レミーを警察のもとに連れて行き、奪われた財布も持ち主のもとへと届け任務を終えたオリビアは事務所まで帰る最中にあった。
既に深夜を迎えつつあるが、賑やかに夜を楽しむ声は収まることはなくネオンの光はより一層光を増してるようにも見える。歓楽街というのもあり夜にしか営業してない店もいくつかあり、それを求め深夜でも夜道を歩く者は絶えない。
「朝から夜までずっと賑やかだなこの街は」
「あ!オリビアさん!」
オリビアはそう呟きながら街を歩いていると横から声をかける者がいた。顔を向けるとそこにはふんわりとした上着と生足が良く見える短いスカートの上にエプロンを着ている少女が元気よくオリビアに声をかけ手を振っている。胸も豊満だ。
「ようメラン、久しぶりだな。そっちは繁盛してるか?」
気さくな様子でオリビアは声をかけた少女…メランのもとへ行きながら挨拶をした。メランはフライハイトでもなかなか有名な酒場である『フェアシュテック』の従業員だ。オリビアもよく通う店であり、何度かここで依頼を受けたこともある。
「えぇ!おかげさまでいつも大忙しですよ!オリビアさんこそちゃんと便利屋事業は安定してるんですか?なんか家賃払えず事務所から追い出されたという噂を聞きましたけど」
「誰だよそんなん広めたやつ…まぁ何とかやってるよ、今こうして依頼も終えたところだし」
「でしたらうちで一杯やっていきませんか!今日はいい酒の用意もできてますよ!」
「それいつも言ってないか?まぁ、そんなに言うならどれだけいい酒があるか飲んで確かめてみるか」
オリビアのどこか嬉しそうな声を聞いたメランはニッコリと笑顔になり店まで案内をする。オリビアは酒好きでありこういう誘いに弱いのである。
オリビアはメランに案内されたカウンター席に座り辺りを見渡した。
深夜だというのに多くの人で賑わっていた。明るすぎない絶妙な照明が店内を照らし、奥の方で弾かれてるピアノがより一層雰囲気を高め、客たちは酒や出された料理を楽しみながら大いに盛り上がっている。
「静かなバーも趣があっていいがやっぱこういう賑やかなところが一番いいな」
そう言いながらオリビアはメニュー表に手を取る。目を通せば様々な種類のビールやいくつか酒の肴になるような料理が載っている。芋料理から肉料理、なかには生肉の料理などがあり、先の戦闘の影響で腹を空かせたオリビアにとってどれも食欲をそそられるものばかりだ。手始めにビールとジャーマンポテトを頼もうと店員に声を掛けようとした。
「ちょっと!やめてください!」
「なんだよ、ちょっとはいいじゃねぇかよぉ」
何やら騒ぎ声が聞こえる。オリビアが目を向けると、そこにはさっき話してたメランがガラの悪そうな客に絡まれている。よく見れば顔が若干赤く酔ってるようにも見える。
「なぁなぁ、せっかく楽しい夜なんだからさぁ、もっと俺らと話そうよ」
「仕事中ですから邪魔しないでください!あとさりげなく身体に触ろうとしないで!」
「つれねぇこと言うんじゃねぇよ、そんな短いスカート履いといてさぁ?」
「ッ!いい加減にしてください!!」
男が尻に触れついに我慢の限界が来たのかメランは反射的に叩き落としてしまう。
「痛ってぇ!テメッ、何しやがる!」
激高したガラの悪い男はリタに殴りかかろうとする。メランは思わずしゃがみ込み目を閉じた…が、何時まで経っても拳が来やしない。目を開けると、何者かが男の腕を掴んでおりメランを守っていた。男は驚き後ろを振り向くと、そこには白い上着を着た長身で胸が小さい女…オリビアがいた。
「酔うのは結構、だが人に手を出すのはご法度だ。少しは頭を冷やしな!」
オリビアは両手で男の腕を掴み、勢いよく床へ投げ叩きつけた。
「ガッハァ!?」
「たく…今日は碌でもない奴ばっかと出くわすな」
溜息を吐くとメランのほうへ近づき手を差し伸べる。
「立てるか?」
「あ、はい!ありがとうございますオリビアさん!」
「ケガもしてなさそうだしよかったよ」
「ブラボー!見事な格闘技だ!」「すげぇ一瞬で抑えやがったぞ!」「あの人カッコいい…惚れちゃいそう…」
その様子を見ていた周囲の客から拍手が送られた。メランは恥ずかしそうにし、オリビアはまんざらでもなさそうな笑みを浮かべながら元の席へと歩き出す。だが、その後ろで倒れてた男が近くにある空き瓶を手に持つ。
「よくもやりやがったなゴラァ!!」
怒りで燃えながらビンをオリビア目掛け投げ飛ばそうとしたが、またしても腕を掴まれた。
「えぇい!邪魔をす…」
後ろを振り向いた男は思わず言葉が詰まった。さっきのオリビアは軽く超える約2mほどの長身、頭には一本の角が生え鱗を纏った巨大な尻尾がある。茶色いコートを着込んだ赤毛の女は呆れた様子で男を見下ろしていた。
「いい夜だなオニイサン、でもあまり騒ぎすぎるのは良くないな」
