TS魔術師、ラブコメ主人公に戦慄する 作:好きな主食はTS
──これは、ラブコメでも、ギャルゲーでも、エロゲーでもない
そう、ないはずだったのに
何もかも順調なはずだった
自由なる翼の活動も、僕自身の魔術研究も問題なく回っている
……ただ、ひとつだけ、計算外の事象がある
──三神晃
僕の弟子にして"因果干渉"の超能力者
この少年の周囲だけ、明らかに“妙な空気”が漂っている
その原因ははっきりしていた
晃の周囲に、ヒロイン属性を持つ女の子達が次々に現れ、絆を深めていく現象
それが──僕にとって悪夢の始まりだった
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三神晃にとって最初の事件は、僕が魔物に襲われる彼を助けた、あの夜
彼は幼馴染の少女──樫澤悠花を庇って戦い、限界寸前のところで僕が介入した。
治療、勧誘、そして弟子契約。すべては順調だった。
問題は、そこからだった。
その数日後
火の魔術師、炎咲彩芽と出会った。
ツンツンしてプライドが高くて、口調もキツめで当たりも強い。
初対面で三神晃と即バチバチ。
炎咲彩芽は、感情の起伏が激しく、直情的。
三神君にはいつもきつく当たるくせに、彼が倒れた時には一番に駆けつけていた。
うん、テンプレ通りの“ツンデレポジ”だね。
◆
次の事件は、年末。
異能組織──教会所属の聖職者、聖谷澪が現れた
信念を持った彼女は、任務の一環として、晃と彩芽に敵対してきた。
冷静沈着で、法術の使い手。
彼女との戦闘は、晃の力を研ぎ澄ませるきっかけになった。
「あなたたちには、信じられるだけの何かがある──だから私は、あなたたちと共に戦う」
それから彼女は教会を離れ、“自由なる翼”に加入した。
うん、正統派ヒロインルートの“氷の聖女が心を開く”展開ですね。
◆
その次の事件は、新年早々。
晃の幼馴染、樫澤悠花が超能力に目覚め、暴走したのだ。
普段は優しく、どこか眠たげな彼女が──花の力を使い、街を埋め尽くす異常現象を引き起こした
晃と彩芽と澪の三人が彼女を止め、意識を取り戻させることで収束した事件だった。(僕も助力した)
事件後、悠花は「晃君と一緒にいたいから……ここにいるね」と笑った。
そして、“自由なる翼”に加入。
天然癒し系ヒロインポジ、完璧に確立。
◆
そして、春。
最大の波乱だったのは──教団の刺客、レイラの襲来。
無表情で、銀髪のホムンクルス。
大剣を振り回す戦闘人形のような存在。
だが、彼女は晃に“心”を触れられたことで、戦意を失った。
「レイラ……ここにいても、いい?」
その瞳に宿った、人間としての光。
今では、彼女は晃に懐き、言葉数は少ないながらも、常に彼の近くにいる。
忠犬系ヒロインポジ、獲得完了である。
◆
……以上、ここまでがこの数ヶ月の“ヒロイン集結”ダイジェストだ。
おかしい。
なにかが、おかしい。
──まるで、前世で見た“恋愛シミュレーションゲーム”みたいじゃないか。
僕は
──最初の魔物襲撃だけしか仕掛けていない。
それ以降の事件には、直接手を加えていないはずだった。
なのに、三神君の周囲で事件が連続し、教団の影がチラついている。
そして何より──
彼を中心に、あまりにも綺麗にヒロインが揃いすぎている
異能あり、戦闘あり、感情ドラマでいるこの状況
これは──もしや、僕の知っている“ジャンル”では?
(……ラブコメか?いや、それどころか……)
──ギャルゲーなのでは……?
