TS人工ロリ天使(生産終了済み)がコンビニに通う話   作:暇じゃない暇人

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限定商品はつい見ちゃう

冬の時期のコンビニと言えばいろいろと限定品が売られているのはおなじみだ。

 

 例えば、おでんや季節限定の紅茶やチョコといったモノが売られている。

 限定という言葉を使い客の購買意欲を刺激し、寒い日に温かい食べ物をレジ横に置くことで、買う予定のなかったものを買わせて財布を軽くさせてくる。

 

 高校生の時は、このやり口で少ない小遣いが致命傷を受け続けたのだ。そのせいでソシャゲのガチャ課金できなくて天井を逃したのは今となってはいい思い出である。

 

 さて、選択をしようではないか。

 

 今目の前にあるのは『冬限定』と心躍ってしまう文句付きのチョコレート。 

 なんとお値段ばら売りで一個一五〇円。箱買いすると一五〇〇円。

 

 なんだこれは? 法外にも程がある。

 

 確かに、世の中には元平凡な大学生だった俺には視界へ入ることもない高級スイーツがあるのは事実だ。

 でも、それはどこどこのブランドとか、高級食材をふんだんに使ったもので、コンビニにおいてあるようなものではない。

 

 まじモンの一粒三〇〇〇とかのオバケと比べたら確かに安い。安いけど……。 

 

 「高い」

 

 

 うん。やっぱ高いな。

 

 

 スイーツ専門店とか、高級チョコが売ってる店なら納得できるが、これはあまりにも高い。コンビニに置かれてていいモノじゃないだろう、コレ。

 

 内容量はどのくらいだ? フムフム……?? 一五グラム? こればら売りだよね? 箱で買ったら一五〇〇円するやつだ。十個入りで。

 

 ということは……、一五〇〇円払って総量たった一五〇グラム? なんじゃそれ。意味分からん。

 

 

  

 これはやめとこう。日々の生活費でかつかつになりがちな大学生の感覚を有する俺として、お菓子というだけでも手を伸ばしづらいのに、内容量たったの一五グラムに一五〇円も払えるわけがない。

 箱買いなんてもってのほかである。

 

 金がない大学生としては、量が正義になるのも当然だ。

 

 

 そういった意味ではやはり、限定商品なんか論外である。節約は正義だが、たまに羽目を外したい目的で(かつて)コンビニ通いをしてた俺からすれば、こんな高いものは選択肢にすら入らない。

 

 一瞬でも物珍しさ(というか怖いもの見たさ)で買うかどうか検討しそうになった俺はバカだな。さっさと飲み物と食料買ってかーえろ。

 

 

 ──でも、待てよ。

 

 

 金がなかったのは前世の話で、今世では金に困ってないよな?

 

 使う機会があまりないから支出はほとんどないし、食べる必要だって薄いため食費も嵩張らない。

 

 なにより、何もしなくても金は入ってくる。

 

 

 じゃあ、よくね? ちょっとくらい無駄遣いしても。

 

 

 どうせ金の使い道なんてないし……いいや。買っちゃお。

 

 せっかく冬限定だの企業様がアピールしてくれてんだ。売り上げに貢献してやろうではないか。

 

 ……マズかったら、この企業のは二度と買わないようにしよう。

 

 では一つ手に取り会計に…………どうせなら箱で買っちゃうか。余ってるし、別にいいでしょ。

 

 

 手前に置かれてるバラ売りのではなく、棚の奥に置かれたまだ開いてない箱を手に取った。

 

 いやー。子供の頃はこういう開いてない箱は買えないものだと勝手に思っていたけど、箱買いの意味を真に理解したら、なんてことなく手が伸ばせるな。これが大人になるということか。

 

 俺の小さなお手てだと持ちきれないので、箱をカゴに入れレジへと向かう。

 

 前来た時にもいたバイトの女子高生が会計を行ってくれた。動きが少しぎこちなかった気がしたが、問題なく終わったので大丈夫だろう。

 

 

 

 

 コンビニを出て、夜の道をとぼとぼ歩く。  

 

 戦闘都市アヴァロンは東京の様に科学の光で闇を克服しているが、それでも月の光が道を照らす余地はある。

 街灯の光は明る過ぎず、眩しくなくて丁度いい。これが怪奇モノなら吸血鬼と道端で出会いそうだ。

 

