Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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カヤ、"先生"の懐柔に失敗する

 ◆三人称視点◆

 

「こんにちは、シャーレの先生方。こちらの事情で突然お呼びしてしまい、申し訳ありません」

 

 連邦生徒会長代行執務室。

 その席に座るのはリンではなくカヤだった。

 

 リンを連邦生徒会長代行から解任し、新たにカヤが就任する、との放送を聞いた"先生"たちが駆けつける形となった。正面玄関でアユムとモモカと会話した後、3人の先生が執務室へと通された。

 

"……それより、リンは?"

「リンでしたら引き継ぎ資料をまとめるとのことで一旦寮に帰りました。用があるのでしたら呼びましょうか?」

"ううん、大丈夫。リンの代わりに連邦生徒会長代行になったって聞いたけれど"

「ええ。連邦生徒会の規約に則り不信任決議案を連邦生徒会役員の賛成多数で可決し、私もまた多くの方からの支持を得て今この椅子に座っています」

 

 カヤは"先生"たちに封筒に入った手紙を見せびらかせた。それは連邦生徒会長直筆の置き手紙。そこには彼女の身に何かが起こった際、防衛室長に代行業務を依頼する、というものだった。

 

"その手紙はどこにあったの?"

「シャーレの地下から発見した、という筋書きです。ご安心を。これを実際に政治的工作に使ったわけではありませんし、これを根拠に連邦生徒会長は本来私を後任に据えるつもりだった、だなんて言い出すつもりもありません」

"だから成り代わりは正当なものだったと?"

「リンの罷免にあたって私はやましいことは何一つしていない。リンの行政は連邦生徒会で少なからず支持されていなかった、とだけ頭に留めていただければ」

 

 無論、リンの不信任可決にあたってカヤは連邦生徒会内での根回しを怠らなかったが、その辺りを説明するつもりはないし、連邦生徒会での権力争いなどシャーレの業務範囲外だとカヤは認識している。

 

「私が立ち上がったのはキヴォトスの安寧と平穏のためです。主席行政官はSRTを解散させるわ、ヴァルキューレの予算を削るわ、エデン条約の件を初めとして複数の学園にまたがる問題に我関せずを貫くわで、ちっともやる気がありませんでしたからね」

"カイザーとの提携もその一つ?"

「ええ。自分たちに正義を執行する力が無いのなら外付けするしかないでしょう。もちろん"先生"がカイザーをあまり良く思っていないことは承知しています。ああ、ちなみにサンクトゥムタワー占拠のことを根に持っているのでしたら、非難すべきはその時に間を悪く不信任決議案を突き付けたアオイ財務室長にどうぞ」

 

 その後もカヤはシャーレはこれまでキヴォトスのために尽力してくれた、連邦生徒会を代表して礼を言う、しかし多すぎる業務と責任は少し手放したらどうか、忙しい先生たちのために連邦生徒会が出来ることはないか、と語り続ける。

 

 そして、カヤはシャーレの行政手続き改善案を提示する。

 

「主に先生の業務負担の軽減を目的とし、いくつかの業務においては、先生の権限が強化される内容となっています。軽く目を通していただき、問題がないようでしたら、こちらにサインをお願いします」

"ここにサインしたら……何か変わるの?"

「特に何も。変わるものはありません。各学園の問題解決に尽力し、困った生徒に手を差し伸べ、面倒な事務処理に追われる。先生方はそんな日々を引き続き送ってください。設備も予算も申請すればこれまで通り公正に審査しましょう。事務員が足りなければ派遣もします。ただし……」

"ただし?"

「今後シャーレの全ての活動は、連邦生徒会の名で行う。承認していただけるのなら先生方がされたことに対する責任は全て私たちが負いましょう」

 

 "先生"は改善案を一瞥しただけで手を動かそうともしない。一方のZ-ONEはカヤに断りを入れてから書類の束を手に取り、丁寧に、しかし迅速に目を通していく。そんなZ-ONEの目がわずかに細められたことをカヤは見逃さなかった。

 

「何か気になる項目でもありましたか?」

「カヤ。現時点であなたの提案を受け入れることは出来ません」

 

 カヤは眉を顰める。

 

「何故? まさか大人が子どもに責任を押し付けるのは格好悪い、などと考えているわけではありませんよね?」

「あなたたち連邦生徒会がシャーレの責任を背負えると思っていないからです」

 

 Z-ONEの断言にはカヤのみならず"先生"も驚く。"先生"はあくまで「大人」や「先生」の立場として生徒の模範になれないから断ろうかと考えていたが、まさかZ-ONEがお前たちは力不足だと一蹴するとは思っていなかった。

 

「先にカヤが発言した通り、エデン条約の件といいSRT解散の件といい、連邦生徒会は責任を「無責任に」手放した前科がある。この先シャーレは切り捨てないと誰が保証出来ますか?」

「それはリン首席行政官のミスであって……」

「連邦生徒会は議会制でしょう。リンが独裁していたわけではなく、そしてこれからカヤが独裁するわけでもない。カヤ個人がシャーレの責任を背負うとしても、それは連邦生徒会長とSRTの関係と何が違いますか?」

 

 それを指摘されるとカヤは何も言えなかった。

 

