◆三人称視点◆
「絶望皇……ホープレス……!」
真っ先に反応したのはアロナだった。
彼女は目を見開き、足元がふらつき、顔面を蒼白にする。
アロナは手と腕で肩と胸にかけてスラッシュを描くように押さえる。
痛みも疼きも無かったが、自然にそうしていた。
"……ホープレス剣・スラッシュ"
幻聴が聞こえ、幻覚が見える。
プレナパテスの操るホープレスが自分を真っ二つにする光景が。
倒れ伏した瀕死のリンが涙を流して自分の名を呼ぶ情景が。
アロナ……いや、"彼女"はホープレスに殺されたことがある。
その悲しみと絶望、そして僅かな諦めで"彼女"は隙を突かれてしまった。
だから"彼女"は"彼女"でなくなり、アロナになったのだ。
悲鳴が、絶叫が漏れそうになる。肉体を失いAIになったのに呼吸が荒くなり動悸が激しくなる。頭がぐらぐらして眩暈や吐き気ももよおす。それでもアロナは足を踏ん張り出そうになるもの全てを飲み込んだ。
「絶望……! 負けるわけには、いかないんだから……!」
アロナは乗り越えなくてはならない「敵」の名を口にし、"先生"の隣にソリッドビジョンを出現させる。アロナが絶望皇ホープレスを睨みつける眼差しはいつになく鋭く、覇気に満ちていた。
「これより、私の能力を全て戦闘支援に割り当てます」
「今からスーパーアロナが、"先生"をお手伝いします!」
プレナパテスの傍らに控えるA.R.O.N.A、"先生"の傍に立つアロナ。
2人の先生が自分の懐から大人のカードを取り出した。
そして、同時にD・パッドのフィールドゾーンにセット……しない。
"……?"
いぶかしく眉をひそめた"先生"にはプレナパテスがシロコやホシノたちではなく、もう一人のシロコやA.R.O.N.Aでもなく、自分だけを見つめているのだと察した。そして、何を意図しているかを自ずと分かる。
"私は魔法カード《オノマト連携》を発動する。手札を1枚捨てて、デッキから《ドドドウィッチ》と《ドドドドライバー》を手札に加える。《ドドドウィッチ》を召喚して効果を発動、《ドドドドライバー》を特殊召喚」
「レベル4のモンスターが2体……来ます、"先生"」
向こうのA.R.O.N.Aがプレナパテスに注意を促すのを見た"先生"は、やっぱりあっちもアロナなんだなぁ、と思った。
"私はレベル4の《ドドドウィッチ》と《ドドドドライバー》でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! "
2体のモンスターが異次元の渦の中へと消えていき、先ほどホープレスも見せた「No.」特有のニュートラル体と呼ばれる収納形態が現れた。そしてニュートラル体が展開、光の戦士が推参する。
"現れろNo.39! 光の使者《希望皇ホープ》!"
相対する希望皇ホープと絶望皇ホープレス。
これによって場は完全に整った。
2人の"先生"は今度こそ大人のカードをD・パッドにセットする。
""私は《大人のカード》を発動する""
発動されたカードは世界の設計図、根源でもあるヌメロン・コードにアクセスされ、森羅万象を書き換える。プレナパテスは「ナラム・シンの王座」の空間自体を塗り替え、"先生"は大人のカード自体を変化させた。
"……《大人のカード》は1ターンに1度、デッキから墓地に送ったフィールド魔法の効果を得る。……私は《王家の眠る谷-ネクロバレー》を選択。……地形を屋外に切り替える"
"《大人のカード》は1ターンに1度、デッキから墓地に送った「ゼアル」または「ヌメロン」カードの効果を得る。私は《ゼアル・コンストラクション》を選択"
"……《ホープレス》で攻撃。……ホープレス剣・スラッシュ"
"迎え撃て《ホープ》! ホープ剣・スラッシュだ!"
2体のモンスターエクシーズが飛び出し、剣を切り結んだ。デュエルモンスターズのデュエルなら攻撃力の高いホープがホープレスを撃破するのだが、リアルファイトでは両者の攻防は互角だった。
一方、とうとうモンスターエクシーズを召喚したもう一人のシロコ。色彩に魅入られたならもっと禍々しいモンスターを召喚すると想像していたセリカは、むしろ神々しさすら感じさせる異次元のモンスターに戦慄する。
「もう一人のシロコちゃん、そのカードは……」
アヤネたちも概ね似たような反応を示したが、そんな中ノノミだけが驚いた様子で召喚された《エーテリック・ホルス》を見上げていた。もう一人のシロコは僅かな沈黙を挟み、冷淡に告げる。
「奪った。死んだノノミから」
「はい、分かりました。そっちの私がもう一人のシロコちゃんに託したんですね」
しかしノノミはそんな残酷な告白を即座に否定した。
もう一人のシロコに動揺が走る。
「違う。私は……」
「隠さなくてもいいですよ。あと悪ぶるのは似合いませんから」
「あの、こんな時にごめんねノノミちゃん。要点だけ説明してくれない?」
皆を代表してホシノが純粋な疑問をノノミに投げかける。ノノミはああ、と呟いてから懐かしそうに、けれどどこか物悲しそうに、そして僅かな怒りを混ぜて《エーテリック・ホルス》を見つめる。
「「エーテリック」モンスターエクシーズはセイント・ネフティスが代々所有してきた神だけど神じゃないカードで、ランクアップしていくたびに神格を増していくのがコンセプトです」
「セイント・ネフティスって「ネフティス」モンスターだけじゃなかったんだ……。でももう一人のシロコちゃんがどうしてそれを?」
ノノミがセイント・ネフティスのご令嬢だとはホシノも知っているし、家の方針に逆らってアビドスに進学したのも把握している。しかし代々家に伝わる家宝とも言うべきカードがもう一人のシロコの発言通り奪われたなら話は分かるが、ノノミがシロコに渡した理由とは?