金色の鋭い目つきが男を睨む。
「死に急ぎたくないなら大人しくしてろ、わかったか」
「ア…ハイ…」
ビンを取り上げ机に置き、長身の女は男を通りすぎる。男は酔いも覚め唖然としていると駆けつけてきた警備員に袋叩きにされ店の外へと連れ出されていった。後ろで起きてる騒動を気にも止めず、長身の女はオリビアのもとへと近づいた。
「騒がしいと思って来てみればお前だったかオリビア。まさか事務所じゃなくここで落ち合うとはな」
「リリィ?なんでここに」
「任務帰りの一杯に寄ったんだよ、その様子だとオリビアもそうだろ?」
彼女の名はリリィ・ザルムート、便利屋イグニートの従業員でありオリビアの仲間だ。彼女はドラゴニュートと呼ばれる異種族の一つであり、全体的に高身長で鱗があり、トカゲまたはドラゴンのような尻尾と鋭い角が特徴だ。
「どうせだし報告含めて一緒に飲もうぜ?時間はあるだろ?」
「それもそうだな、こんな賑やかな場で一人で飲むのはさみしかったしそうするよ。それとメラン、シュパースビール二つとジャーマンポテトを頼む」
「あ、オレはリーズヒソーセージで」
「ハイ!かしこまりましたー!」
「んで、今回の補修でなんとか今月は乗り切れそうか?」
「今日の飲みを差し引いても、家賃と食費はどうにかなりそうだ。任務は無事終えたし、調査途中に喧嘩売ってきたギャングどもをしめ上げて警察に突き出したら別口で報酬も得られたよ」
「そっちは順調に終わったみてぇだなぁ。こっちは輸送して終わりと思ったら魔物はでるわテロリストが荷物狙って襲ってくるわでもう滅茶苦茶…あー!もっと気楽にできる依頼こねぇかなぁ!」
「楽な依頼なんてあるわけないのは知ってるだろ」
二人はポテトをつまみ、ソーセージを食べ、ビールを飲んではおかわりを頼み、雑談に花を咲かせながら大いに楽しんでいた。
グロリア人の休みの日や任務および仕事を終えた日は決まってこうしてビールを飲み、ポテトや肉を食すのが伝統的な習慣だ。グロリア帝国は平均気温が低く、土地は基本痩せており農業などには向いてない国家だった。故に小麦やジャガイモなどの寒冷地でも育つ作物が必然的に主流になり、ビールやジャガイモを使った料理が発達した歴史があるのだ。
閑話休題、二人が楽しく飲んでいるとリリィは思い出したかのようにある話題を出す。
「あぁそうだ、オリビアがぶっ倒れる前に一つ話があるんだが、いいか?」
「ぶっ倒れる前提なのが癪に障るが…別に構わない、なんだ?」
「依頼だ、それもかなりの大仕事だ」
リリィは懐から一枚の書類を取り出し机の上に置く。さっきまでの楽し気な雰囲気だったオリビアは一変し仕事してる最中の表情に戻った。
「内容は」
「薬物を売りさばいてるギャンググループの特定および壊滅」
「壊滅…となるとそうとうやらかしてるな」
ギャングといえど抵抗が激しくなければ生け捕りや逮捕が普通だ。しかし、そのギャングたちによる被害規模によっては即座に殺しても問題ない場合があり、依頼における壊滅は敵の生死は問わず組織としての機能を停止させ頭領を決して逃さず捕まえるか殺す必要がある。
「ここに来る前に少しだけ調べたが、どうやら裏路地どころか一般人にも広まりつつあるらしい。聞いた話だが学生の間でも使われてるみたいだ」
「最悪だな」
「だろ?」
吐き捨てるようにそういったオリビアに同意をしたリリィはビールを口に運び一気に飲み干す。彼女は酒豪でありジョッキ一杯分のビールなど簡単に飲み干すことができる。
「ギャングが関与してることしかわかってないし、そのギャングの明確なグループさえわかってない…かなり難しい任務だがどうするよ」
「被害者がでてるなら無視するわけにはいかねぇだろ」
「そうこなくちゃな!オリビアならそう言うと思ったよ!」
リリィは愉快そうに笑い新たにやってきたビールを再び飲みほした。例えどれだけ巨大な敵であっても、正体がわからなくてもオリビアは決して恐れることはない。命を張ることなんていつものことだ。
「ところでどっから依頼が来たんだ?依頼の規模を考えたら都市警備隊か?」
「…あー、その件なんだが」
さっきまでご機嫌だったリリィが突如バツの悪そうな顔をする。
「ん?なんだ依頼主は明かせないとかか?」
「いやぁ、そうじゃなくてさ。今回の依頼主は…シュヴァルツアクス、それもそのボスからの依頼なんだ」
「………ハァ!?」
シュヴァルツアクス、フライハイトに存在する強大なマフィア組織。しかも構成員や幹部でもなく、組織を統べるボスからの依頼。
便利屋イグニートに過去最大ともいえる仕事が舞い込んできたのだ。
前回がちょっと長すぎたと思ってるので今回はちょっと短めです
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