TS魔術師、ラブコメ主人公に戦慄する   作:好きな主食はTS

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よろしくお願いします。


TS魔術師、弟子と出会う

高校2年生の春、新学期も数日が過ぎた頃、僕──リリスは女子高校生をやっていた

 

僕には、前世──日本で男として30代まで生きていた記憶があった

平凡な日常を送っていたはずだった

いつ、どうやって、死んだのか覚えていない

気づいたら、金髪の家族に囲まれて女の子として過ごしていた

 

豪華な食卓が毎日並び、華やかなドレスを着てパーティに出る

まるで貴族のような暮らしをしていた

 

そして何よりも驚くものがあった

この世界には摩訶不思議な力があった

 

魔術・超能力・法術

この3つを総称として異能と呼ばれている

 

───僕の家族は、由緒正しき魔術貴族の血を継ぐ名家

ファウスト家と呼ばれるその家系は、代々「空間・結界系の血統魔術」扱うことで知られ、魔術の世界でも指折りの家柄だった

 

父・グラウスは、沈黙の支配者のような男だった。言葉少なだが、絶対的な権威を持ち、家族全員と召使達が彼の一言で動く

母・セレナは、慈愛の仮面をつけた完璧主義者だった。一族の血と誇りを守ることを何よりも重んじ、家の品位を乱すものには容赦がなかった

 

長兄・カインは家督を継ぐべき存在で、いつも誇り高く、末娘の僕のことなど最初から眼中にない

次兄・レオニスは冷静で理知的、だがその瞳はいつも冷ややかだった

長女・イリーナ。彼女だけは……幼い頃、僕に微笑みかけてくれたことがあった。

そんな家で、僕は次女として育った

 

だが、7歳のある日

僕に決定的な"欠陥"が明らかになる

 

「リリスお嬢様には、血統魔術が発現しなかったのです」

 

待女の震えるような報告に、両親の表情が凍った

 

「……そんなはずがない」

母は、まるで壊れた人形のように繰り返す

「血に選ばれなかった者など、我が家には存在しない」

父がそう断じたとき、僕の存在は──この家から"なかったこと"にされた

 

屋敷の奥に幽閉され、数日後には何の前触れもなく追放された

衣服と名前以外のすべて失った

 

━━━━━━━━━━

 

その後の1年間は、生きる為に必死だった

街を彷徨い、寒さに耐えながらパンの切れ端を拾い、時にはスラムで騙され、襲われかけたこともある

 

──それでも、僕は生き延びた

 

そして、ある夜

偶然、僕は魔術書を拾った

その書は火を起こせたり、水が出せるような役に立てるものではなかった。ただの魔術理論が延々と綴られただけだった

 

けれど僕は、街外れの廃墟でその書を読み耽った

きっとこの夜から、僕の人生が変わったのだろう

 

数時間後

星の光のように輝く、小さな魔術式──僕だけの魔術がそこにあった。

血統ではなく、才能でもなく、ただ僕自身の"原理"を組み合わせて生まれた魔術。きっとこの時の魔術は魔術師なら誰でも扱える魔術だったのだろう。

 

だけど──それでも──

 

「……魔術って、楽しいな」

 

この瞬間、僕はこの世界の"理"に魅了されたのだ

 

もはや、僕を追放した家族のことなどどうでも良くなった

もはや、明日生き抜くための食べ物などどうでも良くなった

僕の頭の中は魔術のことでいっぱいになっていた

 

それから、ひたすらに魔術を独学で学び、試し、改良した

いつしか、街に僕に敵うものはいなくなった

街をでて、世界を渡り抜いた

 

世界は広かった

 

様々な現象を引き起こす魔術師達

数は少なけれど唯一無二の異能を扱う超能力者

神の奇蹟と呼ばれる法術を扱う聖職者

 

その者達と戦い、時には利用され、利用した

そんな日々の中、僕は確信した

 

魔術は"血統"や"才能"ではない

血統主義、保守主義、盲信と偏見

異能が存在するこんな世界であっても本当に異常なものには目を背けたがる

 

「ならば、僕が証明してみせよう」

 

異能とは何か

魔術とは何か

この世界の"理"とは何か

 

その真理を解き明かそう

 

そのために必要なのは、環境、資源、そして──"被験者"

 

━━━━━━━━━━

 

僕は14歳の頃、日本に渡っていた

 

世界中の至る所にある、異能者達を保護・運用する異能者組織──《自由なる翼》

その日本支部に籍を置き、表の顔として、「リリス・グレイ」として活動していた

 

ある日、上司に言われた

「来年は15歳になるのだから、高校にいきなさい」

そんな時間はいらないと反論したが、有無を言わさず制服を渡され、僕は女子高校生をやる羽目になった

 

