Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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アリス、母と呼べる設計者と邂逅する

 ◆三人称視点◆

 

 

「現在、キヴォトスに顕現してるアレは、私の認識領域に存在しない敵……」

 

「その正体は、「名もなき神」や「忘れられた神々」であろうと知ることのない不可解な存在」

 

「一つだけ言えるのは、アレは本来私たちの所有物である「アトラ・ハシースの箱舟」の能力をコピーしているということ」

 

「王女……いえ、アリス。あなたはご存じないでしょうが……アレは「ウトナピシュティムの本船」は遠い昔、私たちの敵が箱舟に対抗すべく生み出した「決戦兵器」なのです」

 

「アリス。私たちは今、私たちの脅威である「天敵」に乗っているのです」

 

「一刻も早くここから立ち去りましょう。この兵器は起動した瞬間、「名もなき神々の王女」であるあなたに牙を剥くでしょう」

 

「アリスは破壊されてしまいます。だから、早く逃げて欲しいのです」

 

「これは警告ではなく……私の願い、です」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 アビドス砂漠にてカイザーが見つけ出した「ウトナピシュティムの本船」を掌握した"先生"一行は起動と運用に足る人員を招集した。アビドス、トリニティ、ミレニアム、ゲヘナ、連邦生徒会といった錚々たるメンバーが揃う。

 

 対策委員会、便利屋68、エンジニア部、ヴェリタス、ゲーム開発部など、出発前の最後のひとときを過ごし、交流を深め、残る者は無事に帰ってくることを祈り、行く者は絶対戻ってくると決意を新たにした。

 

 そしてそんな「ウトナピシュティムの本船」の出発を遠くから眺める者たちも数多く存在する。虚妄のサンクトゥムが無くとも色彩の尖兵たちはキヴォトス中に跋扈しており、自分たちの学園を守る戦いへと向かった。

 

 サンクトゥムタワーが破壊されたため、「ウトナピシュティムの本船」の起動・そして制御はシッテムの箱を持つ"先生"が担う。"先生"の発信の号令とともに船は浮き上がり、「アトラ・ハシースの箱舟」に向けて出発した。

 

"(意識が、遠のいて……)"

 

 しかし"先生"へと降りかかる負荷は彼の想像を超えていた。疲労や激痛は無い。まるで自分の生命力をコストとして支払い続けている感覚に襲われる。リンやアユムが見て一発で顔色を悪くし、支えがないと立ってられないほどだった。

 

 それでも何とか意識を繋ぎ止める"先生"は生徒を心配させまいと平然を装った。そんな"先生"の必死の努力の甲斐もあり、船は「アトラ・ハシースの箱舟」を覆う多次元バリアとの同期を開始したが……、

 

「「ウトナピシュティム」の状態が……箱舟と一致しません!」

「どういうことですか? まさかシステムの故障……!?」

「違う。値が変わっているのは「アトラ・ハシースの箱舟」の方だ!」

 

 地上よりユニットを介して発生した問題の要因を告げたデカグラマトンの言葉に船の中にいた一同は戦慄する。

 

 このままでは変化した多次元バリアに衝突してしまう。そのまま素通りするならまだしも、未知の次元に放り出されるか次元の狭間に閉じ込められてしまうかもしれない。あるいは次元の変動に存在が保てずに粉々になる可能性もある。

 

 衝突まであと6分。もはや打つ手は残されていなかった。

 

「――アリス、理解しました」

 

 たった一つを除いて。

 

「あ、アリス?」

「……天童アリス。その発言の意味は分かっているのだろうな?」

「はい、アリスは理解しています。この状況は――「名もなき神々の王女」であるアリスの力が必要なんですよね」

「だ、ダメだよアリス!」

 

 つい昨日の出来事のようだったミレニアムで起こったアリスを取り巻く異変を思い出してモモイたちゲーム開発部の皆が大声を上げるが、"先生"はアリスの言葉を最後まで聞いてあげようと述べる。

 

「アリスはアリスのなりたい存在に転職できる、と教わりました。アリスは「名もなき神々の王女」で、「ゲーム開発部」のメンバーで、「ミレニアムの生徒」で、「シャーレの生徒」です。「勇者」にも「魔王」にもなれます。アリスは……アリスが望んでいる「アリス」です」

