「ユウセイ先生。本日はご足労いただきましてありがとうございます」
「礼には及びません。これも仕事ですので」
本日は連邦生徒会本部の防衛室に招かれました。
防衛室長の執務室に入った私は早速カヤの営業スマイルに出迎えられます。防衛室職員が私たちを案内し、茶と菓子を準備します。カヤが私に座るよう促したので腰を落ち着かせ、カヤも座りました。
早速打ち合わせ開始、かと思いきや、程なくヴァルキューレ警察学校のカンナが入室してきました。カンナは私たちに敬礼し、部屋の隅に行こうとしますが、カンナが座るよう指示したため私の隣の椅子を引きました。
「本題に入る前に世間話でも。ユウセイ先生はキヴォトスでデュエルモンスターズのカードはどこが販売しているか知っていますか?」
「連邦生徒会でしょう」
そう、キヴォトスで市販されているデュエルモンスターズのカードは連邦生徒会が売っています。ルールの制定、細かな効果の裁定、リミットレギュレーションも連邦生徒会が全て牛耳っています。
しかし、暗黙の了解として、デュエルディスクが正しく機能するなら非正規なカードも認められています。そういったカードはやがて連邦生徒会のもとに調整版が市販される傾向なのだとか。
なお、私の《シューティング・スター・ドラゴン》を初めとするアクセルシンクロモンスターや「時械神」カードも、いずれは市民の手に渡らせたいとのことで、効果の調整段階に入っています。時械神の怒りをかわないよう慎重に進めているのだとか。
「では、デュエルモンスターズのカードのデザインはどこが行うかご存知ですか?」
「これも連邦生徒会……と初めは思っていたのですが、各学園が校風に沿ってデザインしたものを連邦生徒会が認可しているのでしたか」
「その通りです。最初に先生方に渡そうとしたトリニティの【堕天使】、ゲヘナの【ヴェノミナーガ】、ミレニアムの【アンティーク・ギア】がいい例でしょうか」
「調整と確認が大変でしょう。お疲れ様です」
極端な話、勝つだけでしたら「このカードが手札に存在する場合、自分はデュエルに勝利する」なんて馬鹿げた効果でいいんです。しかしそんな勝手が許されてしまってはカードゲームとして成り立ちません。インフレさせすぎないよう、しかし環境が停滞しないように、調整は日々欠かせません。
カヤはカードケースから3つのデッキを取り出しました。【ゴヨウ】、【ワルキューレ】、【極星】。これらはヴァルキューレ警察学校が標準採用しているデッキですが、いずれのデッキパワーももはやカジュアル寄りでしょう。神が率いる【極星】やかつては禁止クラスだった【ゴヨウ】の今の評価がこれとは……時の流れを感じます。
「単刀直入に聞きますけど、キヴォトスの治安はどう思いますか?」
「あまり良いとは言えません。しかし夜に生徒が一人で出歩いても重大な事件に発展しないことを踏まえるなら、一概に悪いとも言いきれません」
「これは公安機関の人員、予算不足が一番の理由でしょう。そして治安を維持するためのヴァルキューレ警察学校も、交通整理だけやっておけと言われてしまうぐらい頼りにならないのが現状です」
「うぐっ。面目次第もございません……」
容赦ない意見にカンナがコーヒーを持つ手がわずかに震えました。
しかしカヤもそんな現状に甘んじることなく予算増額を何度も訴えてきたそうですが、連邦生徒会に却下されてしまっていたのだとか。挙句の果てにSRTの解散命令が下され、民間企業のカイザーと提携する事態にまで深刻化しています。
テーブルの上に置かれた3つのデッキを、カヤは突然手で打ち払います。
何枚ものカードが舞い上がり、床に散らばります。慌てたのはカンナと書記らしき防衛室職員です。彼女たちが用済みとばかりに退けられたカードを拾い集めている間、カヤは気にもとめずに私を見つめます。
「装備を新調する予算も回せる人員も無いのでしたら、やれる手は限られています。ですが、先日のカイザーがサンクトゥムタワーを占拠した事件以降、カイザーに頼ることに危機感を覚える連邦生徒会役員が増えましてね。民間企業への委託もままならなくなりそうなんです」
「つまり、ヴァルキューレは今のままでどうにかするしかない。無茶でしょう」
「そう! そうなんです! 分かってくれますか! しかし諦めるのはまだ早いです。そう、私たちにはまだデュエルモンスターズがありますからね」
「それが先程の世間話に繋がるのですか。他の学園の一歩先を行く環境デッキテーマを作ってしまえば良い、と」
カヤは軽く唇を舐めてから新たに2つデッキを取り出します。一つは融合および速攻魔法テーマの【神碑】、もう一つはメインデッキ主体の【ジェネレイド】。いずれも【ワルキューレ】や【極星】よりは戦えそうな性能を持っていますが……。
「ライブラリーアウトを主攻にするテーマとは珍しい。シングル戦を主にするキヴォトスでのデュエルなら初見殺しとして最適でしょうが、デュエル外ではあまり使えないのでは?」
「この2つはあくまでヴァルキューレの校風に合わせて開発した新テーマです。ま、【神碑】使いと【ジェネレイド】使いがコンビになって巡回してもらおう、というコンセプトですので。本題はもう一つの方です」
カヤはテーブルの上で指で円を描きました。それは【ジェネレイド】デッキの隣、先程まで【ゴヨウ】デッキのあった位置です。
