TS人工ロリ天使(生産終了済み)がコンビニに通う話 作:暇じゃない暇人
深夜のコンビニに立ち寄った時のドキドキ感は異世界でも変わらないと俺は思う。
ふと、深夜に腹が減って夜食を求めて財布とケータイを持ち、ジャージ姿でカップ麺とジュースとお菓子を買った時の背徳感はすごい。
財布にも体にも毒になるとわかっているのに辞められない。
だから、今日も深夜のコンビニへ足を運ぶのだ。
★
星空も見えない曇天の中。
24時間364日営業している最寄りのコンビニに入店する。
ピコン、ピコン。という入店音が鳴り、店員さんに客である俺の存在が伝わった。
「いらっしゃいませ」
店の立地的に学生がメインターゲットだからか酒類は少ない。俺は酒があまり好きじゃないので問題ないが、酒好きには物足りない品揃えだろう。
俺は一瞬何を買うか悩み、冷蔵庫の扉を開けてこのコンビニ限定で販売されている『なんちゃらファイバー』を手に取った。お値段は108円。ほかのと比べても安いのは自社ブランドだからか。
どちらにせよ財布に優しいのはいいことだ。
ジュースを買った俺は次にカップ麺を物色する。
現在俺の中で流行っているのはシーフード。しかし、他の味も捨て難い。
このまま惰性でシーフードにするか。はたまた醤油か担々か。
いや、あえて焼きそばというのも捨てがたい。
カロリーなど気にせず食べられるので体重的な問題を考慮する必要はない。太らないし。
うーむ。どうしよう。
しばらく悩むも、あまり悩み過ぎるとせっかくの冷えたジュースが手の熱でぬるくなってしまうので、さっ、とシーフードを手に取った。
やはりもうしばらくは海鮮が食べたい。……シーフードのラーメンが海鮮判定かどうかは別として。
飲み物と食料を決めたら次に行くところは決まっている。そう、コンビニスイーツを選ぶのだ。
アイスコーナーの隣にあるコンビニスイーツが並ぶ棚にはいろいろと目に毒なものが写っている。
プリン、シュークリーム、コーヒーゼリー、ミニケーキ……etc。
どれにしようか。いつもならコーヒーゼリーかシュークリームを買うことが多いが今日はその気分じゃないし、なにがいいかな?
う~ん、と。しばらく悩むもこういうのは考えすぎるとドツボにはまりがちなので、普段あまり買わないプリンを取る。たまにはプリンもいいだろう。まずいってことはないと思うし。……多分。
そのままレジに向かう途中でカロリー〇イト的なのをさっと取る。味はホワイトしか勝たんから迷いはない。
とてとて歩いてレジへ向かう途中、珍味を見てなかったことを思い出した。くるっと反対方向へ足を進めて飲み物が入ってる冷蔵庫と向かい合う形で吊るされている珍味類……おつまみを物色する。
さきいか、げそ、いかそうめん、貝ひもといったのがある。
正直に言わせてもらえば品揃えはかなり微妙だ。いかそうめんはあるのにあたりめがない。俺はあたりめが好きだ。ないとテンションが下がってしまう。
客層の関係か、おつまみの類が少なすぎるのだココは。いくら未成年が客として多くて酒類の売り上げが悪くても、おつまみまで入荷量を減らす必要はないだろうが。
俺みたいに酒は飲まないけどおつまみが好物ってやつも多くいると思うけどな~。……まあ、それがこの店の方針だってなら仕方ない。今ある物で満足しようではないか。
せっかく来たのだ、貝ひもくらいは買っていくとしよう。おつまみがあるかないかでテンションは大きく変わる。どれくらい違うかと言えばガチャの十連で爆死か星5狙って星4が出るかくらい違う。
まあ、ある方が良いってことだ。
さ~てお会計お会計♪
……ん? いつもの人じゃないな。この時間の担当は男の店長だったはずなのに、若い女の子だ。おそらくはバイト……年齢は高一くらいか?
