TS魔術師、ラブコメ主人公に戦慄する   作:好きな主食はTS

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沢山の誤字脱字報告、感想ありがとうございます!
変なこと言ってしまいそうになるので感想返しは返しやすいものだけ返してくつもりです。ご容赦下さい。
……誤字脱字どこから生えてくるんでしょうか

(バトルシーンが)難産でした
一応、ラブコメの皮を被った異能バトルにしていくつもりなので、幸先不安です。ラブコメも書きたい。書きたいけどわかんない。この主人公どうやって堕とそうか


空っぽの魔術師

 

春の陽射しが柔らかく照らす午後、僕──リリス・グレイは《自由なる翼》日本支部の重い扉をくぐった。

──放課後、上司から「今すぐ来なさい」という連絡が入ってきたのだ

 

玄関ホールを抜け、見慣れた廊下を歩く。その途中、何人かの支部員とすれ違った。僕に気づいた一人が「グレイさん……?」と声をかけかけたが、表情が固くなり、そのまま頭を下げて通り過ぎていった。

 

──そんなに、怖がらなくてもいいのに

 

目的の部屋の前に着き、ノックをして扉を開けた。

 

「ようこそ、リリス・グレイさん」

 

穏やかな声と共に微笑んだのは、僕に高校生活を強いた上司だった。日本支部の実務を取り仕切る、理知的で、しかしどこか刺々しい印象の女性。年齢不詳だが、声と言葉の端々に“長く生きてきた人間”の重みがある。

 

黒髪をすっきりと結い、眼鏡越しの瞳は変わらず鋭い。そして相変わらず、笑っていない。

 

「今回の任務、貴女に頼みたいの。正式な命令よ」

「僕一人で?」

「そう。都内で起きている“精神錯乱事件”──報告は目を通してる?」

 

彼女がタブレットを渡してきた。画面にはいくつかの事件概要と、被害者の診断記録が並んでいる

 

「幻覚を見せられ、理性を失った……いずれも記憶と感情に干渉された痕跡あり、と」

 

「現時点で被害者は四名。そのうち二人が精神的ショックで入院中、一人は未だ昏睡。犯人の能力は極めて強力で、しかも精密。複数の支部員を派遣したけれど、捕縛には至っていない」

「……ということは、僕が“捕まえる係”ですね」

「あなたなら、こういう異能は通じないと思って」

 

──ああ、なるほど。僕を“心がない”とか“何も感じない”とか思ってるわけだ。

 

「ま、貴女がどんな風に生きてきたか、私は知らないけど……」

 

──嘘つき。僕の出自ぐらい、とっくに調べ上げてる癖に。いや、その後は知らないか

 

「座標はここ。都心の廃ビル区画、ここ数日で異能災害が連続発生している。住人たちはすでに避難済み。外部には封鎖処理をしてあるわ」

 

「了解。拘束目的でいいんだよね?」

「生存が可能なら、ね。何らかの精神操作を受けていた場合、記録装置を使って内面情報の抽出も行って」

 

──内面情報、ね。

つまり、捕まえたら“解剖する”ってことか

 

「対象は一人?」

「今のところ確認されているのは一人。ただし、詳細は不明。記録も映像も、現場ではことごとく破損してる。異能の余波か、術式妨害か……どちらにせよ、あまり愉快な性質じゃないわね」

 

「現場に入った支部員の一人が言ってたわ。『まるで、悪夢を見てるみたいだった』って」

「へえ、それは楽しみだ」

 

上司は軽く目を細めた。

彼女はため息を吐くと、手元の資料をまとめて閉じた。

 

「戻ってきたら、すぐ報告してちょうだい。……変な痕跡が残らないように、ね」

 

その言葉には含みがあった

“魔術的な干渉”──つまり、僕が“何か余計なこと”をしないかを警戒している

 

僕は肩をすくめて立ち上がった

 

「……行ってきます」

「行ってらっしゃい、“空っぽの魔術師”さん」

 

その言葉に、僕は少しだけ足を止めた

 

彼女は、そっと笑っていた

眼鏡の奥の目は、やっぱり笑っていなかったけれど

 

扉を閉じ、廊下に出る

 

視線を感じる

 

振り返ると、数人の支部員がこちらを見ていた。口々に言葉を交わしていたが、僕の視線が届くと、途端に黙りこくる。

 

