Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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ミカ、歴史改変後のサオリと話し合う

 正門前でミカを迎えに来た生徒は女性としてはわりと背が高く、クセのない髪はキヴォトスでは中ぐらいの長さ、背中辺りまで伸ばしています。そして彼女の制服は以前読んだトリニティの資料によればティーパーティーのものですか。

 

 そんな彼女はミカへと丁寧に一礼。対するミカは目を見開いて相手を見つめていました。瞳に宿るのは驚愕と困惑。やがてそれは疑惑、そして敵意へと変わり、彼女を睨みつけました。

 

「錠前サオリ。どうしてここにいるの? それにその服何? 変装のつもり?」

「ミカ様? 何を言って……」

 

 錠前サオリと呼ばれた彼女はそこで初めて付き添っていた私が誰なのか気づき、驚きの声を上げました。それから何やら呟きつつ考え込み、咳払いをして仕切り直すと背筋を正し、こちらにもお辞儀をします。

 

「シャーレのZ-ONE先生。お久しぶりです。あの時はありがとうございました」

「あの時……?」

 

 そう言われても私と彼女は初対面です。それどころか私がこれまで出会ったトリニティの生徒も指で数えられる程度。キヴォトスに来たのもここ最近ですから過去に遭遇した線もありえません。

 

 しかし、そんな本来ありえない可能性も、他の可能性を潰し込んでたった一つだけ残ったならどんなにありえなくても事実。今まさに私は変貌した歴史を目の当たりにしていることになります。

 

「お久しぶりですね。内乱中のアリウス以来ですか」

 

 彼女は過去の時代に私達が出会った子ども達のうちの一人。その成長した姿を私は目にしているのでしょう。

 

「覚えていてくださいましたか。随分成長してますし分からないだろうと思ってました」

「私達にとって貴女と別れたのはほんの数時間前です。忘れようもありません」

「ミカ様と先生が私達に施しと光差す道を与えてくれたのは記憶に焼き付いていましたが、いつなのかをずっと待っていました。今日だったんですね」

「その言い方ですと私達が過去に行ったことを貴女は認識を……ミカ?」

 

 私とサオリが会話している最中、突然ミカが頭を抱えてうめき声を上げました。涙とよだれを垂らしながら頭を振り回します。これは割れるような頭痛に襲われた時の動作ですが、その原因にはすぐに思い当たりました。

 

 過去を改変したことによる歴史の修正。存在しない記憶が蘇ったのです。

 

「ミカ様! 大丈夫ですか……!?」

 

 サオリはミカの名を呼びながら駆け寄りました。ミカは両肩に添えられたサオリの手を乱暴に払おうとしましたが、既のところで思い留まったようです。ミカの手はサオリの手に触れ、握るだけです。

 

「大丈夫、大丈夫だよ……。ちょっと頭の中が整理しきれなかっただけ。一気に色々な情報が頭に流し込まれるってこんな感じなんだね」

 

 もしかして、存在しない記憶、つまり改変後の記憶が蘇ったのでしょうか?

 時械神に認められた彼女には歴史の改変は効果を及ぼさない筈ですが。

 とは言え検証結果のデータ収拾も不十分でしたし、こういったケースもあるのか、と納得しますか。

 

「気分がすぐれないのでしたらすぐに部屋へお連れします」

「それよりサオリちゃん。ちょっとお話聞かせてくれない?」

「……。分かりました。来賓室を使えるよう段取りします」

 

 ミカは一人で歩こうとしましたが若干ふらついていたので肩を貸しました。背負うか抱きかかえようとも思いましたが、さすがにそれは遠慮されました。校舎内に入った頃には調子が戻ったようで一人で歩き始めます。

 

 案内されたのはティーパーティー専用の来賓室。サオリは温度計とにらめっこしながらお湯を沸かし、お茶を入れました。ただ沸騰させるだけでないのはお茶っ葉によって適切なお湯の温度が違うからだそうです。

 

「申し訳ありませんが菓子は日中の余りしかありませんでした」

「お構いなく。私は突然の客人なのですから、もてなしてもらえるだけありがたいですよ」

「いえ。それではティーパーティーの一員としての面目が経ちません。後日改めてご招待します」

「分かりました。楽しみに待ちます」

 

 部屋の隅に置かれた柱時計の振り子が揺れる音が良く聞こえます。ミカもサオリもお茶には口を付けず、どちらがどう口火を切れば良いのか迷っているようです。埒が明かないので私から切り出すとしますか。

 

「我々が歴史を変えてきたとサオリが認識出来ているのは、やはり当時出会ったミカ、つまり今のミカと再会したミカが食い違っていたからですか?」

「っ。はい」

「簡潔で構いませんのでサオリが今に至るまでの経緯を説明してください」

「分かりました。では私の方から……」

 

 そこからのサオリの説明をまとめると以下のような感じです。

・錠前サオリはトリニティ総合学園2年生。ティーパーティー所属。

・サンクトゥス派リーダーのセイアの側近。

・アリウスの内戦はあれから程なく終わった。

・トリニティへは高等部からの編入。中等部はアリウス分校卒業。

 

