便利屋イグニート   作:文ノ雪

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毒に侵された者

「すみませーん」

 

ドンドン、とオリビアは扉をノックするが反応を示さない。麻薬を作ったと言う生徒カチュアに会うべく、三人は彼女が住んでるとされるマンションの部屋の前まで来て何度も呼びかけているが、出る様子はなかった。

 

「いねぇな。流石にいきなり来て出会えやしねぇか」

「うーん、どうします?出直しますか?」

「普通ならそうするが、あまり悠長に時間を掛けたら感づかれて雲隠れするかもしれん。ギャングと絡んでるとなればなおさらだ」

 

薬の売買はギャングが行ってたことから、カチュアも裏社会の人間と関係を持ってるのは確実と言える。故に事が多きくなりすぎて親衛隊なども動き出す事態となれば二度と表に出てこないと考えていた。

 

「…仕方ない、あまりこういうのはしたくないが」

 

そう言うとオリビアは懐から細長い棒状の道具を取り出すと、棒を鍵穴に入れる。

 

「人が来ないか周りを見ていてほしい」

「おうわかったぜ。ほら、フェリクスも見張り手伝いな」

「…まさかのピッキングですかオリビアさん?」

 

フェリクスの言う通り、ピッキングだ。この道具はオリビアが任務に便利として自作したものだ。

 

「いいかフェリクス。任務というのは時に緊急を要する時やどうしようもない時もあるんだ」

「マフィアの自分が言うのもあれですけどいいんですかそれ?」

「まぁ、確かにチマチマしてるし何より時間が掛かるわでオレは嫌いだけどな。こういうのはドアをぶっ飛ばせば済むってのによ」

「そういう問題じゃないですよ!?」

 

当然ながらバレたら捕まってもおかしくない。しかし、世の中にはこんな言葉がある、バレなければ犯罪にはならない。オリビアとリリィは何かとグレーなこともしてきたのだ。

 

「ヨシ、空いたぞ」

「おっ、これで中に入れるな。ほら、誰か来る前に入るぞフェリクス」

「随分手慣れてますね…」

 

何はともあれ、三人はいそいそとカチュアの部屋へと入っていった。

 

 

 

「部屋の中はいたって普通だな」

 

室内を見渡しながらリリィはそう呟いた。かれこれキッチンやリビングなど調べているが、質素で特に変なところはなく、麻薬に繋がるような物はどこにもなかった。

 

「となれば…あとはこの部屋だけか」

 

オリビアが目を向ける先にあるのは扉が閉まられた一室だ。

 

「多分自室か寝室ですね、調べた部屋にベッドや布団はどこにもありませんでしたし」

「気をつけろ、罠がある可能性もあるからな」

 

警戒しながらゆっくりとオリビアは扉を開ける。部屋の中から矢が飛んでくることも爆発が起きたりはしなかった。それでも警戒を解くことはなく、オリビアは中へと足を踏み入れた。

室内は先ほどまで質素だった雰囲気とは一変、辺り一面には様々な機材や道具、なんらかの素材が入った棚などがあり、机の上にはたくさんの書類が雑に置かれていた。

 

「まさにって場所ですね。ここで麻薬を作ってたんでしょうか」

「間違いないと言っていいだろう。だが、優先すべきはカチュアと活動してるだろうギャングに関する情報だ」

「手紙か何かあればあればいいがな。欲を言えばそのギャングの拠点の住所だったりが欲しいが」

 

そんなことを言いながら早速三人は手当たり次第に調べる。元から散らかってるので多少物を動かしてもバレやしない。

 

「うーん…こういうのは専門外で何が何だかわかりませんね…」

「下手に触れるなよ、毒物があってもおかしくない。ものによっては私でも回復できないからな」

「ヒエッ…」

「つっても、迂闊にビンの蓋とかを開けたりしない限りはそう滅多なことは起きねぇよ」

「経験者となれば説得力が違うな」

「ちょ、テメッその話は」

「オリビアさーん!リリィさーん!これみてください!」

 

フェリクスの呼び声により話は打ち切られ視線を移す。彼女の手には一冊の本があった。

 

