◆三人称視点◆
ホシノは生徒会の谷にて列車砲シェマタを見つけ出す。モンスターエクシーズだったシェマタと同じく、オリジナルのシェマタも側面にアビドスとゲヘナの校章が描かれているのが見えた。
「アビドス生徒会もネフティスも、あいつに踊らされただけだ」
待ちかねたとばかりに現れたスオウはそっけなく答える。
「あいつ……? まさかシェマタを設計した雷帝が暗躍を?」
「とっくに卒業した雷帝が動いているという情報は入っていない。天才戦略家、発明家、政治家でもあった彼女はキヴォトスを混沌に陥れたゲヘナの暴君。シェマタはアビドス生徒会に雷帝が接触し、《ラーの翼神竜》を解析、再現して建造された、神の現身だ」
ホシノは疑問を抱いた。なぜ自分でも知らなかった、知っているだろうユメも口を閉ざした、アビドスやゲヘナでもトップシークレットだった情報を彼女が知っているのか。ハイランダーの監理室ではその情報まで伝わっているのか。
「雷帝はどうしてそんなことを?」
「分からない。雷帝が何を考えているかなど、知る由もない。研究のためだと常々口にしていたそうだが、それが何なのかは結局分からずじまいだ」
ホシノは雷帝がユメと語り合っている場面には何度か立ち会ったことがある。ユメは脳天気なぐらい気さくに雷帝と接していたが、そのおかげか雷帝がユメに見せる態度も噂とは異なっていた。ホシノの雷帝への認識はユメと親しくする胡散臭い研究者止まりである。
ああ、そう言えば雷帝が可愛がっていた万魔殿の新人だろう2人はユメが軽々しく雷帝を語り合っているのを見て大層驚いていたっけ。きっとユメは雷帝にとって数少なく対等に接せられる相手なんだろう。多分。
「だがその研究の途中で雷帝に開発され、キヴォトス中に眠る数々の雷帝の遺産。このシェマタはその中でも異色だ。何故なら……アビドスの狂気が全面に現れているからな」
ユメは決して語ろうとしなかったが、アビドスが神の降臨に固執していた過去はホシノも知っている。ただ、4年前に中等部に姿を見せた当時のアビドス生徒会役員たちは恐怖を覚えるほどの妄執に取り憑かれていた、とホシノも察している。
「《ラーの翼神竜》を再現しようとしたことがそんなにいけないの?」
「……少なくとも梔子ユメは良しとしなかった。彼女がネフティスと契約を結んだのもゲヘナが放棄して宙に浮いたシェマタの権利をアビドスで独占し、破壊するためだったらしいからな」
「……そう。ユメ先輩もこれを壊そうとしてたんだ」
ホシノの決意はより強固なものになった。シェマタの破壊はユメの望みでもあるのなら、もう立ち止まったり躊躇うことなどない。ホシノはユメの望みを真っ向から否定する異物を放ってはおけない。
アビドスより480kmほども離れた岩石砂漠地帯にある生徒会の谷。まるで軍事要塞のような壮大な設備の中、ホシノとスオウが対峙する。風が吹き、砂が舞い上がる。ホシノが銃を握りしめ、スオウは上着を脱いだ。
「それで、眼帯ちゃんは何者なの? 何が目的?」
始めはハイランダーの監理官、次はネフティスの使者、その次は私募ファンドのスパイ、その次はカイザーの傭兵、そして今やその全てを裏切り、スオウはただ一人でホシノと向かい合っている。
「……。私の名」
「?」
「朝霧スオウ、この氏名に聞き覚えは無いか?」
「いや、聞き覚えも何も、同じ学校に通ってたじゃん」
しばし流れる静寂。ホシノの答えが以外だったようで、スオウは返答に窮してしまった。
「アビドス中等学校。もう廃校しちゃったけど、そこの卒業生だよね」
「……。驚いた。様相は当時の面影も無いんだが。覚えていてくれて光栄だ」
「……ま、ハイランダーは賢い進学先だったと私も思うよ。私みたいにアビドスに固執するのが異端なんだ。だからこそ、分かるよね?」
「いや、分かるからこそ、私は今こうしている」
スオウは銃を構え、ホシノを睨みつけた。
「アビドスの恐怖と狂気を否定するために、私はここにいる」
「……痛い目に遭わないと分からないみたいだね」
ここに、ホシノとスオウの決闘が始まった。
しかし、キヴォトスでも随一の戦闘能力を持つホシノ相手に一対一の正面からの戦いでスオウが勝てる見込みは少ない。特に今のホシノは完全に臨戦モード。ホシノはシェマタ破壊の余力を残しつつスオウを追い詰めていく。
「……くっ。ここまでだとは」
「さっさとどいてもらっていいかな、眼帯ちゃん」
「……まだ私は負けてなどいない!」
ここで初めてスオウはデュエルディスクを展開、モンスターゾーンにカードを1枚セットする。出現したのはまるで太陽の如き輝きを放つ魔人。これは確か、今も公式記録にも残っている、昔のアビドス生徒会長のエースモンスターだ。
「来い、《The supremacy SUN》!」
「……面倒くさい」
《The SUN》は破壊されても自己蘇生出来る効果を持つ。カードテキスト状は手札コストが必要だったが、スオウは前生徒会長同様に手札コスト無しで再生し続け、己と《The SUN》の連携攻撃でホシノを攻める。
対するホシノは最初のうちは単独で戦っており、《The SUN》もろともスオウ相手に優勢だったが、攻めきれなかった。仕方なくホシノも盾のデュエルディスク機能を起動、デッキから無作為にドローした1枚をセットした。
とりあえず《The SUN》への時間稼ぎ要因に「ホルス」モンスターだったらいいかな、程度に考えていたホシノだったが、現れた存在に軽く驚いてしまった。こんなに引きが良くなくてもいいのに、と呆れてしまう。
