次の日、夜が明ける前に私は朝食分の食料と水を口にし、家を出ました。
「飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」
そしてリアルソリッドビジョンで召喚した《スターダスト・ドラゴン》に乗って空高く舞い上がります。リアルソリッドビジョンは私の世界にはない技術ですが、便利なものです。流用するにしても軍事転用されない対策は必須でしょうがね。
太陽が昇って町の全容が見えてきました。どうやら一方の軍が占領するこの町にもう一方の軍が攻め込んでいるようです。速度が出せる幹線道路は当然ながら部隊が展開していてとてもDホイールを走らせられませんね。
戦闘は既に市街地戦に移行しているのか、町の至る所でアリウスの戦闘員が動いているようです。これではDホイールごと町から脱出するのは容易ではありません。地上を偵察するミカの情報と照らし合わせて入念に計画するしかないでしょう。
町から離れた位置に攻め手側と思われし作戦陣営がありますね。あちら側には出ないようにしなくては。首脳陣はさすがに仮設テントから出てきませんか。姿を見せたからと言って何もしませんが。
私は装備魔法《ミスト・ボディ》を発動して姿を消しつつ降下。着陸して人影がないことを確認したうえで解除します。《スターダスト・ドラゴン》はこの時点で帰還してもらいました。そして見つからないように慎重に道を進み、元の家に戻ります。
「ただいま帰りました。ミ……羽の生えた少女はどうしましたか?」
「夜明けと同時に出て行った。……お前もいなかったから、てっきり逃げたのかとも思った」
「Dホイールを置きっぱなしで行くわけがないでしょう。ご安心を」
部屋の中にいたのは三人の子供だけ。既にミカの姿も見られなかったので、昨晩会話した通り偵察に出たのでしょう。
子ども達は朝食の真っ最中。一人が私が伝えた以上の分量を食べようとしてもう一人に注意されていました。
私に回答した子は三人のリーダー格なようで、幼いながらも自分がしっかりせねばとの意志を感じます。強い眼差しが何としてでも生き延びてやると私に伝えてくるようでした。
「お前は……どうして私達に施しをした?」
「別に貴女達を憐れんだわけではありません。分け与えても充分に帰還出来る算段があったから譲っただけです」
「そんなの……一時しのぎなだけだ」
そうですね。否定はしません。
継続的に支給するならまだしも私達は明日には元の時代に帰りますから。
「一週間後には野垂れ死んでるかもしれない」
「しかしその一週間後には終戦を迎えているかもしれない。生存率が上がるなら施しを受けていいではありませんか」
「甘い。希望的観測だ。お前は地獄のような経験をしてないからそんなことが言えるんだ。戦争は……虚しいだけだ」
「ご心配なく。こう見えて私は戦争経験者なもので。貴女以上にその凄惨さ、そして助け合いの重要性を思い知っていますよ」
私の回答が意外だったのか、リーダー格の子は驚いた様子でした。
「……どんな戦争だったんだ?」
「機械軍団による終末戦争に。私は科学者として人々を助けて回りました」
「結果は……いや、お前は生還してここにいるんだから、聞くまでもないか」
「あいにく戦争が終わって平和になったわけではありません。双方痛み分けに終わった、とだけ言っておきましょう」
外からは銃声や爆音が聞こえてきます。どうやら市街地戦が再開されたようです。怯える一人をもう一人が抱きしめ、リーダー格の子は私と会話する間も注意深く音の様子を探っているようでした。
「明後日脱出するって言ってたけど、私達……いや、この二人だけでも連れて行ってもらえないか?」
「「……!?」」
意を決したリーダー格の子は私に他の2人を助けてほしいと願ってきました。他の2人は驚いた後に抗議の声を上げようとしましたが、リーダー格の子が睨んで黙らせます。
「無理です。我々は本来ここにいるべきではない存在です。ここで貴女達だけに救いの手を差し伸べれば、きりがなくなってしまう。それこそ戦いを終わらせるまで止まれなくなってしまう」