憂鬱だった……

 

この世界は一般人には異能が秘匿されている

──故に、人前で魔術が扱うことができないのは僕にとってこの上ないストレスだ。

試したい実験、思いついた魔術式、現在進行中の計画の確認。

二度目の高校生活なんかより、やりたい事はあるのに……

 

けれど、そんな高校生活でも"最適な材料"を僕は見つけたんだ

 

高校1年の秋

夜の公園で、僕は一人の少年が魔物に襲われているのを見ていた

 

三神晃(みかみ あきら)

 

ボロボロの制服、傷だらけの体。そして気絶している幼馴染だろう女の子を庇いながら魔物に立ち向かっていた。

──日常では隠しているようだが、彼は"超能力"を持っているようだった

どのような超能力かはまだわからないがおそらく世界干渉系の異能だろう

 

拳を握りしめ、身体を武器のようにぶつける少年

だが──動きに"世界"がついてくるような奇妙な感覚があった

 

僕は公園の木々の影からその戦いを見ている

未成熟。出力も制御も甘い。だが、腐らせるには勿体ないと感じる

 

しばらく見ていようかとも思ったが、少年の息が切れているのに対して魔物の気配は膨れ上がっていた。魔物の攻撃に少年は対処しきれず、その身体に爪が振り下ろされようとしていた

 

「──さて、もう観察はいいか」

僕は軽く手をかざし、魔術を放った

 

直後──魔物の腕と胴体は斜めにずれ崩れ落ちる

少年は突然の出来事に唖然としていた

 

「……こんにちは、三神晃君」

「……あんたは……同じクラスのグレイさん?」

 

彼は警戒しながらも、僕の顔をじっと見つめていた。

それも当然か。学校では、僕は"話しかけづらい女子"として通っている

 

「……助けてくれた……ってことでいいんだよな」

「もちろん。まぁ君の戦いぶりを少し観察させて頂いたけどね」

「……っ、なら、もっと早く助けてくれてたら!」

「それより──その子のことは良いのかい」

 

三神君が慌てて駆け寄る。少女の脈は浅く、意識は戻っていない。魔物の血痕は確実に深部まで侵食している。普通の医療では間に合わないだろう。

 

「悠花!早く病院に連れて行かないと……いや、でも、今すぐには──!」

「僕がその子を治療してあげようか?」

「……できるのか?」

「そばにいていいから、見ててよ」

 

僕はしゃがみ込み、気絶している少女に近づき手をかざす。手のひらからは魔術式が現れ、女の子の身体が淡く光った

 

三神君の目が見開かれる

淡い光が彼女──悠花という少女の身体を包み、その傷をなぞるようにしてゆっくりと癒していく。切り裂かれていたはずの服の隙間から見える傷は、ほんの数十秒のうちにみるみる塞がり、まるで初めから何もなかったようになった

 

「……嘘だろ……なんなんだそれ?俺のこの力と一緒なのか?」

「君のそれは"超能力"僕のは"魔術"」

「……超能力?魔術?」

「もう一つ"法術"があって、まとめて異能と呼ばれるのだけれど本当に何も知らないんだね」

「……なぁ、それって一般人の俺が知ってはいけないやつか」

「僕の所属してる組織では、一般人に知られたら記憶を消すようには言われてるね」

 

少女の治療を終えた僕は、ニコニコと笑いながら脅すように彼に向けて手をかざす。

彼の顔は引き攣る。後退り強張る身体が面白くて思わず笑ってしまった

 

「フハハハハ、冗談だよ、半分だけ冗談。──でも君には二つの選択肢があるかな」

「……それはなんだ?」

「一つは冗談じゃなくて、記憶を消していつも通りの日常を過ごすこと」

 

三神君は、今度こそ冗談ではなく記憶を消されると理解したのか僕を警戒する。

だけれど僕は知っている。人間てのは誰もが非日常に憧れるようなものだから、もう一つの選択を君は選ぶのだろう

 

「もう一つは、僕と同じ組織に所属してもらう。君や僕と同じように異能が扱える人達が集まる組織にね。そこでなら、君も自分の力を知ることができるかもね」

 

三神晃はしばらく黙っていた

 

僕は三神君の返答を待つ

空は曇りがかっていたが、夜風は静かで心地よかった

 

そして──彼はゆっくりと首を縦に振った

 

「……わかった、その組織に入るよ。……教えてくれ。俺の力が何なのか」

 

 

━━━━━━━━━━

 

数日後

僕は彼を「自由なる翼」の日本支部に連れて行った

入隊処理も終わり、あとは新入りの教育係を決める段階だった

 

──が、そこで問題が起こった

 

