便利屋イグニート   作:文ノ雪

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魔法の薬

「さてと、帰ってきたはいいがこれからどうするよ?」

「まずは聞き込みから始める、面倒だが最初にやるならこれが一番だ」

 

シュヴァルツアクスの本部で依頼を受けた二人は事務所に戻り、何をすべきかで話していた。

 

「へー!事務所って結構広いんですね!もっとこじんまりしてるもんだと思ってました!」

 

来客者…いや、新たに加わった一人の仲間を連れて。着物のような上着を着た少女…フェリクスは事務所の内をまるで秘密基地に来た子供のようにキラキラと目を輝かせ見渡している。

 

「…なんつうか、さっきまで縮こまってたのに急に元気になったな」

「だいぶ落ち着いてきたんだろう。さっきまでの空気でいるよりかマシだ」

 

二人ははしゃぐ子供を見守るような感覚でフェリクスを眺めていた。

 

 

事の経緯は二人がシュヴァルツアクスの本部から出ようとした時に起きた。帰ろうとした際にベルナデッタに呼び止められある頼み事を任された。

 

「もしよければウチのフェリクスを任務に同伴させてくれないか?」

 

任務を行う際にフェリクスの同伴…言い方を変えればフェリクスの世話をしてほしいを頼まれたのだ。当然最初は拒否しようと二人は考えた。単に諸突猛進な彼女の世話をしたくないという気持ちもあったが、いくら依頼元の組織とはいえマフィアの一員を側に仕えさせるのは情報などを抜き取られるリスクも考えていたからだ。

しかし、性格にやや難はあるとはいえ彼女の実力は実際に戦ったオリビアからしても頼もしくあり、これからギャングとの戦闘は避けられないのを考えれば即戦力は得という利点もあった。そしてなにより、ベルナデッタ曰く彼女は麻薬交渉現場を直接目撃した数少ない人物だと言う。現場を目撃したはいいもののシュヴァルツアクスのシマ内でそんなことをしてるのにキレたフェリクスが考えなしに突撃し売人のギャングはのがしてしまったが。

 

とにかく、ややリスクはあるがそれでも同行させたほうが色々と役に立つと思い二人はフェリクスの同伴を認めた…のだが。二人が迎えにいくべくフェリクスのもとへ向かうと。

 

「申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁ!!!」

 

と出会ってすぐにフェリクスがあまりにも見事な土下座をして見せたのだ。フェリクスを躾していたマフィア曰く。客人、それもボスが直々に寄越したというのを知った瞬間絶望したような表情になっていったらしく。解放した後には自力で立てないぐらい弱り切ってたらしい。

二人は何度も土下座をやめさせようとするが、フェリクスは聞き耳も持たず、最終的に切腹するとか言い出し、ベルナデッタが殴り飛ばしてようやく落ち着いた次第だった。今は事務所まで連れて来た形だ。連れ出した当初は借りて来た猫の如く何もしゃべれず元気もなかった。だが、二人が何度も気さくに話しかけてくれたのも功をなしたか、落ち着き元気も取り戻した次第だ。

 

「じゃあ聞き込みと聞きましたけど今からギャングどもをシメて情報を吐かせにいきますか?」

「普通に街の人に事件について話し有力な情報がないか探すに決まってんだろ」

 

マフィア教育の賜物か二人より年下だが物騒なことを平然と言うフェリクスにオリビアは思わずツッコミを入れる。

 

「では早く行きましょう!善は急げや思い立ったが吉日と言いますし!」

「わかったから、ちょ!袖を引っ張るな!お前結構力があるから破けてしまいそうなんだよ!」

「まぁ…あれぐらい元気あるほうが楽しいし引き受けて正解だったな」

 

フェリクスに引っ張られるオリビアの後に続きリリィは楽しそうに笑いながら外へと向かった。

 

 

 

「便利屋って車持ってないんですか?」

「ないな、数年前よりマシになったがクソ高ぇんだよな」

「作った方が安く済むぞ」

「え?作れるんですかあれ??」

「フッ…まぁその程度なら私でも…」

「あぁ、オリビアはこの前『試験機ができたぞ!』って自信満々に二人ぐらいしか乗れねぇ車を作り上げたぞ。まぁエンジン入れた瞬間爆発したが」

「失敗してるじゃないですか」

「あれはエンジンの部品に異常があっただけなんだよ!本来なら最大150kmの馬力を叩き出せるぐらいの傑作だったんだよ!」

「拾った部品でそんな出力を叩き出そうとしたから爆発したんだろあれ。事故処理で何十万メルク吹っ飛んだと思ってんだ」

 

三人は雑談をしながら道を歩く。時刻は真昼、街は賑わいを見せ、通行人も三人みたく雑談するものや買い物を楽しむもの、中には昼間っからカジノに入店したり、店でトラブルを引き起こしたのかギャングと思わしき者が店の用心棒にボコボコにされてたりと色とりどりの景色が広がる。

 

「というかオリビアさんって戦闘だけじゃなくて何か作ったりとかも得意なんですか?」

「まぁな、依頼で物の修理を頼まれることもよくあって、自然と身についたんだ」

「プライベートでもたまに変なの作っては見せびらかしてるしな」

「変なの言うんじゃ…ん?」

 

言い返そうとしたオリビアが唐突に言葉を閉ざしある方に目を向けた。二人も不思議に思い同じ場所に視界を動かす。そこにいたのは昼間の人がたくさんいる街中であっても真っ先に目に入るほど全身黒ずくめの軍服を身にまとい、腰には小銃と拳銃がベルトに掛けられ、軍服同様黒い軍帽の光を模した真っ赤な帽章があった。