「セイント・ネフティスの悲願は……更に進化して崇高、神々の王「アメン・ラー」に至ること」
「「「……!」」」
その答えに、ホシノたちは衝撃を受ける。
「そんな妄執が嫌になったのも反発してる理由なんですけど、多分、もう一人の私はホシノ先輩たちを失って生きる気力が無くなって、戻ったネフティスで身辺整理してるうちに、なおも生きようと足掻いてたシロコちゃんの最後の力になりたかったんだと思います。だからネフティスが保管してたデッキをシロコちゃんに送ったんじゃないですか?」
「……!? どうして、それを……?」
そんなノノミの憶測に一番反応したのはもう一人のシロコだった。何故なら、自分たちしか知り得ない自分たちの世界での出来事を、知る由もないこちら側のノノミがさも事実だと前提の上で語るものだから。
「さあ~? どうしてでしょうね? 知りたかったら私たちに勝って聞き出してください」
「……。いや、やることは変わりない。戦うだけ」
対策委員会委員一同ともう一人のシロコ、最後の戦いが始まった。
◆◆◆
"……《大人のカード》のテキスト外効果を発動。私は、私自身とA.R.O.N.Aでオーバーレイネットワークを構築"
「了解です、"先生"」
"なら、こっちもいくよアロナ"
「はい、"先生"!」
"私は、私自身とアロナでオーバーレイネットワークを構築!"
プレナパテスとA.R.O.N.Aが、そして"先生"とアロナがそれぞれ異次元の渦へと吸い込まれていく。闇と闇、そして光と光が交わり、高次元の新たな存在として世界に降り立つ。
"遠き2つの魂が交わる時"
「語り継がれた力が現れます!」
"「エクシーズチェンジ、ZEXAL!」"
"先生"とアロナが合体した究極体ZEXAL、プレナパテスとA.R.O.N.Aが合体した究極体ダークZEXALが対峙する。熾烈な攻防の末、互いにフィールドに残ったのは《希望皇ホープ》と《絶望皇ホープレス》のみとなっている。
"「……私はHRUM、《アルティメット・フォース》を発動」"
"「私はHRUM、《ユートピア・フォース》を発動!」"
奇しくも、互いに切り札として発動したRUMはほとんど同じものだった。
"「……《絶望皇ホープレス》1体でオーバーレイネットワークを再構築。……ランクアップ・ハイパー・エクシーズ・チェンジ」"
"「《希望皇ホープ》1体でオーバーレイネットワークを再構築。ランクアップ・ハイパー・エクシーズ・チェンジ!」"
"「現れろNo.XX。混沌たる闇の使者、《インフィニティ・ダークホープ》」"
"「現れろNo.99! これがナンバーズの終焉にして頂点! 《希望皇龍ホープドラグーン》!」"
互いに出現させたのはランク10、攻撃力4,000を誇る最上級ランクのモンスターエクシーズ。持てる全てのカードを駆使し、互いに意志をぶつけ合う戦いは終盤に持ち込まれようとしていた。
そして、NOランク12《エーテリック・マヘス》を破壊されたもう一人のシロコも切り札を出すことにした。まずは罠カード《エクシーズ・リボーン+》を発動して《マヘス》をフィールドに呼び戻す。
「そして私はRUM、《アストラル・フォース》を発動する」
「えっ!? ランク12から更にランクアップ!?」
「まさか、もう一人のシロコちゃんは崇高に至ったの……?」
「ランク12の《エーテリック・マヘス》でオーバーレイネットワークを再構築。ランクアップ・エクシーズチェンジ」
セリカが素直に驚き、ノノミが驚嘆する中、《エーテリック・マヘス》が異次元の渦へと光となって消えていき、爆発とともに神々の王アメン・ラーが降臨する。その存在は不気味な雰囲気が漂う「ナラム・シンの王座」唯一の太陽として光り輝く。
「現れて、NOランク13。《エーテリック・アメン》」
キヴォトス滅亡を阻止しようとする対策委員会一行の前に立ちはだかる進化の最果て。シロコたちの戦いも終わりに近づきつつあった。
アロナの身に何があったのか、は本概念の独自設定です。ブルアカが公式で明かすのはだいぶ先になりそうなので。知りたい気持ちと本概念を完結させて逃げ切りたい気持ちが半々です。
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