上司が三神君の師匠役に僕を任命してきたのだ

超能力は専門外だと反論しても「超能力じゃなくて魔術を教えてあげなさい。それに同じ学校なら好都合でしょ」と言われ

同じ学校ならもう1人いるだろと言っても「せっかく助けたのなら、責任ぐらい持ちなさい。というかちゃんと彩芽ちゃんのこと覚えていたのね」と言われた

 

僕は組織の中でも、人と関わりを持たないでいる

僕が組織に入ったばかりの頃、僕に突っかかってきた子がいた。特に興味があるわけでもないので無視したのだ。その話題を出されると僕も引き下がるしかなかった

 

……三神君は後ろで話を聞いていた。

僕を残念そうに見る目が気に入らなかったので、脛を蹴った

痛がる姿を見て、少しだけ気が晴れた気がした

こうして僕と三神君は師弟関係となった

 

 

 

 

次の日の放課後の教室

クラスメイトたちのざわめきがまだ残っていた。

 

「──一緒に帰ろうか、三神君」

 

そう僕──リリス・グレイが言った瞬間、教室の空気が凍りついたような錯覚を覚えた

 

「……は?」

 

間抜けな声を上げた三神君は、椅子から半分腰を浮かせたまま、ぽかんと僕を見つめていた

 

「……あっ、ああ。お、おう」

 

戸惑いを隠せずに頷いたその様子を背に、僕は無言で教室を後にする。

後ろで誰かが「え、三神ってグレイさんと付き合ってたっけ?」と呟いたのが聞こえたけれど、気にしない

 

 

*  

 

 

高層マンションのエントランスをくぐると、三神君は思わず足を止めた

 

「マジかよ……」

 

目を見開き、口をぽかんと開けたまま、僕の後を追ってくる。エレベーターで最上階に近いフロアまで上がり、鍵を回すと、静かな電子音と共にドアが開いた。

 

「どうぞ。靴、適当に脱いで。ソファに座ってて。──着替えてくるから」

「お、おう……」

 

僕が部屋の奥へと引っ込むと、三神君は緊張した様子でリビングの真ん中に座る。

しばらくして、僕は部屋着──黒のパーカーに膝上のショートパンツ姿で戻ってきた。

 

ノートを片手に、テーブルの前へと腰を下ろす

 

「お待たせ。講義を始めようか」

「……お、おう。つーか、その……」

「なに?」

「いや……なんでもない」

 

僕はノートを開き、ページをめくる。

 

「さて──今日のテーマは“異能の基礎知識”だよ」

「この世界には、三つの超常技術がある。魔術・超能力・法術。これらをまとめて異能と呼ぶ」

 

三神君は真剣な表情で頷く。目は意外と素直だ。

 

「魔術は訓練によって誰でも扱える理論と技術。体系が整っていて、学べば学ぶほど強くなる。僕の専門分野だね」

 

「超能力は、君のように生まれつき持つ個別の力。発現時期は個人による。発現せずに生涯を終える人もいるかもね」

 

「法術は信仰と儀式による神の奇蹟と信者達は呼んでいる。主に教会が管理していて、信者の中から選ばれる特別な存在──聖職者が扱う」

 

 

「つまり、異能ってのは一つじゃなくて……複数の流派があるってことか」

「そう。そして異能者たちは、それぞれを管理・利用する組織に属している」

 

ノートに図解を描き、僕は説明を続けた

 

 

■主要な異能組織

 

・自由なる翼

→ 僕たちが所属する中立組織。異能者の保護・運用を担当。

→ 平和利用を掲げてるけど、裏ではけっこう色々やってるよ。

 

・教会

→ 法術を扱う宗教組織。政治力が強く、表の社会でも影響力がある。

→ 清廉な顔をしてるけど、腐敗と暗躍もひどい。

 

・魔術協会

→ 主にヨーロッパ圏の魔術貴族たちの集団。血統魔術を重視する保守派。

→ 異端を嫌い、改革を拒む。

 

・教団

→5年前に突如現れた非合法の異能犯罪集団。世界の裏側で魔物を創り、秩序を破壊しようとしている。

→魔術•超能力・法術の多様な異能者達が確認されている。

 

 

 

「──特に注意すべきは“教団”だね。あの日、君が戦った魔物も、彼らが創った可能性が高い。近年に現れたにも関わらず、他の組織と渡り合ってる狂人達の集まりだ」

 

三神君が顔をしかめる。

 

「教団か……。そいつらが魔物を創ってるってことは、あの夜の襲撃も偶然じゃなかったってことか?」

 

「偶然かどうかはわからないよ。教団は目的が曖昧でね。ただ一つ確かなのは、彼らが異能者を狙う傾向があるってこと。君みたいな未覚醒の超能力者は特にね」

 

