Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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クロコ、自転車でライディングデュエルする

 ◆三人称視点◆

 

 基本的にシャーレ当番の生徒は日帰りである。

 

 各自治区とシャーレのあるD.U.区は歩いて移動できる距離ではないため、当番の生徒はシャーレの業務開始時間に間に合うように朝早くに出発する。事故を起こさないよう公共交通手段が推奨されているが、時には違う手段も認められる。

 

 ところで、精霊化したゼアル先生は《未来皇ホープ・ゼアル》のカードと共にある。所持者はもう一人のシロコ、以降は便宜上クロコと呼ぶことにする、のため、必然的に彼女はゼアル先生とともに毎日アビドスから通勤している。

 

 そんな彼女は最初の数日こそ大人しく電車に乗ってシャーレまで通っていたが、次第に電車の中で落ち着かなくなった。いっそアヤネの雨雲号に乗ってしまおうかとも頭によぎったが、D.U.区の街中でとあるものを目にして決意した。

 

「ん、ライディングで通勤する」

 

 思い至ったが吉日。クロコはライディング用の自転車とスーツ等一式を購入する。ちなみにお金は彼女たちのいたキヴォトスのもの。ゼアル先生の大人のカードを使えば現金いらず。クロコはバイトして返すと言うがゼアル先生は固辞した。

 

 キヴォトスの道路交通事情だが、一般道の制限速度は地区により異なるものの、市街地はだいたい時速60km、ハイウェイでも時速120kmに制限されている。これは自動車の性能と運転手の力量を踏まえて連邦生徒会が決定した。

 

 なお、アビドスは延々と砂漠が広がる中を他の自治区に繋がる幹線道路が貫くため、速度を出そうと思えばいくらでも加速できる。しかしそんな地平線の彼方まで伸びる一直線の道路でも制限速度は守らなくてはならない。自転車も車両扱いなため法律は守る必要がある。

 

「でも例外は存在する。今日はそれでシャーレに行く」

"シロコ、くれぐれも安全運転でね"

 

 日の出近くに目を覚ましたクロコは身支度を整え、ライディングスーツ、ヘルメット、グローブ、靴を身にまとい、荷物を背負い、ロードバイクにまたがった。目指すはシャーレ。いつものように出発したクロコは朝の涼しい風を浴びながら市街地を抜けてハイウェイに入る。

 

 そして、一気に加速した。

 

 60、80、100、スピードメーターに表示される数値が上がっていく。少ないながらも先行する自動車を追い抜く。左右の形式、対向車が凄まじい速度で後ろへと流れていく。風と空気抵抗が全身を打ち付けるが、クロコの加速は止まらない。

 

「はーい、そこのロードバイク乗りのねーちゃん。スピード超過だからすぐ速度を落として路肩に止まってー」

 

 そんな無法者なクロコを取り締まるためにヴァルキューレの生徒が白バイに乗って現れる。アビドスのような衰退の一途をたどる地区とを結ぶハイウェイでのお勤めお疲れ様、とクロコは心の中で労うが、それはそれでこれはこれ。

 

 クロコはヴァルキューレの生徒の指示を聞かず、むしろ少し加速した。ヴァルキューレの生徒はこれ以上は実力行使に出ると脅してくるが、クロコは一向に聞かないどころか、彼女たちへと視線を投げかける。

 

「ねえ」

「ん?」

「デュエルしようよ」

「うっわ。めんどくさ」

 

 クロコはハンドルに取り付けたD・パッドを展開。するとハイウェイに設けられた照明近くのスピーカーから警告が鳴り響いた。ぎょっとするヴァルキューレの生徒は慌てて自分たちもデュエルディスクを起動させる。

 

『デュエルが開始されます。デュエルが開始されます。レーンセレクション、使用可能な最適レーンをサーチ。デュエルレーン、ミレニアムに申請。AUTHORIZATION』

 

 ハイウェイの追い越し車線と走行車線の間に仕切りが設けられていく。ミレニアムがキヴォトス全土に設置したライディングデュエル専用レーン設備が稼働。クロコの前にはどこまでも続く直線道路だけとなった。

 

「自転車でライディングデュエルー? へええ、すっごいことやるね……」

 

