Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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プレナパテス、精霊化する

 ◆三人称視点◆

 

"自分の生を、悔やんだり――責めないで"

 

"幸せになりたいと願う気持ちを――否定しないで"

 

"生きることを諦めて、苦しみから解き放たれた――だなんて悲しいことを言わないで"

 

"苦しむために生まれてきた――なんて、思わないで"

 

 今にも死にそうなのに、"先生"はシロコに優しく語りかけていた。

 

"子どもが、絶望と悲しみの淵でその生を終わらせたいと願うのなら――それは、その世界の責任者のせいであって、子どもが抱えるものじゃない"

 

"たとえ罪を犯したとしても、赦されないことをしたとしても――生徒が責任を負う世界なんて、あってはならないんだよ"

 

 そして"先生"は責任を負って、色彩の嚮導者になった。

 永遠の苦しみを味わわせることになった。

 

 だからもう一人のシロコは、地獄の果てまで"先生"にお供するんだ。

 それが今のもう一人のシロコに出来る唯一の贖罪だったから。

 

 けれど、"先生"は色彩の嚮導者、プレナパテスになってもなお……、

 

"……責任は、私が負うからね"

 

 シロコたちの先生であり続けた。

 

 もう一人のシロコとテフヌトが顔を見上げる。気がつけばプレナパテスの手が2人の頭に添えられていた。そしてゆっくりとした足取りで前へと歩み出る。まるでこれ以上もう一人のシロコには戦わせない、と言わんばかりに。

 

「"先生"!? どうして……!」

 

 テフヌトがプレナパテスを止めようと立ち上がるも、プレナパテスがシッテムの箱を操作した途端、テフヌトの動きが封じられる。それはもう一人のシロコも同じ。指一本動かせない中でテフヌトはただプレナパテスの背中を見つめるしかない。

 

 プレナパテスが行った操作は単純で、セリカとシロコを編成画面から外しただけだ。スペシャル枠にA.R.O.N.Aが入っているだけなので本来戦闘を行えないが、自分自身をボスの枠に入れて無理やり戦闘を続行させる。奇しくもゲマトリアと同じ手だった。

 

"……《大人のカード》を除外してテキスト外効果を発動。……3ターン後、相手プレイヤーと全ての相手モンスターに80,000ポイントの戦闘・効果ダメージを与える。この効果は無効化されない。……ただし、その間私はカードのセット、効果の発動、および戦闘を行えない"

「は、80,000!?」

「ライプポイントの10倍……!」

「「アトラ・ハシースの箱舟」の全エネルギーが……プレナパテスに集中しています! "先生"! プレナパテスを止めないと……!」

 

 プレナパテスの上方にエネルギーが集中されていく。

 プレナパテスを止めるべくホシノやシロコたちは攻撃を集中させるが、プレナパテスはびくともしない。A.R.O.N.Aのバリアが張られていないにも関わらず、だ。

 

 どのように阻止するか、を悩んでいたその時、箱舟内に散っていた皆が「ナラム・シンの王座」に集結した。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「チーちゃん、「脱出シーケンス」が出来たぞ」

「デーちゃん、確認だけど「脱出シーケンス」はターゲットを地上に空間跳躍させる、で合ってるよね? 有効範囲は箱舟全体?」

「ああ。ただし正確な座標を定める必要がある。「ウトナピシュティムの本船」に留まってるチーちゃんたちは私が何とかするが、「アトラ・ハシースの箱舟」に乗り込んだ者たちは無理だ」

「……リオ会長たちは全員「ナラム・シンの王座」に集まってるから、"先生"に頼んで転送してもらおっか」

 

 チヒロとデカグラマトンは素早く「脱出シーケンス」についてを各位に伝達。もはやカード化による箱舟消失まで一刻の猶予もないため、「ウトナピシュティムの本船」内のクルーは順次地上に向かうこととなった。

 

「それと、深刻な問題がある。人数分のリソースを確保出来なかった」

「……何人分足りないの?」

「6人。ちょうどユウセイ先生と一緒に先行した人数と同じ分だ」

「そう、なら問題無いわ」

 

