便利屋イグニート   作:文ノ雪

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裏路地から差し込んだ光

「良い椅子があるじゃねぇか!頑丈そうでいい武器になりそうだ!」

「高いから無暗に壊すのはやめてほしいんだがな」

 

VIPルームは今やホテルとしての機能は失われ、闘技場めいた会場へと変貌した。リリィがすぐ近くにある椅子を振り回し、そして投げ飛ばしたものをキュリアがAKWを振るい破壊。

 

「まぁいい、こちらも被害総額なんて考えてる暇なんてないし…ちょっと派手にかますか…!」

 

そう言うとキュリアは二人めがけ駆け出し、そして両手のAKWを構え体を横回転させながら襲い掛かる!遠心力とAKWのパワーによる回転斬撃、ストレングでも使わなければ到底できない行動だ!

 

「おいおい無茶苦茶しやがるぞこいつ!?」

「いいから避けろ!下手に食らえば私の魔法でも回復できないダメージを負うぞ!!」

 

リリィの驚愕の声とオリビアの叫びと共に、二人は華麗に回避することに成功。斬撃に巻き込まれた壁やインテリアには深い切り傷が刻まれ、人が当たれば無事で済まないことを示している。

 

「流石に避けるか、次こそ肉片にしてやるよ」

「死んでもソーセージの素材になる気はねぇよバーカ!」

「ならこっちもお前をいい焼き加減で炙ってやるよ、爆炎でな!」

 

どちらも決め手の一撃を与えるのを許さぬ一進一退の攻防戦。その様子を、流れる血で視界が赤く染まる中でフェリクスは眺めていた。

 

(すごい…下でたくさん戦ってきたはずなのに…なんで私なんかの為に…)

 

二人が死力を尽くして戦う姿に、フェリクスは疑問を抱いていた。彼女は自分が価値ある人間だと思っていない。マフィア、それもしたっぱに過ぎない自分が死んだところでおそらく二人は損はないだろうし、シュヴァルツアクスもそれに責任を問うことはしないだろう。

 

ならば何故、二人は麻薬調査よりも最優先に助けにむかったのだろうか。自分からも助けなくてもいいと言ったはずなのに。

 

「しかしまぁ、たかが一人のマフィアの為にここまで来るのには正直驚いたぞ。来ないことも想定してたからな」

 

キュリアは二刀の曲剣型AKWを同時に振り落とす。リリィはとっさにグランドで防ぎ留めた。

 

「こいつの使えるアルターエゴは確かに強力。だが、それだけだ。こいつにはそれ以外の価値があるとは思えんが?」

「オレらが仲間を助けるのがそんなに不思議なことか?エェ!!」

 

足に力を入れ踏ん張る。キュリアがエンジンを起動させ更に押し込もうとした瞬間。

 

「オラァッ!!」

 

オリビアの飛び蹴りを防ぐべく片方のAKWで防いだところを、リリィはグランドを持ったまま体を回転させ尻尾による足払いを狙う。オリビアもほぼ同時に拳を繰り出そうとしていた。

 

「チッ…」

 

舌打ちしキュリアは後ろへ飛び下がり、二人の攻撃を避け、距離をとった。

 

「仲間、ねぇ。どうせシュヴァルツの目付け役として付きまとわせてるだけだろうに」

「それはそうかもしれないな。シュヴァルツ・アクスからは初依頼だしまだ信用が足りないのは事実である以上、否定はしない」

「なら、なおさら何故そこまで殺気を持ちながら必死で助けようなどとできるというんだ?助けたところで見返りも」

「そうじゃねぇ」

 

言葉を遮るように、オリビアは前に歩きながらキュリアへと近づく。

 

「困って、傷ついて、今にも死にそうなやつを見捨ててまで生きるののは、私自身が納得できん。だから私は手を差し伸べる、例えそれが罠だろうとなんだろうと、助けれず後悔しながら生きるよりはマシだ!」

「…!」

 

その言葉に、フェリクスは目を見開いて反応した。

 

「…お前、頭はいいくせに、とんだ大バカだな!」

「ハッ!言われてるぜ!オリビア!」

「うっさいぞリリィ!それにそれだけじゃない、私ら三人を車で跳ね飛ばした件もあるんだよ!その返しもまだ済んでないしなぁ!オゥラアアァッ!!」

 

オリビアの強烈な拳が炸裂!キュリアは二刀のAKWで防ぐが、拳が触れたと同時に爆炎が発生!ガードは崩れふらついたところを。

 

「食らいなァ!!」

 

グランドの一撃がキュリアの身体に叩きこまれた!

