Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

131 / 195
Z-ONE、新テーマを完成させる

「おはよう、先生! 今日もいい天気だね~」

 

 シャーレの始業時間前、本日当番のミカがシャーレの執務室にやってきました。

 とはいえ彼女がシャーレに来たのはもっと前の時間でして、Dホイールを飛ばしてきたために更衣室でシャワーを軽く浴びて化粧直しをしていたそうです。

 

 なお、中にはデュエルモンスターズのモンスターを召喚して飛んでくる生徒もいます。トリニティのサオリやアズサ、ミレニアムのネルが代表例でしょう。ミカもそのパターンの割合が多めでしたが、今日はDホイールの気分だったとか。

 

「ん、おはよう」

 

 もう一人のシロコはほぼ毎日ロードバイクで通勤してきています。ゼアル先生のカードを所持する彼女が実質的にゼアル先生の専属秘書になっているのは否めませんが、テフヌトが来る場合もあります。

 

 そんな彼女、今日はハイウェイをDホイール並の速度を出して爆走してきたのだとか。キヴォトスの人の身体能力なら人力でそれほどのスピードが出せても不思議ではないのですが、理性が追いつかな……いえ、そう言えばホセがいましたか。

 

「おはようございます、先生。ヴァルキューレ警察学校、尾刃カンナ、ただいま出勤いたしました」

 

 カンナはD.U.区のヴァルキューレ生なのもあってシャーレに来やすいです。カヤの命令もあってここ最近は毎日仕事を手伝ってもらっています。とは言え試作段階のカードのテストプレイを主に取り組んでいますが。

 

 シャーレ担当生徒が3名。これすなわち、現在シャーレには私、"先生"、そしてゼアル先生の3名が執務に励んでいることになります。誰も出張していないなんてとても珍しいのですが、それには理由があります。

 

「なんか最近のD.U.区、物々しいね」

 

 ミカの正直な感想のとおり、連邦生徒会長代行がカヤに変わったことを受けて治安維持への取り組み方が様変わりしまして、交通違反等の取り締まりがかなり厳しくなったのです。

 

 今までが緩かった、との意見は否定出来ませんが、人とは楽な方に慣れてしまったらキツい方への順応が難しくなるもの。制度移行期間を設けずに代行交代と同時に施行されたものですから、D.U.区の市民は混乱しているようです。

 

「カヤもだいぶ理想と現実のギャップに苦しんでいるようです」

 

 当のカヤ本人は我の強い連邦生徒会役員との物事の調整、悪しき慣習での蹴躓き、更にはリン失脚に一役買ったレッドウィンター工務部が糾弾の矛先をカヤに向けたりと、ストレスを溜めているのだとか。

 

 しかし連邦生徒会役員が「リンはやってた」と言うものですからカヤも猛抗議出来ず、渋々ながら右往左往しながらも執務に従事しているようです。席を譲ったリンがカヤを補佐しているのも大きいでしょう。

 

「だからって地下鉄乗るだけで色々と書類見せないといけないのはやりすぎじゃないかな?」

 

 ミカが呆れたのは、「D.U.の公共交通安全のための新規行政命令」のもとづいて駅の出入口で「往復乗車券」、「通行許可証」などを提示しなければいけなくなったことを言っています。

 

 先日"先生"がカンナとともにD.U.の街中で困った一般市民を助けたことで、市民の間に新体制への不満が溜まっているのを肌で感じてきたのです。犯罪予防、という大義名分はあれど、このままでよいのか、とカンナは疑問に思いました。

 

「ある者は言いました。どうやったってこの環境から逃れることは出来ない。だったらここで満足するしかない、と」

"ユウセイは我慢するしかないって思ってるの?"

「いえ。制限の中で工夫を凝らせばいいのです。例えば公共交通機関に乗るために提出する書類を一括管理するアプリがあれば、タッチ一つで提示出来るようになります。市民カードと紐づければ面倒な初期設定や手続きも必要ありません」

 

 現にそこまで難しいプログラムでもなかったので、少し睡眠時間を削って自作したものをタブレットに表示させて皆に見せます。"先生"を初めとして「へえ」と感心した声をあげました。

 

 面倒だったのが銀行での預け入れや引き出しに必要となった膨大な量の書類ですか。これもアプリで一括管理出来ればと思ったのですが、紙で準備するようカヤは限定したそうです。おかげでコンビニのコピー機と連動するプログラムを組む破目になりました。

 

「連邦生徒会の許可が下りればシャーレ公式アプリとして一般市民に届けられるのですが……連邦生徒会からの返事は「検討します」で止まっています」

「連邦生徒会の常套句ですね。検討しないまま先送りし、相手が忘れてくれれば良し。フォローされたら「検討した結果不採用になりました」とでも言ってくるでしょう」

 

 カヤはどうも制度を複雑化しすぎるきらいがあるようです。大人しく従えば治安は回復するのは間違いありませんが、市民の反発はカヤの予想以上のようです。確かに犯罪率の減少には効果が出ていますが、代わりに重犯罪が増加しているとか。

 

「そもそもカイザーとの癒着の問題でヴァルキューレの公安室は私を初めとして軒並み謹慎処分を受けています。市民の暴発を鎮圧する人手が不足しています」

「カヤ新代行が業務を委託してるカイザーは支払った金額しか仕事をしない。理想に現実が追いついてない」

「んー。大丈夫? あの財務室長だよ? そのうち癇癪起こして爆発しかねないんじゃない?」

 