「これ、ざっくりとしか読んでませんが日記ですよ!」

「いつまで書かれてるかわかるか?」

「えーと…最後に書かれたのは三日前です!」

「中に書かれてる内容次第だが、これは大きな収穫だぞ」

 

実際、カチュアが日々の記録をキッチリと記録を録っているなら大きな情報源となる。

 

「よし、さっそく中を見てみるぞ」

 

オリビアは日記を開いた。

 

 

『学園生活が始まるのを記念して日記を始めた。とりあえず一日目はこんな感じでいいだろう』

『魔導学科に来たはいいがあまり成果をだせない…もっとうまく魔法を扱えるようになりたい』

『金がない、なんとかしないと…』

 

中を見るにどれもネガティブな内容が多い。しばらくページをめくると興味深い内容が書かれていた。

 

『最近になって水を出せる魔法を使えるようになった。でも普通の水魔法とは何か違う、授業で習ったことのない魔法だ』

『試しに虫や動物などにかけてみたら、まるで自我を失ったかのような動きをし始めた』

『自分で試して確信した。毒だ。頭が、ふわふわす』

 

そのあとの文章は文字がぐちゃぐちゃになっており解読はできなかった。

 

「…天性の才で目覚めたタイプか。それによりにもよって毒とは、ついてないなカチュアって子は」

「確か毒魔法って禁術指定されてましたよね?意図せず使えるようになった場合ってどうなるんですか?」

「法的にそこらへんは触れられてねぇ。あくまでも毒とかの魔法を使うなってだけだからなあの法律」

「国際法と言うには雑ですね…」

「悪意持った扱い方さえしなければ厳罰に処されることはない、まぁ魔法が使えなくなる魔導具をつけられることもあるが…っと、ようやくまともに読めるページがあったぞ」

 

会話しながら空白や乱雑に書かれた読めないページを飛ばし、新たに書き直されたであろう日記に目を通す。日付的に毒魔法を知って2週間たっていた。

 

『毒で入院する羽目になったが、とりあえず毒魔法の事はバレることはなかった。これからどうしよう…』

『バレたら学園生活どころじゃない、最悪退学もありえる。捕まりたくなんてない…』

『とにかく毒をうまく扱えるようになるべく研究を行うことにした。もう自分で食らって死にかけるような目に合うのは二度とごめんだ』

 

そこから次の日記までには約1年もの期間が空いていた。それだけ熱心に毒の研究を行ってたのだろう。

 

『書く暇もなかったが新たな発見をしたので記入することにした』

『アタシの毒は相手の痛覚を麻痺させ一時的に痛みなどを感じなくさせ、神経を興奮させることができることがわかった。要は麻薬などに似た状態となる』

『この毒を魔法薬にすれば………今まで苦労して、金も無いなか頑張って研究したんだ。小遣い分程度…許してくれるはず』

 

「こいつ正気か…!?毒魔法の魔法薬なんて作ったら懲役どころか殺されかねないぞ…!」

 

オリビアは戦慄した。魔法薬とは、その名の通り魔法を付与された薬のことであり、回復の魔法を付与させれば傷を癒し、睡眠の魔法なら睡魔を呼び起こすなど、医療品として扱われてる代物だ。当然、付与する魔法次第では凶器となり、毒なんぞ付与するものなら立派な兵器になる。彼女の場合だと、麻薬と同じようなものができるのは想像に難くない。

本来であれば製造には免許などが求められるが、どうやらカチュアはその分野の授業を受けており、一般的に売られてる物よりは質が落ちるが魔法薬を作ることができるよだ。

その次の日記はまたしても期間が空いている。

 

『最初は学園の知り合いに売りさばいた。特に疑うことなくその場で飲み、前に記述した通りの効果を出した。効果時間は約6時間、想定以上の長さだ。作った魔法薬を人に飲ませたのは初めてだったが死ぬことはなくてよかった』