先程まであったデッキは3つ。今は2つ。
なるほど、警察学校としての役目を果たすデッキが無いのですね。
「ユウセイ先生には3つ目のデッキを開発して欲しいのです。ゲヘナの問題児を退けられて、レッドウィンターのデモを追い払えて、災厄の狐をSRT抜きで逮捕出来るぐらい強力なものを」
「それでいて暫く経ったら一般流通させても良い程度の強さが欲しい、でしょう?」
「ええ、理解が早くて助かります」
「分かりました。引き受けましょう」
私もヴァルキューレはこのままではいけないと思っていたところです。私が力になれるのなら喜んで引き受けましょう。
カヤは私の快諾を受けて顔を輝かせました。
「さすがユウセイ先生! 了承していただけると思っていました。あ、デザイン料は給与とは別にお支払いします。防衛室の権限が及ぶ範囲で色を付けますのでご安心ください」
「そういうわけには……いえ、この場合もらわなければいけないのですね。ボランティアではデザイナーの仕事が軽んじられますから」
「その通りです。お金の使い道に困っているようでしたら、溜まっている有給を一気に消化して豪遊してはいかがでしょうか? 良いリゾート地を紹介しますよ」
「検討しておきますので後で資料を送ってください」
用済みになった【ゴヨウ】デッキらを集めきったカンナと書記がカヤに返そうとするも、突き返されてしまいます。カンナは書記にカードの束を渡し、リユース処置するように伝えて席に戻りました。
カヤは既に細かい契約内容を書面にしたためていたため、一通り目を通した後に私はサインをします。そしてその隣にカヤがサインをし、あとは連邦生徒会の承認が通ればキヴォトスで効力を発揮する正式書類の完成です。
「あ、そうそう。試作デッキのテストプレイでしたらそこのカンナさんを使ってください。一時的にシャーレに出向させる手続きは済ませてますので」
「……防衛室長。その話は初耳なのですが」
「ヴァルキューレ内の汚職問題で降格・停職処分を受けたのでしょう? 自分を卑下しながら生活安全局で腐っているよりよっぽど建設的だと思うのですが?」
「……いえ、仰るとおりです」
カヤはカンナに辞令と書かれた封筒を手渡します。カンナはその場で封を開いて読み込み、それから自分の尻ポケットにしまいました。座った状態なのでねじ込む形になってしまい、書類がくしゃくしゃです。
「ところでカンナさん。聞きたくはないのですか?」
「? 何をでしょうか? 処分の理由でしたら既に納得しています」
「神のカードを無断使用しながら処分されなかった理由ですよ」
「……!」
神のカード。確か私が百鬼夜行に行っている間に"先生"がRABBIT小隊と共にヴァルキューレの汚職について調査した際、対峙したカンナが召喚した星界の三極神の一角、《極神皇トール》のことでしょう。
三極神もまた一般流通しているシンクロモンスターですが、あまりに弱くてチーム・ラグナロクに同情してしまいたくなります。三極神最大の特徴であるノーコスト蘇生がチューナーを必要としていますし、シンクロ素材も限定されていますし。
「アレもまたデュエルではもう何の役にもたちません。幻神獣族として召喚してももはや木偶の坊です」
「で、木偶……ですか?」
「リアルファイト要因で暴れさせるしかもう使い道がありません。それですら先日SRTの新米にあっけなく処理されてしまったでしょう。神話はとっくにカビの生えた昔話に成り果ててたってことです」
「……もはや神を召喚したところで大事ではない、ですか」
カンナは自分の胸ポケットから自分のデッキを取り出し、テーブルの上に置きました。それはまさにRABBIT小隊相手に使ったトールの入った【極星】デッキ。神に選ばれしデュエリストが神ごとデッキを手放したのです。
カヤはその役目を終えた【極星】デッキを、今度は手で払うこと無くケースにしまい込みました。先程との違いは……カンナのデッキだから? それとも中に神のカードが入っているから? カヤの表情からは窺いしれません。
「私は、本官は《トール》を神として召喚出来たこと、それなりに誇りでした」
「ですが、そのせいでカンナさんは弱い【極星】デッキに縛られたままでした。キヴォトスにとってそれは大いなる損失だと私は考えています」
「防衛室長は確か《ロキ》の担い手でしたか。これからどうされるのですか?」
「さあ? それこそ神のみぞ知る、と言ったところでしょう」
カヤは次の打ち合わせがあるからと退室していきました。残されたカンナと私は顔を見合わせます。互いにカップの中に残った飲み物を一気に飲み干し、脇に置かれた水の入ったペットボトルを手に部屋を後にしました。
「ユウセイ先生。ご迷惑おかけしますが、暫く世話になります」
「こちらこそ。共に治安維持に役立つカードを作りましょう」
「はい、分かりました」
それにしても……カヤはどうも目先のことだけではなく、大局を見据えているような気がしてなりません。一体彼女がどこを目指しているのか、そしてそれはキヴォトスのためになるのか、しっかりと見定めるとしましょう。
極星と極神の弱さは正直どうにかならないものですかね。今なら三極神はアニメ版効果でも許されると思うのです。
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