 と正直な感想を漏らすヴァルキューレの生徒だったが、クロコからしたらいかにオートパイロットモードであってもDホイールを両手離しで運転する方が度胸があるように思う。ドーナッツをむしゃむしゃ食べながらなのでなおさらだ。

 

「あの速度標識を先に超えた方が先攻。それじゃあライディングデュエル……」

「おおっと。えっと……マニュアルによれば……砂狼シロコが相手だったらこれを発動する、と」

 

 更にペダルに力を込めようとした直前、ヴァルキューレの生徒はデュエルが始まっていないにもかかわらずフィールド魔法を発動した。それはクロコのD・パッドのモニターにも表示される。

 

「《スピード・ワールド2》、セットオン~」

「スピード・ワールド……!?」

 

 《スピード・ワールド》についてはクロコも知っている。ライディングデュエルにおける特殊ルールで互いのプレイヤーが発動するフィールド魔法だ。魔法カードの発動に制約がかかる代わりに「Sp(スピードスペル)」魔法カードが使えるようになるのが最大の特徴だ。

 

 しかしキヴォトスにおけるライディングデュエルでは《スピード・ワールド》が使われることはあまり無い。何故なら魔法カードを多用するデッキが被害を受けるから。それはRUMを多用するクロコのデッキも例外ではない。

 

 リオは《スピード・ワールド》を適用してこそ真のライディングデュエルだと提唱して専用カードもリリースしたが、そんな事情もあってルールの強要はしなかった。例外はヴァルキューレで、公安の権力によって相手にスピード・ワールドを強要出来るよう連邦生徒会がミレニアムに注文をつけた形だ。

 

「ささ。そっちもスピード・ワールドをセットしてね」

「《スピード・ワールド2》、セットオン」

 

 ここで「Sp」不要な《スピード・ワールド-ネオ》を張ることも出来たが、クロコはあえて相手の土俵に上ることにした。そしてデッキを素早く組み替えてライディングデュエル専用構築にする。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!」」

 

 ここにヴァルキューレ生徒対クロコのライディングデュエルが始まった。

 全てはクロコの思惑通りに。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「ん、私は《希望皇ホープ》でオーバーレイネットワークを再構築する」

「うそ、RUM抜きでランクアップ……!?」

「宇宙の秩序乱されしとき、混沌を照らす一筋の希望が降臨する。シャイニング・エクシーズチェンジ。見参、SNo.39。《希望皇ホープONE》」

 

 クロコの召喚した希望皇ホープが進化し、光の戦士となって現れる。ランクアップは一部の生徒のみがRUMを発動させて可能な境地、との常識にとらわれたヴァルキューレの生徒を混乱させる現象だった。

 

「《ゴヨウ・エンペラー》の効果を発動しちゃうか。《ゴヨウ・チェイサー》をリリースして、相手が特殊召喚したモンスターのコントロールを得るよ」

「チェーンして速攻魔法を発動する」

「速攻魔法……? いやぁ、残念だね。スピード・ワールドに支配されたこのデュエルで魔法カードを発動したら、2,000のバーンダメージさ」

「ん、それはどうかな?」

 

 クロコはキヴォトスでも一度はデュエルで言ってみたいセリフで常に上位に君臨するセリフを相手に投げつけた。これほどにないぐらいのクロコのドヤ顔にデュエルを見守るゼアル先生もご満悦だ。

 

「《Sp-RUM-クイック・カオス》を発動する。スピードカウンターが2つ以上ある時、「CNo.」以外の「No.」モンスターエクシーズを「CNo.」にランクアップさせる」

「す、「Sp」の「RUM」ぅ!?」

 

 リオはスピードスペルをリリースするにあたり、一部の既存の魔法カードもSp扱いでリリースしている。《Sp-死者蘇生》《Sp-サイクロン》《Sp-成金ゴブリン》あたりがその一部だ。

 

 そんな環境への適用のため、Z-ONEはRUMを多用する"先生"やサオリ用に「Sp-RUM」カードを開発した。それをクロコも受け取り、ライディングデュエルの際に自分のデッキに組み込めるよう準備していた。実戦で使うのは今回が初めてなため、クロコはわくわくする。

 

