便利屋イグニート   作:文ノ雪

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捕えられる兎

「まったく…初めて会ったときは元気よく挨拶できていたのに、なんでお客さんの前だとそんなしどろもどろになっちゃうんだい?」

「だ…だって…こんな格好で人前にでたく…なにですよぉ…」

 

複数のロッカーと椅子が置かれてる準備室にて、うずくまりながら赤面しているフェリクスを彼女の教育係であるバニーガールが呆れた様子で叱っていた。

バニースーツを着た段階ではまだ恥じらいはなかったが、いざ人前に立つと周囲からの視線や改めて自分自身の格好を意識してしまい、結果としてまともに接客もこなせないほど弱り切っているのだ。

 

「そんなんじゃいつまで経っても一人前になれないし、最悪もっとひどい目に会っちゃうわよ」

「…もっと酷い目?」

「あんまり言うべきじゃないけど、うちのオーナーは厳しくてね、成績の悪い子はここの警備員につれて行かれてしまうのさ。そんで、つれて行かれた子が帰ってきたことは…一度もない」

「それって…」

「あんたも、そうなりたくないならもっと気合いれな。私はちょっと休憩に入るから、あんたもその間に休んで、10分後にはここに集まっておいてな」

 

彼女はそう言うとフェリクスの背中を叩いて部屋から出て行った。一人取り残されたフェリクスはうずくまってる体勢から起き上がり、近くの椅子に座って考え込む。

 

(これからどうするか…完全にしょちょーやリリィさんとは離れ離れになっちゃったし…かといってこのままバニーガールとして働いても情報が手に入れるとは思えない…)

 

別れて単独行動になるのは想定済みの為、焦りこそしてないが、それでもこのまま進展なしではまずいという危機感は感じていた。今の状態で客から情報を抜き取るのは至難の業であることも自覚してる以上、別の方法で情報を集める必要がある。

 

(……まてよ?たしか私の分身って自我こそあるけど私の命令はちゃんと聞くはず…)

 

そう考えたフェリクスはおもむろにアルターエゴを発動。まばゆい光と共に分身体であるフェリクスがその場で召喚された。無論、格好はバニーガールのままだ。

 

「ねぇ、恥ずかしがらずに接客とかダンスとかできる?」

「無論!この私であれば問題なしだぞ!」

 

分身体のフェリクスは胸に手を当てながら自信満々に応える。少し考えたのち、本体のほうのフェリクスはある作戦を行うことを決意した。

 

「よし、なら私の代わりにバニーガールの仕事を任せていい?多分そろそろ先輩の言うことを聞けばいいから」

「お前はどうするんだ?」

「一回ここで隠れてやり過ごす。そんでその後は隠密行動しながら他の部屋を漁る方の調査に入るよ」

「なるほど、つまりはニンジャになるってことだな!」

「そういうこと!やっぱり私なら考えてることも一緒だよね!」

 

思考も見た目も同じの自分同士での会話で盛り上がりながらも、すぐさま本体の方のフェリクスは端っこのほうにあるロッカーの中に隠れ、分身体のフェリクスは椅子に座りバニーガールの到着を待つ。

 

「おう、休憩は済んだか?そろそろ仕事に戻るぞ」

 

1分もしないうちにドアは開き、バニーガールが扉から顔を覗き込んでフェリクスに伝える。

 

「ハイ!大丈夫です!いつでも動けますよ!」

「…急に元気になったなあんた。まぁいいや、ほら行くぞ」

 

短い間に元気を取り戻してる姿を見て少し驚くも、対して気にはせず分身体のフェリクスを連れて準備室から去っていった。足音が遠のき、完全に聞こえなくなったのを確認すると、本体であるフェリクスはロッカーを開け外に出る。

 

「さて…出歩くなら姿を隠したほうがいいよね」

 

そう言うとフェリクスは近くにあった段ボールに手を伸ばした。

 

 

 

リリィが騒動を起こしていた同時期、オリビアもまた危機に瀕していた。

 

「…あの、そろそろ別の接客に向かわないといけないんですが」

「ダーメ、まだ飲み足りないわ」

 

客の一人に身動きを封じられていた。

 

数十分前、一人で完璧に接客を行っていたオリビアは転びそうになった一人の客…現在何十分も相手にしているその客を、持ち前の身体能力で支えなんとか大事には至らなかったものの。

脚が痛くて動けないから席まで連れてってほしいと言われ、拒否する理由もないためそのまま連れて行ったら、今こうして動こうにも動けない状況になってしまったのだ。

 

(振りほどくのは簡単…だけど、客にそんな真似するわけにはいかないし、何よりこの状況なのに誰も助けに来てくれない…)

 

本来、いくら客であってもこうしたバニーガールの独占はトラブルの元となるので禁じられているが、今のところ彼女のこの行為を制止させようとする動きは一切見られない。周りにいるボーイや同じバニーガールたちはただ見守るのみである。

 

「失礼ながら…貴女はいったい…」

「あら気になる?それなら触ってもいいのよ」

「いやそっちの意味じゃなくて」

 

オリビアは腕に巻き付く尻尾を見て少し困り顔をしながら答える。彼女はリリィと同じように尻尾と角が生えている。だがリリィと違う点として鱗も無ければ尻尾も細長く、先端がハートの形になっている。

彼女はサキュバス、リリィのドラゴニュートとはまた違う、女しかいない特殊な種族だ。

 

「んー?…あぁ、そうね私としたことが楽しんでたばかりに自己紹介を忘れてたわ。私はラウフ、気軽にラウフちゃんって呼んでもいいのよ?」

「…私は今日ここで入ることになったオリビアです」

「あら新米のうさぎちゃんだったの?テキパキ働いてるからそんな風に見えなかったわ」

 

ラウフと名乗った女は口に手を添えてわざとらしく驚く。その間にもオリビアは思考を巡らせていた。

 

(この女…多分ここにいる客の中でも特別な存在のはず。もしかしたら何かこのカジノについて情報を聞き出せるかも…)

 

只者でないことはオリビアも感づいている。ならばむしろこのまま接近したほうが良いと判断し、おもむろに机の上に置かれていた酒を飲み干す。そして、オリビアもまたわざとらしく身体をふらふらとさせる。

 

「あらら、もしかして酔っちゃったの?」

「申し訳ございません、こうした場で飲むのは初めてなもので…」

「フフフ、不思議な事…そんな綺麗な宝石を埋め込んでいるのに、簡単に酔っちゃうなんて」

 

その言葉を聞き、オリビアの酔いは叩き起こされた。ラウフの視線はオリビアの右手に向いており、そこは魔石を埋め込まれてる部分だ。

 

「…言ってる事があまりよくわかりません」

「いいのよ、隠さなくて…いや、こんな場所じゃあ話そうにも話せないわよね」

 

そう言うとラウフは突然立ち上がり、オリビアの体をお姫様抱っこの如く持ち上げた。

 

「エッ!?ちょっと!?」

「ねぇ、確かそろそろアレが始まるでしょ?オリビアちゃんを部屋まで連れていくけど構わないわよね?」

 

ラウフは近くにいたボーイに問いかける。ボーイは困惑するも、何も言わず静かに頷いた。それを確認するとラウフはオリビアと目を合わせ、ニッコリと笑う。

 

「それじゃ行きましょうか、二人っきりでお喋りできるところに」

「いやいやいや!?私の拒否権は!?」

「そんなもの、ここにはないわよ?知らなかった?」

 

無慈悲な宣告を伝えられたオリビアはもはやどうしようもできず、そのまま連れ去らわれていった…




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