便利屋イグニート   作:文ノ雪

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脱出

キュリアを逃したしたものの、オリビアとリリィはフェリクスを救出し、このホテルの地下に麻薬の製造がおこなわれ、更に製造主であるカチュアがいることを突き止めた。

 

そして現在、リリィにフェリクスを連れ先に帰るよう伝えたオリビアは一階にて地下に続くとされる階段らしきものを見つけていた。

 

「あるとしたらやっぱりここか」

 

スタッフルームに鍵のかかってるドアを見つけ、殴り飛ばしたところにいかにもな階段を見つけたにいたった。幸いにも他のマフィアたちは一階での戦闘時点で全滅しており、道中に敵と接敵することはなく、ことは早く進んだ。

 

「時間をかけるわけにはいかねぇな」

 

悠長にしていれば逃げ出したキュリアが増援を率いてやってくる可能性がある。リリィたちも待っている以上、早急に片付けるべく地下へと降りて行った。

 

 

 

薄暗く狭い空間。細い一本道で続いており、強烈な薬品の匂いが嫌でも伝わってくる。だがオリビアは匂いで顔を歪めることなく平常を保ちながら先へ進む。

 

しばらく歩いていると、狭い一本道の先になにやら倒れてる何かが視界に入った。少なくとも、道中にインテリアなど一切ないこの地下室において強い違和感を感じさせる。オリビアは警戒しながら近づき、そして、その正体を見た。

 

「なッ!?」

 

倒れていたのは、死体だった。それもその死体は上の階で散々戦ったマフィアたちと同じスーツを着ていることからここのマフィアであろう。

 

(どういうことだ…?粛清…いや、廊下で放置する理由なんてあるわけがない。それにこの死体、死んでそこまで経ってないぞ…?)

 

脈こそ動いていないものの、まだ体温のぬくもりを感じられる。そして、死体を軽く調べれば何やら項あたりに刺し傷があるのを見つけた。

 

(傷の大きさからしてナイフのようなもので首を刺された感じか、それも項が刺されてるとなると背後から襲われたか、はたまた逃げてる最中か…)

 

オリビアはそれ以上考えるのをやめ、死体を調べるのも終わらせる。

先の方へと目を移せば、暗くてよく見えないが、この死体と同じように地面に何か倒れてる影がいくつもあった。大きさを考えて間違いなく同様の死体だろう。

 

(…早く見つけてここから抜け出すべきか)

 

この状況は普通ではない。警戒心を更に強め走り続けた。

道中に転がる死体を飛び越え、進み続けたその先に一つのドアを見つける。ここに来て初めてみるドアだ。

 

(カギは…空いてるな)

 

ドアノブを静かに動かし、室内を覗き込む。木箱が積み重なり、埃やクモの巣も所々に見える小汚い部屋だ。研究してる場所でないことは確かだが、ひとまず調べるべくオリビアは足を踏み入れ…

 

「うあああああ!!」

 

だがその時、木箱の裏から声を挙げながら人が突如飛び出してきた。手元には拳銃が握られ、銃口はドアがあった方角、つまりオリビアに向けられている!

 

「うおっと!?」

 

銃弾は肩に当たるも、プロテスシールドのおかげで重症は避けられた。再び引き金を引こうとするが、オリビアはすぐに近づき拳銃を蹴飛ばし、捕え抑えた。

 

「碌に顔も見ずに銃口を向けるとはいい度胸じゃないか!いったいどこのどいつ…」

 

撃って来たその正体を見るべく、顔を覗き込む。そこには目に深いクマのある痩せ干せた少女ともいえる年齢の女がおり。身体をガタガタを震わせ、表情は恐怖で泣きそうになっていた。

 

「いやあああ!やめて!殺さないでえぇ!!もう逃げたりしませんからあああ!!」

「おい!落ち着け!私はここのマフィアでもなんでもない!」

 

その言葉を聞いて女はハッとしオリビアをじっと見つめる。

 

「…あえ、貴女、だれ…?」

「私はオリビア・イグニート、便利屋だ」

「便利屋…?なんでここに…」

「人探しで来たんだよ。アンタこそ名乗ったらどうだ?カチュアさん?」

「えっ!?」

 

女は激しく同様し銃を向けようとするが、オリビアに取り上げられてしまう。

 

「だから落ち着け!別にアンタを殺すような真似はしない」

「…警察から、依頼でもきたの?アタシを…捕えるために…」

「まぁ…依頼主は違うが、だいたい合ってる感じかな。それとその反応は認めるってことでいいんだな?カチュアさん」

「いつかこうなるのは…うすうす感じてたわよ」

 

どこか絶望感を感じられる声で女は、カチュアは抵抗をやめた。

 

「アンタがここで何をしたか、どうしてここにいるのかとかはもう調べ上げている。日記を見させてもらったよ」

「そんなところまで知ってるの…?」

「あぁ、聞きたいことは色々とあるが、一つだけ質問するとしよう。なんでこんなところで隠れていたんだ?」

 

カチュアはしばらく押し黙った後に、震えながら口を開く。

 

「私は…ただ、合法に麻薬を売るだけだと思ってたんです」

 

彼女が言うにはこうだ。

ここに来た当初は地下室内にある実験室を使い麻薬を作っては渡すだけの単純作業を行っていた。だが、ある日突如として一日に作り上げるノルマが爆発的に向上。あまりにも過酷であり、ほぼワンオペでやり切る地獄を毎日のようにやらされていたようだ。

