Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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Z-ONE、キヴォトス崩壊から脱出する

 カード集めの旅の締めくくりとなる最終目的地、アビドスへと向かう道中。アビドス自治区がもはや廃れていく一方だったのが幸いして、道中の幹線道路はさして崩壊したり壊れた車などで塞がってはいませんでした。

 

 快適でいいですね、と正直な感想を口にしようして、止めました。テフヌトの正体が私の想像した通りだったとしたら、彼女に対して許容しがたい侮辱になるかもしれませんからね。

 

「ん……?」

 

 こんな状況だろうと活動しているかもしれないビナーを警戒するために時折周囲に視線を向けていましたが、黄金色の砂と幹線道路脇に並走する超高圧送電線の鉄塔以外に何もなかった景色に気になるものがありました。

 

「気になるものを見かけたので寄り道していいですか?」

「えっ? 何か見えたの? さっきから同じ光景が広がるばっかだけど」

「デュエリストの視力を侮らない方がよろしいかと」

 

 不動遊星がクラッシュタウンより遠く離れた岩場の上から鬼柳京介のデュエルを観戦したように。……多分不動遊星になる前の私でしたらあれほど距離が離れていたら双眼鏡は必須だったでしょうが。

 

 テフヌトたちに断りを入れて幹線道路から外れて砂漠を疾走。傍で停車して視界に映った物を拾い上げます。誰かが亡くなった後に砂に埋もれたのかもと危惧しましたが、どうやら杞憂だったようです。

 

「マフラー、ですか」

 

 この水色のは私も何回か会っているアビドスのシロコがいつも身につけていたものです。しかし確か量産品だったのでショッピングモールに行けば簡単に買えたはず。アビドスの住人の、または破壊された店から飛んできたものかもしれません。

 

 しかし寄り道してまで手にした以上は捨てるには忍びなく、折りたたんでから紙袋に入れて懐にしまい込みます。どうするかは元の世界に戻って洗ってから考えるとしましょう。

 

「ユウセイ先生、何を見つけたのですか?」

「いえ。誰か埋まっていないかと思ったのですが、服飾が落ちてただけでした」

「とんだ道草を食っただけでしたね」

「……もう、このキヴォトスで生き残ってる人なんていないよ」

 

 ベアトリーチェに嫌味を言われてテフヌトが寂しそうに呟かれます。申し訳ない気分になったので謝罪の言葉を口にして旅を再開しました。

 

 少し経つとようやく砂漠のど真ん中にアビドスの都市部が見えてきます。

 そんなアビドス跡地に出現していた蜃気楼の街は……既に崩壊していました。

 

「は? いや、ちょっと、どういうことよこれ!?」

 

 驚愕の声を上げていち早くサイドカーから降りたテフヌトは蜃気楼の街の入口へと駆け出し、街の様子を見渡します。建物は破壊しつくされ、陽炎の住人たちが至るところで横たわる惨状が理解出来ないようでした。

 

「私が出発した時はこんなんじゃなかったのに!」

「まだ奥の方から破壊音が聞こえてきます。そう時間は経っていないようですし、すぐに向かいましょう」

「そ、そうね」

 

 こうなっては隠密行動に優れた段ボールは要りません。私たちが街の中を走っても誰一人として立ち塞がろうとはしません。そんな者たちは先行した何者かに排除されているようです。

 

 この蜃気楼の街はどうやら温泉街なようです。街の至るところから湯気が立ち上っています。硫黄の匂いが鼻をくすぐるので、もはや建造物や町並みのみならず土地すら変貌させているのでしょう。

 

 その中でも一番大きい木造建築の温泉宿のような寮に入った私たちは廊下を駆け抜け、支配人室へと入り……衝撃的な光景を目にしました。さほど絆を結んでいなかった私ですらこうなのです。テフヌトにとっては信じたくないものだったでしょう。

 

 黒尽くめの戦闘衣装に身を包んだ少女はカードを死守する陽炎の住人と戦っているようでしたが、もはや一方的な蹂躙に過ぎませんでした。陽炎の住人が起死回生の一手で召喚しただろう形が朧気なモンスターに対し、その侵入者は……、

 

「邪魔。《邪神アバター》、排除して」

 

 と、容赦なく己の下僕に命じました。

 

 天井付近に浮いていた漆黒の太陽から降り注いだ暗黒の波動が虚ろなモンスターを消し飛ばしました。そのまま侵入者は陽炎の住人を叩き伏せ、上から何発も銃弾を浴びせます。もはや動かなくなっても何発も、何発も、念入りに。

 

 侵入者の銃口がこちらへと向けられます。既に《くず鉄のかかし》はセットして《シールド・ウィング》は手札にあります。これで凌ぎつつユカリたちに攻勢に回ってもらえば対処できるはず……、

 

「ホシノ先輩……?」

 

 そんな中、若干震えた声を発したのはテフヌトでした。

 今にも引き金を引こうとする侵入者の指が止まります。

 そして銃を持つ手が小刻みに震え始めました。

 

「……。セリカちゃん?」

「っ……! 先輩……!」

 

 テフヌト……いえ、この世界のセリカは顔を覆っていた包帯を引きちぎり、侵入者ことこの世界のホシノへと駆け寄ろうとしました。しかしホシノはぶれていた銃の照準を再びセリカの胸元へ合わせます。

 

「駄目! 来ないで!」

「っ!? ……先輩」

 

 セリカも衝動を抑えつつ自分の頬を殴り、ホシノと向き合います。

 セリカもまたホシノへと銃口を向けました。戦闘になればホシノが勝つのは明白ですが、戦うのに躊躇わないとの意思表示のためでしょう。

 

