◆三人称視点◆
《邪神ドレッド・ルート》
イレイザー、アバターに続く第三の邪神。
セトの神秘を持つオベリスクへの対策として創造された神は、フィールド全体に恐怖を巻き起こし、怯え竦ませる。ステータスの半減した色彩の雑兵など邪神にとっては河原の小石と何ら変わりない。
「《邪神ドレッド・ルート》で攻撃。フィアーズノックダウン」
テフヌトの攻撃宣言とともに邪神はおどろおどろしい咆哮を上げてセリカ*ミメシスに殴りかかる。邪神の一撃は色彩の尖兵を薙ぎ払い、兵隊に守られていたセリカ*ミメシスに命中、その身体を大きく弾き飛ばし、壁に叩きつけた。
間髪入れずにテフヌトはセリカ*ミメシスに接近。崩れ落ちるセリカ*ミメシスに追い打ちをかけるように銃弾を浴びせていく。既に人工皮膚は剥がれて機械の筋肉と骨が露出しているが、テフヌトは止めようとしない。
「アンタがセリカだったらどうしてシロコ先輩を止めなかったのよ! アンタがセリカじゃなかったらどうしてシロコ先輩の傍にいるんだ! アンタなんかアンタなんかアンタなんかぁぁっ!!」
「セリカ!」
絶叫しながら攻撃を止めようとしないテフヌトの肩をZ-ONEは掴む。一瞬振り払おうと体を強張らせるが、我に返ったテフヌトは息を荒げながらも銃口を下に向け、やがてその場に取り落とした。
テフヌトの眼下には破壊され尽くしたセリカ*ミメシスだったガラクタが散らばっている。そんなセリカ*ミメシスの頭部の破片にテフヌトが零した涙が落ちて濡らした。偶然か眼球にも落ちたため、セリカ*ミメシスも涙を流しているようにも見える。
「絶対にシロコ先輩を止めなきゃ……。こんな悲しいことをこれ以上させられない」
「ええ。行きましょう。彼女のもとに」
涙を拭ったテフヌトはZ-ONEのDホイールに乗り、第1エリア次元エンジンルームを後にした。敗北した上に死体蹴りされたセリカ*ミメシスだったが、その死に顔は何故か穏やかなものだった。
◆◆◆
ヒマリは攫われたシロコの現在位置を特定。箱舟の第4エリアにいることが分かった。その連絡がホシノたちアビドス一同に伝わるとホシノ、ノノミ、セリカの3名はすぐさま第4エリアへと向かった。
第4エリアに到達する頃には第3エリアは攻略が終わっており、閉鎖は解かれている。立ちはだかる色彩の尖兵を蹴散らして到着した第4エリアの次元エンジンルームでホシノ達が見た光景は……思っていたのと違った。
「ん、魔法カード《龍の鏡》を発動する。フィールドと墓地の《青眼の白龍》3体を除外して、融合召喚。来て、《青眼の究極亜竜》。次に魔法カード《平行世界融合》を発動。除外状態の《青眼の白龍》3体をデッキに戻して、融合召喚。来て、《真青眼の究極竜》」
「究極竜が2体も……!」
「どっちもラーより攻撃力は上。アルティメット・バースト!」
三つ首の究極竜がそれぞれの口から光弾を中央の口へと収束させ、破壊光線を放つ。《ラーの翼神竜》はなすすべなく砕け散るも、《ラーの翼神竜-不死鳥》が墓地より蘇る。しかしもう1体の究極竜が放った破壊光線の奔流に飲み込まれてこちらも爆発四散した。
「《千年の啓示》は破壊済みだからもうラーは特殊召喚出来ない。年貢は徴収させてもらう。速攻魔法《竜の闘志》を発動して《真青眼の究極竜》で再攻撃する。アルティメット・バースト!」
「……やっぱこっちのシロコちゃんも強いねえ。けれど、私だってむざむざやられるわけにもいかないんだ!」
ニセホシノはリバースカードをオープンした。魔法カード《死者蘇生》。シロコの攻撃直前に発動出来るのもこれが普通のデュエルではなくリアルファイトの一部だからか、それともニセホシノが古の決闘を再現したからか。
しかしニセホシノは「ホルス」モンスターを1体も召喚していない。墓地に眠るのはラーのみ。蘇生対象がいないのだから特殊召喚など出来やしない。それを可能とするサポートカードも破壊しているため、一見無駄な行為にしか思えないが……、
「墓地より舞い戻れ、《ラーの翼神竜》!」
本来の《ラーの翼神竜》であれば蘇生できる。本物のホシノがやるようにカードテキスト以上の神秘を発揮すればいいだけの話だ。
「そんな……! 特殊召喚できないモンスターを無理に呼び出そうとしたら……!」
「モンスターじゃない! 神だ!」
「だから、神を無理やり引っ張り出そうとしたってニセホシノ先輩の言う事なんて聞いてくれないよ!」
ニセホシノは覚悟を決めた表情と鋭い目で《死者蘇生》を発動。旋風が巻き上がり、再びフィールドに神が降りる。
しかし、その《ラーの翼神竜》は何かが違った。ニセホシノが召喚した3形体のラーはいずれも強力なモンスターではあったが神としてのプレッシャーは一切感じないものだった。しかし、今呼び出されたラーはどうだろうか?