僕は、嫌な汗をかきながら、制服のリボンを緩めた。
胸の奥がざわつく。
この展開は、よくない。実に、よくない。
三神晃が“主人公”だとするなら──
僕は“攻略対象”になるか、“ラスボス”になるしかない。
どちらも困る。
本当に困る。
僕はそう心の中で呟きながら、ふと窓の外を見た。
春の光が、世界を眩しく照らしていた。
だが、僕の心には──
ひとつの予感が芽生えていた。
──これは、悪夢のような予感だった。
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放課後の誘い
──放課後の教室は、妙にざわめいていた。
窓から差し込む夕方の光に照らされながら、生徒たちは帰り支度をしている
「三神君」
ノートを閉じ、僕は立ち上がった。机を片付ける彼に近づき、声をかける。
彼は顔を上げて、いつものように少しだけ驚いた表情を浮かべた。
「ん、リリスか……どうかした?」
「今日も始めようか」
「……訓練ってことか?」
「もちろん」
僕たちは校舎を出て、並んで歩き始めた。
少し肌寒い風が吹いていたが、春の匂いが混じっていて心地よかった。
「なあ、リリス。ひとつ聞いていいか?」
「いいよ」
「俺の力……ちゃんと強くなってると思うか?」
「自信ないの?」
「なくはない。けど、最近また変な事件に巻き込まれてさ。力が使えても、俺自身が全然追いつけてない気がするんだ」
──それはそうだろう。
"因果干渉"
この超能力は本当に使いづらい力なんだろう
"結果"を決定づけると世界のほうから勝手に"原因"を意味付けしてくる
コイントスみたいな単純なものは良い。風が都合よく吹いた──そんなもので超能力が発動する
けれど、明らかに実現不可能なものは厳しくなる。不発になるのはまだ良いが、無理に実現しようとすると負担が自身やその周囲に降りかかってしまうというもの
「君は順調に成長してるよ。ただ──手数が少ない。だから今日は君に実践で使える魔術を教えようと思うんだ」
「……実践……魔術……」
(世界が君を中心に動いている──その感覚は、日を追うごとに強まっている)
前世の記憶がある僕だからこそ、わかる。
三神晃は……“主人公力”を持っている。
だとすれば、僕は……どんなポジションになるのだろう?
ここ最近、そんな問いが胸を過った。
◆
帰り道、ふと後ろを振り返ると──
晃はまだ少し困ったような顔をしていた。
「なあ……リリス。今日、どうしたんだ?」
「なにが?」
「いや、なんかいつもと違う感じっていうか……」
「……気まぐれだよ」
「……?」
曖昧に笑ってごまかした。
ここで「君がギャルゲー主人公じゃないか疑惑を深めている」とか言ったら面倒なことになる。
それに、今日はもう一つ──
(……なんか、ついてきてる?)
僕の背中に、ぴたりと貼り付くような視線。
夕暮れの通学路、人通りの少ない住宅街に差し掛かったあたりで、気配を感じ取った。
魔力の残滓。複数。
そしてこの微細な“足音のズレ”──4人分。
(……まさか)
僕はわざと遠回りの路地に入る。
三神君が「あれ? この道で合ってたっけ?」と後ろで首を傾げていたが、無視。
しばらく歩いて、立ち止まった。
晃も立ち止まり、不思議そうな顔で僕を見る。
「どうしたんだ?」
「……ついてきてる」
「え?」
瞬間、茂みの中から「なっ……!?」という微妙な悲鳴。
続いて、叢の影からガサッと音がして、制服のスカートがちらりと見えた。
「そこ、出てきなよ。4人とも」
僕が言うと、沈黙のあと──1人、2人、そして4人が、ばつが悪そうに姿を現した。
「う……ばれたかぁ……」
「……言ったじゃない、私たちがついていくのは無理があるって」
「別に、変な意味じゃなくて……三神が変なことに巻き込まれてないかって……」
「レイラに疚しいことはない。ついていきたかっただけ……」