 ホシノは私の知る彼女とは変容しており、その眼光は射殺さんばかりに鋭く、発する気配は禍々しく、何より彼女のヘイローはまるで古代エジプトの神ホルスの左目であるウジャトの目のような形に変わっていました。

 

「本当にホシノ先輩ですか? 先輩はあの時……私やシロコ先輩たちで仕留めましたよね。まさか死人が動き出したとでも言うんですか?」

「ああ、うん。良かった。安心したよ。そう疑ってくるってことは私のことを知ってるセリカちゃんだろうからねー」

 

 ホシノはいつものように朗らかな笑いを浮かべた、と自分では思っているのかもしれませんが、目が全く笑っていないのでかえって恐ろしさを覚えます。

 

「で、後ろにいる奴らは誰?」

「この人は私がランダムに行った別の世界で"先生"と一緒にシャーレの先生をやってるユウセイ先生」

「……! 特にそんな能力の無いセリカちゃんが行けた先の世界ってことは、もしかしてシロコちゃんたちも?」

「まだ会ってないけれど……もしかしたら」

「……。そう」

 

 セリカとホシノが何を確認し合っているのかは会話の内容から察するしかありませんが、そんな考察する暇を与えずにホシノは奥の棚からカードを引っ張り出し、セリカへと投げつけました。受け取ったセリカは確認した後に私へと渡します。

 

 《FNo.0未来皇ホープ・ゼアル》、確かに受け取りました。

 

 すると支えを失った蜃気楼の街は消失し、辺りは砂漠の砂が侵食する町並みに戻りました。至るところに破壊跡があることからもアビドスでも激しい戦闘があったようです。それもビナーのような強大な相手との。

 

 そして、4体の「未来皇ホープ」を失ったこの世界もまた、最後の時を迎えようとしていました。

 

「世界が……崩れる……!」

 

 空を見上げると雲が浮かぶ青空に亀裂が入り、段々と砕けていき、光どころか闇すら無い無が広がっていきます。やがて空ばかりでなく遠くの山、砂漠、廃墟とかしたビル群も割れては消えていくではありませんか。

 

 自動運転でDホイールを呼び出して私たちは乗り込みます。しかしホシノだけは立ったままです。私が手を差し伸べても彼女は顔を横にふるばかりでした。セリカが声を張り上げますが彼女の意志は固まっていました。

 

「セリカちゃんがどう生き延びたのかはこの際聞かないよ。でも生きててくれて私は嬉しかった。でもごめん、私はここまでだから後はよろしくね」

「どうして! 先輩だって生き返ったんじゃあ……!」

「違う。私は《邪神アバター》で魂を現世に繋ぎ止めてるだけ。死にっぱなしで動いてるだけだよ。それももう限界っぽくてさ。いやー、参っちゃったよ」

「そんな……!」

 

 今にも泣き出しそうだったセリカの頭をホシノが撫でました。号泣しそうだったセリカは必死になって涙をこらえます。

 

「シロコちゃんたちをよろしくね。頼んだよ」

「……っ。はいっ!」

 

 頷いたセリカに微笑んだホシノは、今度は私の方へと向き直ります。その面持ちは真剣そのものでした。こちらが少しでも邪な考えを頭によぎらせればすぐにでもこの額に風穴を開けるぞと言わんばかりです。

 

「それと……ユウセイ先生だっけ?」

「ええ」

「私はアンタをこれっぽっちも信じてない。けれどユウセイ先生を信じるセリカちゃんを私は信じる。だからこれを託す」

「このカードは……」

 

 渡された魔法カードにはテキストが全く書かれていませんでした。カード名の《真実の名》だけが記されています。イラストには誰か、身につけた腕輪から高貴な地位の者、がアクセサリー、おそらくカルトゥーシュを持つ構図が描かれています。

 

「持ってて。使い所はカードが教えてくれる」

「分かりました。預かります」

 

 私は託されたカードを自分のデッキホルダーにしまいました。特に抵抗なくしまったことでホシノは若干呆れた様子を見せます。

 

「……。こう言っちゃ何だけど簡単に信じちゃうんだね。デュエリストのライフと引き換えにカード効果が発動されるかもしれないんだよ」

「生徒を信じる。"先生"だって同じようにしたでしょう」

「……! ……。そうだね」

 

 ホシノはどこか寂しそうな笑みを零しました。

 既に世界の崩壊はすぐそこまで迫っています。時間の猶予はありません。

 Dホイールを起動。空間跳躍機能を作動。後はフルスロットルするだけです。

 

「じゃあねセリカちゃん! 向こうでも元気でやるんだよ!」

 

 遠ざかるホシノの姿。サイドミラーから見えた手を振る彼女は、やがて膝から崩れ落ちて倒れました。そんな彼女の身に無情にも世界の崩壊が襲いかかり、その小さな身体は無へと飲み込まれていき、やがて消えてしまいました。

 

「ホシノ先輩ぃぃっ!!」

 

 セリカの叫びがこだまする中、私たちは滅亡したキヴォトスを後にしました。




◇小鳥遊ホシノ
使用デッキは《ラーの翼神竜》入り【お触れホルス】
エースモンスター兼切り札は《ラーの翼神竜(原作版)》
なお本人が戦った方が手間がなく手っ取り早いので、デュエルの腕はイマイチ。

◇ホシノ*テラー(並行同位体)
本話に登場したホシノは《ラーの翼神竜》を反転させた《邪神アバター》によって魂を現世に繋ぎ止めている死人。
その姿はブルアカ公式生放送で明らかになった原案の状態。
使用デッキは《邪神アバター》入り【王の棺ホルス】
エースモンスター兼切り札は《邪神アバター(原作版)》
やはり本人が圧倒的に強いので基本的に《邪神アバター》をポン出しするだけ。

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