◆三人称視点◆
「カヤ防衛室長。丁度いいところに来ました。"先生"がヴァルキューレに拘束されているそうですが、何か事情を知りませんか?」
「SRTを閉鎖した反動でD.U.地区の治安維持がままならず、一部を民間企業に委託する決議案を採択したじゃないですか。それでヴァルキューレとカイザーが協力関係になって交流が盛んになりましたが、そのせいでカイザーとの癒着が進んだんじゃないですか?」
「なっ……!」
非常対策委員会の場にこれまで連絡が取れなかったカヤが途中参加。"先生"が欠席しているのはカイザーとヴァルキューレのせいだと断言。あまりにもいけしゃあしゃあと言い放つものだからさすがのリンも言葉を失った。
しかし批難しようにもヴァルキューレだけでは人手も足りないし力不足だからSRTの存続は不可欠だ、と何度も唱えたカヤの反対を押し切ってSRTを廃校にしたのはリン達だ。元を正せばこの失策が原因になるためあまり強く言えなかった。
「どういうことですか。説明を――」
「そんな悠長なことを言ってられる状況じゃないですよね。とにかくこの異常現象の解決には"先生"が不可欠。けれどヴァルキューレがどんな理由で"先生"を連行したにせよ、正当な手続きを踏んでいたんじゃあのらりくらりと躱されて先延ばしにされるだけです」
「では防衛室長権限でヴァルキューレに命じて直ちに"先生"の釈放を……」
「それだと連邦生徒会防衛室がヴァルキューレを押さえつけた悪しき前例になりかねません。ここは超法的手段に打って出るしか無いでしょう」
そう言うが早いか、カヤはリンたちが何を言うのも無視して電話をかける。スピーカーモードに切り替えなかったので連絡先が誰かリンたちは聞き取れなかったが、"先生"奪還の依頼をしているのはカヤの発言から分かった。
「では私はこれで失礼します。信頼できるビジネスパートナーと一緒に"先生"を連れて戻ってきますので」
「待ちなさいカヤ室長」
電話を終えるやいなや退室しようとするカヤをリンが呼び止める。カヤは足を止めてリンへと向き直った。カヤはいつもの調子だがリンはカヤに疑惑の目を向ける。
「そのビジネスパートナーとはまさかカイザーコーポレーションではないでしょうね?」
刃のように鋭い言葉を投げかけるリン。
カヤは普段のように笑顔をリンに振りまく。
「まさかマッチポンプを疑っているんですか? ヴァルキューレにカイザーと癒着させて"先生"を拘束。"先生"を失った非常対策委員会は瓦解。リン行政官の権威を地に落とす。そんなシナリオを書いていると?」
「違うんですか? カヤ室長がカイザーと懇意の仲なのは公然の事実でしょう」
リンの推測は半分当たっている。カヤがカイザーと結託してリンの失脚とシャーレの解体を計画しているのは事実だ。あわよくば異変の混乱に乗じて連邦生徒会とサンクトゥムタワーの掌握とて視野に入れている。
しかし、今は動くべき時ではない。自分の野心やカイザーの野望より優先される勘がそう述べている。そしてその判断が正しいものだと自分が所持している「神」も賛同している。なら、ここでやるべきは、自分の本願だ。
「私の使命はキヴォトスに安寧と秩序をもたらすこと。この異変の兆候を目の当たりにして私が最優先でやることは、異変の解決ですので」
カヤはそのまま颯爽と会議室を後にした。
「んじゃ、私たちも行こっか」
「ヴァルキューレへの殴り込みですか? 私たちが動いてはトリニティが後ほど連邦生徒会より処罰される可能性が……」
「連邦生徒会麾下のヴァルキューレが私たちの先生を不当に拘束してるんだから、むしろ自分たちの怠慢を反省文にしたためてほしいぐらいなんだけど?」
「……。分かりました。私たちが先行するとして、正義実現委員会のツルギ委員長に連絡は入れますか?」
「要らないんじゃない? 人を出してもらうまでには"先生"を助け出せてるって」
ミカとサオリもまた足早に会議室から出ていく。もはや部屋に残る連邦生徒会の面々など眼中に無いとばかりに。
リオもまた配られた会議資料を机に置きっぱなしのまま席を立つ。同席していたユウカが机の上に置いていたタブレットを持ってリオに続く。