「どうしてトリニティに編入を? そのままアリウスで進学しなかったのは?」

「マダム……現生徒会長の教育方針に納得がいかなかったからです。受け入れようとするとどうしてもZ-ONE先生やミカ様と過ごしたあの数日間の記憶が蘇りまして……。虚しいと思う度に幼かった自分が違うと訴えてくるんです」

 

 サオリが続けた説明は以下のようにまとめられます。

・生徒会総選挙という体のデュエルで現職の生徒会長に敗れてアリウスを永久追放。

・私達と会った他の二人はサオリと意見が一致しているが依然アリウスに在籍。

・ミカとはトリニティ入学直後に再会したもののミカはサオリを知らなかった。

・↑なので未来のミカが過去の自分に会いに来たと推察。今に至る。

・なお、ミカとは友人と言える程度には親しい関係を築いている。

 

「私は……今もマダムの全部が間違っているとは思っていません。マダムがいなかったら地獄の内戦はもっと長く続いたでしょうから。ですがその恩につけこんでアリウスを自分の都合のいい兵士……いえ、駒に育ててるようにしか考えられなかったんです。ですから反逆しました」

「では追放されて新しい人生を歩み始めた、と?」

「いえ。内側から変えるのは私の力不足で失敗しました。ですから外側からどうにか変えられないかを模索しているところです」

 

 サオリが説明している間中ずっとミカが何かを言いたそうにしていましたが、あえて菓子を口の中に頬張って黙っていました。一通り語り終えたところでミカは紅茶で菓子を喉の奥に流し込み、一息入れます。

 

 ミカがサオリを見据える眼差しは憤怒と憎悪が入り混じったもの。しかしそれは全てがサオリに向いているわけではなさそうですね。どうも自分自身にも憤り、そしてどうしようもなさを感じているように感じられます。

 

「じゃあ次は私の方から元のサオリちゃんがどうだったか説明するね。って言っても、わざわざ喋らなくても察してるんじゃないかな?」

「あの時ミカ様に会わなかった私はそのままアリウス分校に進学。アリウススクワッドの一員としてミカ様と出会っていたでしょうね」

「はい。よく出来ました。で、どうしてくれるの?」

 

 ミカは笑みを消してジロリとサオリを睨みました。

 

「セイアちゃん襲撃の件、サオリちゃんの耳にも入ってたんでしょう?」

 

 セイア……確かこの前見た生徒名簿ではトリニティのティーパーティーの現ホストと記録されていました。襲撃とはまた物騒な話ですが、ここはあえて黙っておき、後で自分で調べることにしましょう。

 

「はい。ミカ様がお会いしたあと二人、ヒヨリとミサキはアリウススクワッドのままですから。ある程度情報は横流ししてもらっています」

「だったらアリウスの真の目的がセイアちゃんのヘイローを破壊するって分かってたんだよね。どうして黙って作戦決行させたの? やっぱサオリちゃんはアリウスに加担して私を……ううん、セイアちゃんを裏切ったの?」

「ええ。ですからセイア様を襲撃したアリウスの者の半数は私に同調した反マダム派の者達で、襲撃に失敗したことにしてアリウスから離脱する。同時にマダム派の者達の数を捕縛して頭数を減らす、という作戦に利用しましたよね」

「え?」

「え?」

 

 二人の間にしばしの沈黙が流れます。

 

「セイア様襲撃はミカ様が手引してアリウスの生徒達をトリニティに誘い込んだと聞いてますし、セイア様もご自身が危機にさらされると承知でした。あえて未然に防がなかったのもお二人が結託して計画なさったからですよね」

「え?」

「え?」

 

 再び静寂が訪れます。

 

「どうやら二人……いえ、セイアを含めて三人の間で意思疎通が上手くいってなかったようですね」

 

 ミカとサオリも認識の違いがあったことに気づいたようで、サオリはしまったといった感じに焦りが、ミカは怒りを懸命にこらえて拳に力を込めます。

 

「じゃあどうしてセイアちゃんを殺したの? ヘイローを破壊する爆弾を私がトリニティに編入させたアズサちゃんに持たせてさ。私は……そんなことをさせるためにアズサちゃんを編入させたんじゃないのに」

「ミカ様。セイア様は亡くなっていません」

「……。へ?」

 

 サオリの発言を受けてミカはしばらくの間茫然としました。驚愕、動揺。様々な感情が入り乱れているようです。彼女が信じていた事実が真実ではなかったのがすぐには受け入れられないのでしょう。

 

「たしかに爆弾にはヘイローを破壊する効果があってアズサはそれを発動させましたが、幸いにもそれは防がれました。戦闘・効果では破壊されない神にセイア様は救われたんです」

 

 ミカがものすごい勢いでこちらの方へと振り向きます。事情を知らない私は推察するしかありませんが……、

 

「《時械神ガブリオン》。Z-ONE先生の貸してくれたカードのおかげです」

 

 私の貸した神のカードが一人の命を救ったのですね。

 

