便利屋イグニート   作:文ノ雪

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淫魔への挑戦

『な、な、なんということだーーッ!?まさかのどんでん返し!魔物は打ち取られ、今ここに英雄が誕生したーーッ!!』

 

興奮気味な司会の声がマイク越しで辺りに広がり、観客たちの熱狂は更に燃え上がっている。当然だ、本来こうした前哨戦は魔物が相手を血祭りにし場を沸かせるためのものでしかない。それを逆に討ち取るなどあり得ない出来事である。

 

「…凄いもの見ちゃったわ。これだから観戦はやめられない」

(よ…よ…よかったあああ……)

 

一方で一部始終を見終えたオリビアのは安堵していた。何故あんな場所で戦うことになったのかどうかは気になって仕方ないが、それはそれとして生還したことには喜ぶべきだ。

 

(リリィならあの状況でもどうにかやっていけそうだけど…問題は私とフェリクスだよなぁ…)

 

一度冷静さを取り戻しつつ今後の動きについて考えようとした…が。

 

「えい」

「ひぃ!?」

 

耳に冷たい感触が襲い掛かり思考を妨害される。横を見れば先っぽがハートの形をした悪魔めいた尻尾を顔の前で揺らし、ニッコリと笑うラウフの姿があった。

 

「んもう、私を差し置いて考え事をするなんて酷いわ…こう見えて寂しがり屋なのよ私?」

(…一番手っ取り早いのはコイツから情報を引き抜くことか)

 

オリビアは狙いをラウフに定める。実際、このようなVIP席を用意されてる客であれば、カジノの裏方の事情を知らずとも価値のある情報は得られるはずだ。

 

(よし、とりあえず何か話題を振って口を滑らせてや…)

「私の事について知りたい、って顔をしてるわね」

「…いったい何のことを…」

 

しかし、先に仕掛けてきたのはラウフだった。オリビアは少し動揺するが焦ることなく返事をしようとするが、口に人差し指を押さえつけられ口を遮られる。

 

「嘘をついちゃダーメ。お互い素直に話し合いましょう?ここなら何を話しても誰かに聞かれる心配もないし、何しても気づかれないのよ?」

 

オリビアは悩んだ。おそらくラウフは嘘を言ってない。質問すれば話してくれるだろうが、タダで済むとも思えない。

 

対価、物を買うのに金が必要なように、向こうが情報を差し出せば逆に情報を要求される可能性がある。もしそうなればオリビアは話さざる終えないが、うかつに自分の正体や魔石について語るのは避けたい。

 

(…仕方ない、ならこの方法を使うしかない)

 

決心をつけたオリビアは口を押えてたラウフの指を手でどかし口を開く。

 

「話してもいい…ですが、タダで話すなんてつまらないと思いませんか」

 

まさかの発言にラウフは面を食らい、より笑みを深める。

 

「確かにそうね、どうせ貴方とお話するなら楽しくやっていきたいわ」

「なら、カジノらしくギャンブルで決めませんか。私が勝てば質問に答えてもらいます。逆に貴方が勝てばどんなことでもしてあげましょう」

「あら?どう考えても貴方の支払う対価が私より大きすぎると思うけど?」

「問題ありません」

 

オリビアは不敵な笑みを浮かべ、堂々と言い切った。

 

「私は絶対に負けない」

「…フフフッ!いろんな娘と相手をしたことはあるけど、貴方ほど強気な娘は初めて見たわ!」

 

尻尾を上機嫌に振らし、思わず笑いがこぼれるラウフ。

 

「いいわ、その勝負受けさせてもらうわ!私が勝った暁には…情報ではなく身体の方で支払ってもらおうかしら?」

「何だっていいですよ、私が勝てばいいだけですから」

 

オリビアは内心ガッツポーズをする。正直、情報を吐くぐらいなら多少は身を犠牲にしたほうがマシだ。それになにより…。

 

(勝った!もはやここまでくれば負ける通りはなし!)

 

鬼才のギャンブラーと思い込んでいるオリビアにとって下手に弁舌で挑むよりは、ギャンブルで勝負する方が確実に勝てると確信しているのだ。

 

(間抜けすぎるなラウフ!もう少し私について知っておれば、こんな不利な勝負で挑まなかっただろうに…)

 

まだ勝負自体始まってないのに勝った気でいるオリビアをよそに、ラウフは近くにあった椅子や机を移動させ、机の上に束状のトランプを置く。

 

「それじゃあ早速始めましょうか」

「えぇ、手加減はしませんよ」

「ウフフ…なら見せて頂戴?貴方の本気を」

 

 

 

 

「おい聞いたか、闘技場での前哨戦のやつ」

「魔物相手に素手で勝った化け物がいるって話か?」

 

カジノの地下、リリィが捕らえられていた地下室内にて、二人の警備員が雑談を交わしていた。

 

「信じられねぇな、上が盛り上げる為に仕掛けたやらせじゃねぇか?」

「いやマジなんだって!ライオンの魔物を空に蹴飛ばして頭をぶっ潰したドラゴニュートがいたんだよ!」

「魔物じゃねぇ普通のライオンでもありえねぇだろそんなの」

 

一人は興奮気味に話すが、もう一人は呆れた様子で壁に背をもたれかけ聞き流していた。

 

「…ん?」

「どうしたんだ?」

 

壁にそをもたれたまま、警備員は目の前にポンと置かれていた段ボールに目を付けた。

 

「…あれ、動かなかったか?」

「ハァ?お前何言ってんだよ」

「いや一瞬ガサガサと段ボールが動いて…」

 