 

 聞こえるのは、コンビニ袋の中身が擦れる音と簡素なスニーカーから聞こえる足音のみで、辺りは静寂に包まれていた。

 

 

 ふと。夜空を見上げる。

 

 雲がかかっていて星空はよく見えないが、雨が降ってるわけでもないので微かに星空は覗き見えた。

 

 

 「……」

 

 立ち止まってても雲が晴れるわけがなく、ただ立ち尽くすことになるだけだ。

 

 

 

 

 そして、

 

 

 何の気なく、袋を持っていない方の()()()()

 全く。都市部なのだから殺虫くらいちゃんとしろ。

 

 

 なんとなしに服を見下ろすと、ワンピースにほつれている箇所があった。

 

 流石にそろそろ修繕しないと。

 この服は大事にしたいのだ。

 

 

 背後で灰の山が散っていくのなんて気にせず、俺はこの服がテセウスの船にならないよう祈りながら帰宅する。

 

 

 わずかに吐いた白い息が夜に消えていく。

 

 

 

 ──俺は一体、いつ消えてなくなるのだろう?

 

────────

 

 

 

 「……はあ。……お腹空いた……」

 

 空晴日奈は空腹だった。

 

 深夜帯のバイト等で財布にお金は入ってくるものの、教材費やMS(マジックサポート)端末。生活必需品に学費も絡んでくるとなれば切り詰めてもなお足りない。

 

 

 残金、たったの二百四十八円。

 

 

 二百四十八円では牛丼屋で並盛一つ頼むことすら出来なかった。

 学割を駆使して頼めたものはといえば、ちっさい皿に園児用ですか? と聞きたくなる程度の米と肉が入ったおやつ未満のナニカである。

 その辺の小動物じみた女子なら満足できるのかもしれないが、空晴の活動量では全く足りない。心情的には牛丼大盛りに牛皿のデカいやつをかっ喰らいたい気分だ。

 

 だが現実は非常で、現在、空晴の財布の残金はたったの六円。これじゃご飯どころか十円ガムすら買えはしない。 

 

 唯一の救いは今日が給料日であることだろう。そうじゃなければ空晴は大都会でサバイバルを行わなければならないところだった。

 

 危ない危ない。ギリギリのところで、色々と尊厳を犠牲にする覚悟は決めなくてよさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 「すまん空晴。今日は給料支払えねえ。本当にスマンが、一週間待ってくれ」

 

 ガチのマジで申し訳なさそうに謝る店長を前に何か言えるはずもなく。空晴日奈の大都市サバイバルが始まった。

 

 

 

 

 

 かくして、仕事が始まって数時間。

 

 (……ムリ……お腹……空い……た)

 

 憐れ。空晴は三途の川を渡りかけていた。

 

 (あ、向こうでおばあちゃんの服着た招き猫が手、振ってる。……いやあれただの招き猫!)

 

 

 ハッ、と。飛びかけていた意識を呼び戻し、首を振って空晴は死の誘い、もとい眠気を退治する。

 しかし、敵はしぶとい。なかなかとどめを刺せず、それどころかこちらの意識()を狙ってきやがる。

 

 こんなところで負けてたまるか。必ず生きて帰ってラーメン特盛お代わりしてやる。

 

 そう心意気を胸に空晴は職務へ励む。とはいえ、食べ盛りの高校生にとっての空腹は並大抵の試練ではなかった。意識がたびたび飛びそうになったからか、ぎこちなく仕事をしてしまったのは後悔しかない。

 

 いつの間にか頭に幾何学模様のような何かを浮かせて背中に翼を持つ少女が来店していたが、ほぼ無意識にでレジ打ちをやってたせいで、レジ袋を手渡し、彼女が店を出てから。

 

 (今の子!)

 

 と、二三手遅れでやっと気付いたのである。

 

 とはいえ、気付くタイミングが遅すぎた。既に店を出てしまった以上店員である空晴が言葉を掛けるタイミングはない。

 

 (……声、掛けられなかった)

 

 

 まさか、今から追いかけるわけにもいかずに、息を吐く。

 

 

 残念だけど仕方ない。そう割り切って残りの夜勤をこなすぞと、活をほっぺに入れたタイミングでソレに気づいた。

 

 レジから見て一段低いところ。ギリギリ死角になる場所に財布があったのだ。

 

 たしか、この財布は……あの少女が持っていたモノではないか?