──まあ、慣れてる

“空っぽの魔術師”

 

名家に生まれながら、血統魔術が発現せず、家を追われた少女

独学で異能の理に至った、奇妙な魔術師

 

人間味が薄く、感情が読めず、そして──何より、何を考えているのかわからない

 

誰かがそう呼び始めて、定着した

別に、否定する気もない。僕自身、そう思っている節がある。

 

静かに支部を出る

日が落ちかける空の下、廃ビルの指定された座標へと向かって──

 

━━━━━━━━━━

 

 

廃ビルは、都心の再開発予定区域の外れにぽつんと残っていた。

取り壊しを待つばかりの鉄筋コンクリート。入り口は封鎖されていたが、《自由なる翼》の許可印をかざせば、警報は作動しない。

 

 

空気がわずかに震えた気がした

──薄暗いビルの中へ足を踏み入れる

 

中は静かだった。埃とコンクリートの匂い。足音が、金属の残響を連れて返ってくる。

無人のはずなのに、どこか“気配”がある。

 

(間違いない……いる)

 

空間の奥に、微かに揺れる“残滓”を感じた。

 

──次の瞬間

「……やあ、いらっしゃい」

 

空間が“折れた”

 

視界が歪み、床が波打ち、壁がどこまでも引き伸ばされていく。

目を閉じる前に、ほんの一瞬──歪んだ天井に“絵画のような家族写真”が浮かんだ。

 

僕は──ファウスト家の屋敷にいた。

 

 

天井のシャンデリアが煌めき、光が金色のカーペットを照らしている。

 

「……ようこそ、“リリスお嬢様”。お戻りになるとは思いませんでした」

 

待女の声が、やけに生々しく響いた。

 

両親がいる。兄がいる。姉がいる。全員が僕を見下ろしている。

──既視感。七歳の、追放されたあの日の再現。

 

(なるほど……これは記憶から引き出された情景かな)

 

僕は軽く息を吐き、周囲を見渡す。扉の装飾、カーペットの模様、香の匂い。再現度は高い。だが、わずかに“齟齬”がある。

 

例えば、父のネクタイの色。あれは青じゃなかった

例えば、姉の髪型。彼女はもっと無造作だった

 

(──ふうん。細かい部分は上っ面だけをなぞるだけか)

 

「……お戻りなったということは、ご自分の過ちを認めたのですね?」

「血統に選ばれなかった者など、この家には不要だと──我々は既に結論を出している」

 

長兄カインは見下し、次兄レオニスは鼻で笑い、長女イリーナがただ黙って立っている

 

(……この演出、誰向けなんだろう)

 

「よく作り込んでるね。演出家としてはそこそこセンスがあると思うよ」

 

「……効かない?」

どこからか、微かな声が聞こえた

「君、心がないのかい?」

この世界のどこかにいる。性別も、感情も、感じさせない声。

 

僕は廊下を歩き出す。家族の幻は何も言わず、ただ沈黙の中でこちらを見ていた

 

「再現度が低いんだ。残念ながら、僕の記憶と一致しない」

「は?」

「父のネクタイの色は青じゃない。母は僕に対してはそんなに丁寧な口調じゃないよ。特に、姉はもっと戸惑いながら僕を見ていた──ね、偽物達」

「…………っ!」

どこかで声の主の息づかいが感じる

 

僕は静かに歩き出す。足元のカーペットが、廃ビルの冷たい床に戻る。

 

 

次に映ったのは、路地裏のような場所。

──ああ、ここは“あの時”の。

 

小さな身体、震える手。ゴミの山の中で拾ったパンのかけらをかじる僕。

唇は乾いて割れていた。水たまりをすすり、吐いた。

 

──ご丁寧に、腹の虫まで鳴いた音が再現されている

 

周囲に人影はない。誰も助けてくれない。身体は震えている。

──視界の端で、刃物を持った男の姿がある

 

(……あったな、こんな夜)

 

この時の僕は、パンの袋を開け食べようとした瞬間、物陰から襲われかけた。叫びも出なかった。ただ心の中は恐怖で満たされ、空腹の中ただ足を引きずって逃げることしかできなかった

 

━━でも。

 

「惜しいな。君、飢えたことないでしょ」

「……え?」

 

「腹が減って、自分の指の匂いが“肉”のように思えるんだ。何かを食べたくて、自分の手すら噛みたくなる。そういう感覚が、欠けてるよ」

 