「神が、怒ってる……」
「……ああ、やっぱ駄目なんだ」
闇を帯びたラーはやがて形を崩していき、天井付近を漆黒へと染めていく。そして暗黒が渦巻き、やがて落雷がいくつもニセホシノ、そしてシロコのフィールドに降り注いでいく。
「こっちのシロコちゃんの言ったとおりだった。私じゃあホシノになれなかったよ」
落雷が天罰のごとくニセホシノに降り注ぎ、その身は煙を上げて倒れた。
「ああぁぁああっ!!」
そして対戦相手のシロコにも神の怒りが落ちる。両膝をつくもシロコは辛うじて意識を保っており、両手をついて倒れるのを防いだ。しかし立ち上がろうとしても身体が痺れて言うことを聞かない。
そんなシロコに次の落雷が降り注がれんと暗黒が雷の如く唸り……、
「シロコちゃん!」
飛び出した本物のホシノがシロコを引っ張り上げ、担ぎ上げるとその場から飛び退いた。シロコがいた場所に雷が降り注いだのはその直後のこと。落雷はなおもニセホシノとシロコを許すまじとシロコたちが戦っていた場に落ち続けた。
アビドス生徒一同は荒れ狂う神の怒りが収まるのを待つしかなかった。特にノノミとセリカはまだ一年生なのもあって実際に神の怒りを目の当たりにするなど初めての経験だ。映像記録とは全く異なる、恐怖と絶望を通り越した無力感を味わった。
やがて神の怒りが収まり、天井面から闇は消え去った。シロコが歩み寄った先程までの対戦相手はホシノのコピーとしての役目を終えて機能を停止している。シロコはそんなニセホシノのデッキを取り、カードを物色し始めた。
「ちょっとシロコ先輩、何やってるんですか!」
「ん、デュエルに勝ったらアンティルールでカードを貰う。これは常識」
シロコは気になったラーのサポートカードを何枚か抜き出し、ホシノに見せた。
「ん、ホシノ先輩は見覚えある?」
「んー。いや、無いねー。これ市販するにあたって神の怒りを買いたくないからって無茶苦茶弱く調整したヲーの介護用カードでしょ? あってもおじさんは使わないかなー。ラーそのまま出せば済んじゃうもん」
「ニセホシノ先輩はこれに関わる異変があったって言ってた」
「……。心の片隅には留めておくよ」
《太陽神合一》や《真なる太陽神》を初めとするラーのサポートカード。それ自体にはホシノは覚えがないようだ。しかしこれらが存在すること自体はホシノに心当たりがあるようだ。しかしシロコたちに語ろうとはしない。シロコもこれ以上踏み込もうとは思わなかった。
結局シロコの愛用する【青眼】に合うカードは大して見つけられず、《死者蘇生》等の汎用魔法カードだけを貰って残りはニセホシノのデュエルディスクに戻した。それからシロコはニセホシノを仰向けにし、瞼を閉じさせ、両腕を胸の前で重ねさせた。
「次元エンジンを守ってたのはこのホシノ先輩みたいに私たちのコピー体でした」
「どうしてもう一人のシロコ先輩は私たちをコピーして駒にしたんだろ?」
「それにもう一人のシロコちゃん、私たちの武器も使ってたらしいですし……」
「次元エンジンはここを止めれば全部停止出来るけれど、もう一人のシロコちゃんには会っておかなきゃ駄目みたいだね」
「ん、あと私をさらったプレナパテスって大人とも決着をつける」
ノノミは教わった手順で次元エンジンのコンソールを操作。停止させる。そのうえでZ-ONEのIDにより停止状態をロック。これで次元エンジンの再起動はマスターキーが無ければ行えなくなった。
「そういえば、箱舟を停止させたら次にどうするんだっけ?」
「え、と。ユウセイ先生からの情報によれば、「アトラ・ハシースの箱舟」には自壊シーケンスが2パターンあるそうです。1つ目は当初ヒマリさんが考えていたように自爆させるパターン。でもこれを作動させるにはユウセイ先生のIDでも無理らしいので、「ウトナピシュティム」からアクセスしないといけないんですけど……」
「デーちゃんが言うには敵側にもハッカーがいるかもしれないんだってさー。だから中枢制御室を確保して直接自壊コマンドを打ち込んだ方が安全だって。これならユウセイ先生のIDでもいけるらしいよ」
「2つ目は、箱舟ってケイちゃんの機皇神みたいにカード化しちゃえるんだって。これはアリスちゃんとケイちゃんがいるからユウセイ先生のIDで大丈夫ですって」
「そのためには、と」
ホシノは更に教わった手順で命令を打ち込んだ。すると次元エンジンに直結した太陽ギアが逆回転を初め、それに連動して3つの遊星ギアも駆動し始める。次元エンジンが生み出すエネルギーは同じだが、マイナスからプラスへと転じた。
これであとはZ-ONEに教わった自壊シーケンスパターン2の命令を打ち込めば、この異変は解決される。「ウトナピシュティム」で脱出するまでの時間は確保しなければいけないので、タイミングは本船に残ったアヤネやヒマリたちに託す。
しかし、そんな思惑は覆されてしまった。
「ウトナピシュティム」の方が自爆シーケンスを作動させたことで。
リシドが召喚したラーが神の怒りを降り注いたシーンは今思い出しても衝撃でした。
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