Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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”先生”たち、帰還する

 ◆三人称視点◆

 

"シロコ、セリカ。積もる話は地上に戻ってからにしよう"

「シロコ、これがもう一人の"先生"の魂が込められたカードです。くれぐれも大切にするように」

 

 もう一人の"先生"に抱き着いて散々に泣いたもう一人のシロコとテフヌトに"先生"が声をかけ、我に返らせた。それからZ-ONEがもう一人のシロコに合体した《未来皇ホープ・ゼアル》のカードを手渡す。もう一人のシロコはそのカードを愛おしそうに抱きしめ、それから自分のデッキに入れる。

 

"じゃあ、脱出シークエンスでシロコとセリカを地上に送るから"

「こっちの"先生"はどうするの?」

"こっから空中ダイビングしたら軽く死ねるから、ユウセイのDホイールに乗せてってもらうよ"

「ん……。地上で待ってる」

 

 "先生"がシッテムの箱を操作し、もう一人のシロコともう一人の"先生"が地上に転送されていく。精霊となったもう一人の"先生"は実体を持たないため、もう一人のシロコに託されたカードと共に転送された。

 

 これで転送可能回数はあと1回になる。

 

「ユウセイ先生、ありがとうね! ホシノ先輩たちの願いを叶えてくれて!」

「礼には及びません。しかし、貴女達は生き延びてからが本番です。このキヴォトスが新しい居場所になるかは分かりませんが、それでも希望を捨てないように」

「うん。"先生"とかシロコ先輩とじっくり話し合ってこれからどう歩いて行くか決めることにするわ」

「それがいいでしょう」

 

 テフヌトが"先生"によって転送され、これでアトラ・ハシースの箱舟に残ったのは"先生"とZ-ONEだけになった。"先生"とZ-ONEは残された時間で可能な限りプレナパテスの遺品と呼ぶべきデッキ、銃痕のあるシッテムの箱などを回収。大急ぎでDホイールに乗り込む。

 

 直後、アトラ・ハシースの自壊シークエンスが完了。その構造体は粒子となって消えていく。キヴォトスを終焉に導く存在は痕跡も残さずなくなり、Z-ONEの手元にある2枚のカードだけが異変が現実だったことを物語るばかりだ。

 

 Z-ONEのDホイールはアポリアが遊星のDホイールに施したような赤き竜のごとき翼を生やしながら高度70,000mより降下していく。地上はまだ夜明け前だったが、成層圏から見ると地平線の彼方から太陽が登り始めていた。まるで宝石の付いた指輪みたいだ、と"先生"は感想を抱いた。

 

"あ、ところでユウセイ。私、こんな状況になったら言ってみたかったセリフがあるんだ"

「……何となく想像出来ますが、どうぞ」

"ユウセイはどこに落ちたい?"

 

 自然に落ちれば落下速度は音速を超えるから、地上だろうと海だろうと激突すれば肉片も残さずトマトになるのがオチ。そんな風に真面目に述べようとも頭によぎったZ-ONEだったが、無粋なので止めた。

 

「アビドス、ミレニアム、トリニティ、ゲヘナ、百鬼夜行……様々な学校がキヴォトスにはありますが、我々が真っ先に帰るべき場所は1箇所しかないでしょう」

"じゃあ、帰ろっか。心配してくれてるみんなのもとに"

「ええ。戻りましょう。シャーレへ」

 

 地上が見えてくる頃には夜明けを迎えていた。虚妄のサンクトゥム出現で空一面が血を流したように真っ赤に染まったのが嘘のように晴れ渡っている。

 

 アーククレイドルを止めたZ-ONEは知らないが、彼らの帰還はアーククレイドルから生還を果たした不動遊星のようでもあった。

 

 地上では先に転送されていたアトラ・ハシースの箱舟の乗員たちが全員で待っていた。"先生"たちが必ず帰ってくると信じていたのだろうか、彼女たちはずっと降りてくる"先生"たちを見上げていた。

 

 着陸する前からまだ余力のある生徒たちが駆け出す。喜びを溢れさせ、各々の思いを込めて"先生"たちへと言葉を送った。"先生"は"ただいま"、"ごめんね、心配かけて"と笑いながら優しく語りかけていく。

