便利屋イグニート   作:文ノ雪

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風が吹きこむ場所

(…これは本当にまずい)

 

かれこれ戦闘が始まって数十分、キュリアは焦りを感じていた。下の階で連戦続きにより疲弊しているオリビアとリリィだけなら十分勝機はあった。

 

だが、増えれるとなれば話は大きく変わる。フェリクスの扱うアルターエゴに関しては当然知っている。だからこそ拷問を行い使えるだけの体力を削り、扱うだけの力を残さないつもりでいた。

 

見誤ってたのはフェリクスの覚悟だ。いくら魔力が残っているとしても、体力がほぼない状態でアルターエゴのような強力な魔法を扱うのは最悪の場合、死ぬことさえあり得る。フェリクスはその可能性も知ったうえでアルターエゴを使用したのだ。

 

「セイヤァ!」

 

キュリアのわき腹を狙い定め、刀型AKWのホオズキを振るうフェリクス。アルターエゴは魔法使用時の姿で生成され、とうぜんその分のダメージや損傷具合も受け継ぐ。

にも関わらず、戦闘時の動きに一切の無駄がない。アルターエゴには痛覚などの感覚も備わってる、今の状態は歩くだけも常人ならば辛いことだろう。

 

これはフェリクス本人がこの程度のダメージでは何の障害にもならないことを示しているのだ。

 

「やるなら腕か足の一つでも斬り落とすべきだったかな!」

 

片方の曲剣でホオズキを受け止め、すぐさまもう一本の曲剣でカウンターを与えようとする。

 

「させねぇよ!」

 

だがそれを阻止すべくリリィがある物を投擲!グランドだ!

 

「…グレードメイスを投げるやつがあるかッ!」

 

流石に弾きようがなく、フェリクスを突き飛ばし回避。グランドは夜景を一望できるほどの巨大な窓ガラスに衝突。亀裂が走り、一気に崩壊。高所故に室内で風が吹き荒れる。

 

「どうだ!これで風通しが良くなったぜ!…寒ッ!?」

「落ちないよう気をつけろよ!流石にこの高さはプロテスでどうにかできやしない!」

「だったらここは私に任せてください!」

 

なるべく窓ガラスには近づかないよう立ち回りながらオリビアとリリィは動くが、フェリクスは一切気にも止めずキュリアに突撃する!

 

「セイッ!セイヤッ!」

(チッ…分身体なら落ちようが何が起きようが問題なしか…!)

 

キュリアのいう通り、今ここで戦ってるフェリクスはアルターエゴによる分身体だ。本体は椅子に縛られてる状態で気絶してる。故に、どれだけ分身体が無茶をしようとフェリクス本体には何らダメージは入らない。例え死んだとしてもだ。

 

フェリクスのホオズキによる斬撃はキュリアを確実に追い詰めていた。流石のキュリアも三対一による攻防に長期に渡る戦闘で疲弊している。なにより窓ガラスが割られたことで警戒すべき箇所が増え、集中力が割かれているのも影響があった。

 

「セイヤァッ!!」

 

それを見越してか、はたまた無我夢中に生じた幸運か、フェリクスは休む間も与えず攻撃の手を止めない。例え腕や足を斬られようと、お構いなしだ!

 

「いい加減に…消えろ!」

 

だがキュリアとてローテ・ヘンドラーの中でも指折りの実力者。フェリクスの攻撃を回避した際に距離を取るのではなく詰め寄り、エックスの字を書くように斬撃を繰り出した!

フェリクスは避けることができず被弾し、身体に深い切り傷が生じた。

 

「…悔しいですが、これ以上この体を維持できそうにないですね。私でケジメを着けたかったところですが…」

 

その表情は苦痛でも恐怖でもなく、どこか心残りがあるような顔であった。だが、その顔はすぐに笑顔へと変わった。

 

「では、トドメはお二人に任せます!遠慮なくやってください!」

 

そう言うとフェリクスはキュリアの体を掴み取り身動きを取れないようにした!

 

「なッ!?」

 

すぐさま引き離そうとするが、掴まれた時点で既に勝負は決した。

 

「その状態じゃあよぉ…もう避けれやしねぇよなぁ!!」

 

グランドを手にしてたリリィがフェリクスごとキュリアに強力な一撃をぶつける!

 

「グハァッ!?」

 

キュリアは骨の何本かを粉砕され吹き飛び、フェリクスのほうは笑みを浮かべたまま消えていった。グランドによりキュリアはそのままある方向へと飛んでいく、粉砕され穴の開いた窓に?否、その先にいたのはオリビアだ!

 

「これで…終わりだッ!!」

 

ぶつかる直前にオリビアの右ストレートがキュリアの腹に命中!そのまま地面に叩きつけるよう殴りつけ、そして。

 

「爆ぜろッ!」

 

強力な爆炎が発生した!キュリアは爆炎の衝撃で地面をバウンドし、最後は受け身と取る事さえできずそのまま倒れ伏した。

 

「グッ…ガハッ…クソッ…完全にしてやられた…」

 

何とか起き上がろうとするも、膝をつき立ち上がれそうになく、もはや戦闘は不可能だ。

 

「リリィ、フェリクスのほうを頼む」

「わかった、じゃあそいつはお前に任せるわ」

 

リリィはそのまま椅子に縛られたフェリクスの方へ向かい、オリビアはキュリアに近づいた。

 

「聞きたいことは色々とある、全て話してもらうぞ。言っておくが、抵抗する気なら容赦はしない」

「…もうAKWも握れねぇよ」

「ならよかった。だったら質問させてもらうぞ」

 

同じ視線になるよう身体をしゃがみ、質問を行った。

 

