◆三人称視点◆
次の日、SRTとヴァルキューレとの合同作戦が開始された。治安維持を務める両校とカイザーセキュリティとの激突は一般市民を困惑させたが、カヤの圧政でうっ憤の溜まっていた一般市民はこぞってSRTとヴァルキューレを応援した。
カイザーPMCが【マシンナーズ】、【サイバー流】、【アンティークギア】を標準採用しているのは変わりないが、これは一般兵でもそれなりの実力を発揮できる分かりやすく火力のあるデッキだからである。
そのため、カヤの権限で謹慎が解けたヴァルキューレ公安局が相手であっても子供が大人に敵うものか、と侮るカイザーセキュリティガードだったか、いざ戦闘が開始されるとその常識はいともたやすく覆されることになる。
「な、なんだそのデッキはああっ!?」
ヴァルキューレが新規に標準採用した【K9】デッキの前にカイザーは成すすべなくやられていく。突貫作業でカードを量産したのでまだ局員全員に行き渡っていないが、ひとたび優勢になってしてしまえば、あとは【ゴヨウ】デッキでも充分に相手を制圧出来た。
あまりに一方的なためキリノは目が点になり、フブキは開いた口がふさがらなかった。こんな簡単に勝ててしまっていいのか、との戸惑いすら生まれてしまうほどあっけない勝利だったから。
「昔の先輩が【ゴヨウ】デッキを始めて配布された時ってこんな感じだったのかなぁ?」
「この成功を見て、装備品を新調しなくても強いデッキさえ渡しておけばいい、などと連邦生徒会が考えなければいいのだがな」
「これで後はこの【K9】デッキをぶん回せるAIさえ構築されたら普段の業務がうんと楽になるね~」
こうしてヴァルキューレが地上でカイザーセキュリティ相手に取り締まりをしている間、防御線を突破したSRTの各小隊は地下サイロへと突入していく。その中にはFOX小隊はもちろん、RABBIT小隊の姿もあった。
しかし、地上と異なり地下にカイザーの兵士とはそれほど遭遇せず、SRTの生徒は迅速に各エリアを制圧していった。戦闘らしい戦闘も無人ドローンやロボット兵器などを相手するばかり。
「実験が失敗したら地下サイロごと周辺地域数キロメートルが吹っ飛ぶ結果に終わるかもしれない、との防衛室長の話は本当かもしれないな……」
と、ユキノは誰にも聞こえない程度小さく呟いた。
地下サイロ中心部の巨大機器がある区画の手前までやって来たSRTの各部隊。突入前にドローンを飛ばして中の様子を確認するも、ドローンは撃墜されないまま内部を丸裸にしていく。
機器の前には数名の研究員と数名のカイザーPMC兵士、そしてソリッドビジョンで投影されるジェネラルの姿があるのみだった。この程度であれば煙幕や閃光弾を投擲しなくても突入するだけで問題ない、と判断。ユキノはハンドサインを送る。
「ホールドアップ! SRT特殊学園だ!」
扉を蹴破って中へと各小隊がなだれ込んだ。そして各々の銃器を構えてカイザーの者たちに照準を定める。誰もが相手が何か不審な動きを見せるようなら即座に撃てるよう引き金にかける指に力を込めつつ。
攻め込まれたカイザーの研究員は悲鳴を上げて慌てふためき、逃げられないと悟るとカイザーPMC兵士たちにすがりついた。カイザーPMC兵士が即座に応戦しようと銃器を構えるも、多勢に無勢と悟ると睨み合ったままとなった。
一方、その場にいないジェネラルだけが余裕そうにSRTの生徒を見据えた。
「来たな、元SRTの敗残兵たち。健気なものだ」
「おまえには黙秘権がある。おまえの供述は法定でおまえに不利な証拠として用いられる場合がある。取調べ中に弁護士の立会を求める権利もある」
「そして我らをテロリスト呼ばわりか。未遂容疑で逮捕するつもりようだが、カイザーの顧問弁護士は優秀だ。起訴に追い込めるとは思わない方がいい」
「知らん。そんなことは私たちの管轄外だ」
所詮SRTは言われたとおりに任務を遂行する兵隊。言うだけ無駄か。
そうジェネラルは思いつつRABBIT小隊の後ろでシッテムの箱を持つ"先生"に視線を移す。
「荒事の引率は誰になるかと思っていたら、一番一般人に近い"先生"だったか」
"RABBIT小隊の引率の延長でね"
「いいだろう。サーモバリック弾起動に見せかけて何をしようとしているか、特別にお前たちにも教えてやる」
「ジェネラル、しかし……!」
「構わん。どうせいずれは発覚することだ。ならタイミングはこちらで決める」
研究員の反対を退け、ジェネラルは背後にそびえ立つ巨大な機器を指さした。円柱状にそびえ立つそれは鈍く低い駆動音を鳴らし続ける。それからジェネラルはアタッシュケースほどのサイズをした箱をSRT一同と"先生"に見せつけた。
「質量を持ったソリッドビジョン、すなわちリアルソリッドビジョンはデュエルモンスターズの世界を広げたが、カードゲームに留めるにはもったいないほどの可能性を持つ技術だ。軍事、インフラ整備、最新技術の研究、例を挙げればきりがない」
「技術の転用は連邦生徒会によって禁じられている。それにデュエルで正しく動作しても他の分野では不安定、よって危険だと判断されているはずだ」
「それを安定化させ、何でも作り出せるようにする。それがこの研究施設の主目的だ。そして、「あの者」に提供されたコレがそれを可能にする」