 

 レジから出て回り込み、財布を持ちながら思い出す。確かにこの財布は彼女が使ってたものだ。

 ポケットもないワンピースでどこに仕舞ってたのか謎だが、あの少女の物で間違いない。

 

 

 空晴は店を出て辺りを見渡す。まだ遠くへは行ってないはずだ。

 

 そこまで考えて、空晴は駆けだした。

 駐車場には仮眠を取ってるトラック運転手がいたので、長時間店を無人にするわけにはいかない。すぐに返して戻る必要がある。コンビニ周りをダッシュで一周すれば背中を見つけることなら出来るはずだ。

 夜道でもあの翼は目立つはず。見つけることは難しくないだろう。

 

 

 見つけたら財布を返して、少しだけでも会話をしよう。何か力になれるかもしれない。

 

 

 そんなことを思いながら空晴は走っていたが、コンビニの裏側にある道を横切った瞬間、視界に変なものが映った。

 

 「……灰?」

 

 道路の上で灰が積もっていた。

 

 こんもりとした灰。サイズは公園の砂山くらい。

 風景にミスマッチだった。しかも一つじゃない。

 

 

 「なにこれ?」

 

 道路のあちらこちらに十を超える灰の山が積もっていて、雪かきして積もった雪が溶けだしたみたいな光景。

 どうしようもない違和感を抱えながらも、なんとなく、この先にあの少女はいると予感めいたものを感じていた。

 

 

 こつん。

 

 

 一歩踏み出す。

 

 その瞬間。空気が変わった。

 やばい。いつ死んでも()()()()()()

 

 空晴は本能のままに横へ転がる。

 一瞬の空白を挟み、先ほどまで空晴が立っていた地面に何かが突き刺さった。

 

 

 「な、なに!?」

 

 驚きの声を上げながら、それの正体を確認する。

 

 色は黒で針の様に細い。

 ものすごく長いわけではないが、空晴の胴体を貫通しそうな長さだ。

 

 一体どこからあれは出てきたのかと眼球を動かして、ようやくそれが見えた。

 

 形容するなら蜂と蠅を足したような姿をしたロボットだろう。

 大きさは六〇センチほどで、機械で出来てるのは明らかなのにやけに生物的な見た目をしている。

 虫嫌いでなくとも嫌悪すると想像できる醜悪な外観をしていた。

 

 「な、なにあれ?」

 

 空晴は自身を攻撃したと思われる存在を見て、思わず疑問の念が湧きだしてしまう。

 だが、相手は一切の疑問を挟まずに空晴へと突撃してきた。

 

 空晴は、避けるというより転ぶ形でギリギリ突進を回避できた。

 

 相手の正体はなんであれ、こちらを害するのに一切の躊躇がないことから、友好的な相手ではないことだけは確実だ。

 

 空晴は相手との距離を目測で測り、どう動くか思案する。

 距離は大体七メートル。筋肉にかかる負荷を一切無視すれば三歩で詰められる至近距離。

 

 普通の相手なら逃げだすことも可能な距離だが、相手は空を飛ぶ機械の蟲。

 地上を走る車と空を飛ぶ飛行機の様にあっという間に追い付かれかねない。

 

 それに、警戒するべきはあの黒い針だ。

 

 走って逃げる背中をあの針でズドンと打ち抜かれたらそれで終わり。空晴は十五年の生涯を終えることになるだろう。

 

 突進を避けられた機械蟲がこちらを向き、顎からキシャーと威嚇するような音を出した。

 スピーカーか何かがあるというより、歯車の嚙み合いと駆動部同士の接触からなる金属音が、まるで鳴き声に聞こえるのだ。

 

 だが、その耳障りさから、一瞬だけ身が固まってしまったのはマズかった。

 

 機械蟲は、蜂が針を刺す準備段階の様に機体を曲げて狙いをつけるように空晴を見据えると、風切り音を鳴らして針が撃ちだされた。

 

 見て避けるなんて不可能だ。

 