 

「グハァッ!?」

 

流石のキュリアも血反吐を吐き、そのまま吹き飛び本棚に叩きつけられる。土砂崩れの如く本が落ちていき、何冊か頭に衝突しながら落ちるも、キュリアはすぐに立ち上がった。

 

「…やるな、こんなにも苦戦したのは初めてだ」

「チッ…とにかく当てる為に起動せず叩き込んだのは間違いだったか?」

「大して効果がなさそうなのもストレングの影響だろう。だが限界はあるはずだ、ガンガン叩き込むぞ!」

「よっしゃあ!なら何度でもぶちかましてやるぜ!」

 

二人は奮起し、再びキュリアへと挑む。

フェリクスは、今にも意識が飛びそうになりながら、その様子をただ、眺めていた。

 

(……そうか…オリビアさんは、同じなんだ…私を助けてくれた…あの人と)

 

ふらつく意識のなか思い出したのは、まだマフィアになる前の、マフィアになると決めたあの日の光景だった。

 

 

 

 

フェリクス・レイガン。彼女は生まれも育ちも裏路地から始まった。今では顔も名前も思い出せないほどに、親はまだ子どもだったフェリクスを捨てどこかへと消えた。

 

裏路地はマフィアやギャングのような裏社会の人間がはびこり、ホームレスでさえカビの生えたような黒いパン一つをめぐって殺し合いが起きるようなまさに無法地帯。

そんな世界でまだ子どもだったフェリクスが生き延びれたのは運が良かったというのもあるが、何より戦闘能力と情報収集がうまいところにあった。

 

まだ10才になったばかりのころ、フェリクスは裏路地では力のあるやつが生き残ると、身体目当てで襲い掛かったギャングを反撃で殺した時に理解した。

そして、マフィアやギャンググループのシマの個所を理解し手を出さずネズミの如く生きなければならないことも。

 

フェリクスは使えるものは何でも使った。ゴミに埋もれていた錆てエンジンも機能しない刀型AKWを拾い、独学と実戦を通じて自らを鍛え。裏路地に詳しい者をマークし、常に情報を聞き出していた。

時には食料を分け、時には貧相な体をささげて。

 

だが、例えどれだけ強くなろうと、理解しようと、一介のホームレスに過ぎないフェリクスの生活は、長続きすることはなかった。その日、襲ってきた男をいつも通り殺たフェリクスだったが。その男は、なんとマフィアだった。

いくらしたっぱでもマフィアはマフィア。やられたからには相手にケジメをつけさせる必要がある。フェリクスが寝床にしてたところに待ち伏せしていたマフィアたちにあっけなく捕まり、裏路地にある事務所へ連れて行かれ、苛烈なまでの仕返しを食らった。

 

彼女は心の中でも助けを求めようとはしなかった。いつかこんな目に合うのは生きていくうえで察していた。何より、助けに来る者などいやしないことも。好きなように散々弄ばれ、ついに殺されそうになったその時。

 

「ガキ相手に性欲をぶつけるとは、ここも看板も地に落ちたみたいだな、クソマフィアども」

 

扉を蹴破って現れたその女は、入って早々マフィアたちを罵倒し現れた。鋭利な刃を取り付けた銃剣を手に持っており、黒いスーツにメガネをかけ、襟元には黒い斧の紋章が刻まれている。

 

「シ…シュヴァルツ・アクス!?なんでここに!?」

「とぼけても無駄だ。貴様らハートレスソードが身勝手で他所のシマに手を出してるのはとっくに割れてるんだよ。上納金も何度も滞納した挙句、1億メルクも稼いでいたらしいな。よってハートレスソードは消すことにした。当然、お前らもな」

 

フェリクスを好き放題していたマフィアたちは状況を理解し、すぐ反撃しようと拳銃に手を掛けようとした。だが、勝負は一瞬で終わった。

女の放った銃弾二人撃ち抜き、そして急接近して一人の喉元に刃を突き刺し銃を放って頭を吹き飛ばし、最後に残った一人の命乞いを、銃弾で二度と口を開けないようにした。

 

「ゴミクズが」

 