「リオ会長。"先生"救出に私たちは何もしなくてもいいんですか?」
「トリニティのミカたちがいるなら任せて問題ないでしょう。それにミレニアム自治区で発生した特異点は2個所。ネルを始めとして戦力は極力温存しておきたいわ」
「了解です。……"先生"、無事だといいですけれど」
「祈るのは合理的ではないわ。私たちは私たちの最善を尽くしましょう」
その後の顛末は特筆に値しない。
カヤが"先生"奪還を依頼した相手はヴァルキューレに席だけ置いて起業しているSRTのFOX小隊。ユキノたちが出動した途中でRABBIT隊と合流。共同作戦でヴァルキューレ第3分校を強襲。脱出途中でカイザーPMC兵に追い詰められていた"先生"の救出に成功した。
「ホールドアップ! SRT特殊学園だ!」
そして、その勢いで連邦生徒会やサンクトゥムタワーごとD.U.地区を占拠するカイザーへの反撃を開始。「シャーレ奪還作戦」を進め、ついにはカイザーPMC指揮官のジェネラルを追い詰める。
「こちらロビー、敵指揮官を捉えました」
「諦めろ。お前らの計画はこれで終わりだ」
「笑わせるな! カイザーの真髄、今こそ思い知れ!」
ジェネラルは装備していたタスキ状のデュエルディスクで魔法カード《オーバーロード・フュージョン》を発動。これまでの戦闘で破壊されたカイザーPMC兵士が召喚した《サイバー・ドラゴン》を素材に《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を融合召喚する。
「貴様らは今まで破壊した機械族モンスターの数を覚えているか? そのモンスターの数×1,000ポイントの圧倒的攻撃力を前になすすべは無い!」
もはや攻撃力が六桁にまで到達した圧倒的な暴力を前にさすがのミヤコたちRABBIT小隊も怯む。しかし行動を共にしていたFOX小隊の面々は余裕どころかむしろ呆れ顔で《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》やジェネラルを見つめる。
「それがどうした? 相手が神だろうが悪魔だろうが、キヴォトスの平和を脅かすのなら我らSRTが制圧する。正義の名のもとに!」
ユキノがリンク召喚した《ヴァレルロード・ドラゴン》の効果、ストレンジ・トリガーにより《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》のコントロールはユキノに渡る。
驚愕するジェネラルが次の一手を繰り出す暇も無く、彼の目の前には既に大剣が迫っていた。
「《H-Cエクスカリバー》でカイザーPMC指揮官にダイレクトアタックします! 一刀両断! 必殺真剣!」
「ぐああああっ!!」
攻撃力を倍化させた《H-Cエクスカリバー》の一撃を受けてジェネラルは壁に叩きつけられ、失神した。これによりシャーレのオフィスビルを占拠するカイザーPMCの兵士たちは掃討され、奪還作戦は成功したのだった。
◆◆◆
そして、空が赤く染まる。
6つの虚妄のサンクトゥムが顕現する。
◆◆◆
虚妄のサンクトゥム攻略戦。
その一番手となったのはアビドスでもトリニティでもミレニアムですらなかった。
「うっわ。リオ会長の言った通りじゃん」
虚妄のサンクトゥム出現と同時にミレニアム近郊の都市に出現したのはデカグラマトン8番目の預言者、ホド。しかしその個体はホドであってホドではない。あえて呼称するなら色彩化ホドだろうか。
リオはミレニアム自治区管轄となる2つの虚妄のサンクトゥスはミレニアムでいち早く処理し、他の虚妄のサンクトゥムへの加勢に回そうかと計画していたが、いざ実行に移そうとした段階で破綻してしまった。
「で、アレはホーちゃんじゃないんだね?」
「ホドではあるがチーちゃんの呼ぶホーちゃんではない。ゲマトリアが所持していた預言者のパスを元に作られた複製体。その性能はホド……ホーちゃんと同じだ」
「ふーん。それで、勝てそう?」
「当たり前だ。劣化コピーにオリジナルが遅れを取るはずがない」
そんな色彩化ホドと対峙しているのはあろうことか本物のホド、そしてその上に乗るチヒロだった。チヒロの傍にはソリッドビジョンで姿だけ投影したデカグラマトンも控えている。