「これお願いします」
まあ、誰だろうと関係ない。客である俺は商品をレジに出すだけだ。
「…………あっ、はっ、はい」
緊張してるのか? なんか反応が鈍かったが。
「え、えっと……お会計四点で六百六十円になります」
一の位が出なかったな。キリが良くて気分が良い。
ええっとこれで、……はい六百六十円丁度だな。
「あ、ろ、六百六十円丁度いただきます。……こちらレシートです」
レシートを財布に仕舞い、商品の入った袋を提げる。
「ありがとうございました」
最後に感謝の言葉は欠かさない。アルバイトとはいえ、働いてくれる人がいるから俺のような消費者が商品を買えるのだ。
そのことの感謝は忘れないようにしないと。
前世のことではあるが、親から教わったことはそう簡単に忘れられないからな。
コンビニを出るとピコン、ピコンと入店時と同じ音が鳴った。違いがあるとすれば店から遠のいてるので音が次第に小さくなることか。
コンビニ袋を手に、夜の道を歩く。
月明りもなく、星も見えない曇天の空。
ぽつぽつと歩いて帰路に就く。思い出すのはさっきの店員さん。
若くて可愛い感じの高校生。反応が悪かったのは俺のことが珍しかったのだろう。
一般に情報がそこそこ出回っているとはいえ、直接見る機会なんて滅多にない。彼女からすれば、見慣れぬ珍獣が街中を歩いていたようなものなのだ。
まあ、そんなことはどうでもいい。それよりも
まだまだ、朝日が昇るまで時間はあるのだから。
■
戦闘都市アヴァロンは人類防衛の最前線であり、最先鋭の技術や体系化された魔法を使って外敵である
災獣はエーテルフィールドと呼ばれる異界から生まる。これ以上人類の生存権を奪われないようにするために、そのエーテルフィールド内に鎮座する都市。戦闘都市アヴァロン。
そこにいる人々は専門の軍人や、魔法適性や異能を使用できる者などが多くおり、また訓練するための学校が設立されていたりと、多くの者が外から戦闘都市に入ってくる。
戦闘都市とはいっても全てが軍事方面に尖っているわけでなく、大きな病院やショッピングモール。遊園地や農園などあり、見方によっては小さな国が成立しているようにも思える程であった。
そして私。
外部で定期的にやっている適性検査試験で、どうやら魔法適性があったらしくアヴァロンの学校に格安で通えるらしい。
ちなみに適性があっても行くかどうかは任意で強制ではない。
私の場合は家庭の事情で行くことを決心した。
学校に通うにあたって多少の補助金は出るが、それは全部学費に消えた。
親からの仕送りが全く期待できない以上バイトでもして生活費を稼ぐ必要がある。
幸い? な事に通っている魔法学校は週三回しか登校日がなく、開いた四日でアルバイトをすることは可能だった。
そんな経緯があり、私は家賃が安く、人も少ない外周に位置する第三地区のコンビニで、深夜帯のアルバイトをすることになった。
戦闘都市においては高校生から夜勤でバイトが出来るらしく、十五歳の高校一年生である空晴 日奈もまた深夜に働けるというわけだ。
そして、アルバイト初日。店長からやることをすべて教わり(以前ほかのコンビニでバイトしていたので覚えが早かった)レジ打ちや商品の陳列、清掃などをこなしていった。
でも、一つ気になることがある。
それは店長が「多分三時くらいに変わった客が来ると思うが、他の客と同じように対応してくれ」と言っていたことだ。
私はその客について店長に軽く質問した。クレーマーだと覚悟が必要になるからだ。でも店長が言うにはそのお客さんはクレーマーではないらしい。
変わった客とは何なのかについて少し気になったが、店長が「……まあ、見ればわかる」といったきり何も話してくれなかったので、そのまま業務を開始した。
周囲に住んでる人が少ないからか、夜間のお客さんはほとんど来ず、たまにどこかの研究員っぽい人が徹夜するためにエナジードリンクを買いに来るくらいで、正直暇なくらいだった。
そして、そんな折に店長が話していた変わったお客さんは……。
蒼穹色の髪が背中まで伸びている十歳か十一歳程度の小さな女の子が深夜三時に入店してきた。
初めに驚いた。何とかいらっしゃいませを言えた自分を褒めたくなるくらいには驚いた。