──訂正。バツが悪そうにしてるのは3人だった。それぞれが口々に言い訳を始める。
炎咲彩芽、聖谷澪、樫澤悠花、レイラ──やはり、全員揃っている。
──なんだこのヒロイン大集合イベントは。
いよいよ寒気が増してきた。
僕はこめかみを押さえながら、言った。
「……あのね。6人も入れるほど、僕の部屋は広くないんだけど」
「じゃあ、狭くてもいいよ。リリスの部屋ってどんな感じか気になるし」
「わたしも、入りたくないわけじゃないですし……」
「私は──構いません」
「レイラ、晃の隣がいい」
こいつら、何としてもついてくる気か
──こうして、僕の部屋に6人が集まることになった。
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「だから、狭いって言ってるじゃないか」
僕の──リリス・グレイの部屋に、6人が揃った。
僕、三神晃、炎咲彩芽、聖谷澪、樫澤悠花、レイラ。
部屋は広くない。一人暮らしの高校生が住むにしては少し上等な1LDKだが、これだけ詰め込めば動くにも面倒すぎる。
「けど、リリスが悪いんじゃん。晃だけ誘ってさ」
「勝手に尾行した私達がどうかと思いますけど……」
「リリスちゃんの部屋、落ち着くね……植物、ちょっとあるし……」
「レイラ、晃の隣がいい」
「はぁ……」
ため息が自然に出た
僕の私室が、ラブコメ空間に成り下がるとは
「……まあいい。やることは変わらない。三神君、“実践魔術”の初歩を教えてあげるよ」
「お、きた!」
「……ふん」
炎咲彩芽……君には言ってないよ
「さて、じゃあ始めようか。今日のテーマは“即応魔術の組み方と、三秒以内の起動式”だよ」
───
【魔術の構造について】
僕はホワイトボード代わりの大型スケッチブックを取り出し、マーカーを走らせる。
「まず、“魔術”とは──“原理”+“術式”+“触媒”の三要素で構成されている」
《原理》:魔術の背後にある思想や構造。火は熱によって燃える、重力は落ちる、神話では雷神が空を割る……など、宗教・神話・固定観念・社会常識など
《術式》:それを発動させるための“計算式”。いわば魔術のコード部分
《触媒》:発動のきっかけ。杖、詠唱、ジェスチャー、魔力の消費など
聖谷澪が宗教という言葉に反応したのか眉顰めているが、無視する
「この三つが噛み合って、初めて“魔術”として機能するんだ。たとえば、こう」
スケッチブックに簡単な火の魔術式を描いた。
【例:火の魔術】
• 原理:「酸素+熱=燃焼」という物理法則
• 術式:空中に圧縮された空間を形成し、魔力で局所的に温度を上げる
• 触媒:手を払う動作+特定箇所が燃えているイメージ
⸻
「簡単そうに見えるだろう? でも、慣れてない人がやると詠唱だけで数十秒かかる。戦闘中にそんな悠長なことやってたら、まずやられる」
僕は手をひらりと振り上げて、火の玉を掌に浮かせた。小さな火球が灯り、周囲を温かく照らす。
「これが“実戦魔術”の基礎。ポイントは、いかにこの三つの要素を簡略化して、三秒以内に収めるか。いわゆる“即応術”というやつ」
⸻
【即応術の習得】
「即応術には3つのステップがある」
① 予め術式を記憶する(身体に染み込ませる)
② 原理の選定を“瞬間的に”行う思考訓練
③ 触媒を最小化して、動作で即起動する
「たとえば、炎咲さん。君は炎の魔術を使うよね」
「当然。火の系譜をなめないで」
「……なら、“発火点の操作”と“酸素の調整”を前提とした術式を、3つくらい頭に叩き込むだけで、全く違う応用ができる。攻撃、威嚇、照明、加熱処理──全部同じ枠内で扱える」
「……ってことは、術式を変えずに効果だけ切り替えられるってこと?」
「そう。つまりそれが、魔術の“効率化”だ」
「レイラの"大剣生成魔術"も効率化の結果だと言える」
「ん」
【大剣生成魔術】
• 原理:質量保存の法則
• 術式:鉄や鋼等の材質を変換する化学式+大きさを選定する計算式