 カンナももう一人のシロコもミカも言いたい放題ですが、カヤがそんな懸念を払拭するほどの仕事ぶりを見せるのか、それともミカの言う通り暴君に成り果てるのか。カヤの手腕が試されています。

 

 リンがそばにいるとは言え、カヤが暴走しないことを心配してしまいます。信用するべきなのでしょうが、やはり明日にでも彼女の様子を見に行った方がよさそうですね。

 

「ところでカンナ」

「何でしょうか、ユウセイ先生」

「今日はこのカードの束を使ってデッキを組み、テストプレイしてください」

 

 私はポケットの中に入れていたカードの束をカンナに渡しました。それを一枚一枚めくりながら入念に確認するカンナは、その顔は困惑、そして次第に深刻な顔つきへと変化していきます。

 

「正直なところ、私はあまりデュエリストとしての腕は高くありません。それでも分かります。このデッキはパワーが高すぎます。キヴォトスの在学生の大半が蹂躙されてしまいます」

「元々【ゴヨウ】も治安維持目的であえて既存のカードより強くして標準採用されていました。その目的を達成するならやり過ぎた方がいいのです」

「環境のインフレを促進しかねない気もしますが……その辺りは連邦生徒会が調整するのでしょうね。分かりました、では早速テストプレイしましょう。それで、このカード群のテーマ名は?」

 

 【ゴヨウ】は昔の召し捕り役人をコンセプトとして設計されました。このカードは現在の警察をコンセプトとして設計しています。なのでポリスとかセキュリティとかで命名した方が分かりやすいのですが、カンナと共に開発したのもあって一つこれだという名前が思い浮んでいます。

 

「【K9】です」

 

 警察犬、軍用犬やそれらの訓練された犬を扱う部隊を指す単語にしました。

 カンナのように職務に忠実であれ、との思いで名付けました。

 

 

 ◆三人称視点◆

 

 

 カヤは自分の思ったとおりにならないことに苛立ちを隠せなかったが、しかし連邦生徒会、ひいてはキヴォトスがそれほど面倒くさい環境だと理解はしており、リンのフォローもあって感情を爆発させてはいなかった。

 

「あちらを立たせればこちらが立たず。問題だらけですね……」

「それはそうと、代金の振り込みが遅れているようだが。治安管理に必要な人手と装備を考慮すると、既に支払われている金額ではこれ以上の運営は困難と言わざるを得ない」

 

 目元を手で揉むカヤに現実を突き付けたのはカヤが提携先に選んだカイザーPMCのジェネラル。無論、カヤと雑談をしに来たわけではなく、カヤに金の催促をしに足を向けたのだ。

 

「財務室の頭が固くて中々カビの生えたしきたりを変えないのですよ。予算増額の申請は必ず通しますので、少し待っていなさい」

「その点は心配していない。……しかし、プレジデントの期限だって、いつまでも持つわけではない」

「……子ウサギ駅の地下に建設したサイロを黙認したでしょう」

「それは別の話だ。前回リベートが暴露されたせいで、むしろ赤字になったからな」

 

 カヤは色々と漏れてきそうなほど深い溜め息を漏らす。ヴァルキューレに充分な予算が行っていれば、SRTが解散していなければ。そんな考えが何度も頭の中を巡るが、無い物を頼ったところで事態が打開できるわけではない。

 

 連邦生徒会代行となった1つ目の目的、すなわちキヴォトスの治安回復が達成できていないため、2つ目の目的には手が出せていない。いっそ2つ目の目的から先に着手すべきか、とも考え始める。

 

「ところで、そのサイロでは一体何をやっているのですか?」

「それを報告する義務は無い。賃貸契約をしているわけではないのでね」

「まさかと思いますが、危ないことはしてないでしょうね? 金儲けしようがシェアを広げようが自滅しようが構いませんが、キヴォトスを危機に関わることでしたら容赦はしませんよ」

「キヴォトスの安寧こそその座を求めた理由、だったか。耳にタコが出来るぐらい聞いている」

 

 カヤとジェネラルが会話している最中もリンは黙々と自分の業務に励む。カヤが苦手とする関連部署や各学園への根回しを主に担い、少しでもカヤの気苦労を緩和するために汗水を垂らす毎日をここ最近は送っている。

 

 そんなリンだったが、カヤとジェネラルの会話を聞き耳立てている。彼女がカヤに席を譲ったのもカヤの能力なら自分とは別のやり方でキヴォトスを運営出来るとの信頼があったからだ。危うい点は自分が補佐すればいい、との補足付きだが。

 

「心配することはない。ちょっとした研究に使っているだけだ。何なら時間が開いた時にでも視察に来るといい」

「そう遠くないうちにそうします」

 

 ジェネラルは踵を返して退室していった。

 その背中を冷淡な眼差しで見送ったカヤは、冷めてぬるくなったコーヒーを優雅に飲んだ後、部屋備え付けのコーヒーメーカーに向かう。

 

「まあ、あなた達との契約はヴァルキューレの補強が済めば用済みなのですがね。今のうちに甘い蜜を吸えるだけ吸っておきなさい」

 

 そんなカヤの独り言は、リンには自分にも聞かせるためあえて少し大きい声で発したような気がした。




◇聖園ミカ(※情報が更新されました)
切り札はアクセルシクロモンスターの《真閃珖竜スターダスト・クロニクル》
そしてマッチキルモンスターの《スターダスト・ディヴィニティ》
リオに先んじてキヴォトスの中で真っ先にクリアマインドに目覚めている。もはや天性の才能。
しかしトップクリアマインドには達していない。
ただしシンクロには先がある、との手応えはある。

ご意見、ご感想お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。