高校生が夜働いているのもおかしいといえるが、それでも小学生が出歩くような時間じゃない。
一瞬注意しようとしたが、その時に気付いた。店長が言っていた変わった客の意味が。
まず、翼がある。機械の翼だ。
大部分は機械で出来ていて、一部が光のようなナニカで構成された翼があった。
でも片方の翼は。私から見て左側の翼は六分目くらいから先がない。
次に、頭の上に何か浮いている。
それはきっと、天使の輪っかというのが一番近いのだろうけど壁画とかに書かれているの蛍光灯のようなものとは違っていて、いくつかの幾何学模様染みた何かが重なったり、尖った丸のような何かが絡んでいたりして、神秘性と共にどこか機械的な印象を抱いた。
そしてもう一つおかしいところがある。
それは服装。彼女は真っ白な半袖のワンピースを着ていたのだ。
別に似合っていなかったとかサイズが合っていなかったとかひどく汚れていたということではない。
今は
たまに年中半袖短パンの子がいたりするが、彼女はそのたぐいじゃないように思えた。
店内は暖房が利いてるとはいえ外は普通に十二月の寒空だ。文字通り凍えるような寒さで、コートやダウンジャケットがないときつい。
そんな中、あの少女はフリース素材でも何でもない薄いワンピース一枚を着てここまで歩いてきたのだ。たとえ短い距離だったとしても、私なら一瞬で音を上げる。
時間帯、服装、身体的特徴、何を取ってもどこを見ても、異常で不自然で、……神秘的だった。
フリーズした体はいうことを聞かず、気が付いたら彼女がいくつかの商品をもってレジまでやって来た。
「これお願いします」
少女が商品をレジに置き、財布を片手に準備していた。
財布をいつ出したのか全く分からなかった。ポケットもなさそうなワンピースなのに。一体どこから財布を出したのだろう。
かなり動転したせいで、どもりながらも何とか会計をこなす。
そして近くで彼女の姿を見て思わず息を呑んだ。
綺麗。ただその言葉に尽きる。髪、顔、体。どこをとってもひたすらに美しい。さらに機械的で片方が破損している翼と人工物のように見えながらも神秘的な頭の輪っか(たしかハイロウだっけ?)が、少女を人外の存在として着飾っている。
冗談でも何でもなく、私には天使のように見えた。
いや、
だが、なぜだろう? 全くと言っていいほど瞳に生気を感じられない。
光は映っている。でも何も見てない。こっちのことを見ていない。視界に映っているはずなのに。
一切こちらを見ていない?
「ありがとうございます」
言葉にも生気がない。まるで生きながら死んでいるかのような印象を受けてしまった。
そして彼女は、蒼の髪を持つ天使のような少女はコンビニ袋を提げて寒空の下へと消えていった。いつの間にか財布は消えていて、袋の中にも入っていないように見えた。
後から声を掛ければよかったかもと思っても遅すぎてどうしようもない。ただ私はそのまま時間まで業務をこなすしかなかった。
退勤の時刻となり、店長と少しだけ会話する時間が出来た。
その際に彼女のことを聞こうとした。
しかし、被せられるように「やめるか?」と聞かれる。話を遮られてしまった。
「どういうことですか?」と質問したら、やめるなら知り合いのコンビニを紹介すると返答が返ってくる。
私が辞めないと返答したあと、彼女について質問した。業務の範囲を超えている気がしたが聞かずにはいられない。あの小さな天使のことがどうしても気になったのだ。
「あのお客は……まあ、訳アリだよ。……正直言って胸糞悪いくらいにな」
店長が痛ましい顔を一瞬した後、夜勤辞めるかと質問された。私は夜勤を続けると返事をした。
あと、最後に店長が「人工天使だよ。あれは……」と教えてくれた。
気にはなったが、それ以上教えてくれなかったので、何のことなのか分からない。
アヴァロンに来たばかりの自分は知らないことが多く、何をすればいいのかもさっぱりだった。
ただ、なんとなく放っておきたくないなどと、勝手なことを思っていたのだ。
何も知らないくせに。あの少女の抱えたものについて……何も知らないというのに。
何の力にもなれないというのに。
この時の私は、傲慢にも程があることを考えていたのだ。
皆さんはコンビニは何味のカップラーメンを買いますか。
作者は担々麺を買いがちです。