ユメ、アビドスに入学する
◆三人称視点◆
少女が中学校を卒業する頃には地元の衰退は深刻なものとなっていた。
通っていた学校、母校となる中学校も廃校が秒読みとなっている。
進学する高校も生徒数が足りず、いずれは砂の中に埋もれてしまうことだろう。
しかし、少女は迷わず地元の高校を進学先に選択した。
少女は地元が大好きだったから。いつか必ず活気が戻ると信じていたから。
少女は……いつまでもユメを追い続けていたかったから。
少女が通い始めた高校には悲願があった。
神をこの地上に降臨させる。
これは校則にも真っ先に明記されるほど重要視されていた。
まるで神さえいれば自分たち、そして高校は救われると言わんばかりに。
『アビドスの生徒たるもの、王(ファラオ)となりて神を降臨させよ』
少女にはあまり合わなかったが、生徒数が少ないこともあって少女は一年の頃から生徒会の役員に任命された。そこで少女は高校が置かれた現実に直面することになり、先輩方の苦悩を知ったのだった。
高校の自治区内の土地は大半がすでに企業に売却済み。
高校には莫大な借金がある。利子を返すのが精一杯で一向に減らない。
環境の悪化が食い止められない。このままでは砂漠に侵食されて住めなくなる。
生徒会長たちはどうにかして神を降臨させようとするも、彼女たちは神に認められなかった。無理して儀式を強行しようとしても神の怒りが発生する兆候が現れるため、断念しざるを得なかった。
「こんなもの……こんなものっ……!」
生徒会長が神に到達しなかった自分のカードをやぶこうとするのを少女を含む役員一同は必死に止めた。そして「この調子なら神は召喚出来る」「前進はしてる」などと根拠もない希望を口々に言う。しかし、もはや生徒会一同にとっては蜃気楼のような儚い希望だけが支えになっていたため、それすらも必要だったのだ。
そうして追い詰められていたからか、生徒会長は悪魔の囁きに耳を傾けた。
「神を召喚したいんだろう? よし分かった、この私が知恵を貸そうじゃないか」
少女と同学年だった彼女は一年生ながらあのキヴォトスを代表する名門ゲヘナの生徒会に相当する万魔殿に所属する、期待の星だった。彼女、万魔殿書記官はかつてキヴォトスで最大規模だった少女たちの高校の現状を見かねて手を差し伸べる、と語った。
万魔殿書記官の意見はこうだった。神そのものを召喚出来ないのなら、神の力を他で再現すればいいじゃないか、と。神そのものに固執していた生徒会長にとっては目から鱗だった。
早速生徒会長はネフティスから更に借金を重ね、ゲヘナ、そしてハイランダーを巻き込んで一大プロジェクトを立ち上げた。表向きはハイランダーの新兵器開発に協力する事業に装い、裏では神の建造を進めていった。
万魔殿書記官の意見はこうだ。
「ヴァルキューレの三極神もそうだけれど、神そのものを独力で召喚しようとするから失敗するんだ。かと言って神の怒りに触れない程度に力を抑制した一般普及版では話にならない。なら話は簡単だ。神の力が八つ裂きにされた一般普及版を直列に接続、同期させて神を再現させればいい」
神を降臨させる器としてはハイランダーが所有する超弩級砲塔列車が採用された。機構部だけは残し、肝心の砲弾や動力源はすべて取り除き、万魔殿書記官が開発した神の力を一部再現したカードを組み込んで完成。
「と、いうわけで、研究のためにそちらが保有する神のカードを貸したまえ。なに、傷つけずに返すことはゲヘナや私の名に誓おうじゃないか」
生徒会長は血の涙を流しかねないほどの苦悩の末、オフィシャルカードの元となった神のカードを手渡した。少女は万魔殿書記官がその時に浮かべた笑みを決して忘れはしないだろう。
万魔殿書記官が神のカードを返したのは神の器となる新たな超弩級砲塔列車が完成した頃だった。更に万魔殿書記官は神のカードと共に10枚のカードを提示する。それはいずれも神の力の一端を再現したものだった。
「《ラーの翼神竜》のオリジナルカード、確かに返却する。そしてこれが君たちご所望の神の力を再現したカードたちだ」