 細く長い漆黒の針、いや、空晴から見て杭のようなものは一瞬で距離をゼロにし、胴体に風穴を開けるだろう。

 どれだけ全力で生き足掻こうとしても間に合わない。自力で生存が敵わない以上、空晴はここで死ぬ。

 

 しかし、

 

 空晴を絶命させんとする漆黒の杭は袖をかすめるだけで空晴を傷つけるに至らなかった。

 空晴が何かしたわけではない。ただ相手が勝手に狙いを外したのだ。

 

 だが、この隙を有用に使わねば未来は無い。

 

 空晴は一瞬の隙を使って一目散に駆けだした。

 

 とりあえず今は距離を取りたい。至近距離では飛んでくる針を避けるのは不可能だ。次に飛んで来たら流石に死ぬかもしれない。

 

 (誰かに助けを……!)

 

 この街には普通の街にはいない特殊技能者がたくさんいる。

 彼らは災獣に対抗する者たちだが、人間である以上一定の規則違反をするものは出てくるのだ。

 

 暴走能力者や魔法を使った犯罪など、一般の警察では手に負えない者たちを捕縛する専門の人たちがいる。今の状況だって、こういった事態を専門に扱うプロに助けを乞えばきっとなんとかなるはずだ。

 

 人類の生存権を守る精鋭たちが来ると考えれば今の状況からでも希望は見える。

 

 だが、一点問題があった

 

 

 (どこに駆け込めばいいかなんて知らないんだけど!?)

 

 

 そう。

 

 アヴァロンに来たばかりの空晴はこのあたりの地理にまだ疎く、緊急時に助けを求める場所が何処にあるのか知らなかった。

 

 地図を見てないわけではなく、シンプルに道を覚えていない。

 治安維持組織の存在は知っていてもその支部なり本部が何処にあるかなどは知らない。  

 

 

 知ってることなど、バイトを始めるときに店長から聞いたレジの下にある通報用のボタンの位置くらいで……

 

 

 ……通報用のボタン?

 

 

 (そうだ! コンビニに戻ってあれを押せばいい!)

 

 強盗などが来た時用のレジ下の通報ボタン。

 携帯を持ってない以上、大声を出す以外に、まともな助けを期待できる唯一の手段だった。

 

 

 空晴はコンビニまでの道を全力で駆け戻る。

 

 コンビニの裏側の道から角を二回曲がり、右手にコンビニの明かりが見えてきた。

 後ろから音は聞こえない。どうしてかは分からないが追ってきていないようだ。

 

 視界の端に止まったままのトラックが映る。

 前向き駐車したトラックの後ろから勢いを殺さないようにしながら回り込み、目の前に見える自動ドアが開くのも待てないと言わんばかりの速度を、衝突するギリギリで殺して止まる。

 

 自動ドアが開くのに一秒もかからない。

 

 しかし、高速で鐘を打つ心音のせいか、そのわずかな時間がひどく長く感じられる。

 

 結果的にその長く感じられる時間があったから、空晴は気づくことができた。

 

 

 前向き駐車しているトラックの前方。道路から見て店内の雑誌コーナーが隠れる位置。そこにいた。

 お尻の針をこちらに向け、今まさに発射する寸前の蜂にも蠅にも見える機械の蟲が。

 

 空晴は直感に任せて後ろ脚を軸にして、体を後ろへ思い切り倒すつもりで回避を試みる。

 回避は間に合わなくとも生存することが出来る一手を打とうとしたのが功を奏したのか。機械蟲が放った針は空晴の左腕をかすめてその奥にあったコンクリートへと突き刺さる。

 

 空晴の命がこぼれることはなかった。

 

 尻もちをついた体勢から何とか立ち上がる。コンビニの入口を目指すべきか一瞬迷うが、流石に側面から襲われる可能性が無視できないので、来た方とは反対の道へと走った。

 

 蟲は耳障りな駆動音を響かせて空晴を追ってくる。

 

 

 (直線距離でコンビニに先回りされて待ち伏せにあった。走って逃げるのは難しいけど、完全に視界から消えると上空から探される。付かず離れずの距離を保つしかない!?)

