Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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リン、先生たちに打ち明ける

 カヤは連邦生徒会長代行の座から退きました。

 彼女はD.U.区混乱の責任を取る、そして体調不良を理由としました。

 体調不良なのは政治家が良く使う逃げ口上ではなく事実でして、三極神を無理に召喚した反動から回復しきっていないようです。

 

 バトンタッチしたのはリンで、返り咲いた形となります。

 カヤが強引に実施した行政命令も半分以上が撤回され、D.U.区も徐々に安定を取り戻しつつあります。

 しかしリンはカヤの政策全てを否定せず、幾つかは残したままとしました。

 

 特にカヤが再三に渡って唱えていた治安回復政策のうち、ヴァルキューレの予算増額やSRT再建の法案が目玉となるでしょう。これでユキノやミヤコの悲願は五合目に達しました。

 

 五合目、と言い表したのは、連邦生徒会長の権限にもとづいた強制執行が行えないからです。新SRTをシャーレ直下の組織とし、権限もシャーレの延長線上に位置づけることで疑似的に回復させるのが精一杯でした。

 

 なぜシャーレ傘下にしたか。そもそもどうして彼女はSRT閉校を強行したか。

 それについてリンは後日説明の場を設けました。

 それも、普段あまり揃わないシャーレの先生3名を呼び出して。

 

"お疲れ、リンちゃん"

「誰がリンちゃんですか。せめて公の場でそう呼ぶのは控えるようにしてください」

 

 連邦生徒会長代行の執務室には私、"先生"、ゼアル先生、リンの他にはゼアル先生の秘書同然になっているもう一人のシロコ、カヤがいました。リンの秘書官はおろか彼女を支持するモモカ、アユムの姿も見えません。

 

「私が今からお話する件に関して私はモモカとアユムにも打ち明けていません。本当なら誰にも話す気は無かったのですが、"先生"方にのみ情報共有しようかと」

「え? リンがあの2人を蔑ろにするなんて随分と珍しいですね。なら私は参加しても良しと判断したのは?」

「星界の三極神を召喚したことで疑いは晴れた、と見なしました。政治闘争の果てにキヴォトスの衰退を招く可能性も今回の一件で消えたと考えています」

「……その口ぶり。やはりリンは改変前の世界のことを私以上に覚えているんですね」

 

 リンとカヤは互いにだけ分かるように会話したのかもしれませんが、カヤがクーデターを起こす前に情報共有していたおかげで、私たちも彼女たちが何を言っているのかは何となく想像できました。

 

「本日先生方をお呼びしたのは、私がどうしてSRT閉校を強行したか、について説明するためです」

"それって連邦生徒会長不在の連邦生徒会じゃあ責任が取れないから、だったよね?"

「表向きの理由はそうです。しかし、真の目的は違います。私は連邦生徒会長が戻ってきた際に彼女の手駒になる組織を潰すため、SRTを解散させました」

"……。リンは連邦生徒会長が武力を持つことに反対なの?"

「……戻って来るのが本物の連邦生徒会長なら、こんなことはしません」

 

 私や"先生"が驚く間、リンの視線はゼアル先生ともう一人のシロコに向けられました。

 

「ゼアル先生、シロコさん。直にアイツと相対したあなた方なら分かるはずです」

"……!"

 

 この一言で確信に至りました。

 リンはゼアル先生が歩んだ世界についての記憶と経験がある、と。

 それはつまり、リンも連邦生徒会長同様に何度もやり直しているのでしょう。

 

 エラー、絶望の化身。

 リンは彼女のことを知っている。

 

"……。リンちゃんは私たちのリンちゃんのことも覚えてるの?"

「その様子ですと先生方はある程度情報を共有、そして何が起こっているのか予想されていたのですね……。どの辺りまで先生方で共有しているか、お伺いしても?」

"連邦生徒会長はエラーって存在と決闘してて、負けそうになった連邦生徒会長がエラーに乗っ取られそうになった、ってところは話した。あと連邦生徒会長がヌメロン・コードの力で世界を何度も書き換えてやり直してるんじゃないか、って推測してる"

「ちょ、ちょっと待ってください! 連邦生徒会長が乗っ取られてるって何ですか? それとエラーって一体誰ですか?」

「ではそこから私の分かっている範囲で話しましょう」

 

 当然の疑問を挟んだカヤにリンは視線を送り、一回メガネを外して目元を手でもみました。

 

「エラー、正確には「e・ラー」。アイツは連邦生徒会長の身体を乗っ取り、キヴォトスを絶望の淵へと叩き込もうとしています」

 

 その時に見せた反応は様々でした。リンは静かな憤り。カヤは驚愕。"先生"は不快。ゼアル先生は憎しみ。もう一人のシロコは殺意。私自身はかの存在はいてはならないと思うのですが、実際に相対した彼女にはもう少し秘密があるような気がしてなりません。

 

 そこからの会話は少し長かったので、要点をまとめますと、

 