世界が軋んだ

 

幻が崩れ始める

 

──君は他人の記憶を想像して再現しているに過ぎない

本当の体験は模倣できない

 

 

世界がまた変わった

空気の色が一変する

 

目の前に現れたのは、木造の部屋、蛍光灯、古びた畳

窓の外には電柱。机の上にはスマートフォンとリモコン

日本の──どこかの一室

 

──前世の、部屋だ

 

僕は言葉を失った

畳の手触り、埃っぽさを含んだ空気の重さ、テレビから流れるバラエティ番組の音声……すべてが、あまりに“本物”だった

 

(そんなはずがない……)

 

記憶として保存しているものならば、ある程度の曖昧さがある

だが、これは違う

僕が忘れていたことまで、正確に再現されている

 

「……どうして……」

 

背後から、声が響く

「ようやく、罅が入ったね」

 

幻覚の主──僕を襲った異能者

 

「君、ずっと無表情で、何を見せてもまったく動じなかった。過去のトラウマの細部が違った程度で冷静になれる人間なんて普通いないよ。まるで……最初から人間じゃないみたいだったよ」

 

ゆら、と空間に影が差す。そこに立っていたのは、黒いローブを身に包んだ若い男……いや、男女の区別がつきにくい容貌だった

髪は灰色で、目はどこか遠くを見つめるように虚ろ。だけど、その奥には知性がある

 

「……ちょっと焦ったけど、安心したよ。君も人間だったね。どんなに空っぽでも"心"はある」

 

僕は彼をまっすぐ見据える

「……質問に答えてもらうか。どうやって、君は僕の”前世”に触れた?」

「前世……?それは……君が見た夢じゃないの?」

 

「違う。これは僕自身でも忘れていた過去だ。──君の異能は、ただの記憶の組立じゃない。もっと別の──魂に触れる能力だね」

「……わからない。ただ、僕の能力は……"人の心"に触れると、その人の奥底にある何かを、形にできる。最初は過去のトラウマだったり、恐怖だったり……けど君の場合、もっと深い場所に“何か”があった」

 

「……つまり、君自身が把握していない領域に干渉してる」

「そう……なのかもしれない。意識の奥にある、もっと原始的な……記憶よりも古い、存在の輪郭みたいな」

 

──なるほど

これはただの幻覚能力じゃない

彼は、脳の記憶領域ではなく、"魂"や"存在構造"の中枢を掠めている

彼自身も能力の全容を把握できてなく、こうゆうでたらめなのは"超能力"が多い

 

「興味が湧いてきたよ。君の異能」

「まさか、効いていなかった?──君って、不気味だな」

男が呟く

その声にあるのは、戸惑いと──恐怖

 

「じゃあ、質問を変えよう。君は……誰に壊された?」

「……誰にも。僕は、世界に壊されたんだよ」

 

声は静かだった

その声からは、自嘲と諦念があった

「僕はずっと、他人というものが理解できなかった。笑う意味も、泣く意味も分からなかった。けど……そういうことができないと、気持ち悪がられる。……笑ったフリをした、泣くフリもした。周囲に合わせた」

 

「でも──限界が来た。ある日、僕の中の“何か”が壊れたんだ。感情も言葉の理解も、全部バラバラになって──。気づいたんだ。他人なんて、結局は自分の鏡だって。自分の見たい像を押し付け合うだけ。なら、僕はそれを、形にしてやろうって」

 

「それが──君の異能の出発点?」

 

「そう。人の記憶や感情を、反転させて映す鏡。それを見せれば自分というものは崩れていく。けど、君は──崩れなかった。いや違う。最初から崩れているんだね」

男の目がリリスを射抜くように見据える。

 

「君は空っぽだ。感情も、恐怖も、怒りも、何も反応しない。僕の異能は人の内側を暴くはずなのに、君の中には映すものがなかった。まるで……最初から、何も持ってなかったみたいだ」

 

リリスは黙って、彼の言葉を聞いていた

そして──ゆっくりと、口元に微笑みを浮かべる

 

「空っぽで結構。でもね……僕には"興味"がある」

「……興味?」

「君の異能。君という現象。君の存在そのものが、僕の探究対象として──とても魅力的だってことだよ」

 

