……ザッッッケンなよチクショウ!!」

 

オリビアはすぐにプロテスを展開して突撃!それと同時にマフィアたちは一斉射撃を行い、オリビアに弾丸が何発か命中するがプロテスに弾かれる。

 

「痛ッ…!えぇい!銃の持ち込みとか認められるわけねぇだろうが!!」

 

ダメージこそなくともその銃弾の衝撃までは緩和しきれないため、痛みで顔を歪ませながら、マフィアの顔目掛け回し蹴りを放った!状況が状況だ、恥ずかしがってる場合ではない!

 

「グハッ!?」

 

そのままマフィアはふらつきながら湯の中に倒れ、沈んでいった。オリビアは湯へ着地、いや着水し、腰まで湯を浸からせる。

銃弾による同士討ちを恐れてか、はたまた接近されたからか、マフィアたちは銃を捨てオリビアと同じように近接戦に挑む態勢をとる。辺りは湯気に包まれ、この場にいる全てのマフィアたちの姿を目視することはできない。

 

「ローテ・ヘンドラーを散々コケにしてくれたな!溺死させてくれる!」

「悪いな、こんな場所で死んでは格好がつかないし本気でやらせてもらう!」

 

オリビアは気合を入れ、湯を浸かってる状態にも関わらず、目の前にいるマフィア目掛け軽々と飛び、そしてかかと落としを繰り出した!

 

「なにッ!?ガハッ!」

 

マフィアは回避に遅れ脳天に直撃!そのまま倒れるも他のマフィアたちは恐れることなく襲い掛かる。

 

「オラッ!オラァッ!ウオリャァッ!!」

 

次々とくるマフィアたちに蹴りを食らわせ、カウンターで殴り、時には投げ飛ばして湯に沈める。

 

「チッ…流石に戦いづらいな…」

 

決して戦えなくはないが、だとしてもこのまま動きにくい場で戦い続けたら無駄に体力を消耗するのは明確。すぐに上がるべく離れようとするが、その時!

 

「バハァー!」

 

オリビアの背後に、なんと湯の底からマフィアが出現!

 

「ウッソだろ!?うぐっ!?」

 

反応に遅れオリビアはそのまま羽交い絞めされ身動きを封じられる!

 

「フフフ!まだ入って間もないじゃない!もっと湯に入っていきなよ!」

「チッ!」

「ハァッ!」

 

オリビアは払いのけようとするが、別のマフィアの右ストレートが放たれた!

 

「ンッ…グッ…!」

 

歯を食いしばり耐え抜く。プロテスを使えば簡単に防げるが、この程度で魔力をあまり消耗させたくはない。

 

「散々ホテルを滅茶苦茶にしてくれたようね。ただで死なせはしない、まずはできるだけ生き長らせながら痛めつけてやるわ」

 

殴りかかったマフィアがニヤリと笑いながらオリビアを見つめる。

 

「悪趣味だな…裏路地にいるギャングとやること変わらねぇよこんなの…」

「その強情な態度、いつまで持つか…見物ね!」

 

そう言うとマフィアは身動きの取れないオリビアに殴り続けようとする…

 

「…魔力は温存したかったが…このまま好きなようにされるのは、嫌だな」

 

瞬間、オリビアの右手、その甲に埋め込まれてる魔石が赤く光る。マフィアたちは訝しみ、動きを止めたその時。

 

「エクス…プロージョン!!」

 

爆炎が、オリビアを中心地として発生!範囲はそこまで広くないが、効果は大きくでた!

 

「なにっ!?ウワアアアッ!?」

「ンアアアッ!?」

 

すぐそばにいたマフィアたちは爆炎に巻き込まれ吹き飛び、オリビアの拘束も外れた!

 

「いやぁ、よかったよかった。加減できなくてホテルを壊んじゃないかと考えたが…なかなか丈夫に造られて安心したよ!」

 

爆風により湯が吹き飛び、シャワー…いや、雨の如く水しぶきが降り注ぐなか、オリビアは唖然としてるマフィアたちを見逃さない!

 

「ウオラァ!」

「アガッ!?」

 

お返しと言わんばかりに腹を蹴飛ばし、続けて腕を掴んでは投げ飛ばす!

 

「このッ!」

 

だが他のマフィアも負けじとオリビアに挑み続ける。マフィアは右拳で殴り掛かろうとするが。

 

「遅い!オラァッ!」

「ウグアッ!?」

 

その拳が届くより先に、オリビアの素早いストレートが腹を抉る!マフィアは悶絶し、腹を抱えるが、近くに落ちていた拳銃に手を差忍ばそうとした。

 

「させるかよ!」

 

当然それを許すわけがなく、オリビアはマフィアに飛び掛かり、マフィアの顔を両足で挟んだ。そして!

