便利屋イグニート   作:文ノ雪

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武装船

日が出始めた早朝。前日まで人で賑わっていたヴァイスサンドビーチは無人となっていた。時刻的に当然ともいえるが、海での騒動を鑑みて客が魔物の被害者になる事を防止するため、現在このビーチは立ち入り禁止となっているのだ。

 

そんな中、ビーチの砂浜に立つ十数名からなるの人影。その者たちは軍服めいた制服で統一されており、腰や背中には剣や槍といったAKW、小銃に重機関銃といった銃器で武装している。シルト社の職員たちだ。

 

「ふぁー…思ったひょり起ひる時間が早くてまだ眠いですよぉ…」

「エーテルでも飲むか?眠気が吹き飛ぶぐらいクソまずいぞ」

「あんな苦くてまずくて甘ったるいのもう飲みたくないですよ!第一なんであんな酷い味なんですかあれ!?」

「魔力を最も効果的に回復させる成分にさせて結果あぁなったらしいが…味の改善はもう少しできると私も思ってる」

 

呑気に談笑をしてる三人、オリビアたちもまたシルト社と共にやってきた。服装も水着からいつもの普段着であるコートや和服に着替え、魔導具も装着し戦闘準備は万全だ。

 

「それより、船にこうして乗るのは私、初めてかもしれません」

「ん?そうなのか?」

「オレらがいるマレスは海から離れた場所にあるし、あの周辺で大きな河川もねぇし、不思議なことではねぇな」

 

三人が目に行ってるのは、ここから少し離れた船着場で止まっている一隻の船。シルト社が事前に用意していた武装船だ。

その名の通り、武装船は兵器や魔導具を備え付けられた船である。遠目からでもわかるほどいろんな箇所に重機関銃が備えられ、プロテスシールドの応用で開発されたドーム状の防御壁を展開できる魔導具『プロテスフィールド』も搭載している。

本来は二隻あったが、もう一隻は魔物に静められてしまい残骸すら見つかってない。

 

「あれがウチが保有している武装船だ。20人は余裕で乗れるぞ」

 

奥の方から一人の職員…ネフェリが三人に声を掛けてきた。彼女もまた制服の格好をしており、槍型のAKWを背負っている。

 

「重機関銃でもいいが、海上の魔物相手なら砲もほしいかな」

「無茶言わないでくれ、ウチの会社は海に金注げれるほどの余裕はないよ」

 

ネフェリは苦笑いしながら武装船に目を向ける。実際、どの魔物も強靭な皮膚で覆われており、通常の銃器では傷さえつかない個体も存在する。

故に、AKWのような高火力な一撃を与えれる武器が求められる。銃器の方でも火力を重視したり特殊加工が施されたりと、魔物の出現は武器の飛躍的な進化を与えたと言っても過言ではない。

 

閑話休題。今ある武装船の兵器たちではいささか不安を感じるのは無理もない。重機関銃ほどの火力であれば、大抵の魔物相手にある程度のダメージは期待できる。しかし、確実に仕留めるなら砲のような圧倒的なまでの火力が望ましいのが実情だ。

魔物相手、それも海上での戦闘となれば早期に終わらせることが望ましい。もし仮に船が破壊、または横転でもされ海に落ちてしまえば成す術はない。後は餌になって終わるだけだ。

 

「前日も話した通りここにいる連中は海での魔物との戦闘経験がほぼない。だが、腕前事態は保障する。最低限の仕事はこなしてくれるさ」

「そうでないと困る。魔物はが害獣でもあり災害だ。普通は大多数で挑まないと勝ち目はまずない」

「最も、オレたちは何度か二人で倒したりしてるけどな!」

「そういうのはあまり威張るもんじゃないリリィ」

「私はこうした魔物討伐は初めてですが負ける気はありません!斬って食材にしてやりますよ!」

 

ドヤるリリィをオリビアは小突き、リリィはホオズキを掲げながら元気よく声を上げた。

 

「フッ、なら思う存分頼らせてもらうよ」

「あぁ、やるからにはやり切ってみせるさ。大船に乗った気持ちでいな」

「これから船に乗るのにですか?」

「…それとこれは別なんだよ」

 

 

 

武装船が出航して早くも30分。フェリクスが襲われた場所を中心とし、周辺をくまなく調査を進めていた。

 

「オイオイ全然でてこねぇぞ。ほんとにこの辺りであってるのかァ?」

「ここですよ!忘れるわけないじゃないですか!」

 

リリィとフェリクスはそれぞれのAKWを持ちながら甲板の上に立っている。何時魔物が来ても対応できるよう待機していたが、一向に気配すら感じられない。

だが、周りにいるシルト社の職員たちは警戒心を決して時はしない。彼等にとってこれが海上における初陣であり、何より既に被害が出てるのもあってか警戒も緊張感も普段以上に強く出ていた。

 

「まぁ、来るまではのんびりしてようや。感知するまではしばらく待ってようぜ」

 

 

 

 

「…レーダーは今だ無反応、異常はありません」

 

船内にある操縦室にて、職員の一人が一つの画面を眺めながら報告を行った。

 

「この魔力探知レーダーの最大範囲距離は?」

「5kmだ。海底も同じ距離を探知できる」

 