 チヒロとデカグラマトンの通信にコメントを入れたのはリオだ。

 

「外で待機している《コズミック・クェーサー・ドラゴン》に「ナラム・シンの王座」までの穴を開けさせてくれたら、私たちはDホイールで脱出するから」

「ですが……いえ、分かりました。どうかご武運を」

 

 ヒマリは何かを言いかけたが、リオ以上の妙案も思いつかなかったため、その案に乗ることにした。「ウトナピシュティムの本船」内にはリンとアヤネだけが残ることとなり、他のクルーは順次地上へと転送されていく。

 

 リンは船外の《コズミック・クェーサー・ドラゴン》を見上げた。《スターダスト・ドラゴン》の進化体、デルタアクセル・シンクロモンスター。いかに自分が「あの神」を所持していてもこの境地までは到達出来まい。

 

「アリス、聞こえますか?」

 

 A.R.O.N.Aが「ナラム・シンの王座」の空間を維持できなくなったため、リンからも内側への通信が可能となった。アリスも"先生"のもとへ到着しているはずであり、プレイヤーの彼女から攻撃命令をして貰う必要がある。

 

「ユウセイ先生たちを脱出させたいのですが、《コズミック・クェーサー・ドラゴン》にそちらを攻撃させます。ターゲットの座標をこちらに送ってください」

「ちょうどよかったです! たった今ラスボスがファイナルアタックを仕掛けようとしてるところです! ドラマティックフィニッシュでトドメです!」

「……! プレナパテスにダイレクトアタックですね。そうしなければプレナパテスは止められませんか……。分かりました。ではターゲットの指定を」

「アリス、理解しました!」

 

 程なく、アリスから正確な座標が送られる。すると《コズミック・クェーサー・ドラゴン》は咆哮を上げて「アトラ・ハシースのスーパーノヴァ」にエネルギーを集中させていく。

 

「《コズミック・クェーサー・ドラゴン》でプレナパテスにダイレクトアタック! 天地開闢撃、スーパーノヴァ・バースト!」

 

 巨大な光の剣から膨大な量の光が発射される。それは「アトラ・ハシースの箱舟」に突き刺さり、程なく反対側から貫通して宇宙へと伸びていった。

 

「では、私は最後まで残ります」

「……"先生"たちを、よろしくお願いします。リンさん!」

「はい、お任せください」

 

 アヤネが地上へと転送され、残るはリン一人きりとなった。カード化プロセスが進行中のため船内にはけたたましい警告音が鳴り響く。それ以外は特に何の音もせず、静かなものだった。

 

 後は座して待つだけ。リンは「ナラム・シンの王座」の様子をモニターで映し出し、見守ることにした。そこでは"先生"が順次生徒たちを地上へと避難させていく様子が見られた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「では、我は先に脱出します」

「皆さまもすぐに脱出を……!」

「先生たちも逃げ遅れないようにしてちょうだい」

「地上で会いましょう、"先生"!」

 

 マルクトはユカリを抱えて穴から飛び立っていった。リオはユウカを乗せてDホイールで飛び去っていった。

 

 他の生徒達は攻撃を止めたがなおも倒れないプレナパテスに攻撃をし続ける。その間に"先生"はシッテムの箱を操作して一人、また一人と地上へワープさせていく。美食研究会、ゲーム開発部、対策委員会……それを見届け、リンも地上へと退避した。

 

 残りの転送可能回数は2人。「ナラム・シンの王座」には"先生"、Z-ONE、もう一人のシロコ、テフヌト、そしてプレナパテスだけが残った。なお、アロナとA.R.O.N.Aはシッテムの箱に収まるので人数に含まれていない。

 

 そんな中、"先生"はプレナパテスが何か言いたげなことに気づき、もう一人の自分へと歩み寄っていく。あまりに無防備だがプレナパテスは"先生"を攻撃しようとしない。それを見ていたテフヌトは必死に叫ぼうとするが言葉を出せない。

 

 分かった。やっと分かった。分かってしまった。

 色彩の嚮導者に成り果てて、別のキヴォトスに移動して、なおやりたいことを。

 これは、引き継ぎだ。シロコを別の自分に託すための。

 失った青春を取り戻してもらい、無事に卒業してもらうための。

 

