◆三人称視点◆
「一旦落ち着いて状況を整理しましょう」
"先生"を「アトラ・ハシースの箱舟」中枢へと先行させた後、そのように言い出して足を止めたのはリオだった。
なんて悠長な、とヒマリは非難の声を上げそうになったものの、リオが考え無しに休憩を挟むなどありえない、と出そうになった言葉を飲み込んだ。
「LINK VRAINSのデータストームから復元された「ウトナピシュティムの本船」のデータを「箱舟」に装備状態にして、その演算機能で虚妄のサンクトゥムを再び出現させようとしている。そこまではいい?」
「そして「箱舟」は現在アロナさんの同型機がコントロールしていて、"先生"が向かった「ナラム・シンの王座」にいます。だから一刻も早く"先生"の後を追ってシロコさんたちに加勢しなくちゃいけない。ですね」
「理屈はそうなのだけれど、なら世界から隔たれた空間の「ナラム・シンの王座」からどうやって船のコントロールを維持しているのかしら? ネットワークは介していないとはデカグラマトンも断言しているわ」
「単純に「ウトナピシュティムの本船」が「アトラ・ハシースの箱舟」に突き刺さっているからでしょう。接触面を介して侵入されていると考えるのが最も現実的です。一見ただの壁にしか見えない構造物がネットワークケーブル代わりになるとは思えませんが、超科学が私たちの想像を上回っているか……も……」
この時、もしモモイが本船に留まってヒマリの様子を見ていたとしたら、ヒマリの頭上に電球が灯ったと比喩したことだろう。それがアリスだったならヒマリに電流が走ったと表現したかもしれない。
「つまり、白アロナさんと本船を結ぶ通信を物理的に切断すれば船のコントロールはこちらに戻る、と? 壁がケーブル代わりになっているとしても、どこかに必ず中継点があるでしょうね。その「端末」を破壊すれば、その隙に奪取出来る」
エンジニア部の調べで「端末」があるのは「箱舟」の最下層セクションだと判明。ハナコの調査でセキュリティシステムを突破するには最東端と最西端の解除装置を破壊する必要があることが分かった。
「……。合理的ではないわ。1,200mも距離がある最下層エリアへ向かうより「ナラム・シンの王座」に集結する方が近いもの」
ただ、リオとヒマリが議論したのはあくまで腹案だ。そんな手間をかけるぐらいなら皆して「ナラム・シンの王座」に突入して白アロナことA.R.O.N.A.に勝利すれば済む話だ。
しかし、「ナラム・シンの王座」が外界から隔離された空間のせいもあって中の様子は確認出来ない。先に突入したシロコたちがどのように戦っているかを分析出来ないでいる。戦闘データは未だもう一人のシロコと白い少女の分しか揃っておらず、しかもまだ全容が見えていない。
「プレナパテスがどんな存在かも分かっていない現状、「ナラム・シンの王座」に集結して一網打尽にされたらどうするんですか? プレナパテスやもう一人のシロコさんを止められなくても、最悪「アトラ・ハシースの箱舟」はどうにかすべきでしょう」
「移動ユニットを持ち込んでいるのは私とユウセイ先生だけ。現在位置から考えると最下層エリアに行くのは無理があるわ。「ウトナピシュティムの本船」に移動手段を積んでいないの? 最悪飛行モンスターを召喚出来ればいいのだけれど」
「……うふふっ」
そんな一分一秒が貴重な場面での判断を強いられてる状況下で、「ウトナピシュティムの本船」に残っていた美食研究会のハルナが微笑を讃えながらフウカの肩に手を置く。フウカの額から汗が伝い、顎から流れ落ちた。
「フウカさん。ついに、やってまいりましたわ」
「え? 何が? ……まさ、アレじゃないよね?」
「ええ、その通り。アレですよ……ついに、フウカさんの才能が花開く時です」
絶句するフウカ。彼女がいかに素晴らしいかを悠然と語るハルナ。
そこでヒマリやリンたち一行は思い出した。船の中にはアレがあると。
しかし、積みたければ勝手に積めと言わんばかりの扱いから一転、まさか起死回生の一手に変わると誰が想像しただろうか?