《ラーの翼神竜》、オフィシャルカード版
《ラーの翼神竜-球体形》
《ラーの翼神竜-不死鳥》
《古の呪文》
《神の怒り》
《ゴッド・ブレイズ・キャノン》
《真なる太陽神》
《千年の啓示》
《暗黒の魔再生》
《太陽神合一》
※連邦生徒会にオフィシャルカード化申請中
「……10枚も使わなければ神を再現出来ないとはな」
「裏返せばそれだけ《ラーの翼神竜》が強力だったってことさ。で、これがラーのサポートカードをセットするフィールド、この超弩級砲塔列車の中枢だね」
完成した超弩級砲塔列車の壁面にはアビドス、ゲヘナ、ハイランダーの校章が描かれていた。しかし3校の生徒でもごく一部の者しか内部には入れなかった。幸か不幸か、少女は生徒会役員だっためその中に含まれていた。
万魔殿書記官曰く、機関室の機器の殆どはハリボテ、ないしは雰囲気を演出する舞台装置に過ぎないらしい。重要なのは神のカードをセットするフィールドだけ。これによって超弩級砲塔列車は神の力を得るのだ。
なお、公式記録ではあくまで1トン以上のプラズマ爆弾を500km先まで飛ばす長射程の兵器、と記されている。小型の太陽を砲弾にするコンセプトは太陽神を再現するというこの列車砲の隠された本質を密かに表していた。
「で、どうするのさ?」
「どうするのとは、なにをだ?」
「この超弩級砲塔列車の名前だよ。命名式やってないだろう? 名は体を表すとは良く言ったもので、神降ろしにはとても重要だと私は考える。どうする? 太陽神ラーの形態の1つ、ケプリとかケペラとでもしておくかい?」
「……。シェマタ。この列車砲の名はシェマタだ」
この生徒会長の命名に少女は驚き、万魔殿書記官は呆れた。
シェマタとはアビドスがキヴォトス最大規模を誇った時の生徒会長の名。そして数十もある分校をまとめ上げた豪傑でもある。彼女はキヴォトス史でも稀に見る卓越した【エクゾディア】使いで、重要なデュエルでは1ターン目にほぼ必ず揃えてくるほどの腕を持っていた。
そんなシェマタですら神は召喚できなかった。
なので神の再現を目指すこの列車砲にシェマタの名を与えることはおかしい。
生徒会長の望みは神の降臨ではなく高校の復興。それが窺いしれた。
「では生徒会長殿。このラー関連カードをセットしたまえ」
生徒会長はまずラーサポートカード7枚をセット。次にラー各形態カード3枚をサポートカードの上のスロットにセットした。そこで生徒会長は初めて疑問を抱いた。カードスロットが11個あることに。
「書記官。この一番上のスロットは何だ?」
「万が一神の怒りが発現した時への備えさ。そのカードも準備してあるから安心していい」
少女は後日振り返った。この時に抱いた懸念を口にして生徒会長に具申していたら未来は変わっただろうか、と。しかしきっとそのままだっただろう、とも思う。何故ならそれほど生徒会長たちは神の降臨に固執していたから、自分の迷言なんぞに耳を貸さなかったに違いないから。
超弩級砲塔列車シェマタの試運転が開始された。アビドスの自治区の外れに設けた施設の敷地でシェマタの砲塔が動き出す。狙いは100km先の砂漠中央に持っていったハイランダーの機関車。ミサイルを打ち込んでも真っ二つに裂くのが精一杯な金属の塊だ。
「さあ、生徒会長殿。高らかに宣言したまえ。神としての技名を」
「私は《超弩級砲塔列車シェマタ》で《重機貨列車デリックレーン》に攻撃! ゴッド・ブレイズ・キャノン!」
シェマタから発射されたプラズマ光弾は文字通りハイランダーの機関車を消し飛ばした。それどころかあまりにも高温だったためかターゲットの周囲一帯の砂漠の砂がガラス化するほどだった。
天高く昇っていくキノコ雲を現地のビデオカメラからの映像で確認した生徒会長は歓喜に打ち震えた。生徒会役員たちも半数以上が喜びあったが、少女を含む残り半分はあまりの威力に戦慄した。
これが神の力の再現だというのなら、本来の神の力はどれほどか?
