◆三人称視点◆
卒業してから連絡が取れなくなった元生徒会長とは久しぶりに会ったが、彼女はもはや正気を失っていた。会話が成り立たず、自分もまた神に認められ、自分の神の方が少女のオシリスより優れている、と主張するのみ。
数少なく無事なインフラ設備に被害が及ばないよう、少女は砂漠へと駆ける。元生徒会長は「逃がすかぁ!」と声を張り上げ、狂気に染まった血走る目で少女を睨みつけ、新たに得た自分の神を呼び出す。
「いでよ、《オベリスクの巨神兵》!」
大地を揺るがし、砂漠が隆起し、青い巨人が出現した。
三幻神の一角、それを何故元生徒会長が召喚出来るようになったのか。
少女は考えるのは後だと疑問を隅に置き、自分も神を召喚する。
「来て、《オシリスの天空竜》!」
オベリスクとオシリスの戦いは互角で長引いた……となるかと少女は危惧したが、互角だったのは最初だけ。次第にオベリスクの動きが鈍くなり、召喚主の元生徒会長は目に見えて疲労していくではないか。
少女は目を凝らして元生徒会長のデュエルディスクにセットされたカードを確かめる。《オベリスクの巨神兵》以外はモンスター、魔法&罠ゾーンにカードなし。フィールドゾーンには……《神縛りの塚》?
「先輩! その《神縛りの塚》ってカードの効果は知りませんけど、神を無理やり維持するなんて無茶です!」
「黙れ……! お前に何が分かる!? 私が先輩たちからアビドスを引き継いだ時、先輩たちは自分たちで神を召喚できずに無念だと泣いていたんだ! 私が、私がアビドスを救わなきゃ駄目なんだ!」
「だからってホシノちゃんを破壊兵器の部品にしようとするのはおかしいですよね!? それに神頼みしなくてもアビドス砂祭りを復活させたりして盛り上げていけばきっと……!」
「きっとぉ? そんな夢物語でアビドスが復興するか! お前みたいな夢想家にアビドスは任せられない! 私が神の力で再びアビドスの栄光を取り戻すんだ!」
もはや神に魅入られていくら言葉を投げかけても無理。その間も攻防は繰り広げたが、もはやオベリスクは鈍重な動きでオシリスの攻撃に晒され続けた。少女は辛くてもこの無意味な戦いを終わらせるべく、オシリスに命令する。
オシリスの雷撃が放たれようとした直前だった。
元生徒会長のフィールドゾーンにセットされた《神縛りの塚》が燃え出した。
何が起こっているか理解する前にカードは灰となって砂漠へと散っていった。
「ひぃん、セトが怒ってるよぉ……!」
次の瞬間、死に体だったオベリスクが咆哮を上げ、その姿が変化していく。
まるでラーを無理に召喚しようとして暗黒の嵐と化したように。
形を崩したオベリスク……いや、セトは雷の化身へと変貌した。
まるでオシリスを抹殺するための姿となったかのように。
「あ、ぎ、ああぁぁああっ!? ぁ……」
セトが元生徒会長の生命力を絞り尽くした後、デュエルディスクにセットされた神のカードはひとりでに外れ、セトへと取り込まれる。召喚主の元生徒会長の身体はその場に倒れ伏し、動かなくなった。
「くっ……やるしか……ないよね!」
セトとの死闘は長く続いた。ホシノに口を酸っぱくして言われて持ってきたコンパスも失くし、水筒の中も空だ。おまけにセトとオシリスの激突で砂嵐も発生してしまい、自分がどこにいるかも分からない。
もう自分が助からないと悟った少女はホシノに最後のメッセージを残した。極力自分が戦いに巻き込まれていることを悟らせないよう、そしてホシノを悲しませないよう明るく語ったつもりだが、出来ただろうか?
「サンダー・フォース……」
乾ききってところどころ切れてしまった唇で、少女は最後の力を振り絞ってオシリスに命じた。オシリスから放たれた雷撃が直撃したセトの存在が揺らぎ、やがて消失した。オシリスもまた光の粒子となって散っていく。
砂嵐は嘘のように止み、少女が見渡す空には満天の星が広がっていた。天然のプラネタリウム。もはや文明の明かりや排気ガスが乏しくなったアビドスでも天気が良くないと拝めない絶景だ。
残念なのはもう指一本動かせなくなったのでアビドスに戻れなくなり、ホシノと一緒に見れないことだ。ホシノは強い子だから自分がいなくてもやっていけるだろうとは思うものの、それでも少女は一人きりなのが寂しいしまだ死にたくなかった。もう泣くだけの体力も水分も残されていなかったが。
「オシリスがセトを下しましたか。大番狂わせ、なのでしょうね」
そんな少女のもとに、いつの間にか人が立っていた。
少女がぼやける視界で認識出来たのは砂漠では場違いなほどの高級スーツに身を包んだ黒い大人。紳士的な佇まいなのだが、少女の直感が告げていた。この男性は悪い大人だ、信用してはならないと。
ところが黒い大人はただ少女を見下ろすだけで彼女を助けようとしない。いや、そもそも今更水を飲ませたぐらいでは自分はもう助からないと分かってはいたが、それでも薄情ではないか、と少し憤りを覚えた。
「貴女にとって魅力的な提案を一つ。私と契約を結びませんか?」
「……ぃ……ゃ……?」
「私はこのまま貴女を死なせるのは惜しいと考えています。しかし病院へ連れて行ったところで貴女はもう助からない。なので、貴女の神秘を反転させることで仮死状態とし、生きてはいませんが死んでもいない状態にするんです」