「私は《希望皇ホープONE》でオーバーレイネットワークを再構築。カオス・エクシーズチェンジ。現れて、CNo.39。混沌の力まといて勝利を目指す。進化した勇姿が今ここに現れる」

 

 希望皇ホープONEがニュートラル体となり、漆黒に染まる。手、足、頭の順に生えていき、最後に羽が生えた。形のナンバーズが光り輝き、最後にカオスオーバーレイユニットがホープの周りを舞ってからセットされた。

 

「《希望皇ホープレイV》」

 

 連邦生徒会長や"先生"が好んで使う希望皇ホープはキヴォトスでも人気の高いカードで、ヴァルキューレ生もランクアップ体についても情報は持っていたが、これほどまでに異彩を放つ禍々しい戦士と相対するとは思ってもいなかった。

 

 リリースエスケープされたことで《ゴヨウ・キング》の効果は不発。更にこれまでの攻防で伏せカードも失っており、頼れるのは《ゴヨウ・キング》の攻撃力のみだった。

 

(いやいや、まだ慌てる時間じゃない。こっちのモンスターは相手のモンスターエクシーズの攻撃力を上回っているじゃん。このターンさえしのげばドローカードに全てを託せる……)

「ううん、このターンで終わり」

 

 しかし、わずかな希望をクロコは容赦なく否定した。

 

「《ホープレイV》の効果を発動。カオスオーバーレイユニットを1つ取り除き、《ゴヨウ・キング》を破壊して、その攻撃力分のダメージを与える」

「げげっ!?」

「ホープ剣・Vブレードシュート!」

「うわああっ!?」

 

 《ホープレイV》は二振りの剣を合体させて双剣を作り出す。そしてそれを回転させてから《ゴヨウ・キング》向けて投擲した。胴体を両断された《ゴヨウ・キング》は破壊で爆発し、ヴァルキューレの生徒を激しく揺らした。

 

「バトル。《ホープレイV》でダイレクトアタック。ホープ剣・Vの字斬り!」

「うわあぁぁっ! やっぱ交通局の助っ人になんか来なきゃ良かったぁ~!」

 

 《ホープレイV》が翼を翻して突撃。その双剣でヴァルキューレの生徒を引き裂く。ヴァルキューレの生徒は悲鳴を上げてクラッシュ。時速300kmを超すスピードが出ていた白バイから放り出され、ハイウェイのアスファルトを転がる。

 

 ヴァルキューレの生徒、この日だけたまたま交通局の手伝いに来ていた生活安全局のフブキは、手にしていたドーナッツと紙コップに入ったコーヒーをアスファルトに散らばらせる。ゼアル先生は心配そうに後ろを振り向くが、フブキは寝転がりながらドーナッツをはたいて口に運んでいた。

 

「ん、やっぱりホープは使ってて楽しい。脳筋効果だから気持ちよく相手を倒せる」

"もしかしてシロコが【青眼】使ってたのってそれが理由?"

「力こそパワーだから」

 

 ライディングデュエルを終えたクロコの目の前にはD.U.の市街地区が広がっていた。これ以上ライディングデュエルをしていたらシャーレを通り抜けてしまう。

 

 クロコは速度を落とし、インターチェンジを降りて一般道を走る。もちろん安全第一でだ。

 

 それにしても、とゼアル先生は考える。クロコに返り討ちにされたヴァルキューレの生徒は職務に忠実だった。しかしいかんせん【ゴヨウ】デッキでは力不足なのは明らか。このままでは騒動の鎮圧もままならず、交通整理だけやってろと各所から言われかねない。

 

 Z-ONEが新テーマを開発しているらしいが、どうなるかはゼアル先生も楽しみだった。




◇シロコ*テラー(情報が更新されました)
使用デッキは彼女とゼアル先生のデッキと合体させた【アストラル+オノマトペ】
エクストラデッキは「ホープ」と「エーテリック」モンスターエクシーズが占める
デッキマスターはゼアル先生こと《FNo.0未来皇ホープ・ゼアル》

◇合歓垣フブキ
彼女個人が使用するデッキは【ヤミー】
職務上は【ゴヨウ】を使うものの、デュエルはAIに任せて自分はサボる。
早くドーナッツテーマが誕生しないかなー、と思っていたりする。

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