便利屋イグニート   作:文ノ雪

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最近は遅れ気味で申し訳ございません


不燃焼な決着

ザンクカルマールの討伐後から数日後。しばらくは新たな魔物の出現を警戒し立ち入り禁止となっていたヴァイスサンドビーチだったが、これ以上の魔物が出ることはないと判断され、現在は通常通りビーチとして使用可能となっていた。

初日こそ魔物を恐れ人は少なかったが、三日後には以前通りの活気に溢れるビーチに戻っており、もはや魔物の事など忘れてる者さえいる状態だ。

 

「たくよ、オレたちのおかげで今こうして遊べてるってのに、もうあのイカ野郎なんぞ忘れられてるぜ?」

 

サングラスを掛け、持っていた新聞をゴミ箱に投げ捨てながらリリィはぼやいた。前まではザンクカルマールに関することばかり記載されていたが、今となっては一切情報として取り上げられていない。

 

「まぁいいじゃないですか、嫌なことなんてすぐ忘れるに限りますよ」

 

フェリクスはアイスキャンディーを加えながらビーチの方へ視線を向ける。

 

現在、便利屋イグニートは本来の任務であった警備作業に戻っていた。なんだかんだ一週間は勤めていたこの任務も今日が最終日であり、明日には契約期間は終えフライハイトへと戻る予定だ。今回の任務はかなり特殊なケースであったことから報酬が上乗せされる予定であり、しばらくは三人分に増えた生活費を安定して支払える見込みだ。

 

「それにしても、結局なんだったんでしょうねあの魔物。オリビアさんは普通なら出るわけがないとか言ってましたけど」

「さぁな、少なくとも今のオレたちが考えることじゃねぇよ。ほら、そろそろ休憩切り上げて仕事に戻るぞ。最終日である以上キッチリやり切ってから終わろうぜ?」

「…ですね!それじゃあ警備の方に行ってきまーす!」

 

フェリクスが遠くへと離れていくのを見送ると、今度は別の所へと視線を向ける。ビーチに溢れかえる人込みの中でも特に目立つ真っ黒な軍服の者たち。

親衛隊だ。魔物の出現に関する情報を報道される前から掌握し、企業だけに任せるのは不十分だとし治安維持も込めて、十数人程度だが即日で派遣されたのだ。

 

「…相変わらず地獄耳な連中だな」

 

なるべく目を合わせないようにしつつ、リリィは嫌悪感を感じさせる声で呟く。

 

「どうせ来るなら騒動が起こる前に来やがれよたく…」

 

そう言いながらリリィは元の持ち場へと戻っていった。

 

 

 

 

「結論から言うと、あの魔物は人為的に放出されたものだ」

 

ビーチから離れた場所にあるシルト社の事務所にて、オリビアはネフェリと二人きりで話をしていた。内容はザンクカルマールについて。もっと詳しく言えば、ザンクカルマールがいったいどこから現れたか議論を交わしていたところだ。

 

「…その答えを出した理由を聞かせてもらいたい」

 

ネフェリは椅子に座り込み、手で三角形をつくり口元に寄せながらオリビアに問いかける。

 

「まず、あの魔物…ザンクカルマールはこの周辺に生息しないことがわかった。過去にここで起きた事例や生息してる海洋生物を調べても、ザンクカルマールと同個体とされるイカ系の魔物どころか、そもそもとしてイカのような軟体生物も確認されいない。いるとしてもあのビーチから数百キロも先にある」

「異常気象による大規模な移動の可能性は?」

「気温が上昇した程度、ましてや魔物がわざわざ人目につくような場所にまで来るとは考えられん。魔物も人が密集してる場所には迂闊に近寄らないことは判明している」

 

一度区切りを入れ、机の上にある水の入ったコップを手に取り、一気に飲み干した。そして再び口を開く。

 

「それとザンクカルマールに宿っていた魔石にも問題がある」

「魔石?たしか聖魔法を使ってたから…聖の魔石だったな。それの何が問題なんだ?」

「海洋生物系の魔物で聖の魔石を持つ個体自体が異常なんだ」

 

その言葉にネフェリは小首を横に傾げた。

 

「聖の魔石を持つことに何か問題でも?魔物は同じ個体でも効果が異なる魔石を持ってること自体よくある話だが」

「生息地によって魔物に宿る魔石には法則がある。例えば今回戦った海での魔物は水や氷、中には闇といった魔石が主流だ。変異個体がでたとしても、それに類似する魔石であることが大半だ」

「…つまり?水の魔石を持つ魔物からは炎の魔石を持つ魔物が生まれないように、闇も存在する海において聖の魔石を持つ個体は出てくるわけがないと?」

「光や聖といった魔物は強い日光を好むケースがある。海中でも光は差し込むだろうが、聖の魔石を持つ魔物にとっては生きづらいには違いない。環境によって魔物の強さは大きく変わるからな、魔物にだって食物連鎖はあるし、そんな環境であそこまで強く育った個体が野良で、しかも今まで人間から見つかることなくあの場に突然現れたことにはどうにも違和感があるんだ」

 

しばらく黙って聞いていたネフェリは間を開けた後に、ある疑問を声に出していった。

 

「仮に本当に人間が作ったとして…誰があの魔物を野に放ったというんだ?」

「…正直言って、確証はない。だが、心当たりのある奴はいる」

「そいつの名は?」

「…すまない、それだけは言えない。あれだけ偉そうに抗弁を垂れていたが、こればかりは…」

「いや、いいんだ。こうして話の場を設けたのも魔物にも詳しいお前から意見を聞きたかったってのもある。いい参考が聞けたよ」

 

そう言いながらネフェリは懐にしまっていたタバコを取り出し、マッチで火をつけ口にくわえた。

 

「…今時魔物の製造ねぇ。確かに、魔物の始まりは兵器運用が元祖だったし、やろうと思えばできないことはないだろうけどよ…」

「そんなことがバレたら即逮捕だ。場合によっては死刑になってもおかしくはない」

「だろうな…フゥー…」

 

口から白い息を深い溜息と共に吐き出し、気だるそうに椅子へ背をもたれる。

 

「私も…カンではあるが、ザンクカルマールが野生個体だとは思っていない。とはいえ…ウチの職員を大量に殺すような魔物を作れるやつがいるなんて…考えただけで胃が破裂しそうだ」

「…そろそろ私は現場のほうに戻っても構わないか?」

「あぁ、いいぞ。職員が減った影響で警備に穴があるかもしれないからな。サポートのほう頼むよ」

 

それを聞くとオリビアは椅子から立ち上がり、軽く頭を下げ部屋から出て行った。一人になったネフェリは静かにタバコを加え直す。

 

「……さてと、報告書作りに戻るとするか」




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