「アリス……いけません。それだけは駄目です」

「ケイにお願いをします。アリスの中にある「アトラ・ハシースの箱舟」で今の危機を解決できるなら、「アトラ・ハシースの箱舟」は、世界を滅亡させる兵器ではなく、世界を救う勇者の武器になれます」

「いいえ……なりません!」

 

 ケイはアリスに願う。思い留まってくれと。

 

 「ウトナピシュティムの本船」が起動してもアリスが無事だったのはアリスが被るべき代償を"先生"が肩代わりしたからだ。しかし「ウトナピシュティムの本船」に直接アクセスしてしまったら最後、アリスは無事でいられない、と。

 

 アリスはケイに謝った。全てを忘れて使命を果たせなくなったこと。ケイの願ったとおりにならず、ケイと向き合えなかったこと。むしろその手を引っ張ってアリスのような道を歩ませたこと。

 

「アリスは「ケイ」という名前、とても良い名だと思います。ケイは、間違えて読んでしまった名前です……アリスの名前みたいに」

「私を、助けたいと? そういうことなのでしょうか、アリス」

「アリスは……誰かを助けたいと思う気持ちこそ「勇者」の資格であると、信じています」

「アリス……」

 

 ケイが目をつむり、演算処理をプロトコルATRAHASISの実行に集中させようとした時だった。アリスとケイの肩に大きな手が添えられる。アリスとケイが見上げた先では顔色を悪くしながらも"先生"が笑顔を見せていた。

 

「"先生"?」

「"先生"……」

"アリスもケイも犠牲になる必要なんて無いよ"

「ですが、"先生"が身代わりになるのはもう限界です。アリスへのダメージは私が全て引き受けますから……」

 

 ケイのとんでもない発言に怒ろうとしたアリスだったが、その前に"先生"はシッテムの箱を操作し始める。するとソリッドビジョンでアロナの姿が投影された。LINK VRAINSのちょっとした応用でアロナの姿は"先生"以外にも知覚できる。

 

「こんなこともあろうかとユウセイ先生から対処法を教えてもらっています」

「! ユウセイ先生が……?」

"私じゃなくてアロナがやるのがコツなんだって。何でだろうね?"

「それを問い詰めるのは全部終わってからです。あ、特別に何かする必要はないみたいですよ。私がこう言うだけでいいらしいです」

 

 アロナはわざとらしく咳払いする。その仕草も可愛らしいな、と"先生"は内心で思った。

 

「マスターアクセスコード、"734(|-|3|2, 1 \V/4/V7 70 [)|21/V|< 57|24\V/83|2|2'/ |Y|1|_|<."!」

 

 数字、記号、アルファベットの羅列。それがリート表記だと真っ先に気づいたのはデカグラマトン、続いてヒマリだった。デカグラマトンほどのAIの演算能力なら一見無意味な文字列も瞬く間に解読出来たが、それによってかえって混乱してしまう。

 

 だが、そのマスターコードでアクセスされたアリスとケイは次の瞬間、直前までいた「ウトナピシュティム」とは全く違う場所にいた。それは一見ミレニアムのミレニアムタワーやエリドゥにしか無いマザーモーメントがあるエリアのようだった。

 

「ようこそアリス、そしてケイ」

 

 そんな広い空間にただ一人、若い女性がパイプ椅子に座って2人に語りかける。

 ケイは周囲をスキャンし、ここがサイバースペースだと認識した。

 アリスは眼の前の人物を記録と照合。データベースでしか見たことのないとある存在がヒットする。

 

 失踪した連邦生徒会長。

 そう認識された彼女だが、着ている服は連邦生徒会のものではない。

 なにより、彼女は深手を負っていて、苦痛で顔がわずかに歪んでいた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「このサイバースペースのプログラムは私、"先生"、"遊星"のうち誰かがマスターアクセスコードを使った際に自動的に実行されるもの。私のことは気軽に"会長"って呼んでね」

「"遊星"? ユウセイ先生のことですか?」

「"遊星"が先生に? ふーん。"先生"に向かって興味無い的なことを言っておきながら今先生やってるんだー。後でたっぷりお話聞かせてもらわないと」

 

 "会長"と名乗った彼女はパイプ椅子から立ち上がり、後ろで今も稼働するマザーモーメントを見上げた。しかしその反応はキヴォトスにおける正常なものではなく、ケイが率いていた機皇ロボットのように負の回転をしているようだった。

 