 

 蜂にも蠅にも見えるあの機械蟲と直線での追いかけっこは成立しない。速度差があるせいで必ず追い付かれる。よしんば距離を取れても簡単に先回りされる以上、建物内や地下に駆け込む以外、逃げ切るのは不可能と思ったほうが良い。

 

 曲がり角を右へ曲がり、そのまま走ると機械蟲と僅かに距離が取れる。コーナーリングは人間の空晴に分があるようだ。

 

 だが、一秒ごとにぐんぐんと距離を詰める機械蟲から逃げるには足りない。後ろから聞こえる不愉快な羽音はじりじりと近づき、空晴を追い詰める。

 もう一度曲がり角を右へ曲がり、機械の駆動音から出る羽音は遠のいた。

 

 しかし問題は一切解決していない。打開策を見つけなければ空晴の人生はここで終了だ。

 

 二回右へ曲がったため、最初に灰を見つけた通りのすぐ近く。あの蟲に見つかり、逃げ出した地点へと戻ってきてしまった。

 このまま周回してコンビニへ戻るか、それとも灰が大量に積まっていた通りを進むか。

 

 

 空晴は一瞬だけ思考を巡らし、左へ曲がる選択を取った。

 もう一度コンビニへ行っても先回りされる可能性がある。今度は避けられるか分からない以上、別のことを試した方が良いと考えたからだ。

 

 瞬間。

 

 後ろから何かが撃ち出される音が聞こえたと思ったら、安売りで買ったバッシュの(かかと)が一部えぐられた。

 足を狙った蟲が針を放ち、そのタイミングで足を前に持ち上げた結果、靴底が一部掠ったのだろう。

 

 逃げるための足が生命線であるので、靴を掠ったことも、その衝撃で一瞬体勢を崩しそうになったのもヒヤリとした。だが、何とか転ぶことなく走り続けることが出来たのは僥倖だった。

 

 (死ぬかと思った! 死ぬかと思った! あいつ足狙ってくるとかふざけんなよ!?)

 

 追う側としては当然の行動も、やられる方としてはたまったものじゃない。移動手段を失った瞬間チーズのように体が穴だらけにされるのは間違いないのだ。

 

 止まったらチーズにされると思ったその時、空晴はわずかに違和感を覚える。

 先ほどコンビニから逃げるときに、背中を撃てる機会はあったはずなのになぜ撃たなかったのだ?

 

 何かわかりそうになったが、それよりも逃げるのが先と、最初に灰を見つけた通りへ入る。

 

 (ここなら針が地面に刺さってたはず。それを引き抜いて武器にできれば!)

 

 空晴が導き出した手段として、機械蟲が撃ち出した針を逆に相手にお見舞いしてやろうというものだった。

 このまま逃げ続けても追いつかれるのが時間の問題なら、迎撃するしかない。

 

 路地裏の不良と喧嘩する時とは危険性が段違いであること理解したうえで、空晴は迎え撃つ覚悟を決めた。

 

 だが、ない。

 

 

 最初に空晴を襲い、命を奪うのに失敗した黒い杭のごとき針がない。

 

 (は? なんで針が……)

 

 疑問に思ったのもつかの間。

 走りながら、なんとなしに後ろ確認した時丁度、機械蟲が針の狙いを定めている所だった。

 

 命の危機。避けねば死。

 

 簡単に命の火を消し飛ばす漆黒の杭がこちらを狙っていて、空晴は完全にあてずっぽうでジャンプした。

 すると、再び足を狙っていた杭のごとき針は空晴のすぐ真下を通り過ぎて、地面へ突き刺さる。

 

 あんな風に地面に突き刺さったものなんかそもそも引き抜けるのか? と、一瞬思ってしまった空晴だが、後ろを振り返った瞬間の光景を見逃さなかった。

 

 (()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 振り返ったタイミングでは、先ほど足を狙って放たれた針が見えるはずだった。

 

 しかし、ない。

 

 あるはずの物がない。まさか一瞬のうちに回収したというのか?

 

 それはない。だってあれは地面に撃てば()()()()()()()。そんなものを通り過ぎる一瞬で回収できるとはさすがに思えない。

 

 ではなぜ消えた?

 

 

 (まさか、本当に回収してる?)

 

 追われてる空晴だから分かるが、止まって針を回収してるような様子はなかった。

 

 となると、あの針は勝手に消えて、機械蟲へ自動格納されてるとでも思うしかない。

 

 (つまり、暫くあの針は撃てない?)

 

 そこまで考えた空晴に何か策が思い付きそうなったが、相手が見せた突進してくる様子に”まずっ”、と緊急回避をする方法を模索するのに精いっぱいだった。

 伏せる? 潰されておわり。ジャンプする? 吹き飛ばされて終わり。横に転がる? こっちが走ってるせいで軌道修正がしやすいだろうから当たる! 

 

 回避手段が見つからない。組み伏せられようものならジエンドである。

 

  

 そんな空晴の目の前には。

 

 (電柱!?)

 

 道の端に広めの等間隔で設置されてる電柱。 

 このままでは鼻から当たって大事故につながってしまう。機械蟲と電柱でサンドイッチになって死にたくない!

 

 であるなら‼

 

 

 「根、性おぉぉ‼」

 

 

 空晴は地面を思い切り蹴って跳躍する。

 電柱に片足を掛け、そこからさらにもう一度電柱を蹴って、サッカーのオーバーヘッドシュートに近い後方宙返りのような何かを披露した。

 

 一方空晴めがけて突進してきた機械蟲は最高速度で電柱に頭から突っ込んだ。

 金属がつぶれるような、グシャ、っとした音が周囲に響く。

 機械蟲はそのまま地面へ墜落し、バチバチと内部機関で火花を起こさせた。

 

 

 そして、空晴は。

 

 「なんか出来たああぁぁ‼‼」

 

 動画とかで見るアクロバットな動きが出来たことを自分が最も驚いていた。

 怖い。自分の才能が怖い。もしかして世界狙えるのでは?

 

 益体もないことを考えながらも、奴の様子を確認する。

 

 頭部が一部陥没して、ビリビリと内部機関からの音が聞こえてきて無力化したように思えた。

 が、奴はまだ動いている。

 

 それこそ死にかけの虫が足を痙攣させるかのように。まだ動いていた。

 

 空晴は、いま来た道を走って戻る。

 その瞬間だった。蜂にも蠅にも見える醜悪な外観をした機械蟲がグルッ! と、こちらを向き片方が壊れたのか、ぶら下がった顎と内部の機械が覗き見える頭部からガシャガシャと金属質な音を響かせる。それは咆哮代わりだったのか、先ほどの倍の速さで突進してきた。

 

 文字通りの最後の一撃。

 蜂にも蠅にも見えるその機体へ入ったダメージが一定以上になり、せめて目の前の敵だけは倒さんとする最後の抵抗。

 

 大した意味もなく作られ、期待など最初からされず、その通りに期待された働きをすることなく終えるとしても。

 眼前にいる存在だけは破壊せんとして、十秒後には機能停止する機体を駆動させて加速する。

 

 

 開いていた距離を一息で詰め、空晴の胴体を突き破る勢いで突進。

 

 そして、空晴はなぜか、()()()()()

 

 

 なぜ止まったのか理解できなくとも、機械蟲にとって絶好のチャンスであることは間違いない。

 そのままの速度で突撃する機械蟲。二秒後には胴体が完全に破壊された空晴の身体が転がっているはずだ

 

 そして。

 

 

 

 その瞬間。空晴が全身で振り返った。

 

 機械蟲のカメラに映ったのは、コンビニ店員の制服を着た一五歳ほどの少女の姿。

 左腕からわずかに出血しており、これから絶命させるほどの負傷を負わせんとたくらむニンゲン。

 予定にあるどころか、警戒対象ですらなかった前触れなく現れた存在。なぜか()()()()()()()()()()()()()()()()()部外者。

 

 そんな突如現れた乱入者は、一切戦意が失われてない瞳をこちらへ向ける。

 

 その手に、先ほど足を狙って()()()()()()()()を槍のように握り絞めて。

 

 

 「うおおおお‼‼」

 

 空晴は握った漆黒の杭を前へ突き出した。

 機械蟲が突進してくる真正面に。

 

 回避はしない。自身を奮い立たせる雄たけびを上げて全力で耐える!

 

 

 機械蟲が針を認識した時、既に減速する余裕は一切なかった。だから減速なんてしない。

 このまま目の前の敵に食いつくのみ!

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 グシャリ‼ と、轟音というにはあまりにも小さく、軽い音というにはあまりにも重い衝突音が、夜の都市の一角に響き渡った。




たまにあるおいしそうな期間限定に心が揺れる。
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