 

 そんな光景を見つめながらこの場から立ち去ろうとしているもう一人のシロコたちを視界に捉えたZ-ONEは、呼び止めてから彼女らの方へと駆け出す。Z-ONEの手にはアトラ・ハシースで回収したもう一人の"先生"の私物がある。

 

「シャーレの職員カード、デッキ、シッテムの箱、大人のカード。それから折り鶴。船から回収出来たのはこれだけです。受け取ってください」

"シロコ。私はもう持てないから預かってくれないかな?"

「ん、分かった。でも私にはシッテムの箱も大人のカードも使えないよ」

"大人のカードは私がいれば問題ないよ。でもシッテムの箱は……もう起動しないみたいだね。これまで動き続けたのが奇跡みたいだったから……"

「ごめん、なさい……。私のせいで……」

「シッテムの箱のOSの話でしたら……」

 

 Z-ONEは"先生"の方を向く。視線に気付いた"先生"は自分のシッテムの箱を高々と掲げ、それを指さしてみせた。それでもう一人の"先生"は気付いた。A.R.O.N.Aがこちらのシッテムの箱に移住したことに。

 

 それでいい、ともう一人の"先生"は納得する。この先で起こる異変を踏まえるならアロナとA.R.O.N.Aと二人がかりで"先生"は守られるべきだ。自分と同じ轍を踏ませるわけにはいかないのだから。

 

「それと、シロコに確認してもらいたい物があります」

「……? 貰えるものなら貰うけれど」

「こちらがシロコの私物かを見てもらいたいのです」

 

 Z-ONEがもう一人のシロコに手渡したのは紙袋。色々とあったので思い出すのに苦労したが、テフヌトはそれが「未来皇ホープ」を入手する旅の途中、アビドス砂漠でZ-ONEが見つけたものだと分かった。

 

 もう一人のシロコが紙袋から取り出したのは青いマフラーだった。それを見るや、もう一人のシロコはとめどなく涙を溢れさせる。失くしてしまった、もう二度と戻ってこないと思っていた、ホシノから貰った大切なマフラーだ。

 

「え? あのだだっ広いアビドス砂漠でピンポイントにシロコ先輩のマフラーを拾うなんてことあるの?」

「シロコのもとに戻ることが運命だったのか、偶然の積み重ねによる奇跡なのか……。ともあれ、見つけられて良かったです」

「……。そうね。あんなに嬉しそうなシロコ先輩、すっごく久しぶり」

 

 もう一人のシロコはマフラーを自分の首に巻いた。身にまとう漆黒のドレスとは絶妙に合わないのだが、彼女は決して外そうとしない。せめて洗うように促そう、と考えるZ-ONEであった。

 

「あ、あの、ユウセイ先生」

「どうしましたか、セリカ?」

「せっかく"先生"を生き長らえらせてくれたのにアレだけど、精霊になった"先生"ってこれからどうなるの?」

 

 もう一人の"先生"の姿は《未来皇ホープ・ゼアル》そのもの。もしこの世の理から外れた存在になったのなら、この先ずっと死ぬことはないのではないだろうか? それこそ、自分たちが寿命を迎えてからもずっと先も生き続けるのでは?

 

「確かに5,000年や10,000年も生き続ける精霊も存在します。しかし主と認めたデュエリストに最後を迎えてなおも冥府まで付き添った精霊もいたようです」

「つまり、今の"先生"もちゃんと冥府に旅立てるの? 一人きりにならない?」

「終活についてはじっくりと話し合うべきでしょう。考える時間はこれからたくさんありますから」

「……。そうだね。そうする」

 

 もう一人のシロコはもう一人の"先生"と顔を見合わせ、はにかんだ。きっと今日一日は三人でこれまでのこと、これからのことを語り合うのだろう。そうして未来に向けてどう歩んでいくかを決めていけばいい。

 