 

「親衛隊の連中だ。下手に目を合わせないほうがいい」

「ウワッマジかよ…面倒ごとが起きる前にさっさと目的の場所に行こうぜ」

「リリィさん壁になってくれませんか?私は姿も見せたくないので」

「人をなに壁扱いしてんだテメェ」

 

親衛隊。グロリア帝国における治安組織であり、諜報機関であり、最も恐れられている存在だ。黒い軍服は彼等の制服である。

主にこうした街中の警備や暴動の鎮圧など警察としての役割を持つ。時には苛烈な治安維持を行うこともあり、任務の為なら犯罪者や暴動を起こした者などを殺すことを公的に認められている。その規模も凄まじく、公式に発表されてる隊員数は約40万人とされている。そのうえ小銃などの武装化も認められ、グロリア帝国における第二の軍隊という側面を持つ。

入隊するのも難しいことから鉄血のエリート組織として人気もあるが、当然悪い噂もとてつもなくある。故にグロリア帝国の人々はなるべく彼等の前では目立つ行為は避け、目も合わせないようにしている。彼らもまた、この街中で不穏な動きをしている者がいないか監視してる最中なのだ。

 

「あいつら嫌いなんですよ…何人か知り合いが親衛隊によって鎮圧の名義で殺されてますし」

「あまりそういうことを言わんほうがいいぞ、あいつらは地獄耳だ。オレらの会話も聞かれてるかもしれねぇ」

「いいから行くぞ。フェリクスの事がバレたら面倒だ」

 

当然ながら親衛隊にとってマフィアやギャングといった反社会的勢力の存在は敵であり、フェリクスも身元がバレたら鎮圧対象だ。三人はなるべく目立たぬよう隠れ、目的の場所へと向かった。

 

 

 

「うーん…噂で聞いたことあるけど、あんまよくわからないなぁ」

「そうか…わかった協力感謝する。すまないな急に呼び止めてしまって」

 

オリビアと会話していた制服姿の学生は軽くオジギをし後を去った。

 

「…今のところ手がかりなしか」

 

現在、便利屋イグニートの三人はある学園に調査ということで中に入っていた。今回の麻薬関連の被害者はフライハイト内で多く発生しているが、奇妙なことにこの学園の学生たちが被害者として多く寄せられていた。そこでオリビアたちはここの学生なら何か情報を持ってる者がいるし、三人とも別れ聞き込み調査を行っている…が、かれこれ1時間、有力な情報は今だ得られていない。

 

「よぉ、そっちはどうだ?」

 

別のほうからやってきたリリィが声をかけた。

 

「全然だな、新しい情報はいまのところない」

「オレも何十人か聞きこんだが、だーれも情報を持ってなかったよ。流石に安直過ぎたか?」

「まぁいいさ、こういうのは何もないのが前提みたなもんだ。早々情報が転がって来や…」

「オリビアさーん!リリィさーん!」

 

声の聞こえたほうへ向くと、走ってこちらに近づくフェリクスがいた。

 

「どうしたフェリクス?なんかあったのか?」

「調査に役立つ情報を得られましたよ!」

 

フェリクスはフンスッとドヤ顔をしながら報告した。二人は顔を見合わせる。

 

「新入りに手柄先取りされちまったな、このままじゃシュヴァルツアクスからナメられちゃうぜ?」

「情報が得られたならなんであれヨシだ。それで、どんな情報だ?」

「なんでも麻薬を完成させたと言った生徒がいるみたいです」

 

まさかの情報に二人は再び顔を見合わせた。

 

「マジかよ、そいつが誰なのかわかってるのか?」

「ハイ、知り合いという人から聞きましたよ。名はカチュア、魔導学科に所属する生徒です」

「……魔導学科?」

 

オリビアは訝しんだ。それもそのはず、本来であれば魔導はその名の通り魔法に関することを学ぶ為の科目であり、薬物と分野が全く異なる。普通であれば麻薬を作ろうと考えてもできるわけがないのだ。

 

「魔法で薬でも作ったんですかね?私はそういうのあまり詳しくないですけど」

「できないことはない…が、学生一人で作れるのは不可能と言っていい。麻薬となれば毒魔法が絶対に必要だ」

「毒魔法…それって確か禁術に指定されてたよな?」

「あぁ、アステール大戦では毒魔法で多くの戦死者を出したことや、気軽に毒物が作れるという危険性。色々な要因が重なった結果、大戦終結後に国際法として禁術とし、誰であっても扱うことが許されなくなったんだ」

 

事実、魔法の中には禁術として指定されたものがいくつかある。中でも有名なのは毒と死者蘇生であり、前者は毒そのものの危険性から、後者は倫理的問題から禁術とされた。

 

「…これは今すぐにでもその生徒と会う必要がある。下手すりゃ更に大事へつながるぞ」

「よし、となりゃ直接カチュアってやつの家に乗り込むとするぞ。もしそいつの言ってることが本当なら間違いなく証拠品があるはずだ」

「おぉ!ついにカチコミするんですか!そうすると思って住所も既に聞いてますよ!なんでもここからすぐ近くのマンションに住んでるみたいです!」

「そいつは助かったが…フェリクス、お前もしかして情報集めたりするの得意なのか?1時間でよくそれだけ集めれたな」

「こういう探し物であれば普通の人の二倍で動ける自信があるので!」

 

再びドヤるフェリクスに若干呆れる二人。とにかく、三人は急いでカチュアが住んでるとされるマンションへと向かった。




少し遅くなりました、すんません
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