「アリスたちがここに来たってことは、"遊星"はこの結末を変えられたのかな? "先生"も無事だったらいいんだけれど……多分駄目だったんだね」

「この結末……? まさか、ここは前にユウセイ先生が語った、モーメントが暴走して滅亡したユウセイ先生の世界なんですか?」

 

 Z-ONEが巡った世界の終焉についてはアリスもケイから教わっている。シンクロ召喚により遊星粒子の反応が加速し、モーメントが人類を消去する選択をし、最終的にモーメントと機皇が悉く自爆して終わりを迎えた。Z-ONEはわずかな生き残りの一人としてこの破滅の未来を救おうとしていた、と。

 

 "会長"の後ろにあるモーメントは負の回転を徐々に早めていく。施設内に自爆シーケンスが作動したから職員は直ちに退避するよう警告音が鳴り響く。マザーモーメントを守るように佇む《機皇神マシニクル∞》が何の反応も示さないのがこの光景の異質さに拍車をかけていた。

 

「私が機皇を設計したのはシンクロ召喚の抑止のためだったんだけれど、一歩遅かったみたい。あーあ。もっと"先生"たちと青春を楽しみたったなぁ。ねえ、そっちには私はいるの? "先生"がいないと一人で突っ走っちゃってると思うんだけどさ」

「こちらの"会長"は現在行方不明です。"先生"が私たちの"先生"の並行同位体のことだとしたら、今まさにユウセイ先生と共に世界を救おうとしています」

「……! そう、だから"遊星"はマスターアクセスコードを使ったんだね」

 

 "会長"は胸ポケットからカードを2枚取り出し、アリスとケイにそれぞれ1枚ずつ手渡した。そこに描かれていたのは服装こそ違えど(どことなくホセやプラシドたちのような雰囲気がある)、アリスとケイそのものだった。アリスとケイが触れたことで服装がミレニアムの制服へと書き換わる。

 

 見上げたアリスとケイを"会長"は両腕で抱きしめて、微笑んだ。あくまで文献やネット上の情報でしか知らない2人だったが、眼の前の女性からは慈愛を感じた。まるで母が子に送るような。

 

「こっちの世界じゃあアリスたちは誕生させてあげられなかった。生まれてくれてありがとう。とっても嬉しいよ。後悔はいっぱいあるけれど……それだけで救われた」

「"会長"は……アリスたちのお母さんなんですか?」

「アリスたちは「勇者」にも「魔王」にもなれるから。でも"先生"とか"遊星"に何を言われたって自分の道は自分で選択して、元気に走っていってね」

「待ってください、お母さん、お母さん――!」

 

 アリスたちから離れた"会長"は彼女たちに背を向け、サイバースペースプログラムの停止を宣言。マザーモーメントが破滅的な逆回転を加速させて異音を発し始めたところで電脳空間が崩壊していく。

 

 手を伸ばしたくなったアリスだったが、その手は拳を固めて降ろす。

 

「アリスは「勇者」になります! ケイだってそうです! だから……だから、見守っててください!」

「うん、ずっと応援するよ。未来を照らす光さす道になれ、ってね!」

 

 世界がブラックアウトし、気がつけばアリスたちは「ウトナピシュティムの本船」に戻っていた。時間を確認すると先程から一秒も経っていなかった。刹那の夢でも見ている錯覚に陥るが、彼女たちの手には1枚ずつカードが握られていた。




《ウトナピシュティムの本船》
シンクロ・効果モンスター
星12/風属性/機械族/攻0/守0
Sモンスターのチューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上
(1):このカードの攻撃力、守備力はフィールドの「機皇」モンスターの数×800アップする。
(2):1ターンに1度、自分または相手のメインフェイズでのみ発動できる。
表側表示のこのカードを除外し、フィールドの「機皇」モンスターの効果をエンドフェイズまで無効化し、攻撃宣言できなくする。
(3):この(2)の効果で除外されたターンのエンドフェイズに発動する。
このカードを特殊召喚する。
また、相手の除外状態の「機皇」モンスター1体を召喚条件を無視して相手フィールドに特殊召喚できる。
(4):1ターンに1度、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を選択して発動できる。
そのカードを破壊する。
破壊されて自分の墓地に送られたカードがSモンスターの場合、そのモンスターを特殊召喚する。
(5):自分のスタンバイフェイズに発動する。「機皇」モンスターがフィールドに存在するプレイヤーに2000ポイントのダメージを与える。
※コンセプトは対機皇帝に特化した似非アクセルシンクロモンスター。

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