多次元バリアで守られた上空に浮かぶ構造体、アトラ・ハシースの箱舟にどう対処するか。私がアクセルシンクロで乗り込むと言い出すと、リオが同行に名乗りを上げました。
「リオ。私から言い出さなければ自分一人でアトラ・ハシースに乗り込むつもりだったでしょう」
「そこまで無謀じゃないわ。アバンギャルド君やAMASは連れて行くつもりだったもの」
「えっ!? リオ会長……?」
私の予測は当たっていたようで、リオは観念したようです。その自白を聞いたユウカは驚愕の声をあげました。
「ユウカ、そんな顔をしないでちょうだい。遠距離攻撃で撃ち落とせないのなら誰かが乗り込まなきゃ駄目なのよ」
「でも、ユウセイ先生と2人でなんて無茶です!」
「なら、ユウカも同行する?」
「えっ……!?」
リオはポケットから取り出したデッキケースの中から一枚のカードをユウカに突き出しました。それは確かユウカの【クリストロン】デッキに入っているシンクロチューナーの《水晶機巧-クオンダム》でした。
「【クリストロン】はトキに与えた【センチュリオン】同様に次世代のシンクロデッキ。レベル12の超大型シンクロモンスターを展開する「センチュリオン」と違って、「クリストロン」はアクセルシンクロとダブルチューニングの両方を可能とするポテンシャルを秘めているわ」
「つまり、理論上は私もあの多次元バリアを突破出来る……?」
「ぶっつけ本番でクリアマインドに目覚められれば、の話ね。アリスが数日で会得したことを考えれば不可能ではないのだけれど、無理にとは言わないわ」
「私は……」
ユウカは自分のデッキに手を触れ、色々と悩んだ末に決意を込めてリオを見据えました。それを見たリオは満足そうに微笑み返します。ヒマリが一瞬だけ不安そうな顔を見せましたが、口出しするつもりは無いようです。
私としても迷いがあったままではクリアマインドに到達しないのであまりユウカを連れて行きたくはありませんが、失敗してもあの多次元バリアをすり抜けていくだけで命の危険はありません。なら生徒の可能性を信じるべきでしょう。
「これで3つの遊星ギアに行く最低限のメンバーは揃ったけれど、Dホイールを改造すれば複数名を同行させられるかしら?」
「いえ、アクセルシンクロの現象に巻き込める人数はせいぜい1名だけです。でなければ同乗者がクリアマインドの境地に到達している必要があります」
「ならユウセイ先生、私、そしてユウカのDホイールに同乗させられるもう3名の選出が必要ね。あいにく遊星ギアの守護者が正々堂々一対一のデュエルに応じてくれるかは未知数だもの。雑兵やあのシロコの乱入を防ぐ人員は必要よ」
確かに。キヴォトスにはライフ4,000を払ってデュエルに乱入可能なルールもあるらしいですし、プラシドはバトルロイヤルルールを利用してアンチノミーのアクセルシンクロをディアブロの乱入で阻んでました。
「なら、私も一緒に行くわ」
真っ先に名乗りを上げたのはもう一人のセリカ……いえ、こちらのセリカと混同するので引き続きテフヌトと呼びましょう。彼女の参加表明に真っ先に反応したのはやはりアヤネを初めとするアビドスの生徒一同でした。
「シロコ先輩とプレナパテスは私が止めなきゃ。シロコ先輩たちにこっちのキヴォトスまで壊させやしない」
「セリカちゃん……」
「……ごめん、アヤネちゃん。今の私はアヤネちゃん……ううん、アビドスのみんなにそんな心配される資格なんて無いの」
「どうしてそんな悲しいこと言うんですか!? どんなに見た目が変わってもセリカちゃんはセリカちゃんでしょう!」
「生きることに絶望して命を手放したアヤネちゃんの傍にいられなかった私が?」
アヤネが息を呑んだのが私にも分かりました。
感情がぐちゃぐちゃになったテフヌトはぽつりぽつりとあの滅亡したキヴォトスで何があったかを語り始めました。もっとも、テフヌト自身は途中で誘拐されてしまったので、あくまでも伝え聞いた情報だそうですが。
"先生"が爆発に巻き込まれて意識不明の重体になったことでキヴォトスは至るところで綻びが発生しました。アビドスに出現した「セト」もその一つです。
しかしホシノは同時期に存在が発覚した「シェマタ」という二年前のゲヘナ万魔殿議長だった通称雷帝の遺産への対処で独断専行し、その果てに何らかの奸計にかかって力が暴走。残ったアビドスの4人はヒナの助力もあって鎮圧したものの、ホシノとヒナが帰らぬ人となりました。
「セト」との死闘は総力戦となり、多くの犠牲が出ました。アヤネが手の施しようもない重体となりました。それでもセリカは何とか荒れ果てたキヴォトス、そしてアビドスの復興に尽力しましたが、そんな彼女は誘拐されてしまったのです。