「……FOX4、RABBIT4。ターゲットが持つ箱の中身を確認して報告」
ユキノは別ルートで中央区画に侵入して狙撃ポイントで待機する両スナイパーに無線で連絡。ジェネラルに照準を合わせていたスナイパーライフルのスコープで箱のガラスか強化プラスチックの蓋の中を覗く。
「……デュエルモンスターズのカード。色合いからペンデュラム効果モンスター。効果もカードテキストも書かれてない。星10」
「カード名は……変な記号みたいな文字で書かれてて読めません……」
「……駄目だこりゃ。手持ちのタブレットで検索かけても全くヒットしない。宇宙語ででも書かれてるんじゃない?」
「スキャンした画像データ送ります……」
ユキノの端末に着信があった。ユキノは音声入力でFOX4ことオトギとRABBIT4ことミユから送られた画像データを"先生"へ転送。すかさず"先生"はアロナに解析を指示した。
「エネルギー保存則。エネルギーの総量は変化しないという物理学の基本法則だが、この設備はそんな常識を覆す。これはな、別世界へのゲートなのだ」
「別世界へのゲート……?」
「あいにく我らはシャーレのユウセイほどの技術力を持たないのでここまで大規模にならざるを得まいが、このゲートの向こうでこのカードは発見された。このカードから放出されるエネルギーはキヴォトスで消費される全電力を賄って余りあるほどだ。このカードのエネルギーを使えば我々カイザーは創造主になれるのだ」
「そんな御大層な研究のわりには警備が手薄過ぎないか?」
思わずサキが口を挟む。ジェネラルは不機嫌そうにサキを睨みつけるも、その程度では脅しにもならず、一切動揺はしなかった。
「言っておくがカイザーグループは大義を掲げて現実を見ようともしないバカとは違う。大人とは夢を簡単に諦められること、つまり損切りが出来ることが重要なのだよ。SRTの諸君」
「何だと……!?」
「RABBIT2、挑発に乗らずにそのまま待機だ。分かったら復唱しろ」
「ら、RABBIT2は待機で了解……」
「このカードから抽出されるエネルギーの量はあまりに膨大だ。一歩間違えばキヴォトス全土を消し飛ばせるほどのな。よって我々カイザーはこれ以上の研究は危険と判断し、現時点をもってここの設備を放棄。およびこのカードは連邦生徒会に返却する」
ジェネラルは放物線を描くようにカードの入ったケースを放り投げた。すかさずオトギとミユが撃墜体制に入るが、ユキノの指示で待機を続ける。ユキノは直接受け取らず、《ヴァレルロード・ドラゴン》を召喚してそれをキャッチさせた。
続いてジェネラルから放り投げられたのはアタッシュケース。今度はミヤコが召喚した《H-Cエクスカリバー》が受け取る。入念に罠が仕込まれていないかをチェックし、中身を確認する。入っていたのは書類の束のようだ。
「この設備を建造、そしてそのカードの研究を我々カイザーに委託したのは現連邦生徒会長代行のカヤだ。契約書や仕様書はそのケースに入っているもので全てになる。本人直筆サインが入った原本込みだ」
「……カヤ防衛室長が黒幕だと主張するつもりですか?」
「そういう筋書きにしろ、と依頼主から注文を受けている。嘘か本当か調査するのはヴァルキューレの仕事だろう?」
「……提供された証拠品は預かります」
ユキノとミヤコは各々のモンスターから証拠品を回収する。すると駆動していた巨大設備がシャットダウンし、何事かと狼狽える研究員をよそにカイザーPMC兵士たちは、事前にジェネラルに指示されていたのか、武装解除する。
「ではSRTの諸君。機会があればまた会おう。そして"先生"、今度は子どもの引率なんぞではなく、大人のビジネスを話し合いたいものだ」
ソリッドビジョンで投影されていたジェネラルの姿が消える。
SRTの各員は速やかに中央区画を制圧。本当に運搬されて起爆準備が整っていたサーモバリック弾を確保する。もしSRTの突入が少しでも遅れていたら、カイザーは実験を強行し、そして危機的状況になったらこのサーモバリック弾で施設ごと自爆するつもりだったのか、と戦慄した。
ユキノはジェネラルから押し付けられたカードを眺める。厳重にしまわれたこのカードがキヴォトスを滅ぼす要因になりうるとは信じがたいが、三年生の彼女は二年前のゲヘナの雷帝たち化け物どもを嫌と言うほど知っている。そういった超越存在もいるのだろう、と己を納得させた。
「先生、解析が終わりましたよ!」
"アロナ、それでこのカードにはどんなことが書いてあったんだい?"
「残念ながらテキストが隠されている形跡は無く、本当に記載されていないようです。なので効果も召喚条件も分かりません。ただ、カード名だけは部分的に分かりましたよ!」
"それが分かっただけでも僥倖だ。どんなだった?"
「G・O・D」。それがその未知のカードに記されたカード名の一部だった。
Vol.6が公式から発表されましたが、本概念でやるかは分かりません。エデン条約編でがらっと変えてしまったので、前提が成り立たずに全略する可能性すらあります。
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