・エラーとはあらゆる世界の希望の光を消し去る絶望の化身

・光あるところに影があるように希望あるところに絶望あり。エラーはそんな希望を嗅ぎつけてあらゆる次元を越えて現れる。

・エラーがこれまで破壊し続けた希望は何も無い世界で墓標として立ち並んでいる

・次の標的はキヴォトスとなり、連邦生徒会長が迎え撃った。

 

「しかし、世界の設計図にアクセスする全能の力、ヌメロン・コードを持つ会長を厄介だと感じたのでしょう。エラーは彼女に決闘を持ちかけました。その勝負とは会長、つまり私たちの年代の生徒がキヴォトスを卒業するまでの間、キヴォトスを絶望から守ること」

「絶望から守る……? それは名もなき神々の王女や色彩の襲来のことを指しているのですか?」

「それを含めた全ての絶望からです。エラーは自分からは極力キヴォトスに干渉しないことを誓いました。勝手に絶望する様子を眺めるのが愉悦だと言わんばかりに。しかし……結果は散々でした」

 

 私たちの予想通り、連邦生徒会長は何度も世界をやり直していたのです。そしてその度に連邦生徒会長はヌメロン・コードの力で世界を書き換え、別の選択肢を試し続けたのです。

 

「それじゃあ、連邦生徒会長が超人なのは……」

「彼女が非凡なのは疑いようもないですが、もう数え切れないほどの試行錯誤に基づく経験則が大きいです。決して希望を、青春を諦めなかった彼女でしたが、度重なる失敗でとうとう限界を迎え……」

 

 連邦生徒会長は自分ではどうにもならない、と絶望しました。その隙をつかれて身体を奪われてしまったのです。ヌメロン・コードを手中にしたエラーはもはや太刀打ちできない、「神」へと至ったのです。

 

「ですが、キヴォトスの青春はまだ続いています。連邦生徒会長は身体を失ってもなおエラーと戦い続けています。"先生"たちに希望を託して」

"……責任重大だね"

「エラーは潔く負けを認めるような存在ではないでしょう。卒業シーズンが近づけば直接介入してくるに違いありません。その際、エラーが連邦生徒会長としてSRTに命令し、我々に銃口を突き付けてくることは充分に考えられます。だから解散させ、防衛室傘下のヴァルキューレに組み込もうとしたんです」

 

 SRTはおそらくヒナやツルギといった強者のいる学園の治安維持組織とも互角に渡り合うだけの武力があります。各学校がまとまる前に的確な作戦で各個撃破されてしまえば、キヴォトスはエラーの好きなようにされてしまうでしょう。

 

 では何故これを誰にも明かしていなかったか? 明かせないのは当然でしょう。あの"先生"すらプレナパテスとしてキヴォトスを滅亡させたほどです。カヤや私だって何かしてしまった世界があったかもしれません。

 

「それだけ世界を巡ってきたならこの先何が起こるかも知っているんじゃないですか? 事前に対策して脅威を根絶していけば……」

「そんな単純な事前解決策は会長が最初のうちに試みて失敗してます。別の問題が浮上してどうしようもなくなるのはよくあるパターンでしたか。知らない方が異変をクリアしやすい、これが結論です」

「信じられません……あの会長が絶望するぐらい我々の世界は綱渡りなんですか?」

「そうです。極端な例を挙げれば、アビドスの一件で"先生"がイオリさんの脚を舐めてなかったらゲヘナとの関係が悪化し、やがて雷帝の遺産に対処出来なくなった、なんてこともありました」

 

 イオリを脚を舐め……私が思わず"先生"に視線を向けると、彼はあからさまに私やリンから目を逸らしました。ゼアル先生もジト目を送るもう一人のシロコから視線を外したことから、共通した何らかの経緯があってそうなったのでしょう。理解はしますから苦笑い浮かべたり取り繕うとはしないでくださいね。

 

「そして、一つ忠告を。今私は"先生"方の味方面をしていますが、かく言う私もまたキヴォトスを滅ぼしたことがあります」

"え!? リンちゃんが……!?"

「私だけではありません。カヤ、アユム、モモカ、アオイ……連邦生徒会役員は全員キヴォトスを脅かす敵になる可能性がある。それを頭に留めていただければ」

"……。それでもリンちゃんたちは私の生徒だからね。最後まで諦めないし、最後まで寄り添い続けるよ"

「……だから、それが嫌なんですよ」

 

 最後のリンの言葉は独り言のつもりだったようでとても音量が小さかったです。しかし私たちにははっきりと聞こえました。そしてその気持ちは充分に分かります。自分のために先生に犠牲になってほしくないのでしょう。

 

 特にもう一人のシロコは自分に変わって色彩に身を捧げたゼアル先生を思い出したようで、悲痛な表情を浮かべて心臓を掴むように手を持っていきました。そんなシロコの頭をゼアル先生は優しく撫で、安心させるために笑顔を見せました。




このあたりは本概念ラストに向けての積み重ねになります。

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