──ああ、なんだか愛の告白みたいになった。

でも嘘は言ってない

 

「……君、ほんとに……」男の声が震えた

「──気持ち悪いよ」

 

──空気が、変わった

男の周囲に、空間の揺らぎが集まっていく

 

「……君の言うとおり、僕の異能は幻覚を見せるだけじゃない。僕は幻覚を現実に投影することもできる」

 

僕はまだ微笑んでいる

それが癪に障ったのか今まで無表情だった彼に怒りの表情が顕になる

 

「笑っていられるのも今のうちだ!君の目の前にいるのは、もう"僕"じゃない!あらゆる恐怖が、記憶が、意識が──この"僕という恐怖"を実体化するんだ!」

 

「さあ、見せてあげるよ。"本当の姿"を──!」

 

 

虚像と現実の境界が、崩れ始める

 

空間が波打つ。天井は落ち、床は浮き、壁は呼吸するように脈動している。廃ビルの内部はもはや原型を留めず、彼の精神に基づいた歪な世界へと変貌していく

 

「「「──ようこそ、僕の領域へ」」」

 

男の身体がひとつ、ふたり──三重にブレて見える。像が重なり、揺らぎ、位置が定まらない。彼の声はあらゆる方向から聞こえ、響き、反響する

 

彼の身体が──異形へと変化していく

 

伸びる腕、捩れる脚、瞳が増え、せなかから影のような触手が生える。

不定形でありながら、奇妙な整合性を保っている

そこには"恐怖"を詰め合わせた怪物がいた

 

(そんなに無理に詰め込んでも意味ないのに。なんで皆そんなに大きくなりたがるんだろう)

(まあ、能力の概要がわかりやすくてこちらは助かる)

(──先に"存在"を成立させて、後から"記憶"が補完される能力)

 

似たような能力を最近見た

 

──三神晃

 

(この異能は、"他人が見たい恐怖"を先に成立させて、それに見合う"記憶"を後付けで構築してくる)

(つまり"恐怖という結果"を基に、人の中に"在ったはずの原因"を探り、それを保管して実体化する)

 

「さしずめ、この能力は"因果投影"とでも言うべきか」

「……なんだい、それ?」

 

「君の超能力だよ。

現実を成立させるために、記憶を生み出す──逆説的構造を持っている。まるで、世界が整合性を維持しようと無理に因果を埋めるみたいに」

 

「……っ!君、この期に及んでまだ解析を」

「だって、面白いじゃないか」

 

その瞬間、周囲に集まった影が、触手のように一斉に僕へと襲いかかってきた。視界いっぱいに広がる黒。触れれば物理的にも精神的にも致命傷。

 

「甘いね」僕は指を鳴らした

襲いくる触手の一部が、何かに弾かれたように逸れる。触手の一撃を逸らした僕は、そのまま一歩進む

 

「……どうして? どうして魔術が使える……?」

 

異形が、憤りを混じらせた声を上げた。

 

「この空間は僕の領域だ。ここでは、君たち魔術師の“原理”は通用しない。常識も、法則も、すべて僕の意思で書き換えられるはずだ……。原理がなければ、魔術師は魔術を使えないはずだろ……!」

「物理法則、神話に基づいた魔術は確かに使えないとも──でも、僕と君がいるじゃないか」

 

僕は雑食だ

選り好みしないし、ネタ(原理)ならいくらでもある。──視線一つ、手足の指一つ注意する

 

彼によく見えるように、手を高く掲げる

そして、指先を弾いた

 

その瞬間、異形の左側に広がっていた影の一部が吹き飛んだ。仮初の恐怖に無理矢理貼り付けた"像"が剥がれ落ちる

 

「な──」

「僕のでも、君のでもない恐怖。他人の恐怖を継ぎ合わせただけだろ?結局の所、君も空っぽなんじゃないか。──似た者同士だね」

 

もう一つ、指を弾いた。異形の左腕が軋み、崩落する、

 

「……ふ、ふざけるなあああ!!」

 

咆哮と共に、異形は右腕を空間に叩きつけた。空間が砕け、真っ黒な液体が僕と異形の間を隔てるように湧き出し、波のように押し寄せてくる。

 

僕は足を滑らすことなく、地を蹴った

揺らめく波の僅かな隙間を見極め、滑り込むように左右へ跳び、僅かな凹みに着地する

 