「まず、今フライハイトで若い奴らを中心に出回ってる新型麻薬についてだが、あれを作ったのはカチュアという学生だったが、主導したのお前であってるよな?」

「…その通りだ。最初は今まで見たこともない麻薬を調べるだけに過ぎなかった。だがそれを個人で、それも毒魔法で作り上げた代物と聞いたときは流石に驚いたよ」

「それで懐柔し、自分の手元に置いて商売を始めたのか?」

「あぁ、下手すりゃ今後のビジネスに悪影響を及ぼしかねない。だかと消すには惜しい力を持ってたからな、おかげでかなり稼がせてもらったよ」

 

(だいたい予想できた流れだな。次はカチュアの居場所についてだな)

 

そう考えながらオリビアは次の質問を問いかける。

 

「いまカチュアは、どこにいる?」

「このホテル内で麻薬製造を行っているさ」

「何?ここでだと?」

 

オリビアは訝しんだ。麻薬を作るとなればそれ相応の施設や道具が必要不可欠であり、少なくともここまで来る道中に、それらしき部屋などはなかった。そもそも、麻薬を作るとなると強烈な匂いが発生し、客が出入りするようなこのホテルで作ればその匂いでバレかねない。

 

「いやまてよ…これぐらいの規模のホテルなら…まさか、地下室でもあるのか?」

「鋭いな。ここに従事してる連中でも一部しか知らないが、このホテルには地下に続く階段がある。その先で麻薬を作らせてたんだよ」

「上に行くことしか考えてなくて調べなかったが…そんな場所があるのか…」

 

(とりあえず居場所は特定した…なら、次はこっちを聞くとするか)

 

「お前と親衛隊は、どういう繋がりをもっている?」

「…どうやって知ったか知らないが、奴らはお前らよりもっと早く、麻薬の製造元を特定し、このホテルに入り込んできやがった。最初は殺り合うつもりだったが、中に入ってきた親衛隊の一人が前出てこう言ってきた「貴女がたの作る麻薬を提供してもらいたい」ってな。しかも協力すれば逮捕しないどころか、自由に売って取締りはしないというおまけつきだ」

「連中がそんなことを…」

 

流石のオリビアも驚いた。親衛隊は治安維持組織、いわばこの帝国における警察的ポジションでもある。その組織がなんの対策も行わないどころか、販売を認めるとなれば流行し続けるのも無理もない話だ。

 

「流石に私もどうかしてると思ったさ。しかも私だけでなく本家にも既に話が通ってる状態だった。断る選択肢は既に選べない状態にされていた」

「本家…ってことはローテ・ヘンドラーのボスにまで話を通じてたってことか?」

「あぁ、そうだ」

「…おい、オリビア。この状況ってもしかしてかなりヤバイんじゃねぇか?」

 

後ろからリリィが話に割って入ってきた。気絶状態のフェリクスを背負っている。

 

「あぁ、私も今考えてたところだ。奴らがそこまで深入りしてるとなると監視の目も当然あるはずだ」

「だとしたらここに居座り続けるのはヤベェぞ。ただでさえオレらは疲弊してるのにフェリクスは意識を取り戻せていねぇ、いや、親衛隊でなくてもローテ・ヘンドラーの増援が来たらそれこそ終わりだぜ」

「そうだな…よし、続きは別の場所でさせてもらう。大人しくついてきて…」

「いいや、私はここいらで引かせてもらう」

 

その言葉に、オリビアとリリィが訝しみそして警戒しようとしたが、キュリアはすぐさま立ち上がりオリビアを跳ね除けた。

 

「ぬあッ!?」

「ッ!テメェ!まだ痛めつけたりねぇのか!!」

 

目線を動かしたその先には、キュリアは風が入り込む割れた窓の前に立っていた。

 

「悪いね、流石にこれ以上口を滑らせたら腕を失うどころの話じゃ済まないからな」

「まて!キュリア!お前はどこまで知ってる!魔石のことも、そして実験のことも、全て話せ!」

 

オリビアの怒声ともいえる声に怯むことなく、キュリアは余裕の笑みを浮かべた。

 

「そうだな、完全敗北したわけだし一つぐらいは情報をくれてやるよ。お前の言う実験を知ってるのは私だけではない、ローテ・ヘンドラーのカポの何人かにもそれに協力してるやつらは何人もいる」

「なんだと…!?」

「話は以上だ。ではさらばだ便利屋イグニート。おそらくまた会うことになるだろう」

 

そう言うとキュリアは、オリビアとリリィが近づく前に後ろへ一歩下がり、そのまま下へと落下していった。すぐにオリビアが顔を覗き込むが、既にキュリアの姿は見えない。

 

「チッ…あの言動からするにまだ余力もあったはずだ。絶対生きてるぜアイツ」

「…もっと話は聞きたかったが、今はとにかく奴が言ってた地下に向かうべきだ」

「あぁ、とっと行くと…」

「いや、リリィはフェリクスと一緒に先に帰っていてくれ」

 

リリィの言葉を遮るように、オリビアは口をはさんだ。

 

「ハァ!?いくら何でも一人は無茶に決まってるだろ!?」

「怪我人がいる状態で動くほうがもっと危険だ。ここに待機させるわけにはいかないし、何より治療もさせないといけない。今の私の魔力じゃ完全回復させられやしない」

 

実際、連戦続きでオリビアの魔力は限界に近く、先の爆炎も最後の一撃みたいなものだった。リリィは少し考え込んだ末、神妙な顔つきでオリビアを見つめる。

 

「わかったよ…だが、絶対に生きて帰れよ」

「あぁ、死ぬ気なんてないさ」

 

そう言いながら二人はVIPルームから退出し、そのままエレベーターに乗り下へと向かった。




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