TS人工ロリ天使(生産終了済み)がコンビニに通う話 作:暇じゃない暇人
誤字報告ありがとうございます。
つなげると長かったので前話と分割しました
「か、勝っ……た」
バタリ、と。勝利を収めた空晴は仰向けに倒れる。
まだ動けるヤツの攻撃を避けるのは難しいと判断し、先ほどジャンプして避けた針を回収しに行ったのは正解だった。
果たして地面に刺さった針が抜けるかどうか。それが一番の問題だったが、抜くことに成功したのは神に愛されているとしか思えない。
まあ、多分。刺さった際に隙間が出来て抜けやすくなっていたとかその辺だと思うが。
それでも空晴が勝ったのは事実だ。
「──痛った……」
両手で針を持ち、衝激は分散できたと思ったが、前に握っていた右手の手首に痛みが走る。
左手で押さえるが、しばらく動きたくない。
命の危機を乗り越えたことでアドレナリンが切れたのか、体が重くて仕方なかった。
そういえば晩御飯食べてない。空晴はそんなことを考え、とりあえずコンビニに戻らないとと自分の仕事を思い出す。
長いこと留守にしてるのは流石にマズイ。サボっていると見做されれば最悪クビだ。
せめてクビになるなら給料だけは払ってほしい。その金で牛丼特盛と牛皿特盛をお代わりしてやるのだ。
もしかして結構食い意地張ってる方なのでは? と、一応華の女子高生である自身を顧み心配になる空晴であった。
首を回して先ほど針で串刺した機械蟲を見やる。
奴は既に自身の針もろとも灰となり、砂場の山みたいに積もっていた。
今では大量に出来た砂山の一つである。
先ほど命を奪われかけた存在がさらさらと消えゆく様を見てると何とも言えない感情が湧いてくる。
とりあえず起きないと。そう考えるも目蓋が閉じてしまった。眠いわけではないが、とりあえず目を休めたいという体の意思か?
とりあえずもう少しだけ頑張って、来週入る給料で何か買おう。
……来週まで果たして生きてられるのか? 残金六円で?
そこまで考えた空晴の耳に音が聞こえた。ブンブンと、不快な羽音が聞こえてくる。
そう。さっきまで追いかけまわされた蟲の羽音によく似た音が。
驚きの念で目を開けると、目の前に蟲がいた。
蜂にも蠅にも見える機械で出来た蟲。
あまりにも醜悪で、虫が平気な人でもおぞましく思ってしまうような外観をした機械の蟲が。
目の前にいた。
しかも針をこちらに向け、発射する寸前の状態で。
(やばい。──死ぬ)
今更になって空晴は気づいた。
例えば、この道路にある灰の山の数。
先ほど倒した機械蟲は一つの灰の山となったが、道路上には十以上の灰の山が雪かきで集めたかのような状態であちこちに積もっていること。
これが意味することはただ一つ。
あの機械蟲は一匹ではなく大量にいたのだ。空晴が遭遇したのはそのうちの一匹で、全部でどのくらいの数がいたのかなど全く把握していない。
次に、バッシュの底を浅く掠めた針について。
この通りに走り込んでくる前に撃たれたあの一撃は、よくよく思い返してみれば変だ。
空晴が針を撃たれたのは計五回。
偶々避けられた初撃。逃げる直前のなぜか外れた一撃、コンビニの前、靴底を掠めた時、そしてジャンプして避けて地面に刺さった時。
そのうちコンビニの前と靴底を掠めた時とジャンプして避けた時では間隔が短すぎるのだ。
靴底を掠めた時が仮になかったら、何とかよけられた初撃を除いて、それぞれ大体のインターバルは同じくらいになる。
そこまで気づければあとは簡単。
あの時靴底を掠めた一撃を放ったのは、追ってきてるやつだと思っていたが、実際は目の前にいる機械蟲だったのだ。
ついでに、最初の一撃もこいつだ。周りを見た結果、別の機械蟲がいたが、こいつは上空辺りにいたのだろう。
ここまで思い至ればどれだけ空晴自身が愚かな行動をしていたのか分かってくる。
目の前の敵に意識を完全に持ってかれて、大量の灰の山というヒントに気付けず、伏兵の存在を見落とした。
さらには、撃破した瞬間完全に気を緩め、周囲の安全確認もせずに寝転んでいたのだ。
自分がまだ安全とは程遠い位置にいるとは気づかずに! 未だココは敵地で命の危機は去ってなどいないというのに!
