便利屋イグニート   作:文ノ雪

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赤の商人

三人が裏路地に入って十分ほど経っただろうか、気づけば広い空き地へとたどり着いた。来た道以外で通れそうな道はなく、わずかなネオンライトしか照らされていない薄暗い空間。状況によっては袋のネズミになりかねない場所だ。

 

「出て来いよ、私たちを追ってきたんだろ」

 

オリビアは振り返りながら声を掛けると、暗闇の奥から黒いスーツを着た者たちがぞろぞろと出てきた。マンションで戦ったギャングとは比べ物にならないほどの強さを感じ取れる。スーツの柄にはタコの紋章を模したバッチを着けている。ローテ・ヘンドラーの代紋、この者たちはマフィアだ。

 

「ローテ・ヘンドラーの尖兵です。おそらくキュリアに命令されて来たんでしょう」

「思ったより早いご登場じゃねぇか、それにわざわざこんな数を集めるとは随分警戒してるな」

「それだけ価値のある相手と考えてるもんでな」

 

落ち着いきとどこか威圧感を感じる声が辺りを響かせた。道の奥からまた新たな人影。赤黒いスーツを身にまとい、顔の右目辺りには火傷跡のようなものがあり、タバコを加え睨みを利かせる女が出てきた。先にやってきたマフィアたちが道を開けるように二手に分かれた。

 

「…誰だお前は、只者ではなさそうだな」

 

異質な光景を前にオリビアは警戒心を更に強め、構えを取りいつでも攻撃できる体勢になっている。

 

「誰、とは…ハハハ、まさか顔も知らず探そうとしてたのか?」

 

その問いに女は嘲笑うかのように一通り笑うと、すぐさま無表情に戻る。その目には生気を感じられない。

 

「だがまぁ、初対面だからな、商人たるもの挨拶するとしよう。ローテ・ヘンドラーがカポ、キュリア・カンパーニュだ」

「なんだと!?」

 

フェリクスは驚愕のあまり声を荒げた。オリビアとリリィも驚きの表情を隠せずにいる。当然だ、探し出そうとした人物がたった今、目の前に現れたのだ。

 

「どうした?お前たちがご所望してるからわざわざ歩いてきたってのによ、少しは喜んだらどうだ?」

 

キュリアは気だるそうに喋べる。オリビアはハッとし動揺を押し殺して口を開いた。

 

「仮にも幹部がわざわざ顔をだしてくるは思って無くてな、流石に驚いちまったよ…何の用だ?わざわざ私たちを始末するだけなら来る必要などないはずだが」

「なに、対した用事ではない。そこの白いローブの姉ちゃんがどう抗うかを直接見たくてね」

「何…?」

 

困惑するオリビアに気にも止めず、キュリアがタバコを投げ捨てると、周囲にいたマフィアたちは武器を構え始めた。剣、メイス、手鎌、といった多種多様なAKWから、拳銃を装備してる者さえいる。

 

「いいか、シュヴァルツ・アクスのガキは殺して残り二人は両手両足を斬るなりへし折るなりして動きを封じさせろ。そいつらには聞きたいことが色々とあるからな」

 

その言葉と同時にマフィアたちは気を引き締め戦闘態勢に入る。

 

「うちの部下は手加減が苦手なもんでな、そっちがシャッキとしてねぇとミスって殺しかねぇからよ、出せる力をしっかりと出してくれよ?」

 

キュリアはすぐ隣にいたマフィアが持って来た曲剣型のAKWを手に持つと、エンジン音を鳴らしながらこちらへと歩み寄ってきた。

 

「ヘンドラー(商人)を名乗ってるくせにやることが交渉より先に暴力とはな、そっちがその気ならこちらもそれにあった対応をしてやるよ」

「殺さないよう手加減しろだぁ?随分とナメられたものだな!」

 

リリィは不機嫌そうに尻尾を地面に叩きつけ怒りを表し、オリビアもまた穏やかな雰囲気ではない。二人は負けず嫌いかつバカにされるのが大嫌いなのだ。

 

「気を付けてください!先のギャングとは比べ物にならないほどの強いですし、武器も明らかに強化されてます!油断したら一発で死にかねませんよ!」

「あぁ、わかってる。あの武器の質は間違いなくいいモノだ。だが、負ける気はない」

「おしゃべりは終わったか?ならはじめぞ…どれだけのものか、見させてもらおうか」

 

ゆらりと近づいたキュリアは急に駆け出し、真っ先にオリビア目掛け斬りかかる!