神とは果たして自分たちの手におえる存在なのか?
そして、神を呼び出したからと再び自分たちの高校が栄えるのか?
「素晴らしい……! これこそ私が求めていた神の力だ! よくやったぞ書記官、アビドスを代表して礼を言う!」
「いーや、お礼はいらないね。何故なら君たちはこれから先私を恨むことになるからねえ」
「……? どういうことだ?」
「ほうら、天罰の時が来たようだよ」
万魔殿書記官が上を指差すので、生徒会長は機関室から出て空を見上げた。
白い曇り空だったはずなのに、辺りがどす黒い雲に覆われているではないか。
そしてシェマタの真上で雷鳴が轟き、渦を巻いていく。
生徒会長はこの現象に覚えがあった。
これはまさしく神の召喚に失敗した際に発生する、神の怒りではないか。
まさシェマタですら神の怒りに触れるのか、と驚愕する。
「こんなカードゲームのカード1枚の神を再現しようとしても祟られるんだ。シェマタで盛大に儀式を執り行ったところで、ファラオでない者を神は認めないに決まってるじゃないか」
「貴様……! 初めから分かっていたのか!?」
生徒会長が万魔殿書記官の胸ぐらをつかみ上げる。
少女たちがやっとの思いで生徒会長を引き剥がしたが、生徒会長の怒りは収まる気配がなかった。
怒りの矛先である万魔殿書記官はあくまで涼しい顔をしていたが。
「あくまで予想してただけさ。アビドスの神についてはそっちが第一人者。むしろこうなる可能性を考慮してなかった浅はかさには呆れるばかりだよ」
「よくも、よくも私たちを騙したな……!」
「さあて、じゃあ私は本当の目的を果たそうじゃないか。紛いなりにも神は召喚できたんだ。今こそ証明の時だ」
万魔殿書記官は生徒会長を無視してデュエルディスクを展開。獲物を狙うような鋭い眼差しを今にも天罰を下そうとする神に向け、犬歯を見せる獰猛な笑みを浮かべながら1枚のカードをフィールドゾーンにセットした。
そしてアビドス、ハイランダー、ゲヘナの一同は証人となる。後に雷帝とまで呼ばれるようになる傑物がその本性を表した最初の一歩の立会人として。
そして、様々な遺産を残した雷帝が何故雷帝と呼ばれるようになったのか、の所以がここにある。
「いでよ! 第二の幻魔にして我が下僕、《降雷皇ハモン》!」
万魔殿書記官が召喚した幻魔は暗黒の雲の中から稲光と共に現れた。砂漠の大地に轟く咆哮、生物としての本能が抱く恐怖と畏怖、そして肌でも感じられる圧倒的な力。その存在の全てがただのモンスターではないことを物語っていた。
「さあやれ、《降雷皇ハモン》! キヴォトスの頂点に君臨するのは三幻神などではない、お前だ!」
万魔殿書記官の目的は神の再現ではない。それは手段に過ぎない。本当の目的は怒りに支配された神を呼び出し、己の幻魔で叩きのめすこと。生徒会長の望みやシェマタなぞ三幻魔こそ最も優れた存在だと証明するための踏み台に過ぎない。
「その《ラーの翼神竜》の紛い物に攻撃しろ! 失楽の霹靂!」
ハモンより放たれた雷撃が暗黒のラーへと直撃した。ラーは悲鳴を上げて霧散し、やがて雲が晴れる。太陽の光が温かく降り注ぐが、その場にいた一同は誰もが目の前の現実を受け入れられないでいた。
「ふ……ふふふっ……わーっははははっ!」
ただ一人、万魔殿書記官の高笑いだけが現実を突きつけていた。
◇朝霧アキノ
本概念の数少ない完全オリジナルキャラクター。4年前のアビドス生徒会長。
名前はかつて運行されていた国鉄急行「安芸」、かつ旧国名の「安芸国」から。
使用デッキはミイラなどエジプトに由来する【アンデット族】
エースモンスターは《茫漠の死者》
切り札は《The supremacy SUN》
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