「降臨して、《ラーの翼神竜》」
天よりゆっくりと降りた黄金の球体はホシノの命令によって展開、黄金の竜へと姿を変えた。太陽神の輝きは《The SUN》がちっぽけに思えてくるほど眩く、対峙するスオウが思わず跪きたくなるほどの偉大さを伴っていた。
「か……神を呼んだ、だと……!?」
「神の一撃は痛いよ。ゴッド・フェニックス!」
ラーが咆哮を上げると全身が燃え出し、不死鳥と化した。そして偽りの太陽に向けて突進。太陽の化身である《The SUN》が太陽神に焼き払われるという異様な光景に衝撃を受ける余裕もスオウには無かった。
「うわああぁぁぁっ!?」
スオウはまるで《The SUN》のダメージがフィードバックしたかのような苦しみを味わう。これはリアルソリッドビジョンなどではなく、闇の決闘でもない。まさか神の攻撃はソリッドビジョンに過ぎなくても現実に影響を及ぼすというのか。
もはやスオウには《The SUN》を蘇らせる処理を行う体力すら残されず、膝から崩れ落ちた。手をついて倒れないのが精一杯。まだ戦えると立ち上がろうと試みても身体に力が入らなかった。
役目を終えた《ラーの翼神竜》は天高く舞い上がり、やがて消えていった。ホシノもラーのカードを回収してデッキに戻す。そしてスオウの方へと歩み寄っていった。スオウはもはや死に体。勝負あった。
「なぜだ……なぜ、勝てない。アビドスを否定するには、力が足りなかったか」
「……何がしたかったの?」
「……生徒会長からろくに引き継ぎされてないあんたに教えて意味があるのか?」
「それを判断するのはこっち。3秒だけ待ってあげる。ひとーつ、ふたーつ」
「っ! そこまで知りたいなら教えてやる」
スオウは力を振り絞り、シェマタを指さした。
「あのシェマタこそアビドスの呪いだ! 神の降臨などという妄執に取り憑かれた愚かで哀れな、ファラオになれなかった凡人共の終着点が、あれだ!」
「意味が分からないんだけど」
「そうだろうな……! 《ラーの翼神竜》を降臨させられるホルスのあんたには分からないし、《オシリスの天空竜》を降臨させられる梔子ユメにだって分かりやしないさ。それまでの世代は神さえ召喚出来ればアビドスは復興すると本気で信じたんだ、信じさせられたんだ!」
「で、あの列車砲でラーを再現したってこと?」
「結局は雷帝のデータ取りに利用されただけに終わったがな。その現実を突き付けられた挙げ句に梔子ユメのオシリスを目の当たりにした上級生の絶望は……あんたには分からないだろうな」
神の威光によるアビドスの復活。エクゾディアを自由自在に操ったシェマタ時代の栄光を再び、と思うならそれぐらいしなくては、と思っても不思議ではないが……埋蔵物を見つけるために水着で砂漠を掘るユメの方がよほど夢が溢れてたじゃないか、とホシノは正直に思った。
「アビドスの妄執に取り憑かれた当時の生徒会長……姉さんは助からなかった」
「……!? 姉、さん?」
4年前、当時中学2年だった頃、ホシノは当時高校1年だったユメと会ったことがある。高等部の生徒会ちょっとした検査をして回っているとのことだったが、ユメ以外の役員の雰囲気は異常だった。とりわけ生徒会長はもはや目がイッちゃっていたのは今でも覚えている。
確かその生徒会長の名は、朝霧アキノ。
目の前にいるスオウ……朝霧スオウと同じ苗字。
「ちょうど2年前、アイツから神の制御法を授かった姉さんは自分こそがファラオでアビドスを救うんだと信じて疑わなかった。そして梔子ユメの前に立ちはだかって……今も戻ってきてない。きっと死んだんだろう」
「……は?」
今からちょうど2年前。それはユメが失踪した日。
単にユメがドジを踏んで砂漠で遭難しただけかと思っていた。
しかし、実際は違ったというのか?
「姉さんが死んだのは自業自得だ。とっととアビドスなんて見限れば良かったのに、アビドスに囚われたままだったのがいけないんだ。けれど、姉さんにそうさせたのはアビドスそのものだ!」
「……。アビドスの歴史、悲願がユメ先輩を殺した、って言うの?」
「だから私はアビドスを否定する! ファラオのあんたを否定する! あのシェマタでアビドスを、その妄執ごと吹っ飛ばしてやる……!」
「……そっか。理解するよ。理解だけは、ね」
ホシノはスオウを攻撃。限界だったスオウは気を失い、その場に倒れる。
ユメはホシノにそんな事情を説明しなかった。ユメは神に固執するアビドスの歴史を自分の代で終わりにしたかったんだろう。だからホシノに黙ってシェマタを処分しようとしていたんだ。
ホシノに全く悟らせないほどユメは明るかった。希望を持っていた。
おかげでホシノはユメと一緒に青春を謳歌出来た。
そんなユメの気持ちを改めて感じ取り、ホシノは思わず涙が零れそうになる。
ユメのやり残した仕事は、必ず自分が成し遂げる。
「それじゃ、列車砲は破壊させてもら……」
「そうはさせないから!」
そんな決意と共にシェマタへと向かおうとしたホシノに、追いついたシロコたちが立ちはだかる。
原作でのスオウの動向は地下生活者のせいなのか、それともまだ明かされてない動機があるのか。どちらにせよ本概念では今回のとおりとしたため、後ほど原作に動きがあっても反映はしないつもりです。
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