女は銃剣についた血を払い落とし、次にフェリクスの方へ眼を向ける。

フェリクスはかつてないほど胸の鼓動が止まらなかった。このまま口封じで殺されるかもしれない恐怖、見たこともない洗礼された戦闘能力、裏路地では見られない鮮やかでクールな姿。あらゆる感情がフェリクスを混乱させた。

 

そして、銃剣の刃が向けられる。フェリクスは目を閉じ、死ぬ覚悟を決めた…

だが、喉元を刺すことも、切り裂かれることもなく、刃はロープだけを斬り落とした。

 

「え…」

「なにボケっとしている。帰るぞガキ」

 

唖然とするフェリクスは女に背負われ外へと向かった。

 

既にハートレスソードのボスたちは女によって皆殺しされた後だったのもあり、何のトラブルもなく二人は外へとたどり着いた。女はフェリクスを下ろし、その場を去ろうとする。

 

「あの!」

 

だが、それをフェリクスが呼び止めた。女は顔を振り返りはしなかったが足を止めた。

 

「なんだ」

「えっと…助けてくれて、ありが」

「礼はなんていらん。ホームレスだろお前?そんなやつから何か貰おうなどと思ってもいない」

「だったら教えてください。なんで、私を助けたんですか。無視したってよかったのに、どうして…」

「…さぁな」

 

女は懐からタバコを取り出し、火をつけた。

 

「目の前でガキ拐ってるの無視できるほど、私は人として捨てきれない半端者なだけさ」

「…!」

「あばよ、もうあの場所で寝泊まりするのはやめとけ」

 

そういって女はその場を去っていった。

フェリクスはその後、すぐにシュヴァルツ・アクスの一員になるよう本部に向かい門徒を叩いた。当然シュヴァルツの構成員にボコボコにされ追い返されたが、挫けることなく何度も何度も、叩き続けた。

 

そしてある日、シュヴァルツ・アクスの本部へと顔をだした際にいたのは、フェリクスを助けた女がいた。

 

「前々から変な奴が来ると聞いていたが…やっぱりお前か」

「ベルナデッタさん…あんなやつ貴女が相手にしなくても…」

「いいんだ。お前らは中に戻ってろ」

 

女…ベルナデッタの命令に従い、門番であるマフィアたちは本部内へと戻っていった。ベルナデッタの視線に一瞬震えあがるも、フェリクスはまっすぐな目で見つめる。

 

「すみません!私をシュヴァルツ・アクスの一員に入らせてください!!」

「悪いことはいわん、帰れ。マフィアになったところで死の危険が増えるだけだぞ」

「わかってます…でも、それでもなりたいんです!」

「その目を見るに…私に憧れでもしたのか?なら余計入るんじゃねぇ」

「重々承知の上での願いです!だから」

 

言い終える前に、ベルナデッタがフェリクスを蹴飛ばし地面にたたきつけ、頭の横に銃剣を突き刺した。刃はコンクリートを貫いている。

 

「…これが、私たちの生きる世界だ。例え相手がお前みたいなガキでも…命令であれば容赦なく殺す。あの時は私の気まぐれに過ぎん」

「今更、諦めたくなんてありません」

 

フェリクスは内心恐怖しているがそれを押し殺し、喋り続ける。

 

「親もなく、ただひたすら生きる為だけに人を殺して、奪って、明日に希望を抱けず眠る…そんなどうしようもない私に光を当ててくれたのが…貴女なんです。やっと目標を、憧れを、光を見つけたんです!お願いです!」

 

ベルナデッタは、その言葉から嘘も偽りもないことを嫌でもわかってしまった。そして、銃剣を引き抜き、一度溜息を吐いた。

 

「まずは服からだ」

「…え?」

「そんな汚れた格好で中に入れるわけないだろ。まずは身だしなみからだ…行くぞ」

「…ッ!ハイッ!!」

 

その日から、フェリクスのマフィアとしての人生が始まった。

 

 

 

 

 

「ンアァッ!?」

 

オリビアの苦痛に耐える声により、フェリクスの意識は現実に引き戻される。気づけば状況は大きく動いており、オリビアの肩や足などに切り傷ができている。リリィも同様に腹辺りに一撃食らった跡があった。

 

「クッソ…全然体力が尽かねぇぞアイツ…!」

「ストレングが思った以上に厄介だな…」

「流石に限界って顔だな。下の階での戦闘が響いたか?」

「うるせぇんだよ!」

 

リリィは飛び掛かるよう襲い掛かるが、曲剣を手放し両手でリリィの腕を掴み取った!