「……」
「貴女を蘇らせる研究は私も行いましょう。そうですね……小鳥遊ホシノが卒業するまでの2年後までには必ず」
「ホ……シノ……ちゃん……」
「時間がありません。今すぐ決断を」
胡散臭いことこの上なかった。もし黒い大人の手を取ってしまったら最後、ホシノに迷惑かけてしまうかもしれない。悲しませてしまうかもしれない。傷つけてしまうかもしれない。
それでも少女は死ぬのが嫌だった。僅かな希望があるのならそれに手を伸ばしたい。そしてホシノが待つアビドスへ帰るんだ。もう自分とホシノしか残っていない学校だけれど、あそこが帰るべき青春の場所だから。
頷くことも出来ない。だからユメは目だけ動かし、黒い大人を見つめた。
黒い大人はユメの意志を読み取り、満足げに笑った。
「くっくっく。承諾していただきありがとうございます。では早速、失礼」
少女がセットしたオシリスのカードはフィールド中央。黒い大人は自分のデッキから2枚のカードを取り出し、フィールドの左右端にセットする。もう少女の視界にはそれがレベル10のモンスターとしか映らなかった。
すると、《オシリスの天空竜》のカードが闇に包まれ、書き換わっていく。それに伴って少女は自分という存在が変えられていくのが分かった。それでも少女は大切なこと、かけがえのないものだけは忘れまいと一生懸命頑張った。
やがて、《オシリスの天空竜》は反転し、《邪神イレイザー》へと書き換わる。
生命活動を停止した少女の身体は砂漠に倒れ伏した。
黒い大人は自分のカードのみ回収。自分がいた痕跡を消していく。
「死から蘇るまで一ヶ月強が見込まれます。それまでに小鳥遊ホシノが貴女の遺体を発見するかは神のみぞ知る、でしょうかね」
その場に残されたのは物言わぬ少女の躯のみ。
少女をホシノが発見したのはそれから約一ヶ月が過ぎてからとなった。
「まったく……探しましたよ。……ユメ先輩」
少女、梔子ユメの青春はこうして終わりを迎えた……筈だった。
砂漠が広がるほど乾燥した地域のアビドスでは遺体は不浄なものではなく、埋葬は土葬が主だ。ユメの亡骸も例外ではなく、ホシノ自らの手で埋めた。ユメが愛し、ユメが頑張って復興させようとしたアビドス高等学校の敷地内に。
そんなユメの墓から亡者が這い出し、砂漠へと消えていった。
暴かれたユメの墓は黒い大人が工作して元通りにした。
邪神に命を繋ぎ止められ砂漠を彷徨うユメは、以下のことだけは覚えていた。
・小鳥遊ホシノに会ってはいけない
・アビドス高等学校の校舎に近づいてはいけない
・アビドス高等学校を守らなきゃいけない
こうしてユメはアビドスの脅威を密かに退け続ける冥界の使者と化した。特にアビドスを荒らし回るデカグラマトンの預言者ビナーに対しては邪神を召喚して応戦。辛勝ながらも追い払ってきた。
霞がかった頭の中、思考は全くまとまらず。ただただ邪神に導かれるがまま更に2年が経過した。この間ホシノに気づかれないままで済んだのはユメの潜伏術のたまものか、単なる偶然か、それとも本当に神の導きか。
この日もまた推定ビナー出現ポイントへと体を引きずっていったユメだったが、彼女を待ち受けていたのは機械大蛇ではなかった。
「イブキね、今日こそユメちゃんを救うから!」
ゲヘナのイブキが乗ってきた虎丸のハッチから顔を出し、決意を顕にした。
出現したビナーは既にイブキの召喚した《神炎皇ウリア》に倒されている。
ユメは邪神に語られるがままに《イレイザー》を召喚、迎え撃つ。
果たしてユメの終わりとなるだろうか?
それともユメはまだ続くのだろうか?
死闘は再び始まる――。
過去編はこれで終了。ユメと雷帝周りはもっと色々と考えているのですが、原作から逸脱するので裏設定止まりです。チラ裏レベルですがユメの同学年の生徒は他にざっと以下のように考えています。
◆トリニティティーパーティーホスト
三体(ザ・トリニティ)と呼ばれる以外一切謎に包まれた存在。
正体はサンクトゥス派リーダー兼フィリウス派リーダー兼パテル派リーダー。
三重人格者で三つの派閥をそれぞれの人格で掌握、実質一人でトリニティを担っていた。
当時のキヴォトスにおいては雷帝と並ぶ危険人物。
切り札は《創星神sophia》、《創星神tierra》、《双星神a-vita》
◆ミレニアムセミナー副会長
熱血指導が口癖の自称キヴォトス最強。トレーニング部部長を兼任。
後の連邦生徒会長は1年の頃彼女の熱血指導で酷い目にあっている。
使用デッキはレベル4と8を主軸にした【熱血】
エースモンスターは《背番号39球児皇ホーム》他ホームの進化形態
◆連邦生徒会長
部下に仕事を割り振って自分は定時下校するため、仕事をしない女と言われている。
しかし問題解決能力はピカ一。彼女が在任時には会議も一時間以内に終わらないことはなかった。
後の連邦生徒会長は1年の頃彼女のファンサービスで酷い目にあっている。
使用デッキは【ギミック・パペット】
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