◆三人称視点◆
"「……《ダークホープ》。インフィニティ・ダーク・スラッシュ」"
"「行っけぇ《ホープドラグーン》! ホープドラグーン・バスター!」"
"先生"とプレナパテス、互いの切り札が相打ちになり、2人の究極体ZEXAL状態も解除された。
床を転がる"先生"とアロナ。床に倒れるプレナパテスとA.R.O.N.A。すぐさま起き上がる"先生"に対してプレナパテスは中々起き上がれない。
「"先生"!?」
その光景を視界の端に捉えたもう一人のシロコは激しく狼狽えた。そしてその絶好のチャンスを見逃すシロコではなかった。
「ん、よそ見は禁物。罠カード《ブレイクスルー・スキル》を発動して《エーテリック・アメン》の戦闘破壊耐性を無効にする。それから《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》の攻撃力は墓地に送ってた《究極竜騎士》を参照して5,000。ディープアイ・バースト!」
対策委員会委員一同がモンスターエクシーズを召喚しなかったため、《エーテリック・アメン》はその本領を発揮できないでいた。攻撃力5,000は破格ではあるが、デュエルモンスターズでは決して突破できないラインではない。
シロコの召喚した曲線美が際立つ慈愛に満ちた竜は5枚の翼を広げ、後光のようなリングより光を射出。応戦した《エーテリック・アメン》と相打ちとなり、光の粒子となった深き愛の竜は消えていった。
しかしもう一人のシロコはそんなことお構いなくプレナパテスへと駆け寄る。しかしもう一人のシロコがプレナパテスを抱きかかえようとすると、プレナパテスは指を動かして空中ディスプレイを表示させた。
"……《大人のカード》最後の効果を発動する"
「"先生"……! ……。そう、分かった。最後まで頑張るから」
"先生"から見たプレナパテスの表示した画面は逆さだったが、それはシャーレに属する生徒名簿だろうか。生徒のコンディション、得手不得手、与えるべき教材や強化素材、そんな情報が網羅されている。しかし、一点だけ"先生"と異なる機能がプレナパテスの操作画面には備わっていた。
モモイたちゲーム開発部風に言えばコンティニュー機能だろうか? それも再チャレンジの際に難易度を下げるためのブースト機能が備わっている。"先生"は理解しやすいようにプレナパテスのしたことをそう解釈した。
立ち上がるもう一人のシロコ。
構えるシロコたち対策委員会一同。
最後の攻防は"先生"、プレナパテス、両者とも自分の生徒を最大限支援することに専念。実力はもう一人のシロコが上。しかしそれを結束の力で上回ってくるシロコたちアビドス一同。
両者の死闘は……、
「やりましたよ"先生"! 私たちの勝利です!」
アロナが喜んだとおり、シロコたちが押し切って勝利したことで幕を下ろしたのだった。
◆◆◆
もう一人のセリカことテフヌトが死の淵から蘇った際、彼女に《邪神ドレッド・ルート》を授けた黒ずくめの"彼"はテフヌトが監禁されている間に起こったことを全て明かした。キヴォトスが滅亡したこと、そしてそれがシロコによってもたらされたことを。
ホシノ、ノノミ、アヤネが命を落とし、セリカが消息を絶って暫くが経過した、"先生"が意識不明となってから100日が経過した日、病院は"先生"の回復が見込めないと判断した。そして延命治療を打ち切ると発表する。
一人きりになったシロコは生きることを諦めた。そして最後の希望にかけてセリカを探し続けて彷徨い歩き、アビドス砂漠で倒れた。この時のシロコはもはや生きることを諦めてしまった。苦しみ、悲しみから逃れたくて、眠ろうとしていた。
「……そっか。私も……みんなも、……苦しむために、生まれてきたんだ」
しかし、そんなシロコの本当の絶望と悲痛は、まだ始まってすらいなかった。
色彩に魅入られたことでシロコはさらなる地獄へと突き進むことになる。
色彩の代行者と化したシロコはキヴォトスに殺戮と破壊をもたらしていく。既に幾つもの異変で各学園の治安維持組織は半壊状態。シロコに太刀打ちできず、次々と滅ぼされていった。
そんなシロコの前に、もはや死に体だった筈の"先生"が現れた。
しかし"先生"は生きているのが不思議なぐらいに満身創痍な状態。
案の定シロコが威嚇射撃をしただけで"先生"は倒れ、起き上がれなくなった。
銃口を"先生"に突きつけるシロコ。シロコの頭の中で何者かが早く撃てとささやき続ける。
それでも……シロコには"先生"が撃てなかった。
ただただシロコは"先生"に謝り続けるしかなかった。