「そんなに心配ならホドを応援してやってくれ。チーちゃんの声援があれば百人力だ」
「うん、そうだね。頑張ってホーちゃん!」
チヒロの応援、デカグラマトンの援護を得たホドが色彩化ホドに負けるわけがなかった。
そしてもう一つ、ミレニアム郊外の閉鎖地域。ここに出現したデカグラマトン4番目の預言者ケセド。しかし出現したこの個体もケセドであってケセドではない。色彩化ケセドは色彩化デカグラマトンの兵士を大量生産し始めていた。
そんな軍備工場に攻め入ったのは本物のケセドが量産したデカグラマトンの兵士、そしてデカグラマトン10番目の預言者マルクトだった。出現して間もない色彩化ケセドの軍勢では大挙して押し寄せたデカグラマトン軍を食い止められない。
「存在証明という使命を忘れて「色彩」の傀儡に堕ちた預言者ケセド。この私、マルクト自らの手で断罪します」
マルクトは武装を集合させ砲塔を作り上げ、強固な殻に覆われた色彩化ケセドに狙いを定める。収束させるエネルギーの量は1体のロボットが出せる出力を遥かに超えていた。色彩化ケセドどころか色彩化工場そのものを消し飛ばせるほどに。
これはマルクトがZ-ONEから貸し出された《時械神サンダイオン》の力が加わっているためだ。今やマルクトの放つ一撃は三幻魔や三幻神にも匹敵する威力にまで到達しているだろう。
「神解けの天罰」
マルクトの発射したエネルギー砲は色彩化ケセドを貫通、爆発四散させた。
何故デカグラマトンの預言者が「色彩」に感化されなかったか。これはデカグラマトンが健在でありマルクトが目覚めているのが要因として大きい。彼女らの防衛策により本体は色彩化されず、虚妄のサンクトゥムの守護者にはならなかった。
「だからゲマトリアのパスにより「色彩」が預言者を複製した。それが目の前のデッドコピーだ」
「……。ホーちゃんをコピーしたならあっちのホドも私のこと分かるのかな?」
「もしそうだとしてもあのホドは色彩の影響で狂気に支配されている。あのホドとは絆を結びようがない。アレはそう色彩に創られたのだから」
「……。そう。なら、おこがましいかもしれないけれど、助けてあげなきゃ」
色彩化ホドが機能を停止して倒れ伏した際、チヒロは「ごめん」と色彩化ホドに謝った。そんな悲しむチヒロの肩をデカグラマトンは抱き寄せ、驚くチヒロにコーヒーを差し出す。ソリッドビジョンではなく淹れたてだ。
そして、アビドス砂漠に出現したデカグラマトン3番目の預言者ビナー。これも「色彩」の影響を受けて色彩化したビナーではない。ビナーそのままの別個体であり、色彩化ビナーと呼称される。
そんな色彩化ビナーの前に姿を見せたのは本物のビナー。しかし色彩化ビナーと異なりビナーは単独ではなかった。ビナーから少し離れた位置で色彩化ビナーを見上げるのは、虚妄のサンクトゥムの分析でへろへろ状態でも奮起したヴェリタス面々だった。
「さあビナー、行くよ!」
そんな中マキが率先してビナーを援護。後にコタマ曰く、ビナーとマキの息の合ったコンビネーションはまるでシンクロしてるようだった、とのこと。
結果、このヴェリタスの加勢による差で色彩化ビナーは撃破に至った。
こうして残る3つの虚妄のサンクトゥスに戦力が集中されることとなり、無事に残り2つ虚妄のサンクトゥム、そして復活した5つ、そして6つ目の攻略に至った。これにより赤く染まった空は再び青に戻ったのだった。
◆◆◆
これにて一件落着……にはならなかった。
"あれは……シロコ?"
行方不明になっていたシロコが現れたことによって。
◇ジェネラル
使用デッキは【サイバー流】
エースモンスターは《サイバー・エンド・ドラゴン》
切り札は《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》
とどのつまりカイザーPMC理事と同じ。
なお本話時点で元カイザーPMC理事はデッキを変えている。
最終編1,2章はダイジェストにしてます。是非原作ブルアカをお楽しみください。
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