『よほど効果がすごかったのか薬を買った者達はこぞってアタシの薬を求めるようになった。学園内で目立つのは流石にまずいので次からは路地裏などで売ることにした』

『誰が言いふらしたのか知らないが、ある日マフィアみたいな人が家に来た。なんでもアタシの薬をもっと効率的に活用し更に稼げると。すぐに承諾し次から指定されたラボで開発を行うことにする。せっかく目覚めた才能なんだ、もっと有効活用しないと』

 

そこから日記は途絶えていた。

 

「なるほど、通りで学生に被害者が多いはずだ。買った奴が集団で利用し合ったりでもしたんだろう。そして、その薬の噂を聞いた裏社会の人間がカチュアをスカウトし来たってとこか」

「こえーなぁ毒って、こいつも毒で脳がマヒってんじゃねぇか?」

 

日記を閉じ、三人は再び話合いを始める。

 

「んで、この日記の通りだとすりゃ、とっくにここは放置されてるってことになるな」

「うーん…麻薬の正体が毒魔法によるものなのはわかりましたが。肝心のラボの場所も、協力してるギャングたちの情報もわからずじまいでしたね…」

「ともあれ有力な情報もあったのは確かだ。ひとまず麻薬を買った学生とやらに話を…」

 

その時。ドンドンドン!と玄関の扉を叩く音が響き渡る。三人は警察が来たかと思い隠れようとしたが、そこから続く声により隠れる必要はなくなった。

 

「開けろ!中にいるのはわかってんだぞ!」

「テメェらどこの組織の者だ?このマンションは俺達の拠点でもあるんだよ」

「おい、今すぐ鍵をもってこい!中にいる連中を引きずり出せ!」

 

明らかに怒りと殺意で満ちた声が扉越しで聞こえる。顔を見なくとも誰なのかはすぐにわかる、日記に書かれたカチュアの協力者たちだろう。

 

「探す手間が省けたな」

「よーし!フェリクス、暴れる準備はできてるか?」

「もちろんです!私はいつでもカチコミできるよう武器は用意してますから!」

 

 

「鍵を持ってきました!」

「よし、今すぐ開けるぞ」

 

扉の外にいたのはラフなジャケットなどを着たまさにギャングと言える恰好をした男たちであり、手にはナイフやバールなどを持っており、明確な殺意を放っていた。

 

「相手は三人だけと聞いた、俺達総出でかかればどうにでもなる」

「殺すなよ、とっ捕まえて何が目的か吐かせねぇといけ…」

 

ギャングの一人が扉に手を掛けた…次の瞬間。扉が突如として弾き飛ばされギャングを何人か巻き込み壁に下敷きにされた!

 

「なッ!?一体なにが」

「とりあえず、眠ってろ!ウォラァ!!」

 

瞬間、扉から飛び出してきたオリビアがギャングの一人の胸ぐらを掴み、固まってるギャングたち目掛け投げ飛ばす!ギャングたちは避けることもできず衝突!ストライク!

 

「クソッ!お前ら!早くこいつを」

「おっとぉ、先を越されたか」

 

次に扉から現れたのは2m近い身長を持つ巨大な影、リリィは二ヤリと笑いながらギャングを殴り飛ばし、持っていたバールを奪い取る。

 

「んー、短いし武器としてはやや不安だが…まぁいいかあ」

「死ねぇ!」

 

背後からナイフを持ったギャングが襲い掛かる、だが!

 

「グヘッ!?」

 

リリィの巨大な鱗のある尻尾がギャングを弾き飛ばした!尻尾もドラゴニュートの武器なのだ。

 

「どこの連中か知らねぇがウチのシマを散々荒らしやがって…」

 

最後に出てきたのはギャング以上に怒りをむき出しにしているフェリクスだ。彼女は前々からシュヴァルツアクスのシマを荒らし、ナメ切っているギャングたちに慈悲を掛けるつもりなどありやしない。

 

「テメェら全員無事で帰れると思うなッ!シュヴァ…私の実力を見せてやるよ!!」

「組織名名乗りかけて言い直したな」

「一応直そうとする気概はあるんだなアイツも」

 

こうして依頼中では初の戦闘が幕を開けた…!




次回は久々のバトル回です
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