僕がノートに「教団」の欄に赤ペンで丸をつけると、三神君の目が鋭くなった

「狙う? どうしてだよ」

「わからない。実験材料にするのかもしれないし、力を奪うためかもしれない。あるいはもっと別の理由が……。様々な組織でも教団の動きを追ってるけど、尻尾を掴めないんだ」

 

「……で、俺はどうすればいいんだ?」

 

「まずは自分の力を知ることだね。超能力は魔術と違って生まれつきのものだから、君自身が何をできるのか、どうやって発動するのかを理解しないと始まらない」

「でも、どうやって……?」

「簡単だよ。僕が君を実験台にしてあげる」

「……は?」

 

「フフ、半分冗談だよ。でも半分は本気。君の力を見極めるには、実際に使ってもらうのが一番早い。僕が観察して、分析してあげるからさ」

「実験台って……危なくないよな?」

「危ないかどうかは君の力次第だね。──さあ、立って」

 

僕はノートを閉じ、立ち上がる。三神君は戸惑いながらも、渋々ソファから腰を上げた。

「ここでかよ……」

「大丈夫。僕の部屋には結界が張ってあるから、多少暴れても外には漏れないよ。それに、君の力ならまだ家具を壊すほどじゃないでしょ」

「……わかったよ。で、何すりゃいいんだ?」

「とりあえず、君は超能力を使う時、何を思い浮かべる?」

 

三神君は目を閉じ、深呼吸をする

しばらく静寂が続いた。部屋の中には、エアコンの微かな音と、窓の外から聞こえる夜風のざわめきだけが響く。

その瞬間だった。部屋の空気がわずかに震えた。

 

僕の視界の端で、異変が起こる

三神晃の足元、床のカーペットが“何か”に撫でられたように揺らいだ。照明が一瞬チリと音を立てて、空間そのものが“たわんだ”。

 

世界が──少しだけ、“三神晃”に従ったのだ。

 

「今、なにか起きたよな……?」

 

晃が小さく呟く。自分の中で発生した力に、まだ自覚はない。だが、反応は確かにあった。

 

「起きたね。これは間違いない。君の力は、“因果干渉”だよ」

 

「いんが……?」

 

「因果。つまり“原因”と“結果”。君は今、その順序に干渉した。

──結果として、何かが“起きてしまった”から、それに見合う原因が後から補われたんだよ」

 

「いいかい、三神君。これはとても珍しい、そして非常に危険な異能だよ。世界のルールそのものに、君の意志が“選ばれる”形で干渉してしまう」

 

「……そんな大それた力、俺にあるのか……?」

 

「ある。けれど今は不安定で無意識──だから訓練が必要なんだ。さっきの、君が深呼吸をして“何かが起きてほしい”と願った。

それが、世界の“確定していなかった出来事”に干渉した」

 

「面白いな……。今の君は、そのうち“結果を選ぶ”力になるかもしれない」

 

「……ってことは、俺が“成功してほしい”って願えば、どんなことも上手くいくとか……?」

「……うん、そうなれる可能性はあるね。

ただし──君の精神と命を代償に、だけど」

 

僕は淡く微笑む。

だって、因果干渉なんて危険な力、そう簡単に制御できるものじゃない。

 

 

「……じゃあ、試してみようか。小さなところからでいい。

君が“絶対に成功させたい”と思うこと。何かある?」

「 えっと……たとえば?」

「コインを投げて、表を出す。君の意志で。──シンプルだけど、因果を操作する基礎練習になる」

 

僕は財布からコインを取り出して、彼に渡す。

 

「強く願って。そして、投げるだけ」

 

晃は緊張した様子でコインを手に取る。

深く息を吸い、目を閉じ──そして、投げた。

 

くるくると空中を回るコイン。

そして、リビングのテーブルの上に、音を立てて落ちた。

 

──“表”。

 

「やった……?」

 

「まあ一回だけなら偶然かもね。次も表を出せたら、少しは因果を引き寄せてるって証拠だよ」

 

「……わかった、やる」

 

何度か繰り返すうちに、表の確率が不自然なほど高くなっていく。

 

それを見て僕は、確信する。

 

──やはり、この力は"世界を選ぶ力"だ。

しかも、まだ未成熟な状態でこれなら──

 

(いずれ、この少年は“世界の結末すら選べるようになる”かもしれない)

 

「さあ、三神君。これから放課後、休日は特訓だよ」

 

「……マジか……」

 

彼のため息に、僕は小さく笑った。

 

「まあ、君がちゃんと使いこなせるようになるまで──僕が責任もって見てあげるよ。師匠としてね」

 

この日、三神晃は初めて“自分の力”を自覚した。

 

そして僕──リリス・グレイは、胸の内で呟く

 

あぁ、本当に

三神君に魔物をけしかけた甲斐があった

 

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