視界の隅で異形の右腕がしなり、ぶんと風をさく音がした。異形の腕が振り下ろされる瞬間、僕は床に手をつけ、反動を利用して身体を捻る

 

すぐ横に異形の腕が叩きつけられる中、その腕に跳び乗った。指先に魔力を滑らせなぞるように駆け上っていく。異形の肩を蹴り付けるように跳び、背後へと回り込んだ。

 

すると、異形の身体が縦に裂けるように割れ、崩れ落ちていく

──さて、邪魔者がいなくなった所で、奥の方で隠れていた彼に視線を向ける。

 

「ひ、……やめ、やめろ、くるなぁ!」

叫び声と共に、闇の中から"何か"が現れる。重たい足音が、ゆっくりと、姿を現す

 

闇の中から現れたのは、三人の男だった

 

一人は、背広を着た金髪の年配の男。目は冷たく、唇はきっちり結ばれていた。僕の父──グラウス・ファウスト

 

一人は、薄汚れた服を着た浮浪者。ぼさぼさの髪、狂ったような笑み、手には錆びたナイフを握っていた。かつて、スラムで僕を襲った男

 

そして最後の一人は、スーツ姿の三十代の男性。黒髪短髪──僕の前世だろうか

 

父は冷たく見下ろしている

「血に選ばれなかった者に何ができる?」

 

浮浪者は、笑いながらナイフを振りかざす

「お前は──無力だ。誰にも助けてもらえねぇ」

 

スーツの男は、リリスに向かって銃口を突きつけた

「──君は"人間"には戻れない」

 

──なんて茶番だろうか。僕は何を見せられてるのだろうか。気にせずに前に進む。

 

三人の男が同時に僕へと襲いかかる

父の手が淡く光り、浮浪者がナイフを水平に持ち、スーツの男が引き金を引──

 

「邪魔」

 

三人の男は圧し潰された

 

僕の視線は元から彼だけに向いている

彼は息を呑む。その目は、はっきりと"恐怖"を映していた

 

駄目じゃないか、僕に恐怖するなんて

"超能力"は感情に左右されやすい力故に、術者の意思に反してすぐに暴走しやすいんだ

──三神晃の変化に畏れ、僕と炎咲彩芽、聖谷澪に街規模で襲いかかってきた樫澤悠花のように

 

超能力者は数が少ない

暴走して自滅する者や、僕みたいな悪い魔術師や教会の過激派に利用されてポイ捨てされるのが原因の一つだろう

 

「あ、あぁ……」

 

怯えた獣のような目

さっきまで冷静だった男の面影はもはやなかった

 

今、君の目には僕がどういう風に写っているのだろうか

 

「やめろ、やめろ、やめろ……!」

 

僕は何もしていない

ただそばで彼を見下ろしているだけ

 

恐怖が連鎖していた

彼の異能が、彼の恐怖に反応し、それを現実に反映し──さらに恐怖が増す

 

止まらない負の連鎖。無限ループ

彼の異能が彼の精神を蝕んでいく

恐怖がピークに達した時──がくり、と

 

崩れ落ちた

白目を剥き、意識を手放す

 

空間は廃ビルの風景へと戻っていた

──既に夜中

 

僕は倒れた彼のそばにしゃがみ込み、脈を確かめた──生きている。異常なし。精神汚染は重度だがなんとかなるだろう

 

通信機に手に、支部へと任務完了と帰還連絡を行う

──さあ、帰るか

 

 

 

 

その前に────

 

━━━━━━━━━━

 

 

夜風が肌を撫でるように通り過ぎていく。

 

任務を終え、僕──リリス・グレイは《自由なる翼》の支部へと戻っていた。

いつもより足取りは軽い。いや、自分でもわかるくらいには、機嫌がいい。

 

だって、思いがけず“とても興味深い素材”に出会えたのだから。

 

──「因果投影」、ね。

 

最初はよくいる幻覚系の異能かと思っていたがあの異能は、単なる幻覚の類じゃなかった

 

「……はあ、ほんと面白いなあ」

 

独り言ち、夜の街灯に照らされた路地を歩きながら、僕は肩を揺らして笑う。

春の夜はまだ少し冷えるけれど、胸の奥はひどく温かい。

 

「いやぁ、収穫だった。素晴らしい一夜だった。久々に手応えがあったよ」

 