「……大人は勝手なことばかり言う」
「そうですね。今後貴女達は今以上に理不尽に直面していくでしょう。しかしそれは誰だって同じです。程度の差はあれど、ね」
何故とんぼ返りしかしないつもりの私達がこの時代、この場所にやってきたか。その答えは私には見えません。しかし全く意味がなかったとはとても思えない。ましてや今回の時間跳躍が神がもたらしたものだとしたら、なおさら。
私は自分のデッキからミカに貸してる《時械神ミチオン》と《究極時械神》以外の9枚を抜いてシャッフル。ランダムで1枚ドローしたのは……《時械神ガブリオン》ですか。このカードと時間跳躍にどんな関係あるかは自ずと分かるでしょう。
「貴女にはこのカードを貸します。次に会った時にでも返してください」
「これは……?」
「お守りのようなものです。もし貴女には扱えなかったとしてもこの譲渡には意味があります。決してなくさないように」
「……分かった。預かっておく」
リーダー格の子は疑いながらも《時械神ガブリオン》を自分のポケットの中に入れました。
神よ、どうかこの子らを導きたまえ。
◇◇◇
ミカが帰ってきたのは夕方近く。私も午後にもう一度空に飛んで戦局を確認したので、持ち帰った情報を照らし合わせました。そして脱出ルートを選定し、明日に備えて寝ることにします。
どうやら攻め手が優勢に進めているらしく、おそらく2日後にはこの町の占拠が完了するとのことです。更に攻め手は部隊を分けて次の攻略戦のために先の町へと向かっているらしく、この調子なら内戦も近い将来に終わりそうですね。
そして次の日の夜明け前。起床したらミカをゆすり起こします。硬い床の上に寝転んだせいであまり熟睡出来てないようで、起きても疲れが見て取れました。救急バックやその中身は子ども達に残しておくとして、早速出発しますか。
「行くのか?」
しかし部屋を出ようとした矢先、リーダー格の子が私達に声をかけてきました。どうやら気配を感じ取って目が覚めたようです。
「ええ。帰ります」
「その……ありがとう。知らない私達のことを考えてくれて」
「どういたしまして。また会いましょう」
「……借りは返す。絶対に会いに行く」
私は子ども達の頭を撫でてから部屋を出て、シートを被せていたDホイールのエンジンをかけます。そして家から出ようとしたのですが、ミカに止められました。理由は私にもすぐに分かりました。
囲まれていますね。アリウスの生徒達に。それも小隊規模ではなく結構な数に。
強行突破するのはさほど難しくなさそうですが、もし家にいる子ども達が見つかればどうなるか分かったものではありません。派手に動いて注目を集めるべきでしょうけど、Dホイールに穴が空いたら元も子もありません。アリウスの生徒達を手にかけるわけにもいきませんし……。
「先生。私にいい考えがあるから任せてもらえない?」
「分かりました。頼みます」
《スターダスト・チャージ・ウォリアー》で同時攻撃を仕掛けるか、と考えていたら、ミカが自信満々に前へと歩み出ました。彼女は愛銃を背負ったまま、代わりにデュエルディスクを付けた状態で外へと出たのです。
あまりに大胆な行動にミカは全く狙撃されませんでした。しかし足音が外から聞こえてくることから侵入者たる我々を包囲するために部隊が派遣されたのは間違いありませんね。
そんな中、ミカは1枚のカードを通常召喚します。
「《時械神ミチオン》、降・臨☆」
現れたのは巨大な無機質の鎧。
しかし中央の鏡面に顔が映り込んだ途端に場の空気は一変しました。
その存在感、威圧感、どれもが桁違い。正真正銘の神の降臨に誰もが息を呑むのが分かります。譲った私や召喚したミカを含めて。
「わーお。これが神様なんだね」
感動したようにミカが呟きましたが、私が召喚してもここまで圧倒されることはなかったでしょう。ミカと《ミチオン》の相性がそれほど良いのか、互いの神秘が引き寄せ合うのか……。
しかしアリウス側も大したもので、隊長格が号令をかけると突如召喚された未知の大型モンスターに向けて集中砲火を浴びせます。さすがに現代兵器の殺傷力であれば通常のモンスター程度なら撃破出来たでしょうが……。