 時械神は幼かったサオリを通じてセイアを守るために私とミカを過去に遣わしたのですか。神々がどこまでお考えなのかは私には知る由もありませんが、来るはずだった悲劇を回避できたなら幸いです。

 

「では私がサオリに授けた《時械神ガブリオン》は今、セイアなる生徒が所持していると?」

「はい。すみませんがあのカードを返すのは事態が落ち着いてからで構いませんか?」

「神がセイアのもとに行ったのなら早急に返して頂く必要はありません。役目を終えるまではセイアが所持すべきでしょう」

「そうですか……分かりました。ではしばらくお借りします」

 

 ミカは自分を落ち着かせようと紅茶を飲もうとしますが、手が震えているせいで今にも紅茶が零れそうです。そんな手をもう片方の手で押さえながら彼女はカップ内の紅茶を一気飲みし、再びサオリを見つめます。

 

 瞳が揺れ動いていることからも動揺が察せられました。

 

「本当に……? それじゃあ、セイアちゃんは生きてるの……?」

「無事です。何でしたらお会いできるよう段取り致します」

「セイアちゃんが生きてた……無事だったんだ……」

 

 ミカの目から涙がこぼれ落ちました。一度流れたらもはや止めどがなくなり、終いにはミカは泣きじゃくりました。

 それはアリウスの兵士達を前にしても一切恐怖もしなかった強い姿とはかけ離れた、打たれ弱い繊細な少女そのものでした。

 

「よかった……よかったよぅ……私、なんてことを……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 事情を知らない私は何故ミカが安堵と謝罪を口にしているかは分かりませんが、ミカにとってとても重要なのは間違いありません。そして彼女を密かに悩ませていた後悔が解消され、感情が爆発したのでしょう。

 

 ミカは私が差し出したハンカチで涙を拭い、テーブルの上に置かれたティッシュで鼻をかみ、ようやく落ち着きました。泣き腫らしたためかどことなく目元が腫れぼったく、顔が赤みがかっています。

 

「セイアちゃんがヘイローを破壊されたことにして身を隠したのは、アリウスを欺くため?」

「それもありますが、どうも良からぬ予知夢を見たせいで未来を諦めている様子でして、体調にも影響してしまっているようなんです」

「あー。悪夢であっても覆せない傍迷惑なだけの未来視?」

「ミカ様、お願いです。どうかセイア様にお会いになって励ましてはもらえませんか? 過去を変えて今を救ったミカ様ならセイア様も、きっと……」

 

 頭を下げるサオリにミカは目を丸くしましたが、やがて笑みを零しました。

 

「しょうがないなーセイアちゃんは。じゃあ面会の予定を入れてもらえる?」

「! 分かりました。最優先でスケジュールに入れるよう調整します」

「お願いね。……なんか、謝らないとって思うの」

 

 この後はミカとサオリは雑談で花を咲かさせました。私はただ二人の会話に耳を傾けます。

 

「セイアちゃんの死を偽装したのって、他に誰が知ってるの? ナギちゃんも?」

「セイア様を匿っている救護騎士団のミネ団長と私以外は知りません。ナギサ様にはまだ話す時ではないとセイア様から口止めされています」

「そうなの? ナギちゃんったらずっと蚊帳の外にいると疑心暗鬼になりそうだけれどなぁ。いつまで黙っておくつもり?」

「アリウスが次の大規模作戦に出てからを予定してます。敵を欺くにはまず味方から、少しでもアリウス……いえ、マダムに疑われないようにします。エデン条約締結の日までに少しでもマダム派の数を減らさないと……」

 

 分からないことがあっても口を挟まずに聞くだけに徹します。さすがに私を放置していると気付いた二人は注釈を挟んでくれました。おかげで現在トリニティを取り巻く事情が読めてきました。

 

 しかし既に柱時計が刻む時刻はだいぶ夜が更けたものとなっていました。さすがにトリニティで一泊するわけにもいきませんし、そろそろ帰るとしましょう。私がミカとサオリに断りを入れるとミカから「え~?」との声が上がりました。

 

「今晩はここで泊まっていって明日朝イチ帰ればいいじゃん」

「朝は遅刻しない限界までは寝ていたいんですよ。夜遅くまで起きているのでね」

「えー? しょうがないなぁ。じゃあまたトリニティに来てよ! 約束だから!」

「ええ、また来ます」

 

 ミカとサオリは私を見送りに正門まで来てくれました。もう夜も遅いから構わないと言ったのですが絶対に行くんだと言って聞きませんでした。

 

「先生、今日……ううん、二泊三日のタイムトラベル、とっても楽しかったよ!」

「先生。感謝してもしきれません。私達はあの出会いがあったから諦めずにすみました。これからも走り続けます」

「それじゃあ先生、気をつけて帰ってね!」

「お疲れさまでした。またお会いしましょう」

「ええ、二人共。おやすみなさい」

 

 こうして何日間にも渡る一日は幕を下ろしたのでした。

 再びトリニティを巻き込む騒動が発生するのは少し先になります。




この段階でセイアの生存を知ったミカはエデン条約編2章で黒幕ムーブはしなくなる……とも限りません。ただセイアとの和解はだいぶ早まりました。

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