便利屋イグニート   作:文ノ雪

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第二章 海辺の戦い
異常気象


アステール大陸は気温が低い寒冷地として有名だ。グロリア帝国も例外ではなく、夏場であっても10度であることはざらにあり、冬になれば常に氷点下を迎えている。

 

だが、アステール大陸には年に数回、規格外なまでの気温変動が発生する。いわば異常気象が起きやすい大陸でもあった。30度を超える猛暑が発生することもあれば、-20度を下回る極寒の日もあり、一度異常気象が発生すれば、最低で一週間、長ければ一ヵ月も続く。天候の予測は今だ正確に測ることができない。

 

 

 

「…あっつい…どうなってんだよこの気温はよぉ……」

 

そして今現在、グロリア帝国では例年稀にみる猛暑を迎えていた。

 

フライハイトの一角にある便利屋イグニートの事務所。室内温度は25度を迎えており、強い日光が更に部屋を燃やすかの如く気温に拍車をかけている。

所長であるオリビアは普段は着ている白いコートを脱ぎ捨て、気だるそうに椅子に座り込んでいる。寒い気温にはすっかり慣れているが、滅多に来ることがない熱いはどうにもなれない。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…あづぐないでずがしょちょー…」

 

そしてもう一人、オリビアが開発した扇風機の前で座り込み風を浴びているもう一人の従業員、フェリクスは扇風機の風で声にエコーが入りながら問いかけた。

普段は着ている着物は脱いでおり、さらしを着けた上半身を晒している。それでも汗をかいていることから、今の気温の高さを示している。

 

「何かもっと…部屋全体の気温を涼しくできる魔導具とかないんですかぁ…このままだと溶けてしまいますよぉ…」

「しょうがねぇだろ、まさか急にこんな気温上がるなんて思ってもいなかったから対策もなんもできてねぇよ…てか、風がこっちまでこないからそこから離れろ」

 

その言葉にフェリクスはしょんぼりしながら横に動き扇風機から離れた。喋る気力も失ったのか二人がしばらく黙んまりていると、事務所のドアが開く音が聞こえる。

 

「あぁ?おいおい、なに浮かない顔してんだよお前ら」

 

そこにはコートではなくシャツ一枚の姿をしたリリィがおり、テーブルの上に持っていた袋を置く。中には冷えた瓶飲料水が入っている。

 

「これって…ラムネですか!!」

「レモネードだ。まぁ、中身は一緒だが」

 

そういいながらビンをフェリクスに手渡し、オリビアにも一本投げ渡した。残ったやつは全て冷蔵庫の中に入れられる。

 

「んっ…んっ…はぁー!おいしいー!いつもより断然においしいですよこれ!」

「足りてないものを摂取できた気分だ…いやぁ助かったよリリィ」

「礼ならメランに言いな。特別価格でまとめ買いさせてくれたから安く済んだんだぜ?…んでだ」

 

リリィはさっきまでの軽いノリとは一変し、シリアスな表情でオリビアを見つめる。

 

「ローテ・ヘンドラーの件だが、まだもう少し時間が掛かりそうだ」

「そうか…だが、時間が掛かるということは、あてはあるんだな?」

「知り合いにそういうのが詳しい奴がいる。そいつからの報告待ちだが、数日以上は掛かると言ってた」

 

フェリクスが来てからから数週間。彼女ら便利屋イグニートの方針として、引き続きローテ・ヘンドラーに調査をし、親衛隊に繋がる情報がないかを探すことを目的としていた。

オリビアとしては今回裏で行われてるとされる人体実験、その真相を得るために、ローテ・ヘンドラーの人間から直接情報を聞き出すか、それにつながる資料等を見つけようとしている。だが、彼女らとてそこまで裏社会に詳しくなく、フェリクスも別組織、ましてや敵対勢力の情報は流石に知りようがない。

 

故に、リリィが情報収集が得意な知り合いにいくつかローテ・ヘンドラーのシノギの場所や施設を調べさせ、そこから得た情報のもと調査を行うとしたが、今はどうにも目的の物がくるまで時間が掛かるようだ。

 

「もうマフィアではなくなっちゃいましたが、ローテ・ヘンドラーには個人的な恨みもありますし潰すのは遠慮なく協力しますが…親衛隊と本当につながってるんですかねぇ。まだ実感は感じてませんけど」

「それを確証させるためでもある。とにもかくにも、今は待ちの体勢だな」

「あぁ、その間に一仕事やろうぜ?」

 

そういうと、今度はポケットから一枚の紙を取り出し、オリビアに渡した。

 

「これは?」

「依頼だ。それもこの気温にピッタリな内容だぜ?」

「えっ!依頼ですか!ついに私にも初の仕事が来たんですか!」

 

フェリクスは元気に舞い上がるよう飛び上がりオリビアのもとに近づいて紙を覗き込む。

便利屋イグニートに来てからしばらくは見学という形で見ているだけであったが、次からは本格的に共同して依頼をこなすと言われ、今回の依頼が便利屋の一員として初めての依頼と言ってもいい。

 

「えーと…なになに?最近治安が悪い奴が増えており、客の迷惑になる奴がいれば懲らしめてほしい…あと魔物の目撃情報があり確認した場合討伐を求む…ん?」

 

内容はよくある治安維持に近い、いわば用心棒的な仕事だ。だが、最後の一文を見てオリビアは目を見開いた。

 

「場所は…ヴァイスサンドビーチ…!?」

「ビーチ…えっ!?海!?海に行けるんですか!!」

「そーなんだよ!しかも移動手段も食事付きの宿泊施設も用意してくれてるんだぜ!!」

「おおおぉ!よくやったぞリリィ!最高の依頼じゃねぇか!!」

 

三人は暑さの苦しみなんど全て忘れるほど喜び舞い上がる。こんな炎天下な猛暑が続くなか、三人は何度もこう考えていた。海でひと泳ぎしたいと。任務である以上、自由に泳げる時間があるかやや疑問であるが、今はとにかく移動手段も食費なども負担してくれるという滅多にない依頼にただひたすら喜んでいた。

 

「出発日は明日か、よし!二人とも今すぐ準備に取り掛かるぞ!服とか金とかAKWとか全部用意しとけよ!」

「あぁ!AKWのほうはオレに任せろ!フェリクスは服とかの準備をたのむぜ!」

「はい!ビーチにピッタリなやつを選んできます!」

 

こうして、予想外の気温から舞い込んできた特別な依頼に心を躍らせながら、三人は準備に取り掛かるのだった。




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