 

「ウッソだろ!?」

「ハァアッ!」

「ウオワアアッ!?」

 

そして、そのまま投げ飛ばされ、今度はリリィが本棚に叩きつけられた。

 

「リリィ!」

「おっと、行かせはしないぞ」

 

近づいて回復を施そうとしたが、地面に落ちた曲剣を蹴って拾いあげたキュリアが道を阻む。

 

フェリクスはただ、この光景を眺めることしかできない。

 

(私はまた、眺めてるだけじゃないか…)

 

歯を食いしばりたいほどに己の無力さを呪った。あの時とまるで何も変わっていない。ハメられ、連れ去らわれ、そして助けに来る。自分はただ勝つのを待つしかないのか?二人に期待して待機するほかないのか?

 

(…違う…私はもう…守られるだけじゃない!)

 

だがその問いに、フェリクスは真っ向から否定し、目に光が戻った。自分の為にここまで来たオリビアとリリィを、絶対に死なせるわけにはいかない。何より、この状態のフェリクスであっても二人を手助けできる手段はある。

 

(危険な賭けになるけど…いや、オリビアさんもいるのに何言ってるんだ私は!)

 

一瞬生じた躊躇いを投げ捨て、フェリクスは全身に残る魔力を全て解放させた。そして、数秒としないうちに、フェリクスはぐったりと意識を失った。

 

「フェリクス!?」

 

その様子を目にしたオリビアは驚き、声をだす。一瞬強い魔力を感じ視線を動かせば、魔力も意識も失ってるフェリクスの姿があったのだ。驚くのも無理もない。

 

「余所見してる場合か?」

 

だが、その隙をキュリアは決して逃しはしない。ストレングにより走力を上げ接近し、情け容赦なくを二本の曲剣を振り落とす!オリビアも反応に遅れ回避が間に合わず、距離が離れてるリリィではインターラプトしようもない!

 

「クッ…!」

 

斬り落とされる覚悟で、オリビアはプロテスを展開し両腕でガードしようとした…その時。

 

「セイヤァァァッ!!」

 

鋭い声と共に二人の間へ一人の女が割って入った。

 

「なんだと!?」

「セイヤァッ!」

 

その存在を前にキュリアも驚き、その隙に女は鋭いチョップを放ち攻撃を阻止。

 

「クッ…お前、いったいどうやって…!」

 

キュリアが睨んだその先には、血で汚れたボロボロの和服を着ている、フェリクスが立っていた!

 

「まさか、アルターエゴを使ったのか!?」

「魔力を回復させる時間は十分にあったので!まぁ、流石に体力が尽きて本体の意識がなくなりましたけど…」

「…戦えるのか、フェリクス」

「当然です。本来この依頼は、こいつの相手は私たちシュヴァルツ・アクスがすべきこと。お二人だけで任せっぱなしにさせはしませんよ!」

「そうか…リリィ!」

「あぁ!フェリクス!これを受け取れ!」

 

そう言うと、リリィは腰に携えていた一本の剣…いや、刀をフェリクスへ投げ渡しす。受け取りよく見れば、それはフェリクスの愛刀、刀型AKW…【ホオズキ】だ!

 

「もしかして…わざわざ持ってきてくれたんですか!?」

「あぁ!それも工房に行って万全に修理したぞ!思う存分暴れな!」

「お前も戦ってくれるなら、この戦いに勝機は十分ある。だが無理はするなよ、全員無事じゃなきゃなんも意味がないから」

「もちろんです!…キュリア、私を弄んだことはこの際どうでもいいが、お前はシュヴァルツ・アクスを何度も侮辱した…その命でケジメつけさせろコラァッ!!」

 

三人はそれぞれの武器を構え、並び立った。その様子にキュリアは深い溜息を吐き捨てた。

 

「……やるなら意識を飛ばすべきだったか。やっぱなれないことをするもんじゃないな」

 

気だるそうにそう言いながらも、キュリアもまた二本の曲剣型AKWを構え、まだ戦うつもりでいる。

 

「だが、全力で抗わせてもらう。今度は全身を赤く染めてやるよ、フェリクスッ!」




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・メルク
グロリア帝国の通貨の名称
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