「誘拐……?」
「身代金目当てじゃなくて単に私が邪魔だったみたい。その証拠に……アヤネちゃんが生命維持装置の電源を自分から切って、ノノミ先輩がネフティスに戻ってからどうなったか分からなくなって……シロコ先輩がああなってから、私は誰もいなくなったアビドスに放り出された」
誰の仕業かはテフヌトも分かっていないそうです。監禁期間中水も食料も与えられなかったテフヌトはもはや指一本動かせる体力も残っていませんでしたが、とある人物に邪神を渡されて今なお生にしがみついているのです。
なお、誰がテフヌトに邪神を与えたかはテフヌトは語れません。語らないではなく語れない。契約で暴露したら最後、神の怒りによってテフヌトは周囲の物を巻き込んで命を落としかねないのだとか。三幻神が反転したのが三邪神であるならその警告は真実味があります。
「だから、私はアヤネちゃんたちが苦しんでいたのに何も出来なかった! そんな私が心配される資格なんて――」
そんな今にも泣き出しそうなテフヌトの独白は、アヤネが人差し指を彼女の口元に当てたことで中断されました。包帯で覆われたテフヌトが唯一露出させたキャッツアイの目が丸くなります。
「セリカちゃん。私、本気で怒りますよ。そっちの私だってそんな事言われて大人しく引き下がったりはしません! 例え自分が生きる気力を無くしてても、絶対に!」
「アヤネちゃん……」
「約束してください。必ず生きて帰るって。シロコ先輩を助けたいからって自分が犠牲になろうとなんて考えないって」
「……。ええ、分かったわ。絶対に戻って来るから。それでいっぱい悪いことしたこっちのシロコ先輩を叱ってあげてよ」
テフヌトが力強く頷き、アヤネもにじみ出た涙を指で拭って頷き返しました。仲良きことは美しきことかな、とはミドリがやっていたゲーム中のセリフでしたか。こちらのセリカが複雑な表情をしているのは御愛嬌です。
「では、身共も参加を表明いたしますわ!」
「ユカリ」
「きぼとすの危機に指を加えて待っているなど百花繚乱のえりーとの名折れ! 危険は承知の上です。身共なら必ずや力になりますので、何卒認めてくださいまし!」
「ええ、分かりました。引き続き力を借ります」
ユカリの宣言に端を発して他の生徒も自分がいや自分がと名乗りを上げましたが、そんな彼女たちの言葉を遮るように透き通るように涼やかな声が空間を支配しました。皆が黙ったのは声の主が予想もしていなかった人物だったからでしょう。
「いえ、ユウセイ先生に同行するのは我です」
デカグラマトンの10番目の預言者、マル。
彼女は私を含めた一同を見渡して有無を言わさないように断言したのです。
何なら抵抗しようものならその武装で焼き払うことすら厭わぬとばかりに。
「不服なら我を倒すがいいでしょう。出来るものでしたらね」
「マルクト。今の状況で挑発するのはよせ。色彩の嚮導者を止めなければならないのは私たちも同じだ」
そんな挑発するようなマルを注意したのは紋章だけモニターに表示させ音声のみでの参加しているデカグラマトンでした。そんなデカグラマトンはモニターに接続しているパソコンにハッキングして簡略図を表示させます。
表示されたのは地表とアトラ・ハシースの箱舟。そこからまず細い矢印が地表から飛んでいき、アトラ・ハシースを覆う多次元バリアをすり抜けてます。次に太い矢印が地表から引き伸ばされ、今度は多次元バリアを貫通させて矢印が内側に入ります。
「そこの娘が言っていた多次元バリアと同じ状態を作り出す方法ならある。そして少数精鋭である必要もない」
「! 本当ですか?」
「私はビナーに命じて探させていたが未だに実物を見つけ出せていない。しかしどうやらカイザーがとうとう「お宝」を掘り当てたようだ。今回カイザーがサンクトゥムタワーの掌握に踏み切ったのもそのせいだ」
「サンクトゥムタワーの演算能力で起動させられる、アトラ・ハシースへの対抗手段……。そんなオーパーツがどこに?」
ビナー、と聞いてピンときたのはごく少数でした。むしろ「お宝」との表現で心当たりがあったのがアビドスの生徒一同。彼女たちはカイザーPMC理事と対峙した際にアビドス自治区掌握が「お宝探し」だと言われたそうなので、そこに結びつくのかと驚いたようでした。
その「お宝」、「ウトナピシュティムの本船」はアビドスにあるのです。
本概念でのアクセルシンクロは明確に一瞬だけ空間・時空転移をしている設定です。
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