• 触媒:地面や壁に手のひらを当てる動作
「レイラの身体には大量の術式が書き込まれてる。故に後は大きさを予め決めておくだけ大剣がすぐに出来上がる」
「ほへー」
「さて、三神君──君には訓練が必要だ」
「因果干渉を安全に使うためには、“因果の枠内で処理可能な事象”を選ぶ訓練が必要。まずは、意図的に結果を限定することから始めよう」
「……たとえば?」
「コップを持ち上げた時、“水がこぼれない”という結果を願ってごらん」
晃は少し緊張しながらグラスを持ち上げた。水面がゆらぎ──だが、確かに波紋の揺れが途中で止まった。
「これは……?」
「“こぼれない”という結果が確定したことで、物理的にはあり得ないバランス補正がかかった。君が干渉したんだよ」
「すげぇ……」
「でもこれが、もし“空を飛べるようになりたい”とか“銃弾を曲げたい”とか、規模が大きくなってくると──その代償は君自身か、周囲に及ぶことになる。だからこそ、日常の中で“小さな干渉”を訓練するんだ」
「……地道だけど、やるよ」
「その意気だよ。ラブコメ主人公らしく」
「……は?……いや、ラブコメじゃねぇから!」
「……ラブコメじゃないの?」
「まさか」
「……バカじゃないの」
「ラブコメわかんない」
無自覚か……
僕は、頭を抱えた。
気づけば、時刻は夜の八時を回っていた。
「そろそろ、帰った方がいいんじゃないかな」
「泊まってもいい?」
「だーめ」
三神君は訓練で疲れたのか、ソファで寝落ちしかけている。
女子たちはそれぞれ帰り支度を始めながら、妙に名残惜しそうな顔をしていた。
(……本当に、悪夢のような予感は的中しそうだ)
僕は机の上に散らばった術式ノートを見ながら、冷えた紅茶に口をつけた。
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帰り道。
夜の住宅街を、五人で並んで歩く。
いや、正確には俺の周りを四人が囲むようにして、にぎやかに帰ってるって感じか。
さっきまでの訓練の緊張感はどこへやら、みんなの表情はやけにリラックスしていた。
そして──自然と話題は、今日の講義の中心人物に向かっていた。
「しかし、あの部屋……狭かったなぁ。あと、リリスって意外と生活感あるよね。黒パーカーとか」
「そうですね。リリスさん、もっと高貴な部屋に住んでるのかと思ってました」
「……わたし、今日の講義、けっこう楽しかった……リリスさんって、ちゃんと魔術のこと考えてるんだなぁって」
「……あいつ、ああ見えて、ちゃんと師匠なんだよな。俺が力に戸惑ってる時、いつもヒントをくれる。言葉少ないけど……ちゃんと見てくれてるんだ」
「へえ、晃ってそんな風に思ってたんだ。距離感、近いよね。講義のときとか、顔の距離5センチくらいじゃなかった?」
「……そ、それは……あいつが真剣な顔してるから、こっちが恥ずかしくなるんだよ」
「リリスさんって……何考えてるのか分からない時、あるよね」
悠花がぽそりと続ける「でも……悪い人じゃない、っていうのはわかる」
「……私は、あまり好感は持てない」
「宗教を道具として組み込む姿勢は、信仰者として許容できない。けど──魔術師としては、今まで見た中で最も“完成された存在”だとも思っています」
「リリス、晃と悠花を助けた。だから、きっと……味方」
「でも……教団にいた頃の“あの人”と、少し似てる気がした。目の奥が──ぜんぜん笑ってない」
その言葉に、一瞬だけ沈黙が落ちた。
俺は歩きながら、リリスの後ろ姿を思い出す。
常に冷静で、でもたまに唐突な冗談を言ってきて、
どこか“演じている”ような気配もある──
……いや、考えすぎか。
「……不思議だよな。リリスって」
思わず漏らしたその言葉に、誰も反論しなかった。
夜風が少し冷たくなってきた。
でも、この妙に居心地のいい空気は──
俺が“日常”と呼びたい何かの一つなのかもしれない、って思った。