◆三人称視点◆
「くっ……」
私募ファンドの私兵はホシノの快進撃を止められない。時間稼ぎすら出来ずに防衛戦を突破されているようなのだ。このままでは期限切れ前にホシノがやって来てしまう。そうなったら最後、債権者たちの野望は水の泡と化す。
「失敗したようですね」
「黙れ、ネフティス!」
債権者の一人が指を鳴らすと、控室に彼らの私兵がなだれ込み、ネフティス幹部を包囲した。債権者たちはネフティス幹部が慌てふためく姿を想像していたのだが、ネフティス幹部は平然と目の前の事実を受け止めている。
「何の真似でしょうか?」
「お前たちの企みなど、とっくに知っている」
「企み、ですか……」
「私募ファンドを裏切ろうとしているのだろう?」
「裏切るだなんて人聞きの悪いことはしません」
ネフティス幹部が指を鳴らすと、今度はなんとカイザーPMCの兵士が乱入。私募ファンドの私兵と相対した。練度の差はどうしようもなく、私募ファンド側の兵士は次々と倒されてしまう。
「私どもは始めからあなた方の味方だったわけではありませんから」
「あり得ない! ネフティスとカイザーが手を組むなんて!」
「あの者たちが何の見返りを求めずに砂漠横断鉄道の債権を差し出したとでもお思いで? 取引をしていたのですよ、裏で」
これで小鳥遊ホシノが契約の向こうを申し出れば列車砲の所有権はネフティスの物となってネフティスは復活。ノノミもアビドスの生徒として卒業まで幸せな日々を送れることだろう。
そんなネフティスの皮算用は、カイザーのプレジデントとジェネラルの登場で覆されることとなる。列車砲には興味を示さないとのネフティスの考えは甘かったとネフティス幹部は後ほど嘆く。
「ご苦労だったな。おかげで莫大な利益を得られたよ」
「くっ……!」
「宇宙戦艦、その正体は人工的なアクセルシンクロモンスター、だったか? そんな代物より列車砲はよほど現実的じゃないか」
「ど、どうしてカイザーが……」
「列車砲のことを知っているか、だと? 情報源を教えてやるつもりはない」
わざわざ契約の期限切れをアビドスに知らせたのはアビドスと私募ファンド間で騒ぎを起こして目くらましにするため。つまりカイザーに列車砲の存在を知らせないためだった。
しかしカイザーが最初から知っていたのでは、私募ファンドやネフティスは全てカイザーの手の内で転がされていただけとなる。債権者たちは今更シェマタに関わったことを後悔し始めてたが、ネフティス幹部は余裕そうだった。
「ではシェマタの仕組みは知っているのですか? カイザーでは逆立ちしたって運用できませんよ」
「それも解決済みだ。おい」
ネフティスの関係者と思わせてその実私募ファンドに、果てはカイザーにも通じていたスオウは1枚のカードをネフティス幹部に見せつけた。特に何の力も感じない何の変哲もないフィールドカードのようだ。
「《神縛りの塚》……?」
「これでシェマタに宿る神の力を制御できることは実証済みだ」
「!? そんな! 三幻神を制御出来るカードがあるなんて……!」
「はっはっはっ。ネフティスも中々したたかじゃないか。私募ファンドがシェマタを手中にしても起動した途端に発生する神の怒りで愚か者は全滅。その後素知らぬ顔でシェマタをせしめるつもりだったんだからな」
カイザーは債務者の企業を強引に買収、カイザーグループに組み込むことで新たな債務者となった。あとは小鳥遊ホシノを制限時間まで足止めすればシェマタはカイザーのものとなる。
ところがジェネラルすらホシノが相手では時間稼ぎにもならない。カイザーはなんとかシェマタの位置を割り出すも、残り30分の時点でホシノの突入を許してしまう。
総会は開始される前。プレジデントは余裕をもって総会の開催を宣言した。
「さっそくだが、何か言いたいことはあるかね?」
「「アビドス生徒会」の正当性を否定すれば、ノノミちゃんを解放してくれるんだよね? ……プレジデント」
「答えはノーだ。十六夜ノノミを無事に返してほしいのなら、「契約の解除」を申し出ると良い。そうすれば、列車砲の所有権は私の物になる」
「ダメです、ホシノ先輩! ネフティスにも、カイザーにも列車砲を渡してはいけません!」
「ノノミちゃん……」
「ユメ会長と過ごした時間を否定しないでください……!」
ホシノは大人たちから色々言われたが心の中は固まっていた。彼女はアビドス生徒会が正当な組織ではないことを認め……、
「待ってください!!」