「あははっ☆ 《時械神ミチオン》は戦闘では破壊されないよ」
デュエル以外で召喚すれば神は遺憾なくその効果を発動できます。戦闘破壊無効化を貫通する神秘を持つ者、またはモンスターを召喚出来る生徒はさすがにいないようです。
アリウスの生徒達は無駄だと分かっていても攻撃の手を緩めませんでした。《ミチオン》の存在に飲まれて正常な判断力を失っていたのかもしれません。中には球切れになってもなお引き金を引く生徒もいたようでした。
びくともしない《ミチオン》を前にさすがに弾丸が飛ばなくなりました。
「攻撃終わった? じゃあ《時械神ミチオン》の効果発動☆ 相手のライフポイントを半分にするよ」
ミカの宣言と同時に《時械神ミチオン》が四枚の翼を羽ばたかせます。そして四方八方に羽を飛ばしました。光の弾丸と化した羽は次々とアリウスの生徒達に命中、その身を炎上させていきます。
デュエルにおいてはライフポイントを半分にしたところでそれは数値上の処理に過ぎませんが、このようにデュエル外でのライフポイントは文字通り生命力そのもの。命の半分を削られればどうなるかは火を見るより明らかです。
玄関から窺うとアリウス生徒は膝を付いたり息切れして胸を掴んでいたりと軒並み戦闘不能な状態。ミカからのハンドサインを受けてDホイールを引っ張って外に出ても特に銃弾は飛んできませんでした。
「あははっ! さすが神様☆」
「その強大な力を現世で維持できるのは1ターンのみですけれどね」
「自分のスタンバイフェイズにデッキに戻る、だよね」
役目を終えた《時械神ミチオン》は光の粒子と化してミカのデッキに戻っていきました。私のデッキにある《時械巫女》のようなサーチカードは無いでしょうし、ミカが再び《ミチオン》を召喚するのは当面無理でしょう。
ふと家の中に視線を向けたら、奥で子ども達がこちらを見つめていました。どうやら三人ともミカが召喚した《時械神》に目が釘付けになっていたようです。私が手を振ってようやく気づいたようで、頭を下げたり手を振ってくれました。
ミカと二人乗りしたDホイールを走らせて町の中を疾走します。途中で遭遇したアリウスの生徒達はミカの狙撃や遊星号の武装で排除しますが、走行速度の関係で撃ち漏らした相手は《ジャンク・ウォリアー》で退けます。
そして道路を縫うように走って町を抜けると開けた平野になりました。周りをぐるりと見渡して障害がないことを確認。一気に加速します。時間跳躍装置を作動、時速130, 135, 140, 141。モーメントフル稼働。
そうして私達はこの時代を後にしました。
そして直後には二日前に私達が消えた場所、ハイウェイに戻ってきたのです。
Dホイールのディスプレイで時刻と日付を確認……問題ありませんね。
「トリニティまで送りましょう。こちらは夕刻ですが夜眠れそうですか?」
「んー。むしろベッドに入ったらすぐ夢の世界に旅立っちゃいそう」
「では今日は早めに床につくのがいいでしょう。気が張って自分が思っている以上に疲れが取れていませんから」
「そうする……」
その後は何事もなくトリニティまで到着。駐車場にDホイールを停めてミカを正門まで送り届けます。
その間私とミカとの間であまり会話はありませんでした。ミカは今回のタイムトラベルに思うところがあったようで何か考え込んでいるようです。
アリウスでの内戦。私達が残した爪痕は些細なものでしたが、それが現代にどれほどの変化をもたらしているのかは分かりません。くしゃみをしたかしなかったか程度なのか、人の生死に結びついているのか。変化を観測出来るのか。
「シャーレでの当番お疲れ様でした、ミカ様」
「……え?」
その答えはすぐ後、トリニティの正門で待っていました。
迎えに来た錠前サオリというトリニティの生徒が世界が変わった証だったのです。
本作品では某掲示板の別概念もちょくちょく入れています。サオリがトリニティ生になっているのもそんな別概念を自分なりに表現したものになります。
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