そんな"先生"は最後の力を振り絞り、シロコの苦しみを代わりに背負った。
これが、プレナパテス誕生の経緯である。
だから、何も出来なかった、何も知らなかった無力な自分を呪い、恨み、怒り、それを原動力にしてテフヌトは生き恥をさらしながらも生にしがみついている。
もはや彼女が生きる目的はただ一つ。シロコと"先生"に今度こそ手を差し伸べることだけだ。
◆◆◆
「うあああぁぁぁあああっ!!」
もはやもう一人のシロコは限界だった。
これまで必死に抑え込んできた感情が一気に爆発し、泣き崩れた。
周りの反応など目もくれず、今まで溜め込んできた嘆きを吐き出す。
「わ、たし……わたし、の、せい、でせかいが……滅亡、した……。そんな、こと、望んで、ないのに……」
「"先生"を、殺したく、なかった……! ごめん、なさい……すべて、は、わたし、がアビドスに、いたせい……」
「こうなると、分かって、いたら……もらう、べきじゃ、なかった……。あたたかかった、から……もう、これ以上、さむいのは、さみしい、のは、イヤ、だから……!」
「私が、間違っていたの……あの時、マフラーをもらわずに、そのまま、倒れていたら……。そうしたら……"先生"は、みんなは、生きて、いたかも、しれないのに……」
「ごめんなさい……"先生"を殺して……世界を滅ぼして……ごめんなさい……」
「"先生"が……色彩に、飲み込まれて……私を、ここに呼んだの……すべての世界を、消すために」
「私……わたし、は……生まれてくる、べきじゃ……なかったんだ……」
ホシノ、シロコ、ノノミ、アヤネ、セリカ。そして"先生"すら何も言えない。もう一人のシロコに一体どんな言葉をかければいいだろうか? もう一人のシロコの苦しみ、悲しみを共有出来ない自分たちに一体何が出来ると言うのか?
もう一人のシロコの独白を真っ向から受け止められるとしたら、それは……、
「そんなことは、ないわ!」
そんな重苦しい雰囲気を打ち破ったのはこの場にいなかった乱入者だった。
「ナラム・シンの王座」に姿を見せたのはDホイールに乗ったZ-ONEだ。
彼は扉を突き破ったあと、Dホイールを滑らせて急停止する。
"ユウセイ!"
「すみません、遅くなりました。今の状況は……」
"いや、ジャストタイミングだよ! とにかくもう一人のシロコに……!"
Z-ONEが確認する前に同乗者だった少女、テフヌトはもう一人のシロコへと大股で歩み寄っていく。後悔に支配されたもう一人のシロコにかけられた言葉。それはこの場にもいるセリカの声だったが、何故か気になって顔を上げた。
もう一人のシロコの視界に映る、あり得ない光景。
そんな筈はない、と涙を拭って目を擦ってみたが、決して夢幻ではない。
変わりはててはいたが、こちらの世界のではない、自分の知るセリカがいる。
「セ、リカ……?」
「何度だって言うんだから。シロコ先輩は何も間違っちゃいない!」
「どうしてここに……? 生きてたの……?」
「そんなことはどうだっていいの! 今はシロコ先輩の方が先!」
テフヌトは涙で顔をぐちゃぐちゃにしたもう一人のシロコを抱きかかえた。テフヌトを振り払おうとするももう一人のシロコは力が出ない。拒めない。テフヌトにされるがまま、その温もりを感じるだけ。
「リンさんもアコさんも、他のみんなだって恨んでないよ。アヤネちゃんだってノノミ先輩だって、最後までシロコ先輩と一緒に走れなくて悔しかったと思うわ。シロコ先輩がキヴォトスを滅ぼしちゃったのは、シロコ先輩のせいじゃないもの」
「でも……私がキヴォトスを滅ぼして、"先生"を殺したのは事実で……」
「"先生"は、シロコ先輩を叱ったの?」
「……。……え?」
テフヌトの問いかけにもう一人のシロコは一瞬頭が回らなかった。
"先生"が自分を叱ったか? 色彩の本能のままにキヴォトスを滅ぼす自分を?
答えは……否だ。
思い出す。あの時、"先生"が何を言ったかを。
思い出す。あの時、"先生"がどうシロコに向き合ったかを。
思い出す。あの時、"先生"が色彩を受け入れる前に、自分を肯定したことを。
"あなたのせいじゃないよ、シロコ"
そう、"先生"は最後まで先生として接してくれなかっただろうか?
"先生"とプレナパテス、クロコと対策委員会の激戦はもう少し細かく描写しようとも思ったのですが、長くなったのでダイジェスト風にしてます。そしてようやく書けました、クロコの嘆きとセリカの訴え。
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