 嫌だ、止めて。必死に訴えようとしても何も出来ない。

 テフヌトはそれが悔しくてたまらなかった。

 一体何のためにここまで来たのか、食らいついたのか、と心の底から嘆んだ。

 

「"先生"。貴方には選択肢が2つあります」

 

 "先生"はプレナパテスの言葉に耳を傾けようとして……Z-ONEに制止される。

 

 Z-ONEが語りかける相手は"先生"ではなくプレナパテス。

 この場にいた誰もがZ-ONEが何をしようとしているのか、想像もできなかった。

 

「1つはこのままこちらの"先生"に委ね、天寿を全うすること。もう1つは……なおもシロコたちのために先生でい続けること」

"まさか、プレナパテスを救えるの?"

「ただし、人間を止めなくてはいけません。それでよろしければそちらの世界で託された希望を貴方に渡しましょう」

"……"

 

 プレナパテスはわずかに顔を動かし、もう一人のシロコとテフヌトの方を見た。2人の突然差し込んできた僅かな希望による喜びを込めて必死に願う眼差しに、プレナパテスは首肯する。

 

 Z-ONEが取り出したのは滅亡したキヴォトスで探し回った4枚の「未来皇ホープ」カード。それを見たアロナは大声を上げてから「その手がありましたか!」と手を打つ。次に気付いたのは"先生"。彼はZ-ONEに力強く頷いた。

 

「では"先生"。引き続き生徒たちを、よろしくお願いします」

 

 そして、Z-ONEが4枚の「未来皇ホープ」カードを高くかざすと、それらは光となって異世界への渦へと消えていき、同時にプレナパテスの身体から光となった何かも吸い込まれていく。

 

「私……いえ、私たちは4体の「未来皇ホープ」と"先生"でオーバーレイネットワークを再構築!」

 

 プレナパテスの身体は崩れ落ちる。分厚い衣と仮面が床に転がり落ち、肉体だった灰、塵は箱舟に開いた大穴から吹き込む風で散っていき、やがてプレナパテスだった者がここにいた痕跡は衣装、そして幾ばくかの備品のみとなった。

 

 すると、もう一人のシロコとテフヌトの拘束が解ける。手を動かす2人に対してアロナがシッテムの箱から音声を出して「さあシロコさん、セリカさん。一緒にご唱和を!」と呼びかける。

 

 もう一人のシロコとテフヌトは顔を見合わせ、頷き合い、異世界への渦を見上げた。

 

「絆は進化します。より強く、より固く」

「……絆結ばれし時、力と心が一つとなり――」

「光の奇跡と伝説が生まれて――」

「眩き希望の光が未来を導きます!」

"アルティメット・エクシーズチェンジ・ZEXAL!"

 

 そして、爆発と同時に渦から1体の戦士がシロコとテフヌトの前に降り立った。

 姿は《未来皇ホープ・ゼアル》だったが、2人には分かった。

 この人は、自分たちの"先生"だと。

 

 色彩に染まった肉体の檻から"先生"を救出し、精霊化させる。これが滅亡したキヴォトスで繋がれた最後の希望だった。

 発案者は連邦生徒会長。自分のエースモンスターたる未来皇ホープを失い、絶望皇ホープレスの刃に身をさらしてもなお"先生"を助けたいが一心で実行に移した。

 

 こちらの"先生"に託さなかったのは、部外者たるZ-ONEに託したのは、「名もなき神」を崇拝する無名の司祭の目を欺くため。そしてZ-ONEが《青眼の白龍》や《ブラック・マジシャン》といった過去の例から魂の精霊化について知見があったためだ。

 

「「せん、せい……"先生"……!!」」

 

 シロコとセリカ、残された2名の生徒が自分たちの先生へと飛び込んでいく。

 

 ここに、滅亡したキヴォトス全員の最後の悲願は果たされた。




と、いうわけで本概念はプレ先生存ルートです。この展開は先生をホープ使いにしようと思い至った時から考えてました。形にできて嬉しい限りです。

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