 

しかもそれだけではない。麻薬はただラリる為に使われると思っていたようだが、とあるマフィアの会話を耳にしてしまった。自分の作った麻薬が人体実験に扱われていることを。

 

どういう実験なのかは聞き出せなかったようだが、カチュアはそこで自分が麻薬の売買どころの騒ぎでないことに関与してることを理解し、いつかは抜け出そうと画策していた。だが、厳しい監視下のもとで逃げ出すのは容易でなく、彼女の扱う毒魔法は扱う本人が耐性はなく、下手すれば自爆しかねない。

 

「そして、上で何か騒動が起きたのをいいことに脱出しようと?」

「はい…でも、奴らの何人かはここに残っていて、見つかるのが怖くてここに隠れてたんです…」

「なるほど…その様子だと今廊下で何が起きてるかわかってない感じか?」

「……悲鳴や断末魔は、聞こえました。でも、何をしていたかは、知りませんし、思い出したくも…ないです」

「いや、いい。十分すぎるほどだ。話の続きはここを抜け出してからにするとしよう」

 

オリビアは立ち上がり、手を差し伸べる。

 

「立てるか?」

「…ハイ」

 

素直にその手を握り、カチュアはふらふらとしながら立ち上がった。

 

「アタシは…これからどうなるんですか?」

「今は何とも言えない。でも、罪はしっかりと償ってもらう。それだけは理解してほしい」

「…ハイ」

 

元気なくカチュアは返事を返した。オリビアはドアを開け廊下に出る。カチュアもそれに続く。

 

「こっから先は行き止まりかもしれないからな、来た道を戻ってホテルの方に…」

 

オリビアが話していたその時、風を切る音と肉が抉れるような音が廊下に響いた。とっさに音が聞こえた方へオリビアが振り向くと、そこには首から血を垂らしてるカチュアの姿があった。

 

「あ……えっ…」

 

カチュアは自分に何が起きたか理解することもできないまま、糸の切れたマリオネットの如くその場に崩れ落ちる。

 

「ッ!?」

 

突如として起こった異常事態の正体をオリビアはその目で見た。キュリアの首に一本のナイフが突き刺さっている。

投げられた方角に目を向けると、そこにはフードを深くかぶり、影に溶け込んでるような黒い服を着た人間が、ナイフを片手にもち立っていた。外見から男か女かも判別できない。

 

カチュアは血を吐き出ししばらく痙攣して藻掻き苦しんだが、数秒も経たずして、ピタリと止まる。

それはカチュアが死んだことを示していた。

 

「お前ッ!よくもやりやがったな!!」

 

オリビアはフードを被った者に向かい走りだした。フードを被った者はとっさにナイフを投げ飛ばすが、すぐにオリビアが掴み取り速度を落とさず接近。そして攻撃範囲にまで近づき、右ストレートを叩き込む!

だが、フードを被った者は片手でガードし、返しで鋭い蹴りを放った!

 

「ウグアッ…!」

 

まともに腹に一撃を食らい、悶えるが構えを崩しはしない。キュリアとの戦闘で既に限界は近く、まったくもって万全ではない。だからと言って、マフィアもカチュアも殺したこの者を逃がすわけにはいかない。オリビアが戦う意思ありとみてか、フードを被った者は懐から新たなナイフを取り出した…その時。

 

「ここだ!間違いなくこの先にいるぞ!」

「なっ!?オイ!お前大丈…死んでる…!?」

「そいつらはほっとけ!乗り込んで来た奴を捕えろ!」

 

後ろの方で、複数人もの怒りにこもった声が聞こえた。間違いない、ローテ・ヘンドラーの増援だ。

フードを被った者はしばらく考え込むような素振りを見せると、一目散に後ろへ振り向き走り去っていった。

 

「待て!」

 

オリビアはもはやただの死体となったカチュアを担ぎ、その後を追う。フードを被った者は想像以上に早く、すぐに見失ってしまった。

 

走り続けて数分経った。後ろから近づいて来てたであろうマフィアたちに追いつかれることはなく、出口らしきドアを見つけ蹴り飛ばす。その先にあった階段を上り進めていく。

 

 

 

 

どこかの裏路地だろうか、階段を登り切った先は廃墟の中だ。オリビアはすぐに外へ飛び出す。マフィアの待ち伏せはなく、辺りに人は誰もいない。あるのは空に浮かぶ月だけである。

 

「アイツはどこだ…どこに…!」

 

オリビアはフードを被った者がいないか周囲をくまなく探し回る。だが、それらしき人間はどこにもおらず、オリビアは一度深い溜息を吐いた。

 

「クソッ…完全に逃げられたか…」

 

背中に背負っていたカチュアの方へ眼を向ける。もはや体温は消え冷たくなっており、肌色も心なしか更に白くなってるように見えた。

 

「…せめてちゃんと埋葬してやらねぇとな」

 

オリビアはすぐ近くに落ちていた布でカチュアを包み隠し、その場から逃げるよう走り去っていった。

 

「………」

 

その様子を、少し離れた場所にある建物の屋上から、フードを被った者が見下ろすように眺めていた。その瞳は、黒く染まっている。

 

「便利屋イグニート…警戒して損はないか」

 

呟くようにそう言うと。颯爽とその場から消えていった。




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