カジノ。それは帝都マレスおよびフライハイト内でもメジャーとされる娯楽施設の一種。純粋に楽しむ者もいれば、金どころか人生を賭けてまで挑む者も存在し、カジノに行って消息を絶った者は今も増えている。
「フフフ…来たぞようやく…私にも勝機が!」
ブツブツと喋りながらニヤケ顔でカードを見ているオリビアもまたカジノに全身全霊を注ぎこむ、所謂ギャンブラーである。
現在はブラックジャックに参加しており、ディーラー側は二枚の内一枚はジャックが表に出ている状態である。一方でオリビアの手札はクイーンに7の二枚とかなり強い状態、このままスタンドしても十分である。
(素人ならここでスタンドするだろうが…私はそんな腰抜けではない…!)
だが、スタンドする気などオリビアは最初からない。というのも過去の経験でディーラーの一枚目が絵札の場合、二枚目も絵札という展開は何度も味わい、大敗北をしたことがある。
要は今の状況は21でなければ勝てる状況ではないというわけだ。そして現在、オリビアはこの卓に座って通算81回は負け続けており、今なら負け続けたことにより幸運が来ていると。根拠は一切ないが直観でそう感じているのだ。
(今こそ勝機!ここで決める!)
「ダブルダウン!」
オリビアは高らかに宣言した。ダブルダウンとは簡単に言えば今の掛け金を二倍分にしカードを一枚のみ引くことができる。二枚目を引くことはできないし負ければ二倍分のチップも無くなるが、これで勝てば得られるチップは通常の二倍となる。
手元のチップを更に払い、運命の一枚を手に取る。生唾を飲み込み、その表に書かれてる数字を目にした。
クラブの4。これによりオリビアの手札の数字は21となった。
(よっしゃあああああ!!)
心の中で大声をだし、満面の笑みでオリビアは勝ちを確信した。これでディーラーが2枚目が絵札だろうと負けるこおてゃなく、かといって21の引き分けを持ち込むのはそう簡単にできることではない。
(もはや負けることはない!そう!ディーラーがAのカードさえ出さない限りは)
オリビアが最後の手番だったのでディーラーの番に移り二枚目を引く。
「ハートのA。ナチュラルブラックジャックです」
「んなああああああああ!?」
オリビアの所持金は粉微塵となった。
フライハイトの裏路地に一軒の酒場『ザックトレーガー』。オリビアたち便利屋イグニートの事務所から歩いて20分もあればたどり着くこの店は外見上だと寂れて人気もなく、いつ潰れてもおかしくないような小さな店にしか見えない。
だが、ここの店主を勤めてる男にとある合言葉を伝えれば店の奥に案内され、その先にある地下に続く階段を下りていった先には、酒場の二倍、いや三倍の広さがある地下カジノに入場することができるのだ。
グロリア帝国はカジノなどの賭博場を法的に禁止などはしておらず、普通であればわざわざ地下に作る必要性もなければ合言葉も不要だ。
このカジノは賭け事はおまけに過ぎず、裏社会に潜む者たちの交流場としての運用がメインなのだ。
何時の時代もマフィアは政府の目から逃れようと影を潜めさせる必要があり、特に現在は親衛隊の存在もあり、安全に集える場というのは少なくなっていった。
そこで作られたのがこのザックトレーガー。政府の目にも届かさせないだけでなく、数あるマフィア組織達は『ザックトレーガーに対し影響力を高めるのを禁じる』『いかなる理由があってもザックトレーガー内での戦闘を禁じる』などといったいくつかの協定を結び、一種の中立地帯としての運用されている。
リリィが事前に例の情報屋から合言葉を伝えてくれたおかげで、オリビアたちは特にトラブルなくこのカジノに入ることができた。ここであれば話してる内容が親衛隊の耳に入ることはまずない、今のオリビアたちにとって絶好の場所なのである。
「こんな場所にカジノがあるなんて初めて知りましたよ…」
「ここにいる連中は金持ちつうより、いかにもマフィアな奴らばっかだな」
フェリクスとリリィはカジノ内に設けられたバーにて椅子に座り、無料で提供されたカクテルを飲みながら周りに目を向ける。
視界に入るどの人物も高級感のあるスーツに身を包んでおり、一見するだけでは特に違和感を感じ取れない。だが注意深く見ると拳銃やナイフといった武器を携帯しており、何よりどれもカタギの風貌をしていないのだ。
「協定があるとはいえ行くまでの道中もあるし、何より丸腰なわけねェよな」
「武器を隠し持ってる事もありますけどね。あぁやってわざわざ見せてるのはフェイントで本当の武器は懐にあるって場合もありますよ」
「…んで、お前はいつになったら起きるんだ?」
雑談しながらリリィは隣で顔を机に伏せてる状態のオリビアに目を向ける。
ザックトレーガーにたどり着いた三人だったが、肝心の情報屋がまだ来てなかったのもあり、せっかくなので時間つぶしも込めてカジノで遊ぶことになった。解散してから十数分後にバーで合流していこう、オリビアはずっとこの調子なのである。
「来て早々目を輝かせてましたけど見る影もないですね…」
「念の為に聞くが今いくら持ってる?」
「0…」
「え?確か20万メルク持ってましたよね?何をしたらそんな大敗を…」
「まだ負けてない!私が負けを認めない限り負けてないもん!!」
「クソみたいな屁理屈言ってんじゃねぇよ」
そんなことを話していると、三人のもとに一人の女が一直線に近づいてきた。
「…ようやく来たか」
リリィの声にフェリクスが反応し、さっきまで顔を伏せていたオリビアもスっと顔を上げ平常心を取り戻す。
その女は黒いディアストーカーを頭にかぶり、白いシャツにミニスカートを履き、オリビアら三人より大きな胸を携えている。
「初めまして…それとも久しぶりと言った方がいいかな?リリィ」
「どっちでもいい、あと挨拶するなら先にこいつにしろ」
リリィと軽く言葉を交わしたのち、オリビアの方へと彼女は顔を向ける。
「改めて初めまして便利屋イグニートの所長さん。ボクはネーベル、しがない情報屋だよ、よろしくね」
ネーベルは笑みを浮かばせ、糸のように細い目を向けながら挨拶した。
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