次に視線を向けた時には、段ボールはそこにはなかった。

 

「あ、あれ!?」

「オイオイ、段ボール自体が嘘じゃねぇかよ。俺の話は信じなかったくせに、嘘を言うなんて呆れるぜ」

「いやマジなんだよ!確かにあったんだよあそこに一人でに動く段ボールが!」

 

気づけば口論になりかけてる二人を横目に、一瞬にして段ボールは物陰に隠れていた。中から安堵の呼吸が聞こえる。

 

(…意外とバレないものですね)

 

箱の中で隠れていたフェリクスは心の中で独り言を喋る。

バニースーツからいつもの和服に着替えたフェリクスは警備員に見つからないようダクトを通って調査を行っていた。気づけば地下と思われる場所にたどり着き、そこでダクトから抜け出して調査を始めることにした。

 

(見たところあるのは牢屋に武器倉庫と…うーん、魔石がありそうなところがないなぁ…)

 

今のところ目ぼしい場所は見つかってない。警備が厳重で自由に調査できないのがネックであり、段ボールで隠れての移動には限界を感じていた。

 

(仕方ない、少し手荒だけどここのを借りるとしよう)

 

いったん調査を中断し、辺りを見渡す。どの警備員も二人態勢であり、一人で警備してる者は目立つ場所にいて狙いにくい。

 

(ムッ!)

 

その時、ちょうど一人の警備員が個室に入っていったのを捕えた。

 

(確かあそこはさっき調べた際には人はいなかったはず…となれば狙い目はアイツか)

 

バレないよう段ボールで隠れそそくさと移動し、音を立てずドアを開けたフェリクスは急いで中へと入っていった。

 

 

 

「ハァー…突っ立てるだけの簡単な仕事って聞いたのにマジだりぃー…」

 

ガチャガチャと音を立てながら警備用の重装甲スーツを脱ぎ捨て、気だるそうに文句を言う一人の女警備員…正確にはローテ・ヘンドラーの構成員がいた。

 

「まだ来てばっかだけどもうやめてぇなここ…はぁー、早く帰って寝てぇなぁ」

「なら今すぐ眠らせて差し上げますよ」

 

突然背後から声が聞こえた構成員はすぐにナイフに手を伸ばそうとしたが、それよりも先にフェリクスが構成員の頭を掴む。

 

「アガッ!?」

 

一瞬にしてフェリクスは構成員の首を180度回転させる。構成員は数回痙攣し動かなくなった。

 

「よっと」

 

そして空いてたロッカーの中に投げ捨て、中にあった構成員の身分証らしきものを拝借しロッカーを閉じた。念のためにカギも占めておく。

 

「次はこの服か…重そうだなぁこれ…」

 

フェリクスが目を付けたのはテーブルの上に雑に置かれた重装甲のスーツとヘルメットである。正直あまり好きではない防具だが、顔も隠せるし何より今ロッカーで死体となった構成員の代わりを勤めなければならない以上文句は言えない。

 

 

 

「…重いよぉ」

 

数分後、装着するのに手間がかかったが、何とか変装することには成功した。ヘルメットも被ってることで顔は見えず、幸いにもサイズが丁度よい。和服を着てる上でもなんとか着ることができた。

欠点があるとすれば極めて動きづらいことだが。

 

「声…ヘルメット越しだしなんとか誤魔化せれるかな?てか名前は覚えたけど喋り方とかどうし…」

 

そんなことをブツブツ言ってると、扉が強く開かれる音が響いた。

 

「オイ!いつまでサボってるつもりだ!もう次の見回りに行くぞ!」

 

ヘルメット越しからでも怒りが感じ取れる警備員の怒声にビクッとしながらも、すぐに振り返り返事を返す。

 

「アッハイ!スミマセン!」

「アァ…?なんか声変じゃねぇか?」

「エッ!?そ、そんなことないですよ!とりあえず次の所に行きましょうよ!」

「…まぁ、いいや。とっとと行くぞ、遅れて説教されるなんて御免だからな」

 

一瞬違和感を持たされたが、なんとか誤魔化すことに成功し警備員は部屋から出て行き、その後をフェリクス追う。

 

「あのー…次って何をするんでしたっけ?」

「なんだ忘れたのか?次は収容所のほうだよ」

「収容所?それって人が…」

「あー、そっちじゃねぇ」

 

早歩きで向かう警備員は何の疑問も抱かず、こう言った。

 

「魔物の方の収容所だ」

 

 

 

 

「ハァーッ…ハァーッ…」

 

あれからギャンブルでの勝負から数時間は経ったか。オリビアはベッドの上で寝そべって荒く息継ぎをし、呼吸を整えようとする。部屋中には身体の本能を滾らせるような匂いで充満しており、呼吸自体するのもキツイが、しなければ意識が飛んでしまう。

 

「…ねぇ、オリビアちゃん」

 

その隣にはドレスを脱いで何も着ていないラウフの姿がキセルを吹かせながらオリビアに問いかけた。

 

「次で9回目の勝負になるけどまだ…」

「まだ!負けてない!!私が諦めない限り!!!」

 

バニースーツが着れなくなるほどの状態になった故に、何も着ていないオリビアはすぐに起き上がる。

 

「今度こそは勝てる!今に見ていろよ!!」

(どう考えても負け続けてるようにしか見えない…まぁ、かわいいからいっか!)

 

ラウフは深く考えず勝負を承諾。二人のギャンブルはまだまだ続いた。




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