オリビアとネフェリもまた、何も反応を示さない画面を眺め互いに会話を行っている。魔物は魔石の力もあってか魔力は高い。故に魔力を探知する機械も開発され、その一つがこの魔力探知レーダーだ。

 

「…あの写真の触手を見るにかなりでかいはずだ。強力なら猶更レーダーに感知しやすいはずだが…」

 

口元に手を添え考え込むオリビア。魔物は強いほどその魔力もまた強力なものとなる。それこそ強力すぎるあまり感知しても位置が特定できない事もあるぐらいだ。

だが、今の状況は全くの無反応。魔物なんて最初からいないとでも言うくらい見つからない。

 

「警戒して場所を移したかもしれんな」

「確かにそれもある…だが、魔物は一度縄張りと決めた場所からは滅多に動こうとしない。たった一度得物を取り逃がされたぐらいで捨てるとは思えん」

「前々から思ってたが、あんたやけに魔物に詳しいな」

「…昔の知人に魔物に詳しいやつがいたんだ。そいつから色々と」

 

だがその時、先ほどまで無反応だった画面に大きく点滅する赤い光が映し出された。

 

「探知しました!この魔力…間違いありません!魔物です!」

 

職員の報告を聞いた二人は話を打ち切って同じく画面に目を向ける。

 

「ようやくか!場所と方角は!」

「ここから…ッ!?す、すぐ隣、いや、真下にいます!!」

「なんだと!?」

 

報告の通り、赤く点滅してる場所はこの船の位置を示す中心の真横だ。つまり、その場所になるでレーダーは探知できなかったということを示していた。

 

「バカな…いったいどうやってレーダーを!」

「…魔力を抑えていた」

「なに?」

 

オリビアの一言にネフェリは顔を向ける。

 

「得物に気づかれない気配を消すように、狩猟する際のカモフラージュのように、奴は一番ベストなポジションに来るまで魔力を抑えていた…」

「そしてノコノコと狩場に来た得物が来た瞬間魔力を解放させたと?魔物にも知性はあるとはいえそんな高度なことが…」

「タコやイカは生物の中でも高い知性を持ってることで有名だ。やってもおかしくない…いや、それよりも、ここで魔力を解放させたってことは…ッ!」

 

危機感を感じ取ったオリビアはすぐさま駆け出し操縦室から飛び出した。

 

「私は現場指揮に向かう!危険だと感じたら即プロテスフィールドを展開しろ!いいな!」

 

その後を追うように、ネフェリもまたその場から走り去っていった。

 

 

 

「それでよ、ブラックジャックに大負けたオリビアのやつはこう言ったんだ『まだ…私が諦めてない限り負けてないもん…』ってよ!」

「ローテ・ヘンドラーを調査するならカジノはほぼ確実に通りますよ?大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫!最終手段でぶん殴ってやれば眠りに落ち…」

 

二人が談笑していたその時、突如として強い揺れが武装船を襲う。

 

「えっ!?ちょまっ、痛ッ!?」

「うおっとぉ!?」

 

リリィは耐えれたが、フェリクスは慣れない揺れでバランスを崩しコケてしまう。周りにいたシルト社の職員たちも同じ様子だ。

 

「なんだ…!?魔物が見つかったならレーダーで知らせが…ッ!」

 

状況を整理しようとリリィは頭を動かすが、それを阻止するかの如く海上よりあるものが這い出てきた。

紐めいて長く、身体より太く、数えきれないほどの吸盤を持った巨大な触手が、船を取り囲むうように何本も這い出てきたのだ!

 

「あの触手…!間違いありません!あれが私を襲った魔物です!!」

 

直接襲われたフェリクスは確信をもって叫ぶ。リリィは辺りを見渡す、シルト社の職員たちは突然の出現に理解しきれてない状況。そんなことをお構いなしに一本の触手がその職員の一人を狙う!

 

「えっ」

 

回避はおろか、動くことさえできなかったその職員はいとも簡単に身体を掴まれ、軽々と持ち上げる。

 

「…い、いやああああああ!?」

 

ようやく今の状況を理解したのか悲鳴を上げるも無慈悲に海の底へと引きずりこもうとした…が!

 

「セイヤァッ!!」

 

既にホオズキを片手に持っていたフェリクスが触手を切断!職員は触手が切り離され、甲板へと落ちた。

 

「大丈夫ですか!」

「…あっ、ありがとうございます!」

 

フェリクスはすぐに駆け寄り絡まっていた触手も細かく切断して拘束状態から切り離した。その顛末を見たリリィは一度ホッとした後、周りに目を通しながら口を大きく開く。

 

「テメェら!!もう既に魔物との戦闘は始まった!!予想外の事態だが現実を受け入れて目の前の敵に集中しろ!!死にたくないなら戦え!!」

 

海全体に響き渡るようなリリィの大声により職員たちは一瞬動揺するも、それぞれが武器を握る。

 

「…流石シルト社だ。パニックにならずすぐに対応できたな…さて」

 

巨大な触手に金色の鋭い眼光を向け、グレートメイス型AKWであるグランドを構える。

 

「狩猟開始だ!いくぞフェリクス!食われたくないなら気合いれろよなァ!!」

「ハイ!もちろん全力でやってやりますよ!!」




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