 リンのもとではキヴォトス全土を揺るがした虚妄のサンクトゥム騒動で解決はおろか各学園の調整もままならず、連邦生徒会長が取り仕切った体制は彼女の失踪で打壊した。

 

 シャーレを任されれないとの意見を否定する材料は今のカヤには無い。

 

「……。連邦生徒会は頼りなくて信用できない。そう仰りたいのですか?」

「新体制になった連邦生徒会がどのようにキヴォトスを改革していくか。それを見定める期間を設けましょう。シャーレの責任をあなた達連邦生徒会に任せられるかはそれまでに判断いたします」

「さすがに無いとは思いたいですが、シャーレの権限が惜しくなったわけではありませんよね? 現在のシャーレはあくまで連邦生徒会長不在という非常事態を乗り切るための暫定的な措置なのはお忘れなく」

「連邦生徒会が新たな連邦生徒会長を正式に選出するのならすぐにでも返上しますが?」

 

 痛いところを突かれた、とカヤは内心で舌打ちする。

 

 連邦生徒会内ではリンが支持されなくなったのはあくまで「リンには連邦生徒会長の代役は務まらない」からだ。カヤが「次の連邦生徒会長に相応しい」と認められたわけではない。

 

 連邦生徒会長の座は空席のまま、それが連邦生徒会の総意だった。それを覆せる政治的手腕はさすがのカヤも持っていない。

 

「……。では、私の成果をすぐにでもご覧に入れましょう。そしてなるべく早く決断していただければ、と願います」

 

 "先生"は退室する。彼が自分に賛同することは無いだろうな、とカヤはため息を隠そうとしなかった。そんな彼を根気強く説得して味方になってもらおうという気が無いカヤもカヤだったが。

 

「ゼアル先生。こちらのキヴォトスはいかがですか? 不便な点があれば遠慮なくおっしゃってください。あちら側に優れた制度があるのでしたらこちらにも反映し、改善します」

"勝手は私たちのいたキヴォトスと変わらないから大丈夫だよ"

「そうでしたか。こちらの"先生"の受けは良くありませんでしたが、シャーレ改善案についてゼアル先生の考えはいかがですか?」

"……。連邦生徒会長、シャーレの先生。個人が責任を背負いすぎると、いざその人がいなくなった途端大変になっちゃうからね。私はカヤの提案を理解するよ"

「そうですか! やはりあなたは話が分かる大人のようですね」

"でも今すぐサインするのは無理かな。まずは連邦生徒会長代行をしっかり務めてみて、シャーレの責任を背負えるって判断したら改めて検討させてほしい"

 

 カヤはしばし熟考する。

 この2人なら実績さえ示せば自分を支持してくれるだろう。なら焦って改革案を強要するのではなく時間が解決するのを待つ。それが今出来る最善手だろう。

 

「本日はご足労いただきありがとうございました。ところでユウセイ先生。例の件は順調ですか?」

「ヴァルキューレの次期標準デッキの件でしたら試験的なデッキは出来ました。後はテストプレイを繰り返して調整するだけです」

「リリース当初の《ゴヨウ・ガーディアン》並の禁止級カード群で構いませんよ。強いテーマデッキで犯罪者をねじ伏せる、これもまた権力です。引き続きよろしくお願いいたします」

 

 Z-ONEとゼアル先生が去った後、カヤはどかしていたパソコンのディスプレイを自分の前まで持っていき、マウスを弄りだした。表示させたのカイザーによるサンクトゥムタワー占拠の直前に行われた連邦生徒会でのやり取りの記録だ。

 

 箱舟を確保したカイザーが動き出した、アオイが主体となってリンの不信任決議案が可決された、虚妄のサンクトゥムが出現した。あまりにもタイミングが良すぎる。単なる偶然が重なった結果だと片付けてしまって良いものだろうか?

 

「これもまた連邦生徒会長の計算のうち……? リンが自分の必要性を説くために自作自演……さすがにこれはないでしょう」

 

 リンは語った。今の連邦生徒会長はキヴォトスの「敵」になった、と。しかもどうやら現時点ではリンの支持者であるアユムやモモカにも打ち明けていない様子。もしこれが事実だとしたらリンの行動も納得できる点が多々ある。

 

 ヴァルキューレまで動員して連邦生徒会長の行方を負うのはキヴォトスの危機に関わるため。SRTを解体したのは連邦生徒会長の武器を奪うため。いつまでも新たな連邦生徒会長を選出しないのは空席を餌に待ち構えている、辺りか。

 

 連邦生徒会内でリンへの不満が溜まっていたのは事実だが、それにしては政権転覆が順調に行き過ぎた、とも考えられる。まるで何者かによってお膳立てされたかのように……。

 

「「敵」とやらがすでに連邦生徒会の中にも……? 考えすぎかもしれませんが、用心に越したことはありませんか」

 

 もう一つの計画を進めるピースは揃いつつある。

 賽は投げられた。進み始めたからには前進あるのみ。

 カヤは自分の机の上に置かれた3枚のカードを眺めながらコーヒーを啜った。




今回から投稿時間ちょっと変えてみました。しばらくこの時間で投稿してみます。

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