 もう一人の"先生"が実体化し続けるならどうすればいいか、と疑問を呟くもう一人のシロコに対し、Z-ONEはカードをデッキマスターゾーンにセットしたらどうかと提案。もう一人のシロコに首を傾げられたので、まずはデッキマスタールールから説明する。

 

「それと、精霊の中には人の姿になった者もいます。なのでもう一人の"先生"も意識すれば人の姿になれるはずです」

 

 Z-ONEは過去を観測した際、遊城十代の時代にオネストがデュエルアカデミアの生徒に化けていたことを思い出す。しかし精霊ではないZ-ONEにとって本当に出来るかは分かりようもなかったが。

 

"そうなの? ちょっと試してみるね。んん~~"

 

 もう一人の"先生"が念じるとその姿は段々と小さくなっていき、やがて"先生"と変わらない外見になる。

 

 そんなもう一人の"先生"の姿を見た生徒が何名か驚きの声をあげた。プレナパテスの正体がもう一人の"先生"だとはアビドスの生徒しか知らないため、精霊になってもずっともう一人のシロコと一緒にいたのか、といった声が主だった。

 

"本当に出来た……"

「ん、ホープ・ゼアルも格好良かったけど、やっぱりそっちの方がいい」

「うん。ようやく私たちの"先生"が戻ってきたんだな、って思えるわね」

"でもこっちの"先生"と同じ姿じゃあ迷惑じゃないかな?"

「イメチェンするなら手伝う。髪型、服装、いじりがいがある」

「"先生"もここまで大変だった分思いっきり人生を謳歌してくれないと、私がホシノ先輩たちに叱られちゃうわ」

 

 そんなもう一人の"先生"が姿を変えたのを見た"先生"、良からぬことを企んでいそうな笑みを浮かべながらもう一人の"先生"へと歩み寄る。

 

"もう一人の私……といつまでも呼ぶのもアレだし、今度からゼアル先生って呼んでいいかな?"

"ゼアル先生……分かった。なら私はこれからそう名乗らせてもらうよ"

"じゃあゼアル先生。人の姿になれることだし、こっちでもシャーレの先生やってみないかな? 私もユウセイも大歓迎だよ"

"……!"

 

 その提案にもう一人の"先生"改めゼアル先生は目を丸くして"先生"とZ-ONEを見渡し、やがて思い悩む。複数名のシャーレの先生がいても問題は生じないだろうか、と。ゼアル先生の場合、シャーレを連邦生徒会長との二人三脚で切り盛りしていたが、それと同じ感覚でやればいいだろうか。

 

"私がもう一人いるなら心強いし、これまで手が回らなかったり蔑ろになってた生徒の力にもなれる。お願い、私を助けると思って"

「貴方には引き続き先生としてシロコとセリカを卒業させる義務があります。ならシャーレが一番都合がいいでしょう。リンたちには私たちからも言いますので」

"それに何より、3人体制になればもう徹夜しなくても済むでしょ。それどころか深夜残業もなくなるかもしれないよ"

 

 深夜残業なし。それはゼアル先生も味わったことのない夢のまた夢だ。いかに連邦生徒会長が超人と呼ばれるほど事務処理能力が卓越してても、キヴォトスで発生する問題は山のようにある。そして問題が片付けば仕事が終わるわけではなく、生徒との交流、お悩み相談、学校行事、枚挙にいとまがない。

 

 そしてゼアル先生、自分やもう一人のシロコが巻き起こした異変の後始末が大変なことに改めて気づく。各学園の被害状況の確認と復興計画、対応に追われた生徒たちの心身のケア、異変解決に追われて溜まった通常事務業務。3人がかりで取り組んでも消化するのに一体どれほどの期間が必要だろうか?

 

"……。しばらくシャーレで寝泊まりかぁ"

 

 晴れ渡る青空の下、ゼアル先生のつぶやきは、しかしどこか嬉しそうだった。




これであまねく奇跡の始発点編は終了となります。ここまで書けたのはひとえに呼んでくださった皆さまと感想のおかげです。お礼申し上げます。
次はカルバノグの兎編2章を予定してますが、書き溜め分が尽きたのと別作品の書籍描き下ろし作業があるため、投稿ペース落とします。ご了承ください。

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