 

「当たるか!オラァ!」

 

背後へステップし回避すると同時に、オリビアのサマーソルトが炸裂!顎を蹴り上げ意識を飛ばせる…はずだった。

 

「いい蹴りじゃねぇか。一介の便利屋にしては良くできている」

「なに…!」

 

オリビアの脚は顎に当たる寸前で掴まれ届いていない。常人なら到底できようのない対応力。

 

「まずは、脚か」

 

キュリアはそのままオリビアの脚を目掛け曲剣型AKWを薙ぎ払う。エンジン音が響きわたり触れれば切断不回避だ!

 

「させるかよ!」

 

だが、リリィがインターラプトにより曲剣は届かず、その隙に残った片方の脚でキュリアを蹴り上げオリビアは距離を取った。

 

「リリィさん!後ろ!」

「キュリアさんの邪魔をするんじゃねぇ!」

 

その勢いでキュリアに攻撃を仕掛けようとしたリリィだったが、マフィアが背後から剣を振りかざしながら突進!フェリクスの呼び声もあって難なくよけるも、他のマフィアたちが集まりキュリアへの道を阻むよう固まる。ちらりとフェリクスのほうを見れば、既に何人ものマフィアを相手に一人で戦っていた。

 

「チッ、悪いが援護は難しい!そいつは任せた!」

 

リリィはまずマフィアたちを一掃することに重点した。

 

「これなら邪魔なくサシでやり合えるな。お仲間の助けは期待できねぇぞ?」

「最初から頼りきるつもりはない」

 

生気がなく虚ろで、どこか野生的なギラギラを感じる目で睨まれてもオリビアは恐怖することなく逆に睨み返す。

 

「二人がお前の下っ端を片付けるまえに、私がお前を倒す!」

「…その自信、目つき、嫌いじゃないぞ。だからこそ、潰し甲斐がある」

 

その瞬間、先にオリビアが駆け出し右ストレートを放つ。キュリアは曲剣の剣身で防ぎ、そのまま蹴り飛ばそうとするが。

 

「爆ぜろ!」

 

その言葉と同時に曲剣…否、オリビアの右手拳から爆炎が発生!キュリアは思わず手放し曲剣は宙を舞う、その隙に彼女は殴り掛かろうとした。

 

「なるほど、それがお前の得た力か」

 

キュリアは一切同様した様子を見せず、着ていた上着をとっさに外しオリビアに投げつけた!

 

「なっ!?」

 

思わぬ行動に困惑するもすぐに取り払うが、目の前にいたはずのキュリアがいない。

 

「ウラァッ!!」

 

真上から響いたシャウトに合わすよう見上げると、曲剣をキャッチしていたキュリアが斬りかかろうとしていた。もはや下手に避けること自体がリスクになりうるところまで刃は近づいている、後ろに下がることはできない、ならば!

 

「グッ…ガアァ!!」

 

オリビアはキュリアの攻撃を、両腕で受け止めた!曲剣から響くエンジン音と肉と骨が削れる鈍い音が鳴り、苦痛で表情を歪めるが、キュリアを蹴飛ばして刃を押しのけ、彼女も数歩後ろへ下がる。左腕から血が流れ落ち、目をそむけたくなるような深い切り傷ができている。

 

「防がれようと両腕共に切り落とすつもりだったが…なるほど、それがお前の本来の力、もしくは得た方か?」

 

一瞬、訝しんだキュリアだったが、すぐに腕を失わずに済んだ正体に気づいた。オリビアの両腕をよく見れば、薄くオレンジ色の光で包まれている。そう、オリビアは攻撃を受ける寸前にプロテスを展開し、本来なら腕を失うダメージを軽減したのだ!

 

「AKWは元々、あの大戦時に銃弾をプロテスで防がれ停滞した戦線を動かすために開発された要は対プロテスの武器。にも関わらず、重症を避けるために被弾覚悟で受け止めるとは大した精神力だ」

「どの程度なら受けても死にはしないかはだいたいわかるもんでね、その武器なら受けても問題ないと判断したまでだ」

 

オリビアは不敵に笑うキュリアから目を離しはしない。上着を脱ぎ捨てたこと至る所に傷跡のある肌が露出し下着が露わになるが、何より目立つのは右肩にある大きく牙を見せた獰猛なシャチのタトゥーだ。

 

「じゃああと何回斬って大丈夫か確かめるか」

 

キュリアは傷口が徐々に塞がっていくオリビアの腕を見ながら再び曲剣を構える。回復魔法は傷を治すことはできるが失った体力は戻らない、いくら回復魔法が強力でも限界はある。

 

「やってみろ、この傷のつけを何倍にしてでも返してやるよ!」

 

だが、オリビアはそのぐらいで臆しはせず同じよう構えを取る。先手こそ撃たれたが巻き返しようはいくらでもある、何より騒動に最も関わりのある大本を逃がすわけにはいかない!まだ完全に治っていない傷口に気にも止めず、今度はキュリアとカチュアが同時に駆け出し、再び戦闘は再開された!




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