「はい、運転のお時間です~★」
「あ! 給食部の部長が一番得意なやつだね!」
「こういう時の適任といえば、フウカよね」
「ハルナ……? これ、わざとだよね? そうなんだよね?」
「うふふっ、故意かどうかなど、さして重要ではありませんわ」
フウカはハルナに涙目で引っ張られていく。
しかし悲しいかな、この場でハルナを止めるものは誰もいない。
フウカは観念してがくっと項垂れた。もうどうにでもなれとばかりに。
「とにかく! 「端末」の方は私たちに任せてちょうだい!」
「うんうん! セキュリティシステムの方はよろしく~!」
美食研究会とフウカが「ウトナピシュティムの本船」の格納庫へと向かい、フウカはトラックのエンジンをかける。そしていざ出発、となった段階でハルナがハンドルを握るフウカの手を握った。
「お待ちください。こんな場面でアレを言わずしていつ言うのですか?」
「ええ……? ライディングデュエル、アクセラレーション、とでも言えって?」
「ライディングデュエルをしないのにその台詞はおかしいでしょう。車、飛行機を飛ばすために最もふさわしい台詞があるでしょう」
「……ええいもうっ! こうなったら毒食らわば皿までよ!」
その例えでイズミとアカリが珍味だの毒抜きだとと色々と発言してくるが、一切合切無視したフウカはアクセルを吹かし、クラッチを入れ、いつものクセでバックミラーの角度を調整する。
「それじゃあ……行くわよ! 全速前進よ!」
フウカが運転する給食部のトラックが船から飛び出し、アトラ・ハシースの箱舟の中を爆走する。無論そんな疾走を阻むべく色彩の尖兵が立ちはだかるが、美食研究会はキヴォトス屈指の名門ゲヘナで名を轟かせる部活。
「儀式召喚! 出てきて! 《ハングリーバーガー》!」
「エクシーズ召喚! はいお待ちどう、《超弩級軍貫-うに型二番艦》!」
「ではメインディッシュ、「RCM」たちの登場です★」
イズミ、ジュンコ、アカリの召喚するモンスターたちにことごとく蹴散らされていく。スピードが落ちないトラックを物理的に阻もうと大型の機械獣が立ちはだかる。悲鳴を上げるフウカに対してハルナはスピードを落とさないよう伝えた。
「《超融合》を発動します。闇属性の色彩の尖兵2体を融合。闇夜に咲く美しき花、その花弁の奥の地獄に獲物を誘い、全てを食らいつし開花せよ。融合召喚!」
ハルナが召喚したのは毒花のように毒々しい色と甘い蜜の香りをさせた異形のドラゴンだった。毒の竜は咆哮をあげると大型機械獣からエネルギーを吸収捕食し、更に凶暴になった。
「薙ぎ払いなさい! 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!」
◆◆◆
美食研究会が猛スピードで最下層に向かう一方、リオはゲヘナの問題児たちにため息をついて、もうこうなった以上はヒマリの案に乗るしかなく、ではどのように立ち回ったら最善かを考えることにした。
「ここからなら東の解除装置が近いわね。西はユウセイ先生に行ってもらうとして、私たちは"先生"を追う方と解除装置に向かう方で二手に別れましょう」
「それですがリオ。私とアリスはやることが出来ましたので、少し寄り道します」
しかしリオの発言に異を唱えたのはケイだった。彼女はアリスの手を取り、分かれ道で別の通路へと向かおうとしている。無論、セキュリティの解除装置のある区画でも「ナラム・シンの王座」がある方向でもない。
「それはやらなければいけないことかしら? それとも単なるサブクエストのようなもの?」
「ラストダンジョンでの寄り道はより強い武器が手に入るのが定石でしょう。そしてこの場合、相手の弱体化にも繋がります」
「……。いいわ。行ってちょうだい。用事が済んだら「ナラム・シンの王座」で合流しましょう」
「リオ会長!?」
用事が何かを喋っていないケイの独断を認めたリオにユウカが非難の声を上げるが、リオのことだからケイの目論見が何なのか察したのだろう、と結論付け、非難を取り下げた。
「アリスとケイが行くなら私たちも行くよ! 前衛は必要でしょう?」
「別に《機皇兵スキエル・アイン》を召喚すれば護衛は……いえ、キャラごとのパーティーの役割分担はきちんとする。それがRPGの常識でしたね」
「万能キャラなんて使っててつまらないよ! 結束の力が世界を救うんだからさ」
「では置いていかれないようにしっかり付いてきてください」
ケイが召喚したのは《スカイ・コア》。召喚に成功したので伏せていた罠カード《激流葬》を発動する。ソリッドビジョンの巨大カードから溢れ出た激流によって追ってきた色彩の尖兵ともども《スカイ・コア》は洗い流された。
この一連のコンボ、ケイが正式にゲーム開発部部員になってから多くのミレニアム生が目にした定番の光景になっている。やっぱり合体ロボはロマンだな、がミレニアム生の共通の認識だったりする。
「《スカイ・コア》が破壊されたのでデッキ・手札・墓地から《機皇帝スキエル∞》、《スキエルA》、《スキエルT》、《スキエルC》、《スキエルG》を特殊召喚。合体せよ。機皇帝スキエル」
なお、色彩の尖兵として加わっている筈の機皇ロボットの姿は「アトラ・ハシースの箱舟」内ではあまり見当たらない。これはデルタアクセル・シンクロモンスターの《コズミック・クェーサー・ドラゴン》が船外にいるためにモーメントの動きが抑制されているためだ。
ケイが機皇帝スキエルを使役出来ているのはデュエルディスクを介してケイ自身のモーメントと同期しているおかげである。
スキエルに乗ったケイはアリスの手を引っ張って自分の後ろに乗せ、一気に加速してその場から飛び去っていく。慌てたモモイたちは急いで自分のエクストラデッキから各々のモンスターを呼び出し、必死に追いかける。
「アリスったら、待ってってば! 《パワー・ツール・ドラゴン》、追って!」
「ちょっとお姉ちゃん……!?」
「《ディープ・スペース・クルーザー・ナイン》を召喚……! ミドリ、手を取って……!」
「ユズちゃん……うん!」
ゲーム開発部パーティーがいなくなったのを見送る前にリオは自分たちのやるべきことをやるべく前へと走り始めた。
タイムリミットは刻一刻と迫ってきている。
◇黒舘ハルナ
使用デッキは【捕食植物】
エースモンスターは《捕食植物ドラゴスタペリア》、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》
切り札は《《グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》、《スターヴ・ヴェノム・プレデター・フュージョン・ドラゴン》
◇鰐渕アカリ
使用デッキは【RCM(ロイヤル・クックメイト)】
しかし実際には《サクリファイス》や《Theアトモスフィア》などの吸収モンスターとの混合デッキ。
なのでデッキ完成度は高くないが、爆発した時は凄まじい
◇獅子堂イズミ
使用デッキは【ハングリーバーガー】
エースモンスター兼切り札は《ハングリーバーガー》、《アングリーバーガー》
デッキは2つ持っており、【ヌーベルズ】主体のマスタールール用と《ハングリードバーガー》等の【ハングリー】主体のラッシュデュエル用がある。
◇赤司ジュンコ
使用デッキは【軍貫】
エースモンスター兼切り札は3種類の「軍貫」モンスターエクシーズ
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