アヤネ、セリカ、シロコ、そして"先生"が乱入してきたことで、ホシノの独断を阻止する。アヤネはホシノが降格して自分が生徒会長になったことを明かし、アビドス生徒会長として改めて契約の延長を宣言した。
「なるほど、こう来たか。カイザーとしてはこのまま強行したところで何も問題は無いのだが……」
プレジデントは背広のポケットに入れていた手を抜き、おもむろにアビドス生徒一同へとかざした。拳銃ではなかったことで油断が生じたホシノたちは、プレジデントの手の中にはデュエルモンスターズのカードがあるではないか。
「せっかくだ。もう少し言葉遊びに付き合ってやる」
プレジデントのカードが輝いた。ホシノはとっさに狙撃してカードを射抜こうと試みるも、周りを護衛していたカイザーPMC兵士の妨害で失敗。シロコとセリカは反射的に目を覆い、ノノミは位置的にカードが見えず、アヤネだけがカードを直視してしまった。
セリカがアヤネの名を呼んで肩を揺すってもアヤネは目が虚ろなまま反応を示さない。シロコはプレジデントがかざしたカード、《洗脳-ブレインコントロール》のせいだと怒りで拳を握りしめる。
「さて、おまえがアビドスの新しい生徒会長とのことだが、無論権利を放棄してカイザーに譲渡するのだな?」
「……はい。私たちアビドスは列車砲を含む砂漠横断鉄道の権利を――」
「アヤネちゃん、ごめん!」
洗脳されてしまったアヤネが取り返しのつかない発言をする前、セリカがアヤネに銃弾を浴びせて昏倒させる。《洗脳解除》や《所有者の刻印》等のコントロール奪取カードはデッキに入れておらず、強硬手段を取るしかなかった。
「アビドス側の発言権のある生徒会長はどうやら錯乱しているようだな。これでは契約の続行を訴えた先程の弁の正当性も疑わしいとしか言えんな」
「なっ……!?」
「おや、正午を回ったようだ。よってこの売買契約書は効力を失ったものとして破棄する。アビドス側から異論はなかったので、これで列車砲は晴れてカイザーのものになったということだ」
プレジデントは契約書を引き裂き、紙吹雪のようにその場に投げ放った。
あまりに卑怯な手口にノノミの手が怒りで震えた。今にも飛びかかりそうなほど険しい顔をするホシノとシロコ。頭に血が昇ったセリカ。"先生"も怒りを隠そうとせずにプレジデントを睨みつける。
「やることが汚いわよ! それでも社会人なの!?」
「リアリストだ」
「っ!」
「では我が社の所有物を見る仕事があるので失礼する。……ここにいる者どもを処理しておけ。いいか、一人残らず全員だ」
プレジデントはカイザーPMCにその場を任せて屋上へと向かい、準備されたヘリコプターに乗り込む。カイザーと繋がっていたスオウも乗り込み、ヘリは離陸。シェマタがあるとされるポイントへと進路を取った。
プレジデントは今更屋上に昇ってきたアビドス生徒一同に言いたい放題するが、勝利を確信していた彼は全く気づかなかった。いつの間にかスオウが彼の背後に回っていたことに。
「……あんたごときが「ラー」を使役するだと? 笑わせるな」
スオウは油断しきっていたプレジデントの背中を蹴った。
プレジデントは開きっぱなしだったハッチからなすすべなく落下していく。
スオウはヘリのパイロットも襲撃してコクピットも制圧してしまう。
「小鳥遊ホシノ。列車砲を止めたいのなら、シェマタのあるとされる生徒会の谷に来い」
「君は……」
「もし来なければ、列車砲は私が動かす。……アビドスに引導を渡すためにな」
要件は以上だとスオウは通信を切った。
空の彼方へと消え去るヘリを見送るアビドス生徒一同。
そんな中、ホシノは一人で追いかけようと動き出す。それを"先生"やシロコたち5人が立ちはだかって阻止する。
「ノノミ先輩は助かったんです!」
「アビドス生徒会も無くならずに済んだ」
「みんなで作戦を考えましょう!」
「……ごめんね」
そんな対策委員会の皆を押しのけて進もうとするホシノ。
「これは生徒会を自称している小鳥遊ホシノによる、独断の犯行じゃないといけないんだ」
"待って、ホシノ!"
聞く耳を持たないホシノはシロコを突き飛ばして駆け出してしまった。
「……ユメ先輩と過ごした思い出を守ろうとしてくれて、ありがとう」
そう言い残して。
カイザーPMC理事が名悪役でプレジデントとジェネラルがそうでないのは先生(プレイヤー)が直接成敗できるか否かだと思います。財界人のプレジデントはともかくジェネラルはゲーム戦闘あってもいいと思うのですがね。
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