その言葉に、前方で警備をしていた隊員がビクリと肩を震わせた。

 

「リ、リリスさん、お疲れさまです……」

「うん。ただいま。いい夜だったよ」

 

にっこりと笑って返すと、彼女は顔をひきつらせた。

何も悪いことなんてしていないのに、どうしてみんなそんなに怯えるんだろう。

 

支部のエントランスを抜けると、案の定──待っていたのは、彼女だった

 

「……ずいぶん、上機嫌ね」

 

カツ、カツとヒールの音を響かせながら近づいてきたのは、例の上司。

変わらぬ眼鏡の奥の瞳が、僕を見据えている。

 

「任務は、無事完了したわけ?」

「もちろん。対象は無傷で拘束。精神にかなりの損耗が見られるけど、命に別状はなし」

「……それで? 本当に“幻覚”だけで、ああなったのかしら」

「さあ。少なくとも、僕は何もしていないよ?」

「嘘」

 

即答だった

 

「彼には、何か別の……魔術的な“干渉”の痕跡が残ってたわ。

報告書には、書けない“何か”をしたでしょう」

「それ、僕に聞く必要ある? どうせ僕が何を言っても“した”って結論にするんでしょ」

「ええ、するわ」

 

……ひどいなあ

 

「……でも、貴女が“任務を遂行した”のも事実。捕縛も、封鎖も、全て正しく行われていた」

 

彼女の声が、わずかに沈んだ。

 

「ただ、リリス。──もう少し、“普通の顔”をしてくれない?」

「普通って、どんな?」

「少なくとも、“他人の精神が壊れた直後に満面の笑みを浮かべる顔”じゃないわ」

「……あぁ」

 

僕は小さくため息をついた

「だって、仕方ないじゃないか。面白かったんだから」

 

上司は眉をひそめ、深く息を吐いた

そして──背を向ける直前、ひとことだけ言った

 

「……そんなんだから、怖がられるのよ」

 

静かな声だった。でも、その言葉はずっしりと胸に落ちた。

 

「うん。知ってる」

僕は、笑ったまま答えた。

 

 

 

──任務完了報告書(抜粋)──

対象:小埜寺 覚(推定17〜20歳)

異能分類:超能力(推定)

能力概要:因果投影(仮称)──記憶・恐怖・原体験を基に、視覚・空間に対して干渉し、構造的な幻覚・空間変容を引き起こす能力。高い精神的依存と暴走性あり。

 

状態:拘束・保護済み(精神損耗:重度)

危険度:Aランク

備考:対象はすでに自我崩壊の兆候あり。定期的な経過観察と専門技師による解析を推奨

 

報告担当:リリス・グレイ

 

付記:

報告者の精神安定度に異常なし

ただし、支部内数名が「リリス・グレイが笑っているのを初めて見た」と証言

 




小話──上司はこうゆう人
上司「はぁ、最近はいってきたリリスという子。支部内でも浮いてて、魔術の研究のことばかり。任務はきちんとやってくれるけど、報告に困ることばかり。どうにかならないかしら」
上司「来年は高校生の年齢。そうだ!彩芽ちゃんも入学予定のところに入れて友達を作ってくれれば」

上司「高校に行きなさい」
リリス「は?嫌」
上司「行きなさい」制服グイ

半年後
上司「彩芽ちゃん、リリスちゃんの高校の調子はどう?」
彩芽「ずっと1人よ」
上司「………ちなみに彩芽ちゃんとリリスちゃんの仲は?」
彩芽「初対面から無視されたわ」
上司「」

秋頃
上司「リリスちゃんが!男の子を連れてきた!」
上司「しかも同じ高校!チャンスでは?」

上司「貴方が晃君の教育係ね」
リリス「は?嫌」
上司「教育係ね!」

任務前
上司「ねえ」
モブ支部員「支部長!な、なんでしょう」
上司「リリスちゃんの噂で、空っぽの魔術師て聞いたのたけど、これは何?」
モブ「え、ええと……あ、あだ名ですね!」
上司「!……あだ名なのね。いいこと聞いたわ。ありがとね」

上司「行ってらっしゃい。空っぽの魔術師さん」ドヤ顔
リリス「」睨み
リリス「……チ」舌打ち
上司「」

任務後
上司「リリスちゃんが上機嫌で帰ってきた」
上司「そりゃ怖がられるわ」
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