 

「ウオオラァァ!!」

「ングアァッ!?」

 

そのままバク転し、マフィアの顔面を床に叩きつけた!フランケンシュタイナーが見事に決まった!

 

「ハァ…ハァ…もう、いないのか?」

 

オリビアは辺りを見渡す。爆炎により湯は明らかに減っており、周囲には瀕死のマフィアたちが床に倒れ、中には湯に浮かんでいる。

だが、どれだけ見渡しても、キュリアの姿は見当たらなかった。

 

「…となれば、あそこか」

 

視線の向かった先は一つの扉。露天風呂フロアへと続く扉だ。オリビアはその場に向かい、扉を開けた。

 

 

 

夜空を照らす満天の星。明るい模様だった大浴場とは打って変わり、控えめな光源しかなく。冷たい風が肌を触れるこの空間において、湯気が浮かぶ湯はより魅力的に見えるだろう。

 

そして、その湯に浸かっている一人の女がいた。肩には獰猛なシャチのタトゥーがあり、すぐ隣で戦闘が起きてたにも関わらずとてもリラックスしている。

 

「約束通り来てやったぞ…キュリア」

 

オリビアはその女…キュリアに近づき、殺意の感情を込めながら声を出す。

 

「来ると思ってたが、案外早いご到着だな」

 

湯に浸かった状態のまま、キュリアは薄ら笑いを浮かべながら目を合わせる。

 

「せっかくだ、ここに入ってきたらどうだ?寒くて仕方ないだろう?」

「この程度の風は寒くもなんともない。遠慮させてもらう」

「ほう…それはその右手の魔石による力のひとつか?」

 

次に視線が移ったのはオリビアの右手の甲だ。

 

「…お前には、どうしても聞きたいことがある。何故これについて知ってる、どこで知りやがった」

 

オリビアが右手の甲を見せつけながら聞くと、キュリアの笑みが更に深まる。

 

「友だちに、魔石に熱心な奴がいてな。そいつがある実験を経由にそれについて知った、っと言っておこう」

「親衛隊の一人だろ?そいつは」

「…やけに詳しいね。聞かずとも本当は君のほうが詳しいのじゃないか?」

 

二人の空気は重くなり、一触即発の状態になりつつあった。

 

「さて、質問には答えてあげたんだ、次は私が聞かせてもらう。この際、回りくどい質問は無しだ…何故、魔石を埋め込まれてるお前が、自由な状態でいられてる?」

「……」

「魔石実験を受け、生き延びた奴は親衛隊の管轄下に置かれるはずだ。その個体を親衛隊が逃がすわけがない。さぁ、答えてもらうか」

 

数秒、もしくは数分は続いた静寂の末に、オリビアは口を開いた。

 

「今の状態でいられてるわけに関しては、私としても奇跡としか言いようがない。本来、死ぬしかなかったはずの私は偶然にも…本当に偶然にも生き延びた。だから今の私がいる」

「…親衛隊が見逃したって言いたいのか?ならその起こった奇跡の内容について教えてくれないかな?」

「生憎だが、これ以上、話す気はない。いい加減こっちの本題に移させろ。フェリクスはどこだ。回答次第ではこっから地上まで投げ飛ばす」

 

オリビアの鋭い殺気がキュリアを射抜く。もはや返答に応えてはくれないと感じ取ったキュリアは、一度溜息を吐いた末に、立ち上がった。

 

「最上階のVIPルームでお前たちをお待ちさ。そこで私も、待ってるとするよ」

「このまま行かせると思ってるのか?」

「あぁ、流石にこの状態で戦うのは、格好がつかないからね。私も、お前も」

 

立ち去ろうとするキュリアをオリビアが殴り掛かろうとした、その時!

 

「オラァッ!!」

 

ドアを蹴飛ばして大量のマフィアが入ってきたのだ!全員、しっかり衣類は脱いでるが、AKWを持ったりと武装状態でいる!

 

「では先に風呂からあがらせてもらうよ。お仲間のリリィと一緒に屋上に来るの待たせてもらうよ」

「ふざけんな!逃がしや…」

 

オリビアが接近しようとするが、マフィアたちが道を遮る。

 

「貴様の相手は私たちだ!」

「キュリア様!ここは我々にお任せを!」

「切り刻んで、こっから投げ捨ててやるよ!」

「ま、そういうことで。じゃあな」

 

キュリアは軽く手を振った後に、大浴場の奥へと向かい、湯煙に包まれ姿を消した。

 

「こっちはまだやるべきことがあるんだよ…!道を開けろ!!」

 

その後を追うべく、障害を力をもって跳ね除けるべく、オリビアはマフィアたちに突っ込んでいった!




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