暢気に寝転んでいたのだ。空晴は。
その油断の代償が今、払われようとしていた。
寝ている今の体勢から針を避けるのは不可能。近すぎて転がって避けようとしても軌道修正されておしまいである。
でも、それでも。大人しく諦めるなど空晴にはできなかった。
「ああああああ‼‼」
右手を思い切り伸ばして針と心臓の直線状に盾として置いた。
拳で届かない距離から狙い穿たんとしている以上、これくらいしか手段が思いつかない。
あの針を腕一本の犠牲で止められるかは賭けになるが、そのまま受けるよりも生存確率は高いはずだ。
実際どれくらい生存確率が上がるかなど不明。無駄に終わる可能性も十分以上にある。
だが、それでも諦められない。
しかし、空晴がいくら足掻いても、これから放たれる一撃は止められない。
どれだけ良くても、空晴は右腕が使えなくなる重傷を負うことは間違いないのだ。
だから、覚悟するしかない。
意識を失わないように。
戦意が奪われないように。
生き抜く思いが消えないように。
──歯を、食いしばれ‼‼‼
そして、
そして、
そして、
一つの存在が、消し飛んだ。
────────
消し飛んだ。
空晴の命が…………
今まさに、空晴を殺害せんと放たれる瞬間だった針を持つ機械蟲が。
もっと言えば、その機械蟲の頭部が。
目に見えない何かが命中して機械蟲の頭が根こそぎ消し飛んだのである。
頭部を失くした機械蟲は暫くそのことに気付いていないように滞空していたが(そのまま撃たれるのではとヒヤヒヤした)、時間が止まったように動きを止め、一瞬で体が灰となり崩れていった。
──助かった……?
「すごいね店員さん。どっからどう見てもずぶの素人なのに、一匹なんとか倒しちゃうとか。最近のコンビニ店員って戦闘力も採用基準に含まれてたりするの? たしか昔、コンビニのアルバイトが強盗を撃退したとかで、それをモデルにしたゲームが出来たこともあったとか何とか……」
呆然として、今か今かと覚悟していた一撃がもう来ないことを受け止めようとした空晴の耳に、見知らぬ声が聞こえてきた。
首を上に逸らして声の方を見てみると、そこには一人の少年がいた。
黒髪黒目でどことなくサイバー感がある(頭の悪い表現だが、空晴の頭脳ではそれくらいしか表現できる言葉がない)制服を纏っていて、左の二の腕に風紀と書かれた腕章をつけている。
制服と言っても学校の制服という感じではなく、どちらかといえば警察の制服といった方がイメージは近い。
いや、もっといえば黒色の戦闘服とも表現できるかもしれない(もちろん頭にサイバー感と付く)。
「……えっと……あなたは?」
そう尋ねると相手の少年は一瞬キョトンとした顔で首をかしげたが、すぐに名前を聞きたいらしいと納得した。
「申し遅れてすまないな。オレの名前は
そこまで言ってから肩をすくめるジェスチャーをする少年こと密山羽牟派は、ホント悲しいぜの後にメッセージトーク画面なら泣いてるスタンプでも送りそうな表情をしてみせる。
はっきり言ってそこまで聞いてないのにべらべら喋ってくるので、少し戸惑ってしまったが、一応助けてもらったからにはお礼を言おうと思い、こちらから名乗った。
名乗った後にお礼を言ったのだが、「ああ、全然いいよ気にしない気にしない……それはそうと、戦闘力が採用基準に含まれてるならもしかしてオレ、即採用されたりする? あ、一応言っとくけど名前が
などということを
そして、この出会い以降、密山羽牟派にアヴァロン外から来たことを伝えた結果、それ以来転校生と呼ばれるようになるのだが、それはまた後日の話である。
今はともかく、(恐らく)こういった事態のプロである
具体性のないことを密山に丸投げする気満々な空晴はそう決めて、
(こいつ。悪い奴じゃないけど……かなり変なヤツだな~)
と、失礼なことを思いながら事情説明を続けていった。意外に(予想通りに?)密山が要領よくまとめていく様は見てると認識がバグりそうになったが、まあいいかと流すことにする。
その後もなんか色々話しかけてくる
そして。
「なあ、立ち話も寒くてつらいしヌックでハンバーガー食べね? 多分経費で落ちるから」
「今すぐ行こう」
「即答か。よし行こう」
寒いから暖房が利いてるとこへ行こうと誘った密山は。
(アレ? こいつコンビニ店員だよな? 職場離れていいのか?)
などと考えたが、まあいいか。と考えるのをやめる。
たとえよくなかったとしても、迷いなくハンバーガー食べにくるこいつが変なやつってだけだし。と心の中で付け加えるのを忘れない。
もしも、空晴にその考えが聞こえていたらお前には言われたくねえと返されていたことだろう。
そして、空晴が密山から転校生呼びされるようになるまであと……
■ ◆ ■ ◆
真っ暗闇であった。
太陽の陽は届かず、通気性は期待できそうもないどこかの空間の中でその人影は愚痴っていた。
「はああああぁ。やっぱダメだったかぁ~。最初から期待なんてしてなかったけどステルス性を考えるとあれくらい脆くなっちゃうんだよなぁ~」
続けてハアァ~とひどく面倒そうなため息を吐く。
「いい加減サンプルが限界だからさぁ。ボクの理論を試すには人工天使が最適になっちゃうから何とかして確保したいんだよね~」
人影はそう言うと自身の後ろを振り返る。
そこにいたのは
その小さな
後ろの光景は人影からすれば見慣れたものなのか、一切臆することなく変わらない光景に観察した。
つまりどういうことかというと、研究が行き詰ったのである。
何とか戻せる箇所は戻してトライアンドエラーを繰り返したが、流石にこれ以上やると修復不可能になってしまう。
人影からしてもそれは困る。変わり者であると自覚している自分には頼れる仲間がいないのだ。
同僚らに援軍を求めるどころか、ついでとばかりに始末されかねない。
人類を滅ぼすという同じ志を抱いているのに、こういうところは全く相いれないったらしょうがない。
野蛮過ぎる仲間を持つと本当に苦労するったらもう。
「全くもう。なんでみんなわかんないんだろうね~。ボクらは強くて人間は弱いけど、あいつらだって少しずつ強くなっていくんだよ? 今はまだ大丈夫だけど。でもいつの日か完全にパワーバランスが逆転することだってあり得るのに。ホントなんでそんなことも分かんないかな~!」
人影は思わず頭を抱える。
なまじっか頭が良いから同僚らとは反りが合わない。単純にまともに会話ができる知性の持ち主がほぼいないのだ。
どいつもこいつも脳筋ばかり。
ほんの少しだけいる(文字通り)話が分かる奴も人影が持ちかける案には否定的。
じゃあお前らどんな考えがあるのかと聞いてみれば大した効果もない策を我が物顔で言うばかり。
そんなことやるくらいなら人類の仲間割れでも狙った方が百倍マシだろと思ったが、流石に殺されかねないからやめておいた。
「はーホントうまくいかないよ~。てかなんだよあの七奇道ってのは。あれ油断すると普通にこっち負けるよ? まだあのレベルを量産には至ってないようだけど、
一通り文句を言ってスッキリしたのか。
人影は足元に散らかった資料の一つをつまみ、ジーっと観察をする。
これといった意味は無いが、何かアイデアが浮かぶかも知れない。
あーヤバい。アイデアどころか心配の方が浮かんできた。
「やっぱあの七奇道が量産されたりしたら流石にやばいよな~。一人一人でも厄介なのがAKみたいに気軽に配備されるとか……控えめに言って地獄じゃん。どう見繕ってもボコボコにされるだろうなぁ」
ハハハ。と乾いた笑いを挙げるが、ハアァーと、ガックシを肩を下げて「笑えねえー。笑えねえよー」とこぼしてしまう。
だが、そうなったらそうなったで、別の勝ちの目を狙うのが筋だ。
人影は資料の中から一冊の本を手に取ると、それを開いて目的のページを探し当てる。
その本は高校で使われる歴史の教科書で、人影が以前苦労して手に入れた一冊であった。
目当ての記載を探し当て、じっくりと文を読み進める。
どうやら過去に世界大戦と呼ばれるものが二回起きており、この教科書は二回目に起きた大戦の敗戦国で出版されたものらしい。
その中で面白そうに思えるものは大戦末期の記載。
いくつかの国が手を組み起こした大戦で、攻め込まれた側は致し方なく手を組んで協力体制を築いていくが、ほとんど勝利が確定した段階でまだ勝ってもいないのに勝利後の配分について喧嘩をしたらしい。
その後、無事勝利を収めた国同士は睨み合い、核を目の前にチラつかせ合う冷戦の勃発。
これは何とも。
「ぷっ。クフフ。人類ってバカだよねえ~。こんなのついてくださいって言わんばかりの隙じゃんか」
そう。もしも、あの七奇道なんていうバケモノの量産に成功して戦況が勝利確定まで近づいたら人類同盟はどうなるか。
人影は教科書は一通り読んだが、人類史は大体似たようなことを繰り返して進んでいるという認識でいいだろう。
流行り廃りの循環。優先事項をグルグルし続ける建築様式。
数え上げれば切りがない。
ホント。なんでこんなに隙だらけなのか。
決して無能なわけではないのに、バカとしか思えない行動をなぜか繰り返し続けているのだ。
隙だらけで、もはや可愛く見えてしまう。
圧倒的劣勢に立たされたら仲間割れを起こさせてやろう。
たとえ我らが滅ぼうと、人類を滅亡させられるなら構わない。
積極的に取りたい策ではないが、必要に駆られたら躊躇なく使う程度の忌避感しかない。
「ねえ。君も人類ってバカだと思わない? 本当だったらボクを簡単に殺せたはずの戦力だったのに、バカな人間のせいで君たちは全滅。あまつさえキミは捕まりモルモットだ。ホント、これじゃ生き残れたのが君にとって幸運だったのか不運だったのか」
人影はやれやれと肩をすくめるようなジェスチャーをして小さい生き物が群がっている
それは人影の声に反応を示さない。
だが、
「う~ん……やっぱなんでまだ壊れてないのキミ?」
「……………」
壊れていた。言語能力は全く機能せず、時折返ってくる空気の振動はただの反射だろう。
でも、まだ完全には
「なんでだろね~。装備品は全部外しちゃったし、君たちお得意の……何とか霊装? もとっくの昔に破壊したし。……うーーん。……やっぱりなんでキミはまだ壊れてないのかな~?」
「……………」
何を精神的支柱にしてるんだか。そう言ってやれやれと首を振る。
そうして人影は自らの研究へと戻って行った。
どうやら物言わぬ
今日も今日とて人影はワガママに振る舞い、好きなように生きている。
だから気づけない。先ほど一瞬でも興味を持った答えについて。
「…………………………」
ただ聞こえなかっただけで、
「ぉ……ねぇ……ちゃん」
答えがずっと漏れていることになど。
人影はついぞ気づかない。
空晴 日奈
十五歳の高校一年生。
大分高め(本人曰く平均的高校生)の身体能力と主人公気質を持った無自覚系鈍感主人公気質女子高生。
偶々出会った訳アリ少女を命を懸けてでも助けに行っちゃう系である。男だったら普通に学園異能ハーレムモノが展開される。
別に自分を不幸と思っているわけじゃないが、家族関係で色々あった。そしてそれは関係ないが不良としばしば喧嘩することもあったらしい。
恐らく空晴が主人公のラノベがあったらこの世界はIFストーリーに該当する。
多分主人公と言える存在だが、役割は主に被害者である。なにのとは言わない。