便利屋イグニート   作:文ノ雪

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魔物

あの騒動から数時間。無事砂浜にたどり着き、子供を救出することができたフェリクスとリリィは子度を親の元に帰してあげた。

その後はシルト社に事の顛末を伝えた結果、客に被害が出るのを考え一時的に海水浴を禁止することになり、二人は警備作業に戻ることになった。

 

 

 

「んでだ。夜になるまで私をずっっと放置してたわけか?」

「いや悪かったって、こっちも色々ありすぎて忘れてたの謝るからよぉ」

「水着の紐切断されたと思ったら突風でどっかに飛ばされて一切身動きができなかったんですよね?そんな状態で夜まで耐えてたんですか…?」

「そうだよ!人気のない場所で客が一通りいなくなるまでビーチの隅っこにいたんだぞ!いつまで経ってもリリィは来ない、客がほとんどいなくなるまで動けなかったんだからな!!」

「わかった!わかったって!今度酒でも奢るから許してくれよ!な!」

 

時刻は夜。ビーチから少し離れた場所にあるコテージいて、三人は卓を囲みながら互いに近況を報告し合っていた。

リリィとフェリクスは海での騒動を、オリビアはあの後置き去りにされた後の出来事を伝えあい、明らかに怒っているオリビアを二人は何度も宥めている最中である。

 

「…まぁいい。それよりも、海で巨大な触手…軟体生物のような奴と対峙したと聞いたが、それは本当か?」

「えぇ、分身体がすぐに倒されたぐらいには強大でした。正直、リリィさんがあの時助けにこなかったら私も同じ目に遭ってたでしょうし…」

 

オリビアの問いに触手で掴まれた腕をさすりながらフェリクスは答えた。アルターエゴで召喚した分身は普通の人間とは体の構造が違う。少なくとも溺死で死ぬことはなく、激しい損傷を受けない限り消えることはない。

つまり、あの一瞬で分身体を屠ることができるほどに、あの時襲った軟体生物は戦闘能力があることを示しているのだ。

 

「んでよ、あの時フェリクスに巻き付いてやがった触手を斬り落としてやったことであいつの触手の一部を手に入れることができたんだぜ?」

「その触手の一部はどこにある?できればどんなのかこの目で見たい」

「実物の方はシルト社の奴らが調査ということで押収したが、写真は撮ってきたぜ」

 

懐から一枚の写真を取り出し机の上に置いた。そこには斬り落とされた触手が写されており、通常のタコやイカのような軟体生物に比べてもサイズは明らかに巨大である。

 

「吸盤もあるしタコかイカのどっちかですね。もっとも、こんなサイズやつなんて見たことないですけど」

「普通の生物だとそうだろうな。間違いなくこいつは…」

「魔物だな。間違いない」

 

 

魔物。アステール大戦以降から大陸全土で蔓延るようになった危険生物。

 

元々はアステール大戦時にグロリアの魔導研究者ヘレナ・ルーデンドルフが、戦局打開の為に考案し実現させた生物兵器である。狼や馬果てには虫などに魔石を埋め込ませ、魔石に宿る強力な魔力により適合を成功させた生物の音を指し、魔力を宿す生物という意味を込めて魔物と呼ばれるようになった。

魔物となった生物は様々な力を新たに得たり、進化を遂げるが、共通してる点で言えば『身体能力の向上』である。元となった生物以上のスペックを持つようになり、個体によっては魔法を扱うものもいた。

 

最初こそ魔物に制御魔法で自由自在に操り、兵器として運用できていたが、魔石に適合したことで生物本来の魔力を明らかに超える魔力を増大させたとうのが一説として挙げられている。

結果的に人間の要する魔法では制御できないようになり、暴走した魔物が味方を攻撃し被害をだす事態にまで発展した。兵器としての役割を果たせないと判断した政府は魔物の製造を全面的に禁止し、当然運用していた魔物たちも駆除されることとなる。

 

だが、戦場で支配下から脱した魔物が野に帰ったり、駆除が難しいと判断し野に放ったり、そもそもグロリア以外の国家も魔物を製造し同じような事が相次いだ結果、大陸全土で蔓延る事態になってしまったのだ。

 

そして、今回フェリクスを襲った軟体生物もまた、魔物の一種だとオリビアは確信していた。通常ではありえないサイズも魔石による進化だと考えればあり得ることである。

 

「…正直、私は魔物を相手にしたことはまだ一度もありませんね。マフィアだった頃は人と戦うのが普通でしたし」

「そもそも魔物と出会うこと自体早々無いはずなんだがなぁ。特に人気が多い場所では駆除専門の企業や政府軍が排除して近寄らせないようにさせてるはずだろ?ヴァイスサンドビーチだってそこらへんは対策してるはずだぜ?」

「魔物だって生物だ。そうやすやすと思い通りにいかないときだってあるさ」

 

そんなことを話していると、コテージの扉をノックする音が聞こえた。オリビア立ち上がりドアを開くと、そこには制服らしき服装をした一人の女が立っていた。制服の胸元に盾のエンブレムが刺繍されてる、シルト社の職員だ。

 

「便利屋イグニート一行がいるのはここで合ってるか?」

「そうだが、何の用だ?」

「ネフェリ隊長がお呼びだ。すぐに来てもらいたい」

 

 

 

コテージのすぐ近くにある簡易的ながらやや大きな施設。シルト社が用意した事務所である。三人はその事務所に招かれ、一室の会議室のような部屋へと案内された。三人で並んで椅子に座り、どっかに茶菓子でもないか探していると新たに一人の職員が入ってきた。

 

「やぁ、便利屋イグニートの皆さん。話は聞いたが色々と災難な目に遭ったようだな」

 

その職員は気さくに話しながら向かい席に座る。

 

「本当に災難だったよ、水着はなくしてしまうしよぉ…」

「…私が聞いたのは例の魔物に関することなんだがな。道理であの場にいなかったわけか」

「岩陰でずっと隠れてたらしいぜ?ほんと笑えるよなぁネフェリ!」

「ぶっ飛ばすぞテメェ!」

 

二人が取っ組み合いになってるのを横目に、フェリクスは不思議そうな目で口を開ける。

 

「…えーと、確かここに来た時の説明会で色々と教えてくれた隊長さんでしたよね?もしかしてお知り合いなんですか?」

「ふむ、確か君が新しく便利屋に来たフェリクスくんだったね。二人とはないかと依頼で顔を合わせる機会が多くてね」

 

彼女こそヴァイスサンドビーチの警備隊長を務めるネフェリ。シルト社本社に勤め、普段は都市部で活動しているが、急激な観光客の増加に伴って派遣で来たのだ。

 

「まぁそれはいいとしよう。あと二人とも喧嘩はよしてくれ、施設の備品壊したら報酬から損害額を引き抜くぞ」

「あっ、それだけは勘弁を…」

 

それを言われた瞬間二人は大人しくなり、しゅんとしながら席に座り直した。落ち着いたのを見たネフェリ机に肘をつきながら会話を再開させた。

 

「わかっての通り今のヴァイスサンドビーチは緊急事態として一時的に人の出入りを禁止してる状態だ」

「まぁ当然だな。魔物がいるんじゃ泳げるわけもない」

「だが、この状況をいつまでも続けるわけにはいかない。本社からも自体の早急な解決を望んでいてね、一応魔物駆除も受け持ってる以上、長引かせたら企業の信頼に関わる」

「…んで、オレらを呼んだ理由は?」

「簡潔に言おう。魔物の駆除を手伝ってもらいたい」

 

予想通り、だが難しい要件を前にオリビアとリリィは小さく溜息を吐いた。

 

「一応聞くが、そっちの補助もあるよな?」

「当然だ、任せきりにするわけない…と言いたいんだが、あまり期待しないほうがいい」

「というと?」

「海上部隊はいたんだが、つい先日、君たちがここに来る前日に海上のパトロールをしてる最中に行方不明になってしまって…今だ見つかってない」

 

その報告を前に更に深く溜息が出てしまった。

 

「……もしかしてだが、今ある戦力で魔物に対抗できる戦力はねぇのか?」

「魔物との戦闘経験がある奴らはいるが、海にいる魔物相手は未経験の奴らが大半だ」

「本来海上の魔物はそいつら専門の部隊が必要だからな、陸上にいる奴らとは戦う環境も全く違う」

「えーと…援軍とかは…」

「申請はしてるが返答がいまだきていない」

 

それを聞いたフェリクスも頭を抱えてしまう。

 

「情けない話だと思うだろう、だが、ことは急を要してる。客が安心して海を泳げるようにするためにも、どうか、手を貸してくれないか?」

「…海上の魔物相手は私も初だが、前々から興味はあったんだ」

 

オリビアは席を立ち真っ直ぐな視線をネフェリに向ける。

 

「それに人を明確に襲うならほっとわけにはいかない。その依頼受けさせてもらうよ」

「イカだかタコだかしらねぇが、でっけぇ魔物をぶっ飛ばすのはなかなかに面白そうだ!」

「不安はありますが…奴には分身体とはいえ私を下した借りがあります。このまま負けっ放しは悔しいですし私もがんばりますよ!」

 

三人の答えにネフェリは安堵の表情を浮かべる。かくして